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星なき空より暗い空


グロリアの出会いから、1年と300日が経過していた。

彼ら4人の生活がスラム街外円部から、首都中央議事塔、首都近郊加工工場を経て、現在は双葉の宇宙船のそばに立て大型居住コンテナになっていた。

宇宙船がある荒野は、首都からも、グロリアが暮らす自然保護地区からも離れた場所にある無人地域。ここを訪れる者はない。


4人がここに移って約1年。

彼らだけの生活はかつての生活とは異なり、グロリアの生活に近いものになっていた。

必要な物資を首都で買い込み、この土地で、地下から水を汲み、植物を育て、それを食べて生活している。

あれから、アレックスと先生の人間関係はかつてのものとは変わってしまったが、

それでも大きなトラブルもなく、宇宙船の修復は順調に進み、すでに航行必要な箇所に関しては完成している。

後は、宇宙船を全く同じに復元したわけではなく先生の仕様で修復しているため、実際にテストを繰り返しながら、システム、設備ともに調整していく必要がある状況だ。

宇宙船の動力炉が稼働し1か月以上が立ち、安定稼働、重力下での航行テストは、一度の想定内のトラブルのみで順調に進んでいた。

そして明日から3日間、初の宇宙でのテストを控えている状況となっていた。

この状況になっては、アレックスとスイレンが宇宙船の修復に関してできる事は何もない。

スイレンは畑の手入れや家事全般を、

アレックスは買い出しやこの宇宙船の操縦シミュレーションを繰り返している。

「ただいま、、」

先生と双葉は夕食の時間になると、いつものように疲れた表情でも戻ってきた。

二人は今日も夕食後再び、宇宙船に戻り、最終調整の為作業を続ける。

肉を食べる事が出来ないスイレンであったが、そんな頑張っている先生の為に、

グロリアから分けてもらった肉で料理ができるようになっていた。

今日も先生の為に時間をかけて料理を作っていた。

「お帰りなさい」

「ただいま、あれ?アレックスは?」

「今日は戻ってこないわよ。明日の試験航行で失敗しないために集中したいって、朝からずっとシミュレーターだよ」

「あいつまた自分勝手な、それじゃ今日もスイレンは一日、明日の準備一人だったのか?」

「仕方ないよ。アレックスにしては珍しく、緊張しているみたいだから、それに準備は一人でも何とかなる事だし」

「だからって、それに食事は必ずみんな一緒に、だろ、呼んでくるよ」

「呼びに行かなくていいわよ今回は特別。

あぁやっていつもと変わらないふりしてるけどアレックだって必死なのよ、分かってあげて、前回の重力下の試験航行の時、先生の非常システムが無かったら、危なかったもん。

万が一何かあっちゃいけないって、それに何か食べると緊張でお腹が痛くなるからって、今朝から何も食べてないよ。

それだけの事なんだよ。アレックスにとっては、、」

スイレンは浮かない顔でアレックスの事を心配する

「、、、、、まったく、ビビリが、真剣の図太さと、度胸だけがあの男の長所だったのに、たかだか、あの程度のトラブルで自信を無くすとは」

「仕方ないですよ。アレックスさんにとってあれかなりショックだったみたいですから。

それより、何ですかコレ、」

「だっていよいよ明日、試験航行ってことは、先生と双葉の作業は一区切りってことでしょ。だからこれはその頑張ったでしょうのお祝い。

肉料理系は味見してないけど、匂い的には自信作だよ」

「なんだよそれ。」

「なによ、素直に喜びなさいよ。先生の為に作ったんだから」

スイレンは嬉しそうに食卓に食事を並べる。とても二人で処理できる量ではないが、

その程度の贅沢が出来る程、畑は十分に野菜が育っている。

先生はスイレンが作り過ぎた料理を、おいしいとも言いはしないが黙々と食べ続ける。

「そんなに無理して食べなくていいわよ。」

「別に無理なんかしてない、残すのがもったいないだけだ。」

「はいはい、でも残った分は明日のお弁当にするから本当に無理しなくていいわよ。」

スイレンは先生に水を継いで渡す。

彼はそれを受け取り、食べるのをやめて一息つく。

「スイレンさんが作ってくれたものは残したくないんですよね。」

双葉が嫌な笑いで先生に語りかける

「はぁ!そんなわけないだろ、僕はただお腹が減っていただけだ。」

「それじゃ、おしくなかったんですか。」

「それは、、、その、、、」

「なんですか、、」

「、、、そりゃ、、おいしくないわなないだろ」

先生は小さな声で答え、目を背ける。

「ありがと、そうやってたくさん食べてくれるのは嬉しいわよ。作ったかいがある。

本当にお疲れ様、本当にやり遂げるなんて、先生は先生だけの事はあるわ。」

「な、まだだよ、明日からの試験航行がうまくいけば、

あと数か月で、実際にこの星から出ていけるだろう。

でも結局グロリアからは、昔貿易相手だった星の情報は何も得られていない。

それに実際の航行に備えて、打ち上げていた偵察機は何も発見できていない。まだまださ」

「でも、先生さんはやってくれることは全部やってくれました。

先生さんが気に病む必要はありません

私一人じゃ何百年かかっても、宇宙船の修理なんてできませんでした。

感謝しています」

「ふん、僕をもってすればこれくらい造作もない事だ。

まぁ、ブラックボックスもあるけど、そこは航行には問題なさそうだし、おいおい解明してくとして、

目下の問題はあのバカの方か、、」

「、、、、、、、あれ以来、自分の事で一杯一杯みたいだしね。」

スイレンは作り笑顔で沈黙の後、弁護するが、その表情では弁護できていない

「スイレンさんもあまりアレックスさんと話したりは?」

「、、、ほとんどできていないわ。こう言う時こそ、

容姿特化型の私のカウンセリングの出番になるんだろうけど、

アレックス、少しも心開いてくれないし、正直、自信無くすわね。

こう言う時でも頼ってくれないのは。」

「あのバカの事なんかスイレンが気にする必要なんてないよ!

スイレンはあいつの事なんか、気を使う必要なんてない!

あいつが駄目なのはあいつが駄目だからだ!

スイレンはやれることは全部やってるよ!」

先生は興奮し立ち上がる

「な、なによ、突然。」

「い、いや別に、、、」

「、、、、、先生変わったよね」

「変わった?」

「うん、今、私の為に怒ってくれたでしょ、ありがとう。」

「別に、僕はそんなつもりじゃない、僕はただアレックスにイラついてるだけだ」

「そう?それでも一応、ありがとう」

先生は笑いかけるスイレンから目をそらすが、いつまでも自分に向けられた視線が気になる。

「なんだよ」

「いや、本当に先生変わったなと思って、気遣い出来るあたり、大人になったなって、

それに昔よりもアレックスと仲悪くなったわね。

でもそれを直接口にするわけじゃなく、感情の制御ができるあたり、先生は大人になったわよね。」

「別に、仲が悪い訳じゃないさ、ただ、、、」

「ただ、何、」

「色々あるんだよ」

そう言って先生は自分の食器を炊事場に持っていく

「あ、私洗うから、」

「いいよ、自分の分くらい自分でするよ」

「私がしたいの、先生には先生のすることがあるでしょ。あと少し、頑張って、」

そう言ってスイレンは先生の頭を撫でて、先生を送り出す。

「、、どうかしたんですか?そんな顔して。」

「久しぶりに頭撫でたから、背高くなったなって、たぶん後1,2年で追い抜かれそう。

昔は頭撫でられるのあんなに嫌がっていたのに嫌がらなくなったし、

怒りっぽい所は相変わらずだけど、それでも昔とは少し違うかな。

それに何より、先生優しくなったわよね。

でも、そんな変化をなんだか少しさびしいって感じてる」

「そうですね。先生変わりましたよね。冗談も言うようになったし、周りへの気遣い出来るようになりましたよね。私も先生は大人になったって思いますよ。いろんな意味で、ね。」

「色んな意味?」

「そう、色んな意味です。すっかり男の子ですね。って事です」

「男?先生は元々男でしょ」

「まぁ、そういう意味ではないんですけど、、まぁ、こういうのは感覚ですし、スイレンさんにもきっとわかる時が来ますよ。」

「何よ、上から目線ね。」

「えぇ、一応これでも、スイレンさん何百倍も生きていますから、、、でも、先生も変わりましたけど、スイレンさんも変わりましたよね。」

「私、私は何も変わっていないわよ。」

「そんなことありませんよ、スイレンさんは素直になりましたよ。

笑顔も、お節介も、心配も、昔よりもずっとずっと真っ直ぐです。そんなスイレンさんを私は素敵だと思いますよ。」

「な、何よそれ、、」

「ふふ、スイレンさんは魅力的だって話です。」

双葉はスイレンの横でスイレンが洗った食器を拭いていく。

「、、、私ね、今のこの生活がずっと続けばいいなって思ってるの。

もちろん今までも楽しかったし、嫌な事や大変な事は今でもあるけど、

それでも、今のこの生活がすごく楽しいって思えるの。

だからね、宇宙船が完成するのはみんなの目標が叶う事で、すごく嬉しいことだって、分かっているんだけど、同時に、今のここでの生活が終わっちゃうって思うと、ね」

「スイレンさん、」

「あぁ、誤解しないでね。本当に嫌とかそういうのじゃないから、でも少し寂しいような」

「分かりますその感じ、私、地球にいた頃、高校に行ってたんです。あ、高校っていうのは、」

「知ってる、前に教えてもらった。」

「そうでしたね、高校は基本3年、友達と一緒に勉強して、文化祭とか体育祭とか、後、夏休みの合宿とかクラスの皆と一緒にいろんなことをやるんです。

私とか高校からしか行っていないから高校に入ったばかりの頃は、

ほとんどの人が知らない人ばかりなんですけど、次第に仲良くなっていくんです。

でも、その授業は退屈で、友達と一緒にいるのも当たり前で、大切だとも思わないんです。不思議ですよね。でも卒業する頃には、皆、卒業したら離れ離れになるわけじゃなくて、そのまま、みんな自分の夢に向かって同じ学園都市の大学のそれぞれの専門分野の学科に行くだけで会えなくなる訳でもないし、大学ではもっと楽しい事が待っているはずなのに、すごく寂しくなるんです。

自分たちがいた場所が次の新入生の為に綺麗に掃除している時なんか、私たちの大切な場所が消えてなくってもう二度と戻ってこないように思えて私泣きそうになっちゃいました。

まぁ、私の場合、結局卒業できずに、本当に離れ離れになっちゃったんですけど。」

「双葉、、、」

「ちょ、な、何泣いているんですか!」

「ごめんなさい。皆ともう二度と会えなくなるって想像したら私、」

「大丈夫ですよ!皆さんの3人の絆は消えたりしません。」

「何言っているの、4人よ。あなたも私の大切な親友なんだからね。」

「はい!」

自分を何の気遣いもなく、心から当たり前だと受け入れてくれる彼女の言葉、

その言葉があるだけでスイレンに会えてよかったそう思える。


その日の夜11時過ぎに先生は家に戻ってきた。明日の為にやる事はすべてやった。

準備万端、覚悟十分で床に就く。

一方、宇宙船の中にはもう一人、、、覚悟も準備も不十分な人間が留まり続けていた。

「まだ眠れませんかもう夜中の3時ですよ。」

「双葉、、」

双葉は、アレックスのシュミレーションの履歴を確認する。

そこに記録されていたのは事故、規定時間オーバーで埋めつけている。

今日だけじゃなく、過去の履歴も見るがこの3か月成功率は確実に低下し、シミュレーション回数だけが増えていっている。

3か月前までアレックスは数百回やっても一度も出した事のない。それが今ではシミュレーション中止ばかり、初めてシミュレーションに挑んだ際にも、成功した人間とは思えない

「根を詰め過ぎです。少し休まれては」

「放っておいてくれ、あと少し、あと少しで、掴めそうなんだ。」

アレックスは3か月前の重力下の飛行実験で、山への接触事故を起こしかけた。

幸い、それは先生の非常装置により事故は避けられたが。

その事がアレックスに大きなトラウマを植え付けていた。

それが彼を初めての大きな壁となり、克服する事も出来ずに、当たり前に操縦していた感覚さえもわからなくなっている。

事故の原因はアレックスの慢心と小さな対抗心。

デブリ回収船の数十倍は大きなこの宇宙船を、操る危険性、難しさは分かっていた。

だから何度もシミュレーションを繰り返し、何度もわざとトラブルのシチュエーションをつくり対応できるだけのノウハウを蓄積した。

デブリ船での経験、

シュミレーションでのデータ、

座学による知識

何一つ問題なく、何一つ間違いなく。

だから大丈夫だと過信していた、自分の腕を、侮っていた自分の油断を

そして自分の負の感情を

2年前、グロリアに出会って以来、先生はグロリアの影響を受けて変わっていった。

それは決して悪い影響ではなく、先生は確実に成長した。

対等以上に会話できるグロリアの存在が、先生の心に敗北を与え、

敵となり、友となる事で彼の世界を変えた。

見下すのではなく、対等に話し合い議論し、対抗する。

一方的な演説から会話へ、

グロリアに傷つけられる事で、普段自分が受けている気遣いを理解した。

それが彼を少しだけ素直にさせ、彼に人に優しくする勇気をくれた。

グロリアとの時間が圧倒的濃度で彼に経験を積み重ね彼の世界を広げた。

そうして彼は変わっていった。

そしてその先生の変化はアレックスも感じていた。

知識だけではなく、日常のやり取りの中でも先生の言葉は正論を帯び意志を宿し、

何度もい言い負かされるようになっていった。

先生の言う方が正しい、先生の言う方が最善だ。そしてその中に見え隠れするグロリアの存在それが、まるで自分自身がグロリアという存在の比較対象になっているようで、正直心地よくなかった。

だから、表面上は変わらなくても、先生とは次第に距離を置き、心の中で先生に対する対抗心を持ち始めていた。

だからあの日、試験飛行の日。

先生のアレックスがこの宇宙船を操作する事に対する数多くの苦言を、確認を、自分に対する不信による物だと思い込んだ。

先生は自分の腕前を信じていない。

『そんなに心配しなくても大丈夫だよ。これくらい目をつぶっていてもできるよ』

彼の発した強がりの言葉

『そうだとしても、ちゃんと確認した方がいいですよ。無駄だと思えてもそれは大切な事です。』

『そうだよ、後から後悔するよりは、先に面倒でもやるべきことはやるべきでしょ』

そのスイレンと双葉の気遣いさえも、自分に対しての不安だととらえてしまった。

2年前は、自分が主導でデブリ船を操縦し、少なからず、自分の中には生計を立てていた。

アレックスが一番宇宙に詳しく、アレックスがいなければ船を動かすことも、契約する事もままならなかった。そういう自負。『僕がいなくちゃダメなんだ』それが彼の心の拠り所だった。

でも、グロリアから生活を保障され、

先生はどんどん知識も心も成長していく。

双葉も出会った頃は自分の事を頼りにしていてくれたのに、先生と難しい話ばかり、

スイレンは今までと変わらず、接してくれるが、それさえも彼には憐みに思えた。

全部はアレックスの頭の中での出来事で、誰もそんな事を思っていない。

だが、アレックスは自分のそんな気持ちを受け入れられず、理解できず、どうしていいかも分からず、そして表面には出さず、自分の中に抱え込んだ。

だから誰も気づけず、誰も、彼の頭の中の自分を否定できなかった。

その気持ちで、わざと無茶な事をした。

自分は凄いんだ。皆に見せつけたい、そしてそれが彼から心の支えを奪った。

だが、その自分の弱さも絶望も彼は隠し、誰にも心を開かず、いつものように笑い、いつものように自分の感情を押し殺した。自分自身で何とかしようとした。


双葉はシミュレーションを続けようとするアレックスの目を両手手塞ぐ

「双葉、邪魔だよ、離してくれ」

「目をつぶって落着いて、ゆっくり深呼吸してください。

アレックスさんだってわかっているでしょ。焦ったってしょうがないって。」

「僕は焦ってないんかいないよ。」

「今、アレックスさんに必要なのは操縦の訓練中じゃなくて心のゆとりです。」

「僕はいつもの変わらないさ。」

「嘘ですよ。焦りが心のゆとりを奪い、視野を狭める。感知型のアレックスさんと言えど、それは変わりません。」

「、、、、集中しているだけだよ。」

「そうですか、自分の誕生日を忘れ程、集中していましたか?」

「、、、」

「誕生日おめでとうございます。今日はスイレンさん、腕によりをかけて料理を作ろうとしてたんです。アレックスさんの為に、

いつものアレックスさんだったら、きっとスイレンさんのそんな気持ち気づけたはずです。

気づいて知らないふりをできたはずです。

今朝、あなたを送り出す時の残念そうなスイレンさんの顔に気付いてあげられたはずです」

「、、、二人が、家を出たのは僕よりも後だったのに、見ていたような言い方だね。」

「言われれば、心当たり、あるんでしょ」

「、、、、、」

「一応言っておきますけど、別に私はアレックスさんの事を怒りに来たわけじゃないですからね。」

「だったら、嫌味でもいいに来たのかい?」

「あら、アレックスさんがそんな嫌味を言うなんて珍しい。」

「、、、、、、」

「私だって心配してるんですよ。アレックスさんの事」

「大丈夫、明日のテストは失敗しないよ。」

「違います、アレックスさんの事を心配しているんです。

もし、明日失敗したら、ここからいなくなるつもりでしょ。

一人で、この何もない荒野で、死に場所を求めるように、生きていく。

退路を断って、自分を追い込んで、馬鹿みたいな自己満足です。」

「、、、なんでも御見通しなんだな、どうしてわかった?」

「ここに来る前、アレックスさんの部屋を見ました、きれいに片づけられて、荷物がまとめられてました。あれを見ればわかりますよ」

「、、、、」

「あ、でも、コレ、忘れてましたよ。」

そう言って双葉は、アレックスの目から手を離し、モニターに4人が一緒に写った画像を映し出す。

それはみんなでこっちに移り住んだに撮った画像。

無表情なアレックスと、不機嫌そうにそっぽを向く先生、それを見て呆れるスイレンと、不機嫌そうな先生を見て心配する双葉。

みんなバラバラで、とても楽しそうには見えない写真。

でも、それは双葉の、そしてアレックスの大切な一瞬だ。

「人ってそんなに簡単に過去も命も捨てられるものじゃありませんよ。」

「それくらいの覚悟がなくちゃ、僕にはダメなんだ。」

「それは覚悟じゃないです。ただ逃げるだけです。最高にカッコ悪い男の自己満足です。」

「言ってくれる」

「事実です。」

「、、、、そもそも僕が操縦する必要なんてないんだ。どうせせっかく荷物をまとめたんだ。明日のテスト、君ならこの船とダイレクトにつながることが出来る。

それこそ自分の手足を動かすのと何ら変わらない。僕みたいに失敗する事もない。

君が操縦してくれ」

「嫌です」

「、、、、、なんで」

「私は、アレックスさんの事を信じています。」

「双葉の方がうまくやれる」

「いいえ、アレックスさんの方が上手です。」

「最近は失敗ばかりだ。今じゃ、失敗した数の方が多い。」

「それでも私はアレックスさんの事を信じます。」

「どうしてだよ、どうしてそこまで」

「明確な根拠があるならそれは、事実。

確かな理由があるなら、それは確信。

理由なんてありません。私はアレックスさんならできるって信じています。

それが信頼です。

私はアレックスさんの事を信頼しています。

もっと自分を信じて、自信を持ってください。

もともとこの船は一人でコントロールできる規模じゃありません。

あれくらいのミスがなんだっていうんですか」

「その『あれくらいのミス』が命取りになるそれが宇宙だ。」

「宇宙なら、バリアも張れます。だったらやっぱり、あれくらいのミスです。」

「、、、、自分が死ぬだけなら、それくらいさ、でも、何が起こるか分からない。もしも、のその時はスイレンも先生も双葉も皆巻き込むことになるんだ。3人の命をこの両手で左右する。そんなの重すぎるだろ!」

アレックスが感情的になる。

自分のせいで仲間を殺す。それがアレックスの失敗の根幹、恐怖の正体

「数が問題で減れば軽くなるなら、私の事は気にしないでください。私は宇宙空間でも死にません。」

「死なない事が怖いって思ったことはないのか?」

「え?」

「何もない宇宙で、永遠に近い時間を生き続ける。それは死よりも怖い事だと」

「それは、、、その、、」

思わず双葉は言葉に詰まる。なぜならそれは双葉が見た怖い夢だからだ。

眠る必要のない機械の体。それでも双葉は眠れるし、夢だって見れる。

この星で目を覚ますまでの間、双葉は断片的ではあるがものすごく怖い夢を見ていた。

それが、この宇宙を体の自由が一切聞かずにさまよう夢。

目の前には地球が見えるが、徐々に徐々に地球から離れていく夢。

永遠にも近い時間をかけて少しずつ離れやがて地球さえも戻れない所まで流される夢。

たった一人、一人ぼっちで、この何もない宇宙を永遠にさまよう夢

やがて星さえも見えなくなって、自分の体さえも見えなくなってただ闇だけが、永遠に近い孤独の中を生きていく。

それは夢であっても双葉にとっては克服でない恐怖だ。

「事故の後、グロリアさんに言われたんだ。

君は僕の大切な友人と、その友人の大切な人の命を奪うところだったんだって、

君はそうなった時、責任が取れるのかいって」

「そんな、あの人の言う事なんか、」

「言い方に問題があってもそれは事実だ。僕はそれが怖いんだ。

あの日から僕は夢に見る。僕のせいでみんなが死ぬ夢を、

そして双葉が一人ぼっちになちゃう夢を、

それを考えると、僕は呼吸さえまともに出来なくなって、体が動かなくなるんだ。」

アレックスの抱える苦悩、アレックスは初めて弱気な側面を誰かに見せた。

彼は頭を抱えるように俯き、苦悩する。

そんなアレックスの様子に双葉は言葉に詰まってしまい、長い沈黙が訪れる。


「この何もない空の先に、数えきれないほどの星で満たされた星の海があるなら、

それだけでこの星を出ていく理由は十分だ。

何も心配する事はないよ。君の大切な場所に僕が連れて行くよ

あの日言った言葉私忘れてませんよ。

私にもう一度見せてください、星の海を、約束の地球を」

双葉はアレックスの両手を握り真っ直ぐに目を見つめる

「あなたが恐怖に負けそうになったら、私がこうして勇気をあげます。

こうして勇気をくれたのもアレックスさんです。

失う事を恐れない、いつだって前を見て、皆を導いてくれるそれがアレックスさんです。

私、信じてますから、アレックスさんならできる。

アレックスさんなら、私を地球に連れて行ってくるって。」

「、、、、改めて思うけど、機械の体なのに、双葉の手、暖かい、少し不思議な感じだ。」

「でも、それが私です。」

「ねぇ、双葉、君の為に、僕が頑張れる理由を君にしていいかな。

僕の事を頼りにしてくれているそううぬぼれていいかな。」

双葉は思わず、真剣なアレックスの目に顔を赤らめる、

アレックスが双葉が思っているような意味でないことは分かっているが、

それでも真剣にそういう言葉を言われると照れてしまう。

「それはうぬぼれなんかじゃありません。何度だって言います

私はアレックスさんを頼りにして信じています。」

アレックスは双葉が握った手を痛いほどの力で握り返す。

「だったらもう、悩むのも、迷うのもこれまでだ。

そうさ、背負ってやるさどんなものでも、応えて見せるさ、どんな期待にも、」

吹っ切れたアレックスは、もう一度だけシミュレーターに挑む。

成功しても、失敗しても一度だけ、でもアレックスは失敗する気なんて少しも思っていない。それは決して慢心なんかじゃない。

誰かの為に、そういうものがある時、アレックスは誰よりも強い。

だから、結果は最初から分かっていた。


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