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それからセメレはしばらくの間を考えた。そうして考えた末に、ある方法を実行することにしたのである。
「最も貴重で、最も美しいものをくださった方と結婚します」
「………うん?」
「───と、今朝お父様に宣言してきました」
セメレは言った。ディアスの膝の上、向かい合うように腰を下ろしながらの言葉であった。
ディアスはそれにきょとんとした顔をした。セメレに顔を掴まれているので首を捻ることは出来ず、ただパチリと紫の目をまばたくばかりである。
「………なる、ほど?つまり、それで地上が騒がしかったのか」
「はい。私がとうとう結婚に前向きな姿勢を見せたものですから、お父様が随分と張り切ったみたいで」
「そうか……」
ふむ、とそこでディアスが考える仕草。
「永遠の杯と宝珠の枝ならどちらが良い?」
「もしかして原初神話に出てくる神具のこと言ってます?」
「足りなければイルミスを用意する」
「もしかして美を司る神様のこと言ってます……??」
「甥だ。必要なら縛るか首を切って連れてくる。あれも神ゆえ、数百年程度なら首のままでも生きられよう」
「やめてね」
あわや神の生首を贈られるかもという惨事にセメレが思わずスン、となって言えば、ディアスはあっさり「分かった」と納得してくれた。素直である。
一瞬黙って何かと思ったけれど、自分が用意出来る最大限を考えてくれていたらしい。話が早くて助かる。それはそれとして首はちょっと困るけど。
むむ、と眉間に皺を寄せる仕草が可愛い。セメレはついくすくすと肩を揺らして、ディアスはパチパチとまばたきをして不思議そうな顔。けれどすぐに綻ぶようにふわりと微笑んだ。セメレが笑っているのが嬉しいのだろう。彼は健気な神なのだ。
「ん、ふふ……。ね、ディアスが勝ち取ってくださるんですか?」
「む。お前はそのつもりではなかったのか?私以外の者の妻になると?」
「まさか!私もディアス様だけがいいです」
「うん。安心した」
「でも困っちゃいました。お願いするより前にこんなにやる気を出していただいたら、折角昨日一生懸命に考えたおねだりの方法が無駄になってしまうんですもの」
「………」
「どうしたものかなぁ、と」
ディアスの膝の上、向き合った体勢のままセメレは上機嫌に笑って彼の頬を撫でた。
するとディアスは僅かに視線を彷徨わせて「うん……」と唸り、やがて困ったように眉を下げる。
「そうして欲しいのは山々なのだが、その気にならない方が難しい……」
しょもしょもと悲しそうにディアスが言うので、セメレは思わずあはは!と声を上げて笑ってしまった。
嘘でもやる気がなくなったといえばいいものを、ディアスは一旦、本当にどうにかその気を萎ませようとして失敗したのだろう。それが可愛くて、セメレは思わず彼の胸元に飛び込むように抱き付いた。くつくつと肩を揺らすセメレに、けれどディアスはくっつかれたのが嬉しいのか満足げ。
セメレは結局この後、甘やかすようにディアスに『おねだり』の方法を実践してやった。
それが終われば今度はセメレの夫選定についての話をして、最終的に、ディアスには選定の三日目に登場してもらうことになったのだった。
一応あからさま過ぎる八百長は避けておくのが無難だろう、というセメレの考えによる決定だった。
この時はまさか、それが仇になろうとは思わなかったのだ。




