第92話 海の導き
アレンは、気づけば寮にいた。
胸の奥に、大きな喪失感を抱えたまま。
その傷は、簡単には癒えない。
結局、守れなかった。
仲間も、居なくなった。
――アレンは一人で海へ向かった。
夢の中で、たった一人だった時。
唯一、心を休められた場所。
あの海へ。
一人で見た、あの海なら――
何かが変わる気がした。
もちろん、正確な場所なんて分からない。
それでも、なぜか足が動く。
まるで、そこを目指しているかのように。
理由も分からないまま、ただ歩き続けた。
そして――
辿り着いた。
あの場所だ。
あの風だ。
あの景色だ。
ここにいれば、僕は少しは休めるだろう。
だけど――
もしここに閉じこもったら。
僕は、世界を救うことすら忘れてしまうんじゃないか?
でも、もう傷つきたくない。
何をすればいい?
アリアも。
セイも。
カイルも。
ザヴィレも。
アイネも。
誰一人、守れなかった。
それどころか――
僕は過去で、たくさんの人を見殺しにしてきた。
大切な人すら、自分の手で殺してきた。
これ以上、何をすればいいんだ。
どれだけ傷つけばいいんだ。
僕が欲しかったものは、特別なものじゃない。
普通でよかった。
友達が死なない世界。
誰も居なくならない世界。
大切な人が消えない世界。
それすら――
望んじゃいけないのか?
もう見たくない。
もう聞きたくない。
一人でいさせてよ。
居なくなるなら。
死んでしまうなら。
傷つくなら。
――いっそ。
僕は、死にたい。
でも、できない。
世界を救うって、約束してしまったから。
ここに戻ってきてしまったから。
僕を勇者が助けてしまったから。
勇者も、みんなも、死んでしまった。
このまま死んだら――
僕は、死んだ後でも
ずっと絶望し続けるのだろう。
なんで、こんなに傷つかなくちゃいけないんだ。
僕は……。
僕はどうしたらいいんだ……?
なんで……
ここにいなきゃならない……?
なんで……
世界を救うんだ……?
僕は……なんなんだ……?
アレンの目から、光が消えていく。
どんどん沈んでいく。
まるで、暗い海の底へ落ちていくように。
――その時だった。
海の中から、モンスターが現れた。
巨大な貝のような姿。
「お前はなんだ……?」
アレンの表情が歪む。
「僕の邪魔をするな!!!!!」
その瞬間。
アレンの中の――魔王の力が反応した。
怒りに呼応するように、力が膨れ上がる。
「うああああああああ!!!!!」
次の瞬間。
貝のモンスターの殻は、
一瞬で砕け散った。
モンスターは、そのまま動かなくなる。
だが――
アレンは気づいた。
砕けた貝の中に、
何かが入っていることに。
なぜか分からない。
だが、アレンは手を伸ばした。
まるで――
それに導かれるかのように。




