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閑話

食事を終え、先生はやる事があると、再び自室にこもる。

スイレンもアレックが後片づけを終えるまで無駄話に付き合い、アレックスが仕事に戻ると、彼女も自室に戻り自分の趣味の時間に費やそうとしている。

最近の趣味は双葉からもらった音楽鑑賞と、漫画の読書だ。

双葉のメモリの中にあった音楽という文化、今の音楽とは違い、人が歌い、そこにメッセージを込める。自分も真似をして歌うという事を覚えた。

それに最初は読み方が分からなかった漫画も読み方が分かると自分たちの知らない文化を知ることが出来る。

自分たちには理解できない心情を描く漫画は未知の価値観を知る異文化交流。理解できない感情を双葉に聞くことも楽しい。

アレックスは、双葉に狭い廊下で別れを告げるといつものように仕事を続ける。

先生の手助けが終わった双葉は、操舵室にやってきて、アレックスの斜め下、双葉は自分の席に座わり、アレックスと一緒に操舵室で星ひとつない何もない宇宙を眺めている。

双葉は自室に戻っても特にすることがない。

だから、たまにこうして一人が寂しくなると、アレックスの仕事場で邪魔にならないように、アレックスと同じ方を眺める。

「、、、双葉、口と耳が空いているから聞きたい事があるのだけど、」

沈黙に耐えかねたアレックスが話しかける

「はいなんでしょうか、偶然私も、目以外は空いているんですよ、仕事の邪魔にならないのなら、話し相手が欲しいと思っていたところです。」

「さっきさ、俺たちを犠牲にしてでも、地球に帰りたいって言ってたよね。」

「ごめんなさい!」

双葉はその体の性能をフルに生かし、超速で頭を下げる。

「いや、本心じゃない事は分かっている。

僕が聞きたいのはさ、君をそうまでさせるものは何かって事さ。

残酷な話だけれど、今からどんなに急いで戻ったとしても、双葉を待っている人が生きてはいない。それは君自身分かっている。

なのに、どうしてかなって、

僕にはそうまでして一生懸命になれる事なんてないからも知れないけど、それは僕には理解できない感情なんだ。

例え、どんな願いがかなうものが手に入るとしても、僕には叶えたい願いなんてない。

だから全てを差し出してでもって覚悟をさせるものは何かなって、」

「、、、もう誰も生きていなくても、約束なんです。

どんなに遠くても、どれだけかかっても必ず帰るって、」

双葉は宇宙背に触れ、自分の中の記憶から、仕事の邪魔にならないようにアレックスの見える場所に画像を表示する。それは双葉が友達と撮った写真。

「私の最初の友達のななちゃんです。私の事を受け入れてくれて。

私の為に怒ってくれた。私の親友です。」

双葉は見たものを全て鮮明に記録することが出来る。でも、彼女が映し出したのはピントが少しずれた、セルフ撮りの通信デバイスについたカメラの写真だ。

「確かにもう誰も生きていないと思います。私の生きていた時代のものは何も残っていないと思います。それでも約束なんです。

変な話ですよね、機械の私が、魂だとかそういうの信じるのって。

それにこの星のない空で言うのも変なんですけど、死んだ人がお星さまになるっていうのも、私心のどこかで信じたいって思うんです。

誰も生きていなくて、お墓なんかなくなって、地形が変わってしまっていても、それでもみんなの居た私の街、私の友達、お父さんに、ただいまって言うんです。

遅くなったけど、約束通り戻ってきたよって。」

「約束ね、、、」

「それに、さっき、アレックスさん、そんなに一生懸命になれるものがないって言ってましたけど、アレックスさんにもありますよ。そういう大切な宝物。」

「僕が一生懸命になれるもの?」

「そうです。アレックスさんの大切なものは私と同じものです。

それは当たり前すぎて気が付いてないだけです。

なくして初めて気づくんです、いつだって後悔して、

もし、ですよ、私が自分の為に今この場でアレックスさんを殺せば地球に帰れるからと言って、アレックスさんの事を全力で殺そうとしたらどうしますか?」

「、、、、、僕を殺せば救われる、理屈は分からないけど、もしそうなったら、どうだろうな

、、、、そうだな、正直分からないけど、でも仕方がないって思うと思う。」

「それじゃ、もし私が、先生さんとスイレンを殺せば、地球に戻れるからと二人を殺そうとしたらどうしますか。」

「殺させないよ。とはいっても、双葉がその気になったら、力で止める事は出来ない。

だから、僕が双葉を絶対に地球に連れて行くって、説得する。

絶対に二人には手を出させないよ。」

アレックスの言葉づかいや口調こそ変わらないがその目つきは明らかに強い意志を秘めている。

「そういう事です。自分の命なら、考えますけど、二人なら考える必要もない。

アレックスさんにとって大切な宝物はお二人なんです。」

「、、、でも、もし二人がここを出ていきたいと言ったら僕は止めたりしないよ。

来る者は拒まず、去る者は追わず、今でもずっと僕はそうしてきた。

二人にもそうするってことは、やっぱり特別じゃないってことじゃないかな」

「でもだからと言って嫌いになるわけじゃないですよね。

絆って、距離や時間が問題じゃないんです。大切なものは変わらない。

二人が自分で選んだ道なら、寂しいと思っても、笑顔でそれを送り出す。

私が宇宙に出る時も、みんなそうしてくれました。それは私がみんなの事を嫌いになったわけでも、みんなの事を大切に思わなくなったわけじゃないです。

アレックスさんが、もし二人を止めないのは二人の意思を尊重するため、でしょ。

アレックスさんはあれですね。人の心は分かるのに自分の事は全然わかっていない、

自分にとって何が大切で、何が欲しいのか、もう少し考えた方がいいと思います。」

「考えるか、、、、難しいな。」

「そうですね、まずはアレックスさんにとってお二人がどういう存在なのかから始めるといいと思いますよ。無くしてからじゃ、後悔ばかりで楽しくありませんから、

大切にしてください、アレックスさんの大切なもの」

それ以降、アレックスは言葉を交わすことなく、ただ黙々と仕事を続けた。

だが、次の食事にスイレンが呼びに来るまで、結論が出た表情には見えない。

「、、、何よ。さっきから人の顔じっと見て」

「いや、僕にとって、スイレンは何なのかなって?」

「はぁ?」

「スイレンにとって僕は何?」

「何わけのわかんないこと言ってんの、寝てないから疲れてるんじゃないの、」

「アレックスの突拍子もない発言は今に始まった事じゃないだろ、アレックス、いいことを教えてやる、馬鹿の考え休むに似たり。無意味な事考えるだけ時間の無駄さ。そんな事を考える暇があるなら、政府に連絡する方法でも考えてろ」

「双葉、、、考えるなって怒られた。」

「あの、なんかすみません。」

「あぁ、双葉が余計なこと言ったわけね。なるほど、そうね。私たちの関係ねぇ、そりゃ仕事仲間でしょ。

でも、こうして一緒にいて私が嫌にならないのはあなたたちが初めてだから、私は好きよ。それにアレックスには拾ってもらった恩もあるし、そういうの考慮すると、、、マブダチ、、、で合ってる?双葉」

「合ってるって、、」

「双葉から借りてる漫画に書いてあったわよ。仲間の上位の言葉なんでしょ」

「あー、それたぶん私読んでない系のヤンキー漫画かなんかですよね。」

「読んでないの?あれ面白いんだけど」

「あぁいう暴力的なの私嫌いです。」

「じゃあなんで持ってるのよ。」

「それは、、、私は基本的には何でも持っているんです!」

双葉のライブラリの中には漫画が多い。だが、何でもではなく、双葉が持っている物だけ、

彼女が嫌いというその漫画も、友達がいない頃、クラスの男の子が話しているのを聞いて話のきっかけになればと思って購入したものだ。

結局内容が好みではなかったため、読むことはなかった。

が双葉のライブラリの中には友達が欲しくて、集めた漫画や、ドラマがたくさんあり、それは双葉の中で、その時自分も見ていますよというさりげないアピールをしていたの恥ずかしい記憶とセットで再生させる黒歴史だ。

「な、何よ突然。」

「馬鹿な話をするのは結構だが、明日の朝には今の仕事は終わって久しぶりの地上だ。

僕は無意味な会話をだらだらされるとイライラするんだ。

少しは真面目に気を引き締めてくれよ。」

先生が遠慮のない言葉で空気をぶち壊す

「次の仕事までしばらく空けている。地上に戻ったら、僕は引き継続き宇宙船の調査をする。合間に政府への連絡手段を考えるが、アレックス、この中で一番可能性が高いのはギルト長たちにもコネのある君だ。アレックスにもしっかり働いてもらうぞ。」

「アレックスって、私は?」

「スイレンは、、、まぁ、いつも通り、、かな。何かあれば言ってくれ。君が一人で動いた場合トラブルに巻き込まれる確率が高すぎる。」

「なによそれ!」

「その喧嘩っぱやい性格込でだよ。そもそも不適合者の容姿特化型は珍しいんだ。君は目立つ上に狙われやすいんだ。

僕のいう事を聞いておとなしくえおいてくれ。」

「その言い方ムカつく!私にだってできる事があるわよ!」

「ダメだ!スイレンはおとなしくしていてくれ!

君は家にいてくれるだけでいいんだ。それで十分役に立っている。

危険な事はアレックスと僕の仕事だ。いいな」

先生は冗談が通じない怒った顔でスイレンを睨みつける

「わ、分かったわよ。何怒っているのよ」

「別に怒ってなんかない。」

「なんだか、空気悪くなっちゃいましたね。」

「まぁ、先生はスイレンが心配なんだよ。今は買い出しはみんなで行くだろ、あれは双葉が来る前にスイレンに頼んでたら、何度か誘拐されそうになったからなんだ。

ほらスイレン、容姿特化型だけあって凄く美人だろ。

スイレンみたいな人を自分の所有物にしたいっていう下種がいるんだ。」

「それだけじゃない。スイレンはメンタルケアのカウンセリングが出来るんだ。

この『国』の外じゃ、そういうものに頼ろうとする心の弱い奴も多い。

だから余計に狙われる。」

「私は別にそういう人の役に立てるのは別にいいってってるじゃないの」

「だ、か、ら、そいつらのせいで何回危ない目に会ってると思ってるんだ。お前、1回本気で殺されそうになっただろうが!」

「それは、、、そうだけど、、、」

「それじゃ、先生さんはスイレンさんの為に怒ってたんですね。素直じゃないけど、優しいんですね。」

「ち、違う、僕は面倒事になるのが嫌なだけだ。勘違いするな。

とにかく、スイレンは家にいてくれ、いいかこれでこの話は終わり。

明日は朝から入港する。

持って降りる荷物をまとめないといけないんだ、だらだら話してると睡眠時間がなくなるぞ」

先生は怒ったように部屋を出ていく。

「先生は、あの癇癪さえなければ可愛げがあるんだけどねぇ」

「そうですか?私、先生さんのあぁ言う所、可愛いと思いますけど。」

「双葉は変わってるわね。」

「え?そうですか」

アレックスがスイレンに同意するようにうなずく。

「私、昔これでも機械なのにすごく普通、で通っていたのに、変わっている人たちにかわっているって言われた。」

双葉はショックを隠しきれない。


翌日、宇宙港の端にデブリ船を止め、地上へ向かう。

安価な大部屋の軌道エレベーターで下に降りるのに半日。

地上に到着後、体にかかる重力に倦怠感を感じながら、彼らの家に戻って行く。

宇宙船には疑似重力を作り出しているが、ガタが来ている上、安物の為、地上の重力よりも2,3割低重力、その為、元々宇宙への適性の高く、肉体的にも恵まれた感知型のアレックスはまだしも、スイレンと先生は歩くこともままならない。

双葉に二人の介抱を任せると、アレックスは仕事の報告書の提出と情報収集の為に出かけて行った。


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