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フェル・アルム刻記  作者: 大気杜弥
第一部 “遠雷”
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終章 (二)

二.


 朝食はすんだ。今朝の食事は刻んだ芋を卵の中に入れたという、オムレツ風のものであった。昨晩の宴会でお腹を膨らませていた彼らにはうってつけのものであった。もっともルードは、ライカにおかわりをせがんでいたが。

 ルードとライカは食事の後片付けをしている。未だ食卓にいるのは〈帳〉とハーンだけだった。

「ハーンよ」

 ハーンが奏でるタールの演奏に一区切りついたのを見計らって、〈帳〉が声をかけた。

「ん、どうしました?」

 ハーンは顔を上げると、にっこり笑って答える。

「君が旅立つ前になんなのだが、ちょっと話がしたいのだ」

 小声でそう言うと、〈帳〉はちらと厨房のほうを窺う。

「ここでは少し話しづらい。ルード達にはまだ話すべきではないからな。……悪いが私の部屋まで来てくれないか?」

 それだけ言って〈帳〉は食堂を後にした。

 残されたハーンは肩をすくめ、やれやれ、と言った面もちで少し遅れて席を立った。


 それからしばらくして、後片付けの終わったルードが厨房から顔を出した。普段ならここでお茶の時間となるので、何を飲みたいか、ハーン達に訊こうとしたのだ。だが彼らはいなかった。

「あれ? どこに行っちゃったんだろう?」

 頭を掻きながらルードは、皿を拭き終わったライカを見る。

「ああ……〈帳〉さんとハーンなら、話があるからって、ちょっと前に出てったわよ」

「よく聞こえたなぁ」

「わたし達アイバーフィンはね、風を味方につけてるせいか、あなた方バイラルより耳ざといのよ」

 ライカは、くすりと笑った。悪気はない、と言いたげに。

「だったらライカも、早く俺に教えてくれりゃあよかったのになぁ……」

 食器を棚に戻しながら、ルードは悪態をついた。

「でもねぇ……『わたし達にはまだ話せない』って〈帳〉さんが言ってたし……」

「そうか」

 それだけ言ってルードは厨房を出ていこうとしていた。気付いたライカはルードの裾をむんずとつかんで制止する。

「ちょっと、どこに行くのよ?」

「え……ああ……」

 自分の行動を瞬時に止められたルードは、ばつが悪そうにライカを見た。

「だめよ、邪魔しちゃあ。わたし達には関係ないでしょう?」

「いや、邪魔はしないさ。勝手に聞くだけだから」

「……盗み聞き? ……たちが悪いわ、やめておきなさいよ」

 ライカは幾分冷たい視線をルードに投げかけた。ルードは少し躊躇したが、顔を少ししかめ、口を開いた。

「なんかさ、“謎”のにおいがするんだよ」

「何よ、それ?」

 ライカは、ルードの裾から手を離した。

「あれだけ、フェル・アルムの真実について色々と教えてくれた〈帳〉さんがさ、この期に及んで俺達に内緒にしておくことがあるなんて……きっと何かがあるに決まってる」

「そんなに大げさなことかしらねぇ。他愛のないことかもしれないわよ?」

「そんなことはない! ……多分」

「それに、いつか〈帳〉さんかハーンが説明してくれるでしょう? 『今はまだ話せない』ってことは」

「いや、俺の好奇心はたった今知りたがってるんだ。だから……行って来る! 悪いな!」

「あ……。……もう!」

 ライカの悪態を背中で聞きながら、ルードはそそくさと食堂から出ていった。

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