特別企画1 エヴァ様のお礼企画!
お気に入り登録数1500件を記念しまして、特別企画・ちょっと未来のお話を書きました!!
楽しんで頂けるといいな!
最初に気がついたのは、執務室に甘い香りが漂ってきた時だった。
「…誰だ…こんな時間に…」
思ったより低い声だったようで、一緒にいた文官たちが「っひ」という声をあげた。
まだ、9時だ。いくらなんでもお茶の時間には早い。
手を動かしつつ、文官たちをじろりと睨むと、皆が目をそらす。
…一体なんだというのだ。
「おい、言いたいことがあるなら言え。」
「ひい!す、すみません。すみません!エヴァ様がお茶菓子をくれたので、あとで食べようと思って持ってきてしまいましたぁ!」
…。エヴァがお茶菓子をくれた…だと?
俺の周りの気温がすうっと下がっていく。
…なぜ、こいつらエヴァから菓子をもらうんだ…?
「どういうことだ…」
「すみません!私もですぅ」
「俺も…いや、私もです!すみません!」
「ううう。わ、私も…です!」
…。なんだと?
「なぜ、お前達がエヴァから菓子を貰う…」
「ひぃ!ああ、あの!朝からエヴァ様と侍女たちが『日々のお礼です』といって皆に配っているんです!」
「な、なんでも、この城にきてから世話になりっぱなしだからと…昨夜からずっと作ってくださったようで…」
ぴく。
「あ、朝配ってまわって、時間があればエヴァ様自ら入れてくれたお茶も飲めるということで…」
ぴくぴく。
「で、ですから…休憩時間にエヴァ様の薬師堂に皆で行こうかと…菓子をそのまま持ってきてしまいました!」
「出せ。」
「「「は?」」」
「出せ。と言っている。エヴァからもらったと言う菓子を出せ。」
「そ、そんなぁ…殿下…」
「た、食べるの楽しみにしてたんです…」
「お、お茶を貰いに行ったりしないんで…これだけは…」
「出せ。」
そうして出させた菓子は、明らかに手作りだった。
クッキーにパウンドケーキ。
…なぜだ。なぜ俺が知らん。
一番にお礼をするなら俺にだろう?エヴァ。というか、俺だけでいいだろう。
文官たちから取り上げた菓子を平らげた後、騎士団のところへ向かった。
…が、どこもかしこもニヤニヤしながら、甘い匂いを漂わせている。
…ここもか!
少々急ぎ足になって、アルの執務室である騎士団の塔へ向かいドアを開けると、そこには…。
美味しそうにケーキを貪る筋肉連中がいた。
「・・・。」
「うま!さっすがエヴァ様だぜ!超うまい!おかわりくれねーかな…」
「うむ。さすがだ。いくらでもいけそうだな。」
「っかー!姫さん、料理もいけるのかよ!嫁に欲しいぜ!」
「確かに。美味でした。ますますファンが増えそうですね…ってあれ。兄上?」
「…アル。」
「はい?」
「食べたのか。」
「はい?ああ。はい。頂きました。あ、このお茶もエヴァさんが先ほど入れに来てくれたんですよ」
ぴくぴくぴく。
「…エヴァが?」
「ええ。今日はなんでも『ありがとう』を伝える日だとかで。あれ?兄上会いませんでした?」
「…。」
無言で睨むと、アルと騎士団長らは目をそらした。
「エヴァさん…まさかの兄上に渡してない…?」
「あっちゃ〜。姫さん、なにやってんだか…睨んでる、睨んでるよ、殿下」
「ひえ〜こっわ!なんか寒いっス」
「やべ…俺嫁に欲しいとか言っちゃったし…」
「「「終わったな」」」
コソコソとやっている奴らを無視し、残っていた茶を奪い取り飲みきった後、俺はにこやかに告げた。
「アル。それに赤・黒・青の騎士団長。」
「「「はっ」」」
「…騎士団用に考えた特訓があるんだ。是非それをこなして我が騎士団はこんなにも素晴らしいという成果をだしてほしい。訓練内容は、コレだ。嫌とは言わせん。やれ。」
ぽいっと投げた紙を拾い上げた筋肉男たちは、ざっと顔を青くした。
「…普通死ぬだろ…」
「ま、マジっすか!」
「お、俺腹痛くなってきたかも・・・」
「あ、兄上…大人気ない…いや、兄上。きっとエヴァさんは兄上には特別なものを用意しているんですよ」
「そ、そうっす!サプライズってやつですよ!」
「ほ、ほら。はやく行ってあげないと!」
「エヴァ様待ってますよ!!」
ふん。エヴァの手作り…俺より先に貰いやがって…
だが、エヴァが待っているなら、行ってやらねばならん。
俺は、さっさと筋肉どもの塔から薬草園にあるエヴァの職場、薬師堂へ向かった。
だが…。
「な、なんだこれは…。」
薬師堂へ続く長い長い、長すぎる列。
皆、わくわくと、にこにこと、菓子をその手に持ち並んでいる。
…これ全部、エヴァのお茶待ちか…?
ふと薬師堂を見ると、数人の侍女たちがまるでカフェの店員のように動いている。
侍女たちだけではない。エヴァの弟子として勉強している薬師たちもせっせと茶を運んでいる。
…まさか、俺もこの列に並ぶのか…?
呆然とその列を見ていると、エヴァと仲の良い王妃付きの侍女が俺に気がついた。
確か、イーリミアにウェンリー、エミリアだったか。
「で、殿下!」
「ディセル殿下。なんでここに!?」
「…すれ違い…」
…すれ違い?
「エヴァはあの中か?」
「い、いえ。エヴァ様はあの、殿下の執務室に…」
なに?
「…もうすぐ、ひと段落つく時間だからと…朝、文官の方々から聞いていましたから…」
なんだと…
「アルシェイ殿下の所に寄った後に、ディセル殿下の所に行った筈です」
…っち。完全なる行き違いだ。
「すまん。助かった。」
そう一言いい、俺は自分の執務室へ戻った。
後ろで、『きゃーーーー』という声が聞こえたが、無視だ。
こんなことなら、動かずに居ればよかった。
俺は、なるべく走らないよう、更に急ぎ足で執務室へ向かった。
ああ、甘い香りが俺の執務室から漂ってくる。
俺のためのエヴァ手作りの菓子…!
胸が躍るのを押さえ、ドアを開くと…
「あ、レイ君…じゃなかった。レイ様。クリームついてますよ。」
「むぐ。ありがとう!エヴァ!めちゃくちゃ美味しいよ!」
「うふふ。いえいえ。こちらこそ、喜んで頂いて嬉しいです。あ、レイ様には特別にコレも上げちゃいます!」
「なになに?」
「エヴァ特製、かぼちゃのモンブラン!」
「モンブラン?」
「そうです。初めて作ったんですけど、なかなか上手くできたので…」
「え!エヴァの初めて?」
「ええ。」
「貰う貰う!ありがとう!エヴァ!ぱく!ン〜〜〜〜!うまぁ!エヴァ大好き!」
「私も大好きですよ〜。」
なんて甘甘な会話が、俺の執務室のソファで、繰り広げられていた。
・・・。
・・・・・・・。
だ、大好きだと?
エヴァの初めてだと???
「…そこまでにしてあげといたらどうですの?レイランド殿下にエヴァ様。」
「へ?」
「え?なにが?」
「…(哀れですわ。ディセル殿下…)さっきからディセル殿下が見てますわよ?」
「「へ?」」
真っ青になっている俺にやっと気付いた二人は、俺を見てにっこり笑った。
・・・相変わらずセットでいると、めちゃくちゃ可愛いな。エヴァとレイ。
「兄上!おかえりなさい!どこに行ってたの?」
「…ディセルに…殿下!お待ちしてました!」
お待ちしておりましただと?
…待っていたのは俺の方だ…
俺は、エヴァの方へ一歩踏み出した。
「…。」
「あ、あれ?殿下?なんか怒ってます?」
「…。」
無言で、エヴァを見つめていると、レイとアリアスまで寄ってきた。
「え?本当?なんで兄上…ってアリアス!なにすんだよ…」
「いいから、行きますわよ!」
「え、ちょっと、まだお茶飲んでな…」
アリアスがレイをつれて出て行った後。
もう一歩、エヴァに近づくとエヴァも一歩後ろへ逃げた。
「…。なぜ逃げる。」
「へっ?」
「…。」
もう一歩、前へ。
もう一歩、後ろへ。
「…。」
イラッとした。
すると、エヴァの顔を引きつり、より逃げ腰になる。
…なぜ逃げる!
そう思って、ぐぐっと距離を近づけるとエヴァは…走って逃げ去った。
…。
は?
…。
このやろう。
俺は走った。
「エヴァ!待て!」
「にぎゃああああああ!」
「なんで逃げる!」
「な、なんでって、(怖い顔で)追ってくるからああああ」
「追ってない!近づいただけだ!」
「追ってきてるってばああああああ!」
「逃げるから、追うはめになっただけだ!」
まさか、俺がこの城で人目も気にせず走る羽目になるとは…
もうすぐエヴァを捕まえるっというところで逃げ込まれた場所は…
「エヴァ!もう、逃げられないぞ。観念しろ」
「はっはぁ!はぁ!も、もう逃げないですぅ…」
「なんだ。観念したのか」
「違いますぅ!これ!ディセル兄の為に用意したの!」
そう言って、エヴァが指したテーブルにはケーキにクッキーにティーセット、それにパイ?
そう、エヴァが逃げた部屋は…俺の私室だった。
「…。」
「びっくりしました?」
「…した。」
「もう!本当は執務室でレイ君も一緒にお茶して、更にのサプライズのはずだったのに…」
「俺の…為にか?」
「…そうですぅ。」
「これは?」
「チョコクッキーにチョコパウンドケーキ。皆に配ってたのと一緒ですけど。それと、最近忙しいみたいだから、エヴァ特製薬草パイ…あ、薬草って言っても苦くないですよ!ちゃんと、何度も試行錯誤して、アーちゃんからもOKもらって
…あ、お茶も、オートムギ・ジャーマンカモミール・ネトルのブレンドに更にリコリスとローズヒップも足して、栄養たっぷり疲れた体を癒すハーブティにしたんですよ!」
「…。」
「そ、それにさっきの執務室では、初披露のモンブランもあったのに…あと、あと…」
「…もういい。」
真っ赤になって説明するエヴァをゆっくりと包み込むように抱き込んだ。
壊れないように。優しく。
「ディ…」
「ありがとう。エヴァ。嬉しい。」
「ッ・・・」
ああ、耳まで赤い。
…美味そうだな。
ぱくりと、赤い耳を食んだ。
「にぎゃ!ちょ、ちょちょちょ!ちょっとディセル兄!食べるのは私じゃなくて…!」
「わかってる。でも、美味しそうだった…」
「にゃんですとー!」
暴れるエヴァを抑えこんで、ソファに座る。
その後、もちろん抱きかかえたまま「あーん」やらなにやらやって貰ったのだった。
プルプル震えるエヴァはやはり可愛かった。
…今後、他の男にはむやみやたらに作らない事も約束させたのだった。
〜その事件の後の侍女ズの会話〜
「…見た?」
「見た見た。」
「めちゃくちゃ妬いてたよね!ディセル殿下」
「…妬いてたどころじゃなかった…」
「だよね〜!殿下が爆走してたのも初めて見たし!」
「そうね。それに、騎士団にも無茶な訓練を提案したらしいわ。・・・嫉妬・・・というか八つ当たりね」
「それだけじゃなくてよ!皆様!」
「「「え?」」」
「うふふふふ。レイランド殿下とエヴァ様のラブラブに真っ青になっていましたわ!あの殿下が!」
「え?レイランド殿下とラブラブ?」
「そうですわ。まぁ、初めて作ったケーキ食べて、『エヴァ大好き』『私も大好きです』って言っていただけですけれど…」
「…て、天然って怖…そこで『大好き』って言っちゃう?」
「…エヴァ様の初めてに…大好き…じゃあ、ディセル殿下も真っ青だね…」
「確かに…」
「ま、でも?そのあと楽しい鬼ごっこの末、ディセル殿下のためだけのお茶会でニヤニヤしてましたけど?」
「あ、やっぱりニヤニヤしてた?」
「してましたわぁ。そりゃあもう。「あーん」とかしてもらってましたわよ」
「…殿下って…」
「エヴァ様のこととなると激変態よね」
「…殿下…変態?」
「まあ、そうですわね。わたくしたちにとってはそのギャップが面白いんですけれど…ともかく、エヴァ様お礼企画・ディセル殿下嫉妬の巻!めでたく成功ですわね!」
「いやー。なかなかうまく言ったよね。」
「ええ。またディセル殿下の色んな顔が見れたものね」
「…次、どうする?」
「とりあえず、王妃様に報告ですわね!」
「ええ」「うん」「はい!」
完
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