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君の選択、僕の決断(前)


それから3か月、

先生は宇宙に出る恐怖を、義務感と責任感で押し殺し、何度も試験航行を繰り返した。

若白髪が生える程のストレスと戦いながら、改修と改善と改良を繰り返し、彼の努力の結晶である宇宙船は遂に完成した。

そして旅立ち前日、

アレックスは、もう戻る事がない為、デブリ回収船を次の所有者に引き渡しと、長年お世話になった同業者の様子を見る為、自分の生きた世界を忘れない為、一人でスラム街を回っていた。

双葉はグロリアとの最後の約束を果たすため、自然保護地区のへ向かった。

明日の朝、彼らはこの星から地球を目指して旅立っていく。

未だにこの惑星以外の惑星は観測されず、グロリアからも何一つ情報は引きだせていない。

おそらくワープを繰り返し、1年はどこにもたどり着く事はないだろう、

それを過ぎてもなお、地球にたどり着く保証は何一つない。

それでも彼らはこの星を旅立つ、

それがアレックスと双葉の、双葉と家族や友達との大切な約束だから


準備は1週間以上前にすべて終わり、明日の出発の日まで、予定のないスイレンは、

アレックスと一緒にスラム街を回ろうとも考えたが、

宇宙船での最終積み込みを終えた後、

先生からどうしても話したい事があると、迫られ誰もいなくなり、必要なものを運び出され、空っぽになったコンテナハウスに来ていた。

つい最近まで、彼女が世話をしていた畑には実をつけ始めた野菜や、雑草が目につき、

どうしようもない事だとわかっているが、理屈では納得できない。

かわいそうと言う気持ちに押され、スイレンは思わず、水やりと、草むしりを始める。

「何をしているんだ。」

家の中からその様子を見た先生が、スイレンに近寄ってくる。

「どうしようもないって分かってるんだけどね。それでも、最後まで面倒見てあげられなくてごめんねって思うから、せめて今日まではね、いつからここに」

「、、、地上に降りてからずっと、」

「用事があるって、、ここに引きこもってたの、どうしたのらしくないわね」

「、、、、手伝うよ。」

「いいわよ、私が好きでしてるんだから。」

先生はスイレンの言葉を無視し、草むしりを始める。

「ありがと、、ところで私に話があるってなんなの?」

「それは、、、、後から言う。」

「、、、そう、分かった。」

手入れを終え、スイレンは何もなくなった家の中に残された絨毯の上に座り、先生が話を切り出すのを待っていた。

こうして絨毯の上に二人で座っているのも変な感覚だ。ずっと一緒に暮らしていたが、先生はいつも何かをしながら立ったままで、食事以外で座って向かい合う事なんてなかった。

スイレンはうつむく先生が話を切り出すのを待つこと10分、、

「、、、、黙り込んで、真剣な話?それとも言いにくい話?

どうしたのよ、言いにくい事でも遠慮なしに言うのが先生でしょ」

浮かない表情、不安でいっぱいの表情で、先生は話のきっかけを探っているように見えたので、スイレンは切り出しやすいように軽口をたたく

「で、話って何?まさか、怖くなったとか?」

「、、、、そうだよ。」

思いがけない言葉、でも、それが冗談でないことは一目瞭然だ

「、、、僕は、あの宇宙船には乗れない。」

泣き出しそうな声で、先生はそうつぶやいた。

それは彼にとってどうしようもないほど悔しい事なのだろう、

彼自身が自分自身に負けた初めての瞬間だ。

自分自身の言葉で、弱音を吐くという事。諦めるという事、

そして仲間との約束を破るという事、、

「、、そう、、、分かった。仕方、、、ないよね。」

その気持ちは痛いほどよく分かる、怖くなったのと責めるつもりも、勇気づけて一緒に行こうなんて事も言えるわけがない。それが普通、それが当たり前、賢明な判断だ。

あの宇宙の景色を見て、その先に希望があるとは思えるわけがなかった。

永遠に無が続く。それは想像ではなく、言葉でも理屈でもなく本能として、ただ一見にして、それが事実であるといわんばかりの光景であった。

「アレックスと、双葉には私から言っておくから、先生がそんなに気を病む必要はないわ。」

スイレンは立ち上がり、部屋を出ていこうとするが、先生はスイレンの腕をつかみ、

そのアレックスには遥かに及ばない華奢な体で、中腰になりながらスイレンの体を必死に引き寄せ、抱き着いた。

「、、、どんなに、情けない事か、どんなに惨めな事か、分かっている。

これは我儘で、迷惑なのも分かっている、でも、、僕は、、、

スイレン、お願いだ。行かないでくれ、僕を置いていかないでくれ」

「せ、先生?」

「僕は怖いんだ、あの何もない宇宙でたどり着けるともわからない旅を何年、いや何十年もしないといけない。僕たち以外何もない世界。僕は怖くて仕方がない。あんなところに僕は行きたくない!情けないよな、あれだけ偉そうなことを言っておいて、本当は最初にワープして、この星の光も届かないところに行った時から怖くて怖くて仕方なかった。

何度も自分で自分を克服しようとしたけど、できなかった。

今まではそれでも、ここに戻ってこれるってわかってたから、何とか我慢できた。

でも、明日あの宇宙船に乗ったら、もうここには戻ってこれない。

僕は、あの船には乗りたくない。どんなに情けなくても、怖いんだ。」

「、、、、そんなことないよ。たぶんそれが普通よ。私も同じ気持ち。双葉さんはどんなつらい環境でも、地球に行くっておいう大きな目標があるから、何も見えない闇の中でも進んでいける。

それはアレックスも同じ、ううん、アレックスは元々、そういう暗闇を進んでいける強い心持っている、それに双葉さんとの約束もある。だから私たちとは違う。

私たちはアレックスがそういうならってアレックスについていっただけ、

だから、地球を目指すことに、そこまで大きな夢も、それだけの覚悟もできていない。」

「僕はスイレンと離れたくない、僕と一緒にここに残ってくれ。

スイレンがいてくれればそれでいい、後は何もいらない。お願いだ。

行かないでくれスイレン。ここに残っても、僕は君がいないとダメなんだ。

僕は君が好きだ。どうしようもないほど君の事が好きで、好きで、

迷惑だとしても、僕の事を嫌いだとしても、それでも僕は君の事が好きだ!

こんなに情けないこと言いながら、頭の中がぐちゃぐちゃでいうような事じゃないのは分かっているそれでも、今日が今が、君に伝えられる最後の時だから、

何でもいうよ、僕は君が好きだ」

「、、、いつからなの」

スイレンは驚くわけでもなく、優しく聞き返す

「女性として、君を好きになったのはたぶんグロリアに出会ってからだと思う。

そういうものがあるのだと知って、自分の気持ちがそういうものだってわかった。

でも、君という人間が好きだったのはずっとずっと前だ、僕がアレックスの元を何度も離れようとしても、離れられなかったのは君がいてくれたから。僕は何度だって君に助けられた、君が痛から頑張れた。僕は、本当は、名誉だとか、世界の真実だとかずっと前にどうでもよくなってたんだ。君と一緒に安心して、何の不安もなく、暮らせるようにそれだけを考えていた。

君が、アレックスの事を好きなのは分かっている。

でも、それでも、僕の傍にいてほしいんだ。お願いだスイレン、いかないでくれ」

そう、先生がスイレンの事を好きなように、スイレンもまたずっと前からアレックスの事が好きだ。

アレックスがいればそれでよかった。どんなにつらい時でも、アレックスがいればそれでよかった。だから、今回も、どんなに怖くても、アレックスが行くのならついていこうと思った。自分の事の気持ちを分かってもらえなくてもいい。

それでも、一緒にいられるのなら、と。

でも、伝わらない思いは辛い、一方的な思い、それを強く感じ始めたのは、先生と同じ、遠い宇宙の果てて、何もない世界を目にした時だった。

アレックスと自分の間に超えようのない壁を感じた。

この人は違う、この何もない世界を前にしても怖いとも思っていない。痛みを、恐怖を共有できない。弱みを見せてくれないこの人はどこまでも一人で大丈夫なんだと、

そう感じた。その時同時に一つの考えが彼女に生まれた。

自分の心の中にはいつだってアレックスがいた。

でも、アレックスの心の中に自分の居場所はあるの?

グロリアに出会った翌日に彼は私の笑顔が見たいといった。

それが嘘だとは思わない。でもそれは私だからそう言ってくれた言葉なのだろうが、

同じように落ち込んだとき、彼は同じように言うのではないか

私は特別じゃない、私は、、

そんな不安がスイレンの中に漠然と存在していた。

それでも、時間は流れ、事態は確実に前に進み、流されるままに、その不安の中でも、アレックスについていく以外に選択肢はないと思っていた。

この地球を目指すたびに希望を見出せなくても、それでもそれは仕方がない事だと思っていた。

でも、今先生は、自分の弱さを彼女にさらけ出し、必死になり振りまわず、彼女を求めた。

必要としてくれる、必死に、プライドも、体裁も捨ててただひたすらに。

だから、彼女は彼に答えるように、その両手で、彼と同じように、彼を抱きしめた・

「、、、大丈夫よ、私はどこにもいかない。ありがとうそんなに私の事を思っててくれて。

確かに私はアレックスの事が好き。でも辛いわね、いくら好きでも、少しも理解してもらえないっていうのは、いつだってアレックスは前だけを見ている。

それにね。私、いつも冷静な先生が、こんなに必死なって私の事を必要としてくる。

正直それが嬉しいんだ。」

「それじゃ、、、」

「うん。いいわよ、私が一緒にいてあげる。だから大丈夫、そんなに怖がらないで」

その言葉を聞いた後、先生は何度も嘘じゃない事を確認し、先生は今まで出したことのないほど大きな声で、子供の様に喜んだ。

必要とされる事、それはここにいてもいいよ、という事、彼女にとっての最良の居場所それが今分かった。

喜び舞い上がる先生に対し、彼女は言葉を続ける

『でも、このまま何も言わないまま、だとアレックス達ずっと私たちの事待ってるでしょ。』

『だから、私はちゃんとアレックスにお別れを言ってくる先生はここで待ってて、』

彼らの宇宙船は、2か月前から地上に何度も大質量の宇宙船が行き来し、政府に気付かれるのを避ける為、宇宙の無資源宙域に停泊させてあり、宇宙船には、宇宙港から小型艇で移動していた。

だから明日の旅立ちの待ち合わせ場所は宇宙港。

アレックスも双葉も何も言わなければ、そこでずっと二人を待ち続ける事になってしまう。

自分も一緒にという先生をなだめ、スイレンは自分一人で行くといい。

その日の夕方スイレンは、不安な表情で見送る先生を残し、宇宙港へと向かった。

アレックスに別れを告げる覚悟はできていた。だが、それでもスイレンにはどうしても、最後にアレックスに確認したいことがあった。

だから、彼女は一人で向かった。

だから先生はそれを察し不安な顔をしていた。


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