表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

サイレントはお好きですか?

掲載日:2026/07/30

前書き


この物語に、心優しい主人公は登場しません。


困っている人を助けることもなければ、世界を救う気もありません。


あるのは、お金への執着と、契約書への異常な信頼。


そして、世界を誰にも気付かれずに書き換える謎の力――「Silent」。


主人公リリアーナは、その力を世界平和のためではなく、自分の利益のためだけに使います。


周りが赤字でも知りません。


仕事は全部押し付けます。


契約書を読まなかった相手が悪いのです。


好感度?


そんなものは利益になりません。


もしあなたが、常識的な主人公や感動の成長物語をお求めでしたら、この作品はおすすめできません。


ですが、「ここまで性格の悪い主人公なら逆に見てみたい」と思ったあなたなら、きっと楽しめるはずです。


それでは――


『サイレントはお好きですか?』


どうぞ、世界一嫌われる悪役令嬢の物語をお楽しみください。

サイレントはお好きですか?


「婚約を破棄する!」


王太子の声が大広間に響いた。


貴族たちは息をのみ、令嬢たちはひそひそと囁き合う。


しかし、婚約者であるリリアーナ・フォン・クロイツは、紅茶を一口飲んだだけだった。


「そうですの。」


「……以上か?」


「はい。」


「引き止めないのか?」


「違約金は?」


場が静まり返る。


「え?」


「契約書第十八条ですわ。婚約を一方的に破棄する場合、金貨一万枚をお支払いいただくと記載されています。」


王太子は青ざめた。


「そんな契約……。」


「読みませんでしたの?」


「いや……。」


「では、あなたのお仕事ですわ。」


執事がそっと顔を伏せた。


また始まった。


リリアーナは誰よりも契約書を愛し、誰よりも他人へ責任を押し付ける悪役令嬢だった。


そして彼女には、誰にも知られていない秘密があった。


視線を少しだけ宙へ向ける。


透明な文字が浮かび上がる。


Silent


彼女だけが触れられる、世界を書き換える管理画面。


「違約金回収率……百パーセント。」


数字を書き換える。


王太子の財布から金貨が消え、リリアーナ家の金庫へ音もなく積み上がる。


誰も気付かない。


まさに、サイレント。


「ありがとうございます。」


「何がだ!」


「ご入金ですわ。」



翌朝。


「お嬢様!王国の財政が赤字です!」


「そうですの。」


「税収が足りません!」


「そうですの。」


「何かお力を!」


リリアーナは画面を開く。


Silent


王家 財政 赤字


リリアーナ家 利益 黒字


「閉じますわ。」


パタン。


「見なかったことにいたします。」


「助けてください!」


「わたくしの家は黒字ですので。」


「国が滅びます!」


「それは国のお仕事ですわ。」



数日後。


「お嬢様!この契約書をどうすれば!」


「読みましたの?」


「いえ!」


「では、あなたのお仕事ですわ。」


「ですが、お嬢様が『早く押してください』と……。」


「証拠は?」


「ありません……。」


「では、あなたのお仕事ですわ。」


執事は泣いた。



昼食。


「お嬢様、本日のステーキは五千ゴールドです。」


「高いですわね。」


Silentを開く。


ステーキ価格


5000G→300G


店の利益


+20%→-95%


「お待たせしました!」


「三百ゴールドです!」


店主は首をかしげる。


「……あれ?なんでこんな値段に?」


「知りませんわ。」


リリアーナは満面の笑みで会計を済ませた。



午後。


商人が宝石を持って現れる。


「世界に一つだけの宝石です!」


「原価は?」


「え?」


「原価率を聞いております。」


「そ、それは企業秘密で……。」


Silent。


値切り成功率


15%→100%


「では千ゴールドで。」


「そんな!」


「嫌でしたら結構ですわ。」


「うぅ……売ります……。」


「ありがとうございます。」


商人は赤字になった。


リリアーナは満足した。



夕方。


王宮から使者が駆け込んできた。


「お嬢様!魔王軍が国境へ!」


「そうですの。」


「国王陛下がお呼びです!」


「参加費は?」


「ありません!」


「交通費は?」


「出ません!」


「昼食は?」


「各自です!」


「欠席いたします。」


「国が滅びます!」


「それは国のお仕事ですわ。」



その夜。


使用人たちは山のような書類を抱えていた。


「終わりません……。」


「会議が三件……。」


「見積書が百二十件……。」


リリアーナはSilentを開く。


仕事量


リリアーナ 100件→0件


使用人 20件→120件


「完璧ですわ。」


「全然完璧じゃありません!」


「役割分担ですもの。」


「全部押し付けてるだけです!」


「その件は担当部署へ。」


「担当部署、お嬢様です!!」



月末。


会計報告の日。


王家。


赤字。


商人組合。


赤字。


騎士団。


赤字。


王都。


大赤字。


リリアーナ家。


黒字。


黒字。


また黒字。


「お嬢様……王国が滅びそうです……。」


「そうですの。」


「少しは助けようとは思わないのですか?」


リリアーナは静かに紅茶を飲み、微笑んだ。


「皆様。」


「契約書は読みましたの?」


誰も答えられなかった。


「自己責任ですわ。」


その瞬間、王都中から悲鳴が聞こえた。


商人が倒れ、貴族が逃げ、王太子は頭を抱え、国王は胃薬を飲んでいた。


リリアーナだけが、今日も優雅に帳簿を閉じる。


今月も黒字。


それだけが、彼女にとっての正義だった。


そして誰にも見えない画面に、今日も静かに文字が浮かぶ。


Silent


「世界の好感度 0%」


リリアーナは首をかしげる。


「好感度?」


「そんなもの、利益になりますの?」


画面を閉じる。


王国は今日も大混乱。


彼女だけは、いつも通りだった。

あとがき


最後までお読みいただき、ありがとうございました。


いかがでしたでしょうか。


普通の悪役令嬢なら、婚約破棄をきっかけに改心したり、世界を救ったり、幸せを目指したりします。


ですが、リリアーナは違います。


「利益になりますの?」


その一言で、すべてを片付けてしまう令嬢です。


周りが赤字でも気にしない。


仕事は全部「あなたのお仕事ですわ。」で押し付ける。


契約書を読まなかった相手には、「自己責任ですわ。」と言い切る。


そして、誰にも見えない『Silent』で今日も世界を書き換える。


そんな、救いようのない主人公を書いてみたら、思いのほか楽しんでいる自分がいました。


この作品は、悪役令嬢を応援する物語ではありません。


ツッコミながら笑っていただけたら、それが一番です。


もし次のお話があるなら、リリアーナはきっと反省することなく、新しい方法で利益を追い求めているでしょう。


「今月も黒字ですわ。」


それでは、また次のお話でお会いできましたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
次回があるなら、少しだけ手伝ってあげたら。ムチだけだと無くなってしまうから、アメも時々与えないと♪そうすれば、ずっと利益が出ますよ(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ