表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フェル・アルム刻記  作者: 大気杜弥
第一部 “遠雷”
16/111

第三章 予期せぬ旅立ち (一)

一.


 それから二日が過ぎた。

 帰ってきた初日、ルードとライカは旅慣れていないためか、熱を出して床に伏した。一つの不安からの解放、それとともに生じた新たな不安がそうさせたのかもしれない。まる一日休養した彼らも翌日には回復し、ルードはケルンの家へ遊びに行くのだった。

 ライカはナッシュの家で世話になっている。彼女の銀髪は相当に目立つようで、その一風変わった風貌と、『しゃべれない』ためか、ナッシュの人達もどう扱っていいのか困っているようだ。ルードの見たところ、暖かく接してはいるのだが、双方ともにぎくしゃくしているのは仕方のないところか。


「ともかく早く帰ってくるからさ」

 ライカが使っている部屋の中、出掛けにルードはライカに言った。

「迷惑かけちゃった人達のところにはお詫びに行かなくちゃいけないだろうし」

「うん、分かったわ」とライカ。

「ルードの家の人達もよくしてくれるんだけど、肝心の言葉が分からないと困るのよねぇ……」

「二刻しないうちには戻る、と思うから」ルードが言う。

「二こく?」ライカは驚いた様子だ。

「ああ、分かんないかな。〈刻〉ってのは時間を表すものなんだけども――」

「ううん、わたし達の世界でも〈刻〉っていう単位を使ってるの。……どういうことなのかしら? ここってわたしのいたところとそう違和感が無いのよねえ。……ひょっとしたら、わたし達の知らないところで交流があったのかもね」

 最後はにっこり笑って返す。ルードに厚い信頼を置いているのがひしひしと伝わってくる、そんな表情。自分もそれに応えていかなくてはならない。

「そういえばさ、ハーンはどこに行ったんだろうか?」

「それが分からないのよ。昨日は確かにいたじゃない。看病までしてくれてたし。でも今日はどこかに行ってるみたい」

 ライカも困った顔をする。

「……まさか、俺達をさしおいて出かけちまったんじゃあ?」

「それは大丈夫だと思うけど……荷物はあるのよ」

「……ってことは、どこかに日銭を稼ぎに行ったのかな」

 ルードは落ち着きを取り戻し、ライカに挨拶をすると、家を後にした。


 昼前。普段は羊達の姿がそこかしこで見られるものだが、今日に限ってはあまり見かけない。小屋に閉じこもっているのだろうか。

 空気がどことなく湿っている。ルードは西の空を見た。

「こいつは降りそうかな……」

 と、一言残して、彼は歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ