希望の空、絶望の空、選択の時
翌朝、準備万端で目覚ましが鳴る5分前に目を覚ました先生を、
階段の下でアレックスが自信に満ち溢れた顔で待っていた。
「予想外の面構えだな。スランプから抜け出せたのか。」
「あぁ、、、いろいろ心配かけてごめん。」
頭を下げるアレックス、先生にはそれが予想外で、思わずたじろいでしまう。
「気にするな、、そのなんだ。お前だって人間なんだ。そういう時もあるさ。
それにそういうのも良い経験じゃないのか、失敗も。
失敗しても良いように僕がいる訳だ。」
「そうだね、あの事故の時も先生のシステムのおかげで助かった本当にありがとう。」
この2年、心のどこかで先生に対しての劣等感のあったアレックス、
先生へ感謝の言葉を口にするのは久しぶりだ。
「、、ま、それが俺の役目だからな、君には君しかできない事があるだろ、
まぁ、その顔いまさら僕がとやかく言う必要はないけどね。
あぁ、そうだ、スイレンにだけは謝っておいてくれよ、君の事を一番心配していたのは彼女なんだ。さっき部屋の前を通る時、音がしていたから、起きているはずだよ」
「そうだね。」
アレックスは、2階のスイレンの部屋に向かう。
「全く僕は、どこまでお人よしなんだ」
「全くです。」
階段の下、死角になる場所に座っている双葉の声に先生は驚く
「いつからそこに、」
「最初からですよ。おはようございます」
「、、、、、おはよう。なんだその顔は」
また嫌な笑い方をする双葉に、心の中を読まれていると確信し、頭の中は大パニックだ
「いや、先生、かわいいなって思って」
「君は、僕の心中を察し、手玉にできる、グロリア並の人心掌握術でも習得しているのか」
「先生、頭はいいですけど、そういう感情はなれていないんでしょう、
すぐに顔に出ますから、
大好きなスイレンさん、自分だけを見てほしいけど、自分だけに優しくしてほしいけど
それでも君が御笑顔にできるなら、僕は、って」
「ば、馬鹿な事を言うな!僕たちはグロリアのような人間じゃない、そういう恋愛感情だとかあるわけないだろ」
「誰も恋愛感情とは言ってませんが、」
「それは、、、」
「冗談です。いじめ過ぎました。でも先生たちのような人間が命の成り立ちが違うからと言って恋愛感情を持ち合わせない事にはなりませんよ。
私は機械ですけど、私は自分の中にあるこれを心だと思います。
どうして、生まれた時そういう風に作られていないから、
人を好きになることなんてないっていいきれるんですか?」
「僕たちには必要のない感情だ。だからそういうものがあるわけない。」
「必要のない感情を持ち合わせないのなら、人は悩む必要も、苦しむ必要だってありません。必要のない感情を持ち合わせていないなんてありえないんですよ。
というより無駄な感情はないというべきでしょうか。命をつなぐだけが人を好きになる理由じゃありませんよ。それに今感じているその感情を、否定して、苦しんで、、必要のないからと割り切ろうとしてそれで何になるんですか?気持ちは理屈じゃありませんよ。
それに先生の理屈で言うと、生殖能力を持ったグロリアさんは恋愛感情を持っている事になりますよ。」
「、、、それは確かに、、、ありえないな」
彼は頭で理解できても、それを心で感じる事は出来ない。
彼は人間というにはあまりに破滅的で、あまりに達観した存在だ。
「自分を犠牲しても相手を思う優しさ、それを素直に表現できないところも含めて、
それは先生の良い所なのかもしれませんが、
はっきり言わないと伝わらないことだってありますよ。」
「でも、仕方ないだろ、スイレンはアレックスの事が好きなんだ。」
「、、、気づいてたんですか」
「僕はそんなに馬鹿じゃない、スイレンを見ていればわかる。
でも、僕にはそんなスイレンの心をアレックスから奪えるとは思えない。
僕自身がそう思えていない限り、スイレンが僕の気持ちに答えてくれることなんて、ありはしないさ。」
「いつからなんですか?」
「何がだ」
「スイレンさんの事好きなの」
「、、、君の影響だろう。君が仲間以上の関係性がある事を僕たちに教えた。
あの時からさ、スイレンもたぶんそうだと思う。」
「なんか、、すみません。」
「別に謝る事じゃないだろ。知識をもたらしたのが君でも、そうなったのは僕の問題だ。それに、今はなんだかんだで、現状維持を僕自身も選んでいる。
だからさ、そう思う限り君が面白がるような事にはならないさ。」
「意外ですね、先生。自分の気持ちをそんなに受け入れて、
それを素直に教えてくれるなんて」
「君には見抜かれているんだろう。だったら隠す必要もないさ。
それにこうして話せば楽になる事もあるし、僕自身こうして話すことで自分の気持ちと向き合えることだってある。
それに君がスイレンにその事を言うとも思わないし、
もしかしたらこれはいつかは君にも関係するかもしれない話だよ。
いつか僕がアレックスに勝てると思ったり、今の関係に変化が訪れたりすれば、
僕は僕自身がどうするか分からない。
君が地球に帰りたいと何より願うように、グロリアが世界を壊したいと目論むように、
僕もスイレンへの気持ちを抑えられないようなら、僕は何も恐れないし、引くつもりもない。それは今ある関係をめちゃくちゃにすることになってもさ。
その時、僕は君に謝ったりなんてしないから、自分の行動を後悔なんてしないから
だから君もその時は覚悟しておけよって話さ。」
「ちょっとからかうつもりがとんだ藪蛇だったですね。」
「あぁ、僕はアレックス程扱いやすくはないぞ。」
「僕がなんだって」
アレックスが2階の廊下を歩いて、階段に立って下を見つめる先生に話しかける。
「僕が君より優秀だって話さ。ちゃんとスイレンに謝ってきたか?」
「あぁ、でも、スイレンも気にするなって、準備があるから、先に下に行っててくれって。」
「そうか、、、最後にもう一度だけ確認しておく、行けるか、アレックス。」
「あぁ、もちろん。先生の安全装置を無駄にしてやるさ」
「ふん、期待してやるよ。」
4人は昼前には試験航行の準備を終え、操舵室に集まる。
「それじゃ、準備はいいか?」
「あぁ、もちろん。むしろシステムに問題は?これだけの大きさのものだろ?
最終チェックみたいなことしなくていいのか、乗り込んだの10分前だぞ」
「計器の数値は常に僕のデバイスでモニタリングしている。
それに調整やプログラムの改修は行っているが、エンジンを稼働させて2000時間以上何一つ問題は起きていない。航行には何一つ問題はない。むしろ心配は君の腕だけだ」
「だったら何の問題もないな。先生たちは安心して、久しぶりの宇宙の景色でも眺めてくれていればいいさ」
先生たちも所定の位置につくと、アレックスはゆっくりと宇宙船を浮上させる。
全長400mの宇宙船は、その質量を感じさせず、音はほとんど立たず、そのまま、ゆっくりと大気圏外まで浮上していく。
「アレックス、大気圏外に出た。デブリ回避の為にバリアを展開する。
ここら辺にはいないだろうが、間違えても、元同業者にはあててくれるなよ。
流石に元同業者を蒸発させるのは気が引ける。」
アレックスは、両手両足を器用に動かし、バリアに全く頼る事なく、デブリを回避し、デブリ船の3倍以上の速度で惑星の通常活動圏外を抜けていく。
「流石だな。」
「流石にこの速度でこれが出来るのはこのダイレクトリンクシステムのおかげさ。
これだけの宇宙船全部が僕の手足みたいだし、今までの何倍も正確に広く空間を認識できる。今もこの操舵室とそのと宇宙、両方共にいる変な感覚だけど、今までのデブリ船を操るよりもずっと簡単だ。」
「先生さんが、アレックスさんの癖と、心理傾向と考慮して調整してありますから、」
「余計な事は言わなくていい。」
「なるほどそれでか、思ったように動いてくれる」
「だが、予想以上に君はシステムと適合しているようだな、想定以上の感知、システム処理能力を発揮している。」
「よくわからないけど、、相性がいいのかな。」
「おそらく、アレックスさんは物事を論理的に考える傾向が強い事と、感情の起伏が少なくて、思考をイメージではなく言語化して行う事が多いようです。
データを見る限り、システムにおける補正が想定よりもはるかに少ないですし、何より、反応速度が普通じゃありません。」
「それじゃ、やっぱり相性がいいってことかな。」
「まぁ、そうなりますね。どうします先生さん。今のところ全く問題なさそうですし、システムも全て想定通り、エラーや、高負荷も見られません。」
「そうだな、今だと、生産エネルギーの5%も使っていない。
アレックス、まだ大丈夫そうか?」
「まだも何も、ほとんど何にもしていないような感覚だよ。」
先生は双葉と話し、今日の試験航行の内容を見直していく。
本来、想定した時間の3分の1もかからず、アレックスはクリアしていく。
3日間掛けて行うはずだった行程を繰り上げるべきか、アレックスへの練習に当てるべきかを考慮していく。
「なぁ、先生、」
「なんだ?」
「どうしてこのダイレクトリンクの事今日まで黙ってたんだ?
こんなのがあるなら教えてくれればよかったのに」
「それは本来、ほとんど使われていなかったシステムだ。
双葉の時代はこの船を100人規模で運用していた。
操舵に関してはコンピューター制御で、原則人は監視と指示するだけで十分。
こんな一人で操縦する為のダイレクトリンクはいわば廃れた技術だ。
使用する場合は非常時の操舵の補助の役割だ。
本来、人間の思考には雑念が多く、不要な情報をカットしたところで、
飛躍的にそうだ技術が上がるわけじゃない。
だから、これを使うのはあくまで、操縦した事のない人間の補助の役割をする程度だ。
それでも、人工知能が発達した双葉たちの時代では、それにもほとんど使われていない。
ノイズが多い脳は読み取るより、言語で伝達された指示の意図を読み取り最善の判断を下れる人工知能に頼る方が精度とひいては速度も上がる。
僕だってあくまでメインで使うつもりはなかったさ。」
「じゃあなんで?」
「前回の事故の後、私が使ってみては提案したんです。
アレックスさんは経験則に基づく勘が働いて、高精度の操作が出来られる方ですし、
私たちの時代にはいなかった感知特化型という通常の人よりもはるかに高い感性を持っておられます。
何となくアレックスさんとの親和性が高いシステムじゃないかと思って準備だけはしていたんですけど、まさかここまで使いこなせるとは思いませんでした。」
「とはいえ、このシステムはメンタルの影響を受けやすい致命的欠陥を持ったシステムだ。昨日までの情けない君に使わせればどうなるかは火を見るより明らかだ。
使わせる訳がないだろう。」
「それは確かに適切な判断だな」
「しかも、こいつは学習機能付きだ。
君が使えば使うほど、精度と反応速度はまだまだ上がるぞ。
今、双葉と話し合ったが、このままだと、予定していたテストは、本日中には終わる。
試験航行期間を切り上げても良いが、せっかくこれだけダイレクトリンクに適応しているんだ。それをメインに据えたシステムの改修を行う。
アレックス、君は今日の予定の所まで終えたら、後は適度に休憩をはさみながら、この宇宙船に慣れろ、あと、ダイレクトリンクにばかり頼るなよ。
それはメンタル面の影響も受けやすいし、堅実なシステムとは言い難い。
ダイレクトリンクを切った状態でも自由に操縦できるようになっておけ。」
昨日までのスランプは見る影もなく、アレックスはその後も順調に期待されている以上の結果を出し続けた。
そして3日目、最終テスト、ショートワープ、亜光速航行のテストを残すのみとなった
このテストは先生も未知の領域。理論上、この船が本来持つ性能であれば、問題なく行える事であるが、
惑星から1000万kmを限界線に生活したこの惑星の技術水準からすれば、この2つの技術は夢の技術、未知の領域だ。
先生は念入りに再度各状態を確認し、双葉にも問題がないかを確認する。
「それじゃ、そろそろいいか?」
1時間後待ちくたびれアレックスはそんな先生の緊張感とは違い、それほど気負わずに、
凄い技術で凄い事が出来る程度の認識で早く試したいと催促するように、確認する。
「あぁ、問題ない。やってくれ。」
「それじゃ、まずはこの船の本来の速度、亜光速まで持っていくぞ。」
アレックスは船の外装の隔壁を降ろし、船の出力リミッターを一気に解除し、速度を上げていく。
船内での様子は変わらないが、アレックスだけが、ダイレクトリンクを通じ、人には知覚処理できない速度を感じていた。
「外の状況が見えないし、感覚としてはさっきまでと何も変わらないけど、
数値だけ見てると笑いが出てくるな」
先生は何度も画面表示を切り替え、2つの目、2つの手をバラバラに動かし、あらゆる情報を把握してく。
「アレックス、今がこの船の標準航行速度だ。この速度で安定できるか?」
「問題ない、行けるけど、」
「どうしたの?大丈夫なんか辛そうだよ?」
アレックスの表情の変化に気付いたスイレンの言葉に、
双葉は慌ててアレックスの状態を確認する。
「アレックスさん!ダイレクトリンクは切ってください!
これだけの情報、人間には無理な負荷です。
この速度であればオートパイロットの方が安全です」
「分かった」
アレックスはダイレクトリンクを切り、ヘッドギアを外す。
「ちょっと、何?大丈夫なの?」
心配したスイレンがアレックスに近寄り、肩に手を置き、顔を覗き込む
「あぁ、大丈夫、ちょっと、変な感覚、頭と体の時間が一致しないっていうか。そのうまく言えないんだけど、僕と機械が一つになって、1秒が何時間にも感じるっていうか、頭の中だけが別世界にあるみたいな感覚かな、、、、少し気持ち悪い感覚かな。でも大丈夫。問題ないよ」
「双葉さん、これ本当に大丈夫?」
「、、、こちらでモニタできるアレックスさんの心身への負荷は、、、、今のところ、許容範囲内です。数値も徐々に下がってきています。」
「つまり?」
「問題ないってことだよ。」
「だから大丈夫だって。」
「アレックス、こっちを見なさい、」
スイレンは怒っているように語り、真っ直ぐにアレックスを見つめる。
アレックスは思わず目を背け、大丈夫とつぶやくが、その言葉受け入れられなかった。
「もう、すぐにばれる嘘つかないの。先生、アレックス、だいぶまいってるみたいだから、少し休ませるから、、」
「数値としては問題はありませんがそっちの方がいいと思います。」
「だから僕はまだ大丈夫」
「じゃないから、言っているんでしょ。」
「アレックス、どっちにしろ、亜光速航行状態では君にできる事はない。
今から3時間は僕と双葉でこのあたりの宙域で亜光速航行の継続テストを行う。
その後にショートワープのテストだ。それまで休んで来い。」
抵抗するアレックスであったが、スイレンに強引に操舵室近くのレストルームに連れ込まれあれやこれやと一息つく間もなく、世話を焼く。流石にこうなればアレックスも嵐が過ぎるまではと抵抗しない。
残された二人は一旦船を止め、データの検証に入る
「アレックスさん、大丈夫でしょうか?」
「まぁ、大丈夫だろ、今回の場合、アレックスへのダイレクトリンクが常人よりも適応率が高かったから余計に負荷がかかっただけの事。
次からはリミッターをかければいいだろうし、突然の未体験の感覚に戸惑っていることだってある。やってるうちになれるだろう。
それにしてもすごいな、この亜光速航行というのは、これがあれば、僕たちの世界の生活は大きく改善できる。この辺りの宙域まで来ると、流石に資源になる隕石が多いな。これだけあれば、この船をもう一機作ることも不可能じゃない」
「でも、私たちの時代では亜光速航行は、消えゆく技術です。あくまで惑星や隕石などが少ない宙域でしか使いませんでしたので、ワープが当たり前に出来るようになってからはあまり使われていないのが実情です。」
「それでも、僕たちの星の技術からしてみれば信じられない話さ」
「その信じられない技術を、先生は、今の文明レベルでも実用できるレベルまで応用したそれは、同じくらいすごい事じゃないんですか。」
「グロリアに対する技術提供。使える形時ないと意味がないからね。
この亜光速航行技術はいずれ枯渇する近宙域の物資の回収には必要な技術さ、
まぁ、エンジンの出力も問題もある。
ここら辺の距離が限界だろうけど、それでも、僕たちの世界の寿命は伸ばす事が出来る。
十分な見返りだよ。
それより次はショートワープだ。
アレックスが戻ってくるまでに、もう一度最終調整だ。」
「もう、先生、本当に心配性なんですから。何度確認しても同じですよ」
「馬鹿を言うな、ここまでは僕が作ったエンジンで動いているが、ワープにはこの船の本来の補助動力炉を使う、僕は僕のつくっていないものは信用していない。」
「それこそ、何を言うんですか、ですよ。
この船の補助エンジンは私のお父さん製のものですよ。だから、メインエンジンが壊れても補助エンジンは大丈夫なわけですよ。」
「それでも、だ。僕は、自分以外は信用しない。
それに実際いくつかは修復不可能に壊れていて本来の性能は出せないだろ、」
双葉は父親の事を馬鹿にされているようであまりいい気はしない。
「まぁ、それでも、これだけのものを1万年以上たっても使える事自体僕からすれば、
絶対不可能な話で、それが出来る君の父親は、やっぱり雲の上の人だよ、全く、僕以上の天才がいる事は全く持って腹立たしい話さ。」
「そうでしょ、自慢のお父さんです。」
「ファザコンか?」
「もう、どこでそんな言葉覚えたんですか!」
「君のデータベースだ、一応直接関係のないものを目を通してる、発想の元がどこにあるかは分からないからな。」
「余計な事を覚えなくていいんです!私はただ尊敬できるお父さんがいるっていうだけです。それより、もう一度チェックするんでしょ、時間かかるんですからちゃっちゃとやっちゃいますよ。」
「あぁ、それにダイレクトリンクの構成変更とリミッター設定もやらないとな、3時間はちょっと厳しいかな」
3時間後、散々スイレンから説教をされたアレックスが疲れ気味に戻ってくる
「大丈夫か?」
「あぁ、問題ない。」
アレックスは自分の席に戻り、先生から手順を聞く。
しかし、実際には、ほとんどアレックスがする事などない。
ただ目的地の距離と方向をしてするだけだ。
「あのさ、これにはダイレクトリンク使えないの」
「使えなくはないんだろうが、ワープは正確に座標を指定しないと、ワープ空間から出られなくなったり、うまく目的地につけない可能性が高くなる、わざわざ使う必要がないって言ったところか」
「昔、ダイレクトリンクを使った実験でワープして、戻ってこれなくなった人や、精神が壊れた人もいるので、私たちの時代では禁止された運用です。
先生が言うように出来なくはないんでしょうが、そう運用する理由がありません。
まぁ、私が直接船につながった場合は、頭の中で、想像するだけでその場所に行くこともできるのかもしれませんが生身のアレックスさんでは絶対にしないで下さいよ」
「いちいち設定するのが面倒だけど仕方なしか、」
「わざわざ危険な事しようとしない、もう一回怒られたいわけ」
スイレンがアレックスに脅しをかける。
「聞いてみただけだよ。ちゃんとやるよ。それじゃ、行くよ。皆席について」
アレックスは、みんなが席に着いたのを確認するとショートワープをする為のスイッチを入れる。
「、、、、、、」
「どうした?」
「いや、どうしたも何も、もうショートワープは終わって今はもう、5万光年の距離に来てるんだけど、どうする、亜光速から速度落とす?チャージエネルギー残量も40%予定よりもヘリが激しいな。これ帰りの事考えるとギリギリじゃないかな」
先生は画面の履歴を確認する。
そこにはすでに5万光年の距離を移動しという履歴が残っている。
あまりに一瞬の事、ワープをしたことすら認識できなかった。
何も感じることなくすべてが終わった。ただモニタだけがそう告げている。
「あ、あぁ。そうしてくれ、自分の目で事実を確認したい。」
アレックスが、速度を徐々に落とす中、先生は各データを検証しながら、ここの中で、はやる気持ちを抑える。
まだだ、まだ問題なかったわけじゃない。
まだ確認が取れたわけじゃない。
だが、5万光年の距離を移動した事実は間違いなく、
エンジンには負荷はかかったものの、損傷はなく、
時間が立てば、またワープが行えるという事実は揺るがないはずだ。
「やった、やった、、、ぞ、、、」
全ての事実を確認し、これは成功だ。そう喜ぼうとした瞬間。
速度を落とし、開いた外装の隔壁から見える光景に、思わずその感動すら失った。
「なに、これ、何も見えない、何もない。」
それはスイレンも同じ、目の前の光景に目を奪われ、心奪われ、そして、希望を奪われた。
光も、隕石も、何もない世界、ただ闇だけ、外の景色を覗き込めば覗き込むほど、その闇の中に吸い込まれてしまうような恐怖。
無という恐怖が二人を襲う。
たった一つであっても、恒星があり、無意味に感じて、無数の隕石が漂っていた今までとは何もかもが違う。ただ、何もない。
「、、、先生!、先生!」
「あ、あぁ、すまない。」
「?どうした先生何か問題でも、スイレンもぼーっとして、ワープの影響でも」
「何かって、、、」
「アレックスは何も感じないの?」
「?成功したことは嬉しいけど、先生の事は信じてたし、それに一瞬の出来事で、なんかいまいち実感なくて」
「いや、そうじゃなくて、、、」
「先生、スイレン、、、その涙。どうかしたのか」
「あ、あれ変だな、なんでだろう。」
スイレンは涙の理由には心当たりがある、恐怖心からくる涙だ。でも、自分の意思では止める事も出来ない。
「アレックス、君は本当に何も感じないのか?その怖いとか」
「怖い?まぁ、確かに、ここまで遠くまで来たのは初めてだけど、まだまだ遠くまで行くんだろ、この程度で怖いも何もないだろ、それに、ここには皆いるし、問題ないさ。」
問題ない、その言葉が二人には信じられなかった。
そう、問題はない。全てが順調で、全てが想定通り、でも万が一、ここから帰れなくなったら、二人の頭の中にあるのはその不安だけだ。
何もほかの考えられないただただ怖いという感情だけが支配する。
不安だけが試みたす。
そしてその事を共有できないアレックスに今までにない距離を感じていた。
双葉もアレックスもショートワープが成功した事で地球に対する思いが強くなっているが、
先生とスイレンにはとてもそんな事を考えられる状態ではない。
戸惑う二人の精神疲労を気遣い、双葉の提案で、今日の実験はここで中止し
この宙域にとどまり、明日戻る事となった。
だが、光の速度で10万年の距離。
もし、この場で動力炉にトラブルが起こってしまったら、生きている間には決して戻れない。ここで一生を終える事になる。
この何もない世界の恐怖、その日、先生と、双葉は一睡もすることが出来なかった。
ただ窓越しに見える、何もない世界を心奪われ他のよう見続け、魂を吸い込まれるような遠くまで続く世界から抜け出すことが出来なかった。
翌日、彼らの乗る宇宙船は何の問題もなく戻ることが出来た。
だが、この出来事が先生に決して消えぬ傷を負わせ、そして一緒だと思っていた同じだと思っていた4人の世界が違うものだと思い知らされた。
生きている世界が違う、
価値観が違う、
生死観が違う。
そうあまりにも違い過ぎると




