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秋雨  作者: アレックス
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6-3 A社との交渉 其の3

 翌日のホテルのロビーでの集合時間は朝8時半だった。林はその10分前にロビーに行き、伊藤と鈴木がすでにいた。集合時間ぎりぎりになって、李が眠そうに来て、あくびしながらみんなと挨拶した。

 翌日のホテルのロビーでの集合時間は朝8時半だった。林はその10分前にロビーに行き、伊藤と鈴木がすでにいた。集合時間ぎりぎりになって、李が眠そうに来て、あくびしながらみんなと挨拶した。A社の迎えのマイクロバスがすでに入り口に待っていた。結局、8時45分になって、佐野があくびしながらやっと来られた。佐野はいつも体力を自慢していて、体育系の性格もあって、部下の遅刻に非常にうるさかった。上司のことなので、林は佐野の遅刻にあまり深く考えなかった。

 一同がA社に行き、会議室に夕べの副市長と財務局の局長がすでにいて、昨日の妖艶な女性もいた。お互いに簡単な挨拶をし、記念写真を撮り、そのあと、副市長と局長は帰った。

 今回の出張の目的は工場建設予定地買収の進展と中国国内販売チャンネルを確認し、さらに、投資の総額と合併比率の大枠を再確認することだった。

 「工場建設予定地の買収は進んでいたでしょうか」佐野が切り出した。

 李の通訳を経由して、王は中国語で答えた。

 「昨日、副市長も説明したように、工場建設予定地の買収はすでに省政府の事前承認を得ており、さらに、張家港市の市役所の事前承認を得なければいけないが、必ず得られると思います。」

 「取るまでどのぐらいかかるでしょうか」

 「3ヶ月あれば、つまり、7月中旬までは得られる自信があります。副市長がオーケーを言った以上、問題はないと思います。市の方もこのプロジェクトに大きな関心を寄せています」

 「前回は5月末まで、許可を得られると言われたが、なぜ、七月中旬に遅れるようになったでしょうか」

 「省の承認が思った以上時間がかかったから、それだけです。着工日は来年の4月にしたいと前回伊藤課長が仰っていたから、それまでおそらく問題ないでしょう」

 「その後、他の許可もあるので、時間大丈夫でしょうか」

 「省の事前許可がもうすでにおりたので、今回話した内容を含めて市に仮申請を出す予定です」

 「貴社を合弁相手にするには、役員会の最終判断が仰がないといけないが、私達はA社を押したいと考えているので、ぜひ事前承認をいただきたい。それがなければ役員会に持って行くことすらできません」

 「正式承認は両社の契約をなければ得られないが、その事前の承認はお任せください。全力で尽くします」

 「あとで、用地を見ていただきたいですが、見られるでしょうか」

 「もちろん、このすぐそばなので、いつでも見られます」

 「特に排水処理に我が社の最新技術を導入して水をリサイクルするつもりなので、地質のデータを出していただけないでしょうか」

 「前回のとき、伊藤課長からご要望を出されたので、すでに用意しております」

 秘書は分厚い書類をみんなに配った。

 「英語版と中国版しかないので、大丈夫でしょうか」

 「英語版があればなんとかなると思います」伊藤が言った。

 「販売のチャンネルはどう考えているでしょうか」話題を変えて販売について佐野が質問した。

 「前回も言いましたが、現段階では我が社も苦戦しています」A社の販売担当副社長が言った。

 「日本では、日本医師会という組織があるが、そこを通して現場の医者に使ってもらって効果があれば売上を伸ばすことはできます。中国ではそういった業界団体はないでしょうか」

 「日本医師会というような団体はないです。中国の病院は基本的に民間の会社と同じく、利益を出さないといけません。販売する商品が処方薬なので、前回提案された大々的に広告を打つよりも、販売のリベートを増やした方がいいではないでしょうか。まず、江蘇省内でリベート率を上げてやってみて、たとえば最初のキャンペーンの場合、売上の3割をリベートとして病院に支払うと、非常に魅力的になると思います」

 「3割、もの凄い数字ね」佐野がちょっとビックリした。

 「中国ではちょっと高いけど、驚くほどの数字ではないです」

 「リベートは賄賂じゃないですか」

 「もちろん最初からリベートでいうと、よくないが、発売のキャンペーンの奨励金として、個人ではなく、病院に支払えばそれほど問題はないです」

 「なるほど」

 「さらに、現場の営業にも奨励金を出さないと、なかなか売上が伸びないです。中国ではそれは当たり前になってしまっています」

 「それは日本でもあります。ほかには何か方法はないでしょうか。たとえば既存の薬品卸売業者との接触はしてないですか」

 「いくつかの業者とは接触したが、商品ができる前では、ほとんど相手してくれないです」

 その後も販売チャンネルに関して、昼の1時まで話し合ったが、それ以上の進展はなかった。

 「もう昼の1時なので、そろそろお昼はいかがですか。午後からもゆっくり話せますから」王総経理がみんなに食事を促した。

 お昼でもビールを出されたが、さすがに午後もあるので、S社の5人はみんな飲んでなかった。昼のランチが終わると、マイクロバスを乗って工場建設予定地にいった。

 バスの中に、林は伊藤に話しをかけた。

 「課長、事前の承認が遅れそう」

 「僕もそう思ってる」伊藤が返事した。

 「市の許可が7月半ばとすれば、衛生許可など他の手続きを考えると、恐らく来年の3月まで手続きがかかりそうですね」

 「僕も逆算した。大体同じ計算になる。でも、多少遅れるけど、取れないことはなさそうな感じはするな」

 「副市長が出た以上、市の役人は下手なことはしないでしょう」

 「後で、佐野部長ともう一度話してみよ」

 「分かりました」林はゆっくりと答えた。


なお、この小説は著者自身のホームページにも載せています。是非、ご覧ください。            http://alexlin.web.fc2.com/

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