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秋雨  作者: アレックス
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4-2 旅行の出来事

夏の旅行の出来事が二人の運命を大きく変えることになった。

 季節は4月中旬とはいえ、肌寒い風が二人を包んでいた。落ちた桜の花びらが行く人々に踏まれ、グチャグチャで黒ずみ汚れ散乱し、見るに耐えられない姿になり、空中には何枚かの花びらが寂しげに舞っていた。ちょっと寒く感じたか、林は上着のファスナーを首まで閉めた。夜の8時以降とはいえ、三条通はまだ沢山の車が通っていて、過ぎ去る車がすべてを持ち去るように、単調なエンジン音とともに、二人の横を通っていく。

放心状態になってしまった林を見て、奈々子の内心は穏やかではなかった。強がりを言ってもいい、怒鳴られてもいい、その苦しみを分け合いたかった。奈々子はそっと手を出し、林の手をつないだ。林は決して逃げようとしなかった。二人は黙ったまま、外環三条交差点についた。


 「上海の旅行は予約したの?」林はようやく一言を発した。

 「仮予約しただけ」奈々子は小さい声で答えた。

 「キャンセルしてもいいの」

 「分かった。明日キャンセルします」

 奈々子は手に入れた宝物が一瞬にして失ってしまったような心境だった。でも、2週間後に林の親と会うのもさすが難しいと思った。頭が極度に混乱したが、奈々子との結婚話がもう一度考え直さないといけないと林は思った。

 林のアパートについた。二人が沈黙したまま、部屋に入り、電気をつけた。

 奈々子が林の胸に頭を寄せ、林を抱きしめた。

 「今日、本当にごめん」

 林は無反応だった。

 「君を抱く気力がないよ。一人にさせてくれないか」林は無力に言った。

 「ミンのそばいさせて」奈々子が懇願した。

 「私達がこれからどうなるの」林は奈々子と付き合ってから、はじめて「分かれる」という言葉が脳によぎった。

 「ミンはどうしたい」

 「僕とお母さん、ナナが二人の中に僕を選ぶことができるの」

 「分かれるのが絶対いや」奈々子の心底からそう叫んでいた。


 二人の間では「結婚」という単語が禁句になった。奈々子の親に反対された二人の間にひびが入ったとはいえ、林も奈々子も相手を愛していた。解決策が分からない二人はただ時間を待つしかなかった。


 ゴールデンウィークの上海への旅行はもちろんキャンセルされた。その代わりに天橋立に遊びにいくことになった。帰りの途中、二人が大喧嘩した。二人ともその理由を知っていたが、最後に林が軽く謝って事態を収拾した。


 5月になってから、二人の会う回数が明らかに減った。

 S社は中国の医薬品市場を開拓するため、薬品の現地生産に踏み切り、その第一歩として現地の合弁相手を探さないといけない。この仕事は林と同じ営業4課の鈴木貴郁が担当するようになった。鈴木は理想に燃えるタイプで、入社は林より先だが、年は林より若い。そのため、中国への出張が多くなり、仕事もみるみるうちに増えてきた。ITバブルの崩壊にネット証券の急激成長に晒され、証券業界全体へ吸収合併の波が押し寄せてきた。奈々子のN証券ももちろんその波に逃れることができない。経営基盤を強化するために、N証券は翌年4月にS証券との対等合併が決まった。奈々子も通常の常務と合併の準備に追われる毎日で、土曜日も遅くまで残業するのもしばしばだった。普段毎日電話やとメールでやり取りしていた二人は、二人の間に冷却期間が必要ではないかを理解しており、それを落ち着いて受け入れていた。


 夏休みに二人が長い休暇を取り、北海道に出かけた。普段あまり会ってない分、北海道の旅行はかなり楽しい旅になった。しかし、途中の一つの出来事が二人の運命を大きく変えた。

 前日まで仕事だった二人はいつもより旅行に入念な準備することができなかった。いつも林の用意する避妊用具が買い忘れた。予約したペンションにつくと、買い忘れたことを思い出したが、山の中にあったペンションの周りには買える店が一つもなかった。

 「ごめん、重要なモノを忘れてごめん。今日我慢しようか」林は冗談で言った。

 「そうね。我慢しよう。ナナ我慢するから、ミン邪魔しないでね」奈々子も冗談で返してきた。

 「明日、札幌に行くとき買おう。覚えといて」

 夜になると、添い寝した若い二人は到底我慢できるわけがない。

 「先週末生理が終わったから、大丈夫とは思うよ」奈々子が言った。

 「妊娠したらどうする」林が聞いた。

 「生むかな、ミンの子供なら生みたいね」

 「そうね、生もう。俺もパパになろう。今日頑張ろう。ママよろしく」林がずっと解けなかった問題にひらめいたような気分だった。

 「パパファイト」奈々子がとろけるような甘い言葉で言った。

 二人が愛し合った後、奈々子は軽く下処理して、林の胸の中に安らかに眠りについた。

 それが悪夢の幕開けだということは二人には知る由もなかった。

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