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君の選択、僕の決断(中)

同日、グロリア宅にて 双葉の場合

「すべては順調、故にこれが最後の来訪、てっきり先生君だと思っていたんだけど、、、

最後が最初の訪問者、君だとはね。

君たちの宇宙船、なかなかどうして見事に修復したものだね」

「何も教えていないはずなのに、物資の流れですか?それとも監視ですか」

「あぁ、先生君のデバイスに監視用のソフトを仕込ませてもらっていたからね。

君も含め、身内には甘い。それが一番確実さ」

「、、、教えてもらう必要はない、奪い取ればいい、ですか」

「心配しなくてもいいよ。今でも君たちの存在を知っているのは僕たちだけだ。政府の人間も、僕を選んだシステムも君たちの情報は一切知らない。

ここに僕が暮らす最大の利点は政府のシステムも僕の監視が難しいという事さ、ここには電子機器はあのコンピューターしかないからね」

「先生を出し抜く程、コンピューターにはお詳しいようで。」

「まぁ、無知を装えば、この程度の事できるくらいにはね。」

「グロリアさんにお伺いしたいことがあります。」

「だろうね、じゃないと君がここに来る理由がない。

さ、こちらにどうぞ、とっておきのお茶を入れよう、」

グロリアは双葉をテラスの椅子に座らせると、ティーセットを持ち出す。

茶葉を十分蒸らし、双葉のティーカップに注ぐ。

双葉は会釈をするが、表情は少しも緩んでいない。

「不思議だね、飲食が不要な君が、お茶の味を知っている。快楽を必要とする機械。

僕は好みではないが、それでの狂った価値観の化身ともいえる君はとても魅力的だよ

さて、それでは、話を聞こうか、君が来た理由を」

「私たちは宇宙船で地球に行こうと考えています。」

「うん、知っているよ。」

「その為にわたしたちはこの2年間。宇宙船を修復し、試験を繰り返してきました。」

「ずっと見ていたからね。細かな説明は不要だよ。」

「では、遠慮なく、ショートワープで5万光年の距離、10万光年の距離と様々な方向にワープを行いました。

しかし、その際、この惑星を支えるあの恒星の光を阻害するものが一切ないにもかかわらず、光を一度も確認できませんでした。つまりは5万年前にはあの恒星はなかった。

同時にあなたが言う、かつての取引相手の星系の恒星も確認できませんでした。

これはどういう事でしょうか」

「答えの分かっている質問は質問じゃないね、簡単な事さ、少なくとも5万年前にはこの星も、あの恒星も存在していなかったという事だよ。

宇宙は認識だよ、認識する事で初めて存在でき、矛盾は観察する事で消えていく。

それだけの事さ。

この世界の観測者はだれか、始まりの観測者は誰かそれを僕が知るわけもない。

僕は27年しか生きていないし、ましてや、今の立場だって与えられたに過ぎない。

いや、僕たちを管理し、運営するシステムでさえ、それを知るわけがない。」

「、、、、、、」

「僕の寿命はおよそ80年、約3万日、72万時間

先生君でおよそ300年、それから比べれば君の命の時間は永遠に近い。

その君が今までどれだけの時間を生きてきたんだい?」

「少なくとも認識できる範囲では約1万年」

「1万年か、それは人の時間からすれば、途方もない時間さ。

畑を耕すことも知らない人間が、チキュウを出て近隣の惑星で農耕が出来るになる程の時間さ。でも、それだけの時間が流れているにも関わらず、何の誤解もなく君の言葉が通じるだけでおかしいと思わないかい。」

「、、、、」

「ここがどこか、誰か最初の観測者か、何が嘘で何が本当か、

僕は神様じゃない全知全能でもなければ、この世界の主役でもない。

ただこの世界の一人として今あるこの世界を観察し続けるただの人間さ。

踊らさらる側の存在、そんな僕がどうしてそんな事を考えないといけないのかい?

僕は何も考えず馬鹿みたいに与えられた役割を演じていればいい。舞台の裏を見たところで、演じられる演目以上の価値ある世界が見れるわけでもなし、

それこそ、それを尋ねるべきは、僕の役割さ、

僕からしてみれば遥かに、演出家、神の定義に近い君に尋ねるべき質問さ

『この世界を何故お作りになられたのですが、偶然ですか、郷愁ですか』と、」

「、、、、」

「でもま、そんな事に僕は興味がない

所詮この世は胡蝶が見ている一夜の夢の如き儚きもの。

何が現で幻か、どれが永遠で、どれが儚いかなんてどうでもいい事さ、

大切な事は、今僕はここで生きていて、これから僕は死ぬまでここで生きて、何をなすか、何を欲するか、という事さ。君はこの世界は嫌いかい?」

「少なくとも、あなたよりは好きだと思います。」

「そうかい、それは何より、それでも君はこの星から出ていこうとする。」

「約束ですから、それが私の全てですから。」

「そう、それは何より、」

「あなたはまるで私とは真逆の人間ですね。」

「僕もそう思うよ、創世の女神さま。そうだね、旅立つ君に向けて僕が言える事は、

あなたの旅が無事でありますように、

この世界はもうあなたがいなくなってもこの世界はうまくやっていけます。とね」

「、、、お茶、ごちそうさまでした。私がよく知る懐かしい味でした。」

「そう、それは良かった。丹精込めて育てた甲斐があったよ。」

「、、、、私のお父さんも、若い頃はあなたのような人だったのでしょうか?」

「さぁ、それはどうだろう、僕は君のお父さんではない。

元はなんであれ、僕は僕で、この世界の始まりが一人の少女が見た夢の続きであったとしても、それから続いたこの世界は既に少女ものじゃない。

楔は解き放たれ、因果は立たれる。

誰かがいる限り、世界は終わらず、最初の観察者を失っても、世界は成立する。

そしてやがて、また別の形で命は生まれ続いていく。

そして世界は広がり、世界の因果も失われる。」

「そうなる前に私は戻ります地球に」

「あぁ、だから祈っているよ、君の航海の無事をね。大切なのは君の心さ、

標ないように見える暗闇の海の中でも、羅針盤はいつだって目的地を指す。

君が希望を見失わない限り、君は戻れるはずだよ。深い深い海の底、重力の底のその先からでもね。」


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