第六章・ピアノ演奏
三人は、詩織の家についた。とはいっても、坂井家は、デパートアリアールのすぐ隣だ。
「おじゃましまぁす」
沙也と美桜は、声をそろえて言った。
詩織につれられ、詩織の部屋へとついた美桜は、思わず声をあげた。
「ピアノだ!」
そう、詩織の部屋に入ってすぐ右には、大きなグランドピアノが置いてあったのだ。
ピアノの隣には洋服ダンス、入り口のドアから左はベッド、小さなテーブル、勉強机があり、たたみ十五畳分はありそうな広さだ。
「どうぞ、座ってください」
沙也は、詩織から差し出されたクッションを受け取ると、ていねいに座った。
美桜も、体育座りをすると、詩織に向かって言った。
「ピアノ、ひいてもらえる?」
詩織はにっこり笑ってうなずくと、ピアノの前に立ち、深呼吸を一回した。そしていすに座り、ピアノのふたをあけて、鍵盤に手をのせた。
ルリルリルリルリ ラリラリラリラリ
八分音符の低い音が、澄みきったメロディーを奏で始めた。
やがて曲は、滑らかなメロディ-と和音に変わった。鍵盤の上では、詩織の細い指がおどっている。詩織はとても楽しそうだ。
ルリルリラリラリ ラッタッタ!
曲の最後をスタッカートでしめた後、詩織は二人のほうを向いて、深々とおじぎをした。
沙也はパチパチと拍手をして言った。
「すごいすごーい!こんな難しい曲、よくひけるね」
美桜も、感心した様子で言った。
「どうやったら、そんな演奏ができるのかなー」
すると、詩織は軽く首を横にふって、言った。
「美桜ちゃんにも、きっとできます。ピアノは、心でひくものだから。音楽を愛する心を忘れなければ、あとは楽器が形に表してくれるから」
そう言う詩織の目は、詩織の心をうつしだしたかのように、きらきらと輝いていた。
美桜は、沙也にちらりと目をやった。
美桜の感動の気持ちとは裏腹に、沙也は冷静に詩織を見つめている。
美桜は沙也に声をかけた。
「沙也姉ちゃん、顔が真剣すぎるよっ」
沙也は、我に返ったように、まばたきをした。そして、にっこりと笑った。
「詩織ちゃん、すばらしい演奏をありがとう。せっかくよんでもらったのに悪いけど、きょうはもう帰るわ」
そして沙也は、じっと美桜を見た。
美桜は、その視線に「帰るよ」という言葉を感じて、しかたなくうなずいた。




