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フェル・アルム刻記  作者: 大気杜弥
第一部 “遠雷”
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第二章 帰路にて (一)

一.


 翌日、ルードは扉をノックする音で目を覚ました。

[ルード君ー。食事だよー。来なさーい!]

 明朗に、まるで歌うような感じで扉の向こうから声をかけたのは、ハーン。

[……んぁ……分かったぁ……]

 眠そうな声を発したルードは上半身を起こし、目をこする。

 天気は昨日と同様、すがすがしく晴れ渡っているようだ。カーテンを開けたルードは片方の窓を開け、朝の空気を身に浴びると背伸びして起き上がった。

[ふぁあ……。いい天気……]

 ルードは眠そうにぼりぼりと頭を掻いた後、寝間着から着替えて部屋から出た。

 小さな食堂ではハーンがすでに席についてお茶を口に運んでいた。ルードはハーンに朝の挨拶をし、彼の正面に座った。

[おはよう。よく眠れたかい?]

 お茶を運んできたナスタデン婦人が、にこっと笑ってルードに聞いてくる。

[ああ、おかげさんで……]

 あくびを一つ、ルードは答えた。

[そりゃあよかった。あんた達は今日出るんだろ?]

[そう、スティン高原にね]

 癖のある金髪を掻き揚げハーンがそれに答える。

[気を付けなさいよ!]

 夫人は元気にそう言うと、食事を取りに厨房へ戻った。同時に、廊下からライカが出てきて彼らに会釈した。

[あ、ライカ。おはよう]

 ルードが声をかける。ライカはにこりと笑うとルードの隣に座った。


 三人が〈緑の浜〉を後にしたのは、朝食がすんで半刻ほど経ったあとだった。

 二頭の馬のうち、一頭にはルードとライカが乗り、もう一頭にはハーンが騎乗し、荷物を鞍の両側に提げた。ハーンの身なりは、まるで当分は冒険を続けるようにもみえる。旅に必要なさまざまな装備のほか、愛用していると思われる長剣が一振り、短剣が一本、そのほか盾などもぶら下げている。もちろんタールも忘れてはいなかったが。

[クロンの宿りから君の村までは普通に行くと……そう、大体三日ってところだね]

 ハーンが隣の馬に乗っているルードに話しかけた。

[んー、やっぱりそれくらいはかかっちまうかぁ]

 ルードは渋い顔を見せる。

[寝る間も惜しんで無茶苦茶に馬を駆れば一日で着けなくもないんだけどさ、それはきついと思ってね!]

[でも、なるたけ早く着きたいんだよな……]

 と、ルードが言う。

[そうだねえ。じゃあ、一日に動く時間を長くしよう。そうすると二日目の昼過ぎくらいかな……ちょっと強行だけど……大丈夫かなあ]

[うん、それでいこう]ルードが強く推す。

[よおし! なら、今日は日が暮れるまで移動だ!]


 午後に入って、それまで平坦だった街道の路面は徐々に荒れ、石が目立つようになってきた。眼前にそびえるのはスティンの山々だ。その向こうに、ルードの故郷がある。

 ルード達は山に入る前に食事を取るため半刻ほど休息を取り、スティンの山を登っていった。道は徐々にその傾斜を強くしていく。街道は山腹をくり貫く感じで通っており、山越えという言葉から連想されるようなきついものではないにせよ、いかんせん山道の距離が長いのだ。

 ハーンは折りあるごとに、ルードとライカを元気づけるように音楽を奏でた。ルードも『疲れた』というような態度をおくびにも出さず、夕方まで馬の手綱を頑張って握り締めていた。

 日が暮れようとする頃に、ルード達は開けた平坦な場所を見つけ、そこにテントを張った。そうして彼らの旅の一日目は暮れていったのだ。何事も無く、平穏のうちに。

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