地元の形
文才なくても小説を書くスレで、お題を貰って書きました。 お題:お前の地元
「この店な、昔、たこ焼きやってたん」
そう言って彼女が指差すのは、ダンボールばかりの物置と化した古めかしいかつては駄菓子屋としてあった建物だった。
「お爺さんがたこ焼き焼くの旨くてな」
指差した建物をもう見もせずに彼女は商店街の先へと歩く。
「マヨネーズなんて邪道やのうて、ソースでもあらへんで」
一車線としては広く、二車線としては狭い。けれど、一方通行の標識があった。だから一応、ここは広さ的にも商店街のメインストリートといっていいのだろう。
「絶妙な塩加減だけでとてもおいしくしとった」
歩行者はまばらで、ややもすればすれ違うのは車の方が多いのかもしれない。
「お爺さんが亡うなってな。お婆さんではでけへんかった」
見るからに古い建物が多くて、
「お婆さんがやってた駄菓子屋もな。ああして、終わってもうた」
そのほとんどがシャッターで閉ざされていた。
「だから、あらへんねん」
閑散とした商店街の道の真っ只中で、彼女は振向いて笑った。
とても悲しそうに笑った。
「どこもそんな感じやから、あらへんねん」
縋る様な怒る様な優しい声でそう言った。
彼女に地元の商店街を案内すると言われて、最初は来るべき時が来たかと思った。
「てっきり怒られるかと思ってた」
「怒らへんよ」
そういいつつそこで彼女は笑顔を終えて「ただ、悲し思うねん」と呟いた。
日はまだ高い。彼女は眼の上に手をかざして、眩しそうに空を見た。
「変わらへんのは空だけや」
「そうか?」
「そや、守ろうとしても形だけや。中身は残らへん」
「なら、いいのか?」
「……うん。やってまいーな」
空を眺めながら半ば投げやりに彼女は言う。
「買収はすぐ片がつく。解体業者もあたりはつく。建設込みでも一年半でこの商店街はなくなるぞ。それでも……ッ」
「ええって」
指で発言をさえぎるようなそういう生易しいものではなく、振向きざまに全力で掌を口に押し付けてきた。
その手で俺の口を塞いだまま、顔は下を向けて「もう、あらへんねん」と言った。
その腕を掴んで口から話す。
「わかった。あの話は進める」
町の人が一丸となって、かつての活気を取り戻すなら……。そんなことはないと知りつつ、願ってしまった。
彼女の気持ちに配慮している風を装いながら、結局のところは悲しませるだけだった。
だってそうだろう。もう、思い出の中にしかないんだ。
商店街を歩いて抜ける。そこの活気が死んでいると改めて自覚することが、自分が自分の決断でそれをやる為に必要な儀式だと思えた。
「それでも」
最後の一歩と言ったところで、服の裾をつかまれる。
「それでもここは私の地元やねん」
言いはじめはうつむいたままだったが、途中から彼女はすっと顔を上げて、
「もう、思い出とは違ごても……これからここを思い出にする子らがおる」
と真剣な表情を向けてきた。
「せやから、お願いや。あって良かったと思えるもんに……」
その訴えを、今度は正しく、俺は指一本で彼女の口元を押さえ「分かってるよ」と言った。
なぜなら……。
「その為の、ショッピングセンターだから」
実際、こんな事を考えている余地があるのやら……どっちの意味でも。
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202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/01(木) 12:18:44.07 ID:BUoKKI870
お題下さい
203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/01(木) 12:23:00.34 ID:Jto0BQJbo
>>202
お前の地元
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/01(木) 17:56:15.24 ID:BUoKKI870
把握しました