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秋雨  作者: アレックス
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5-3 お見合い 其の3

 嵐亭に到着し、まだ時間が早いか、ほとんど客がいなかった。

 二人は窓際のテーブルに座った。

 「お酒を飲みませんか」林が夏美に聞いた。

 「生ビールなら少々」

 「じゃ、僕も生ビールにします」

 コース料理と生ビールを注文して二人が乾杯した。

 「何の為に乾杯しましょうか」夏美が林に聞いた。

 「どうしましょう」

 「林さんのお仕事が順調でありますように」

 「いや、美人の埜々村さんのために」

 二人がはじめて笑った。

 しばらく食べた後、林が夏美に聞いた。

 「この店の料理が美味しいですね」

 「そうですか。パパとママと一緒によくここに食事に来ます。林さんが美味しいと言ってくれるって本当に嬉しいです」

 「林さんは日本の女性に対してどういうイメージですか」

 「それほど知らないけど、人によって大きく違うじゃないですか。よく新聞とかで日本の女性に対するコメントがあるけど、いい意味でも悪い意味でもかけ離れています。なかなかこれだ、というイメージはないです」

 「先、息子のお嫁さんが日本人であっても反対されないとおっしゃってたでしょう。違和感はないでしょうか」

 「違和感がないのはうそでしょう。まじめに聞いたことはないから詳しいことはわからないけど、うちの親は基本的に自由放任なので、反対されることはないとは思います」

 夏美が一安心して、軽く一息ついた。夏美がことに関してかなり神経質だと林は感じた。

 「パパは元新聞記者で、私は子供の時、結構色々な外国人が実家に来られていました。だから、外国人に対してそれほど抵抗感がなかったです」

 「お父さんはどこにお勤めですか」

 「京都のテレビ局の記者だったが、今は定年退職しました」

 「小泉政権になってからは、日中関係がぎくしゃくになってて、どうしようもなくなってきましたね」

 「林さんもきっと大変だったでしょう。林さんはなにも悪いこともしてないのに、つらい目に遭うって本当に理不尽とパパが言ってました」

 「その通り、僕何もできない。全く何もできないです。会社の中では僕のことを知ってるから、言われることはないけど。たまに日本に来なければと思うときもあります。もし日本に来なければ多分今上海で普通の中国人と同じく日本を批判していたでしょう。日本で生活していて、日本のことを理解すると、言葉では表せないけど、かなり微妙な気持ちになってしまってます」

 酒を飲んだせいか、それとも夏美が林の一番デリケートの所を理解してくれたことか、夏美に親近感を覚えるようになった。先の緊張した雰囲気とは裏腹に、二人の話が自然に弾むようになった。

 夏美がもともと酒に弱いが、林と話すと、酒がいつもより早いペースで進んでいた。顔と首も赤くなり、声も先より大きくなって、よく笑うようになった。

 「林さんは頭もよく、まじめな性格と中村さんから聞きましたけど」

 「何をもって頭がいいか、まじめかは僕自分も知りません。恥ずかしくならないようには頑張ってるだけ。夏美さんの性格は」

 「私ね、こう見えてもかなりの間抜けですよ。よく言われてます」

 「そんなことは全然ないですよ。長身の美人なので、きっともてるでしょうね」

 「そんなことは全くありませんよ。」

 林は夏美の全否定にかなりびっくりした。

 「なぜですか」

 「今の会社は中小企業なので、私みたいお嬢さんっぽい女の子は基本的に敬遠されてしまうのです」夏美が嘆いていた。

 「そうか、ごめんね。勝手に想像して」夏美のストレートに言われてなすすべが知らなかった。

 「こちらこそもうしわけないです。愚痴を言ってしまって」夏美も自分が言っちゃったことに後悔していた。

 「人生何かあるか分かりませんよ。運命の赤い糸が必ず誰かとつながっているから」林が第三者のように無意味に夏美を慰めた。

 「そうですね。期待しています」夏美が不思議に笑った。

 話が盛り上がった二人の間では和やかな時間を流れていた。気がつけば、すでに店が入ってから3時間以上経ち、9時前になった。

 「そろそろ帰らないと」林が夏美に言った。

 「そうね。帰りましょう」酒に酔ったか、それとも雰囲気に酔ったか、とろけた表情だった。

 「もしよければ、林さんの携帯のアドレスを教えてもらいませんか」

 いきなり聞かれた林は一瞬戸惑ったが、すぐに「はい」と答えた。

 二人がメルアドと携帯番号を交換した後、店を後にした。


 外はかなり冷たかった。酒を飲んだせいで、二人とも顔が真っ赤になっていた。冷たい風に吹かれて余計に寒く感じていた。

 「かなり冷え込んでいましたね。寒いでしょうか」林は夏美に気を配った。

 「大丈夫よ。JRに乗ればすぐですよ。ママは迎えに来てくれますから」

 「そうね。一緒にJRを乗りましょう」


 林は山科駅で夏美と別れた。運命の赤い糸が二人を結ぼうとしているということが林はその時知る余地もなかった。



 なお、この小説は著者自身のホームページにも載せています。是非、ご覧ください。http://alexlin.web.fc2.com/

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