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フェル・アルム刻記  作者: 大気杜弥
第二部 “濁流”
42/111

序章 (三)

三.


[またしても星が消えた……か。〈れいおさ〉よ、われを尖塔に呼びだしたのは、これを見せるためか?]

[はい、〈要〉《かなめ》様。空をご覧下さいませ。空間に“変化”の兆しがある時は、決まってこのような空になっております]

[……ふん。見ていて気色のよいものではないな。しかも、このひと月半のうちに二回も起こるとはな。外界からの干渉が未だ収まっていない、というのか……。“疾風はやて”のひとり――北に向かった者の消息が絶っているそうだな? その後、何かつかんだか?]

[いえ、かの者からの報告は……スティン高原の麓、ベケットからが最後です。『確信に近づいた』……と。おそれながら〈要〉様、私はそれ以上存じません]

[ふん。……隷どもを統率する貴様がそのていたらくとはな、失態としか言いようがない]

[……は……申しわけございませぬ]

[あとの“疾風”どもは? 何かしらの情報をつかんでいるのか?]

[は、そのほかの者は全員帰還しておりますが、何も……]

[ふむ。……では、“疾風”どもをみな北に回せ。スティン周辺を徹底的に調べ上げる必要がある]

[承知いたしました。早速その旨連絡いたします]

[安穏とはしておれぬぞ、〈隷の長〉。“疾風”より、逐一状況を受け取るよう、体制を整えておけ]

[はい。ほかの隷達を総動員いたします]

[……貴様、今の状況を甘く見ておるのではあるまいな? 我が世界がほつれつつある、というのだぞ]

[承知しております]

[……〈隷の長〉よ、次の失態はないぞ。失敗をした時は貴様は無くなるものと知れ。……我は森へ戻る]

 〈要〉――デルネアは自らの下僕にそう言い放つと、身を翻し、ひとり塔を降りていった。


 塔と宮殿を結ぶ渡り廊下からは、帝都アヴィザノの様子が一望出来る。デルネアはしばし留まり、眼下に広がる深夜の街を眺めた。

 数刻もすれば、いつもと変わらない朝がやってくる。デルネアは自分の寝所に向かっていった。途中、“せせらぎの宮”の中庭で、王宮付きの使用人らしき女と出くわした。こんな深夜に出歩くことは、王宮の人間であっても許されない。それを分かっていてか、女は急ぎ足でデルネアのすぐ側を通り過ぎていった。まるでデルネアが存在しないかのように。

 女が彼を無視したのではない、デルネアが自らの気配を完全に消していたため、彼女は気付かなかったのだ。たとえ人の行き交う昼間であったとしても、気配を消したデルネアに誰ひとり気付くことはない。

 “天球の宮”直属の、デルネアに絶対服従する術使い――“隷”以外、デルネアの存在を知る者はいない。それがフェル・アルム国王――ドゥ・ルイエ皇であってもだ。

 要――物事を動かす要所。デルネアは自分の呼称をたいそう気に入っていた。

 せせらぎの宮に入る前に彼はふと足を止めた。

「我が世界がほつれつつある……か」

 デルネアは再び頭を空に向けた。それまで空虚だった空は、幕が開けるかのように、東から西へと順に星を映しはじめた。

(〈帳〉……)

 恋い焦がれる想い人を呼ぶかのように、デルネアはかつての友人の名をそっと心の中でつぶやいた。

(今の我の心境が分かるとしたら、お前は笑うか? この世の危惧を初めて感じている我を。だが我は我の為すべきことを為す。この平穏な世界を、永久に存続させるためにな……)

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