第91話 大きな喪失感
「アレン……終わったのか?」
背後から声が聞こえた。
間違いなく、コウキの声だった。
僕は咄嗟に振り向く。
そこには四人がいた。
コウキも、サーレも、アイネも、レミアも。
……だが、全員の表情が暗かった。
嫌な予感が胸をよぎる。
そして、それは的中した。
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「アレン……私ね……もう学園にいられないの」
「え……なんで……」
「俺のせいなんだ、アレン……。俺がもっと強ければ……」
「やめてよ、コウキ。私が選んだ道だから」
サーレが静かに口を開いた。
「ネビュラの能力が発現した者と、ディアセントのみしか、この学園には居られないんだ」
「つまり……」
「アイネは、もう学園に居られない」
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「コウキとアレンが楽しそうにしてるのを見て……ずっと混ざりたかった」
アイネは涙をこらえながら言う。
「なんでか分からないけど……私、懐かしく思えたの。
失いたくなかった……」
「アイネ……」
僕は言った。
「最後に、みんなで海に行こう。思い出作ろう」
「……」
「会いに行くから。時間が出来た時に。必ず」
「……ありがとう。アレン」
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僕たちは海に行った。
沢山遊んだ。
沢山笑った。
月の光を反射する、綺麗な海。
その波は――まるで僕らを引き離すかのように、強かった。
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「ベルダ先生」
「ん?どうした?こんな時間に……」
「私……レビュラ転化〈植〉を使って……能力を失いました」
「……そうか」
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夜が過ぎる。
修学旅行の帰り。
アイネは、バスには居なかった。
残ったのは――
喪失感だけだった。
それが、僕たちを静かに包んでいた。
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小さな岩。
堕ちた私に、希望をくれた存在。
――あなたは、スズラン。
自分勝手に生きたいなんて思わない。
あなたを守ること。
それが、私の自由であり――
生きる意味なのだから。
あなたに、苦しんでほしくはない。
あなたは……弱いから。
だからこそ。
その信念が壊れないように――
私は、あなたに力を与えた。
私が、必ず守るから。
……だが、それは叶わなかった。
暗い。
狭い。
息が詰まるほどの孤独。
それでも――守らなければならなかった。
何年経ったのか、分からない。
時間の感覚すら、とっくに失っていた。
そんなある日。
唐突に、何かが頭を貫いた。
――殺さなきゃ。
アイツは、ダメだ。
すべては守るため。
すべては、私の希望のため。
たった一人の、あの笑顔のために。
私は――
何を犠牲にしても守る。
だから、死なないでくれ。
その願いは……届いた。
私は、待つだけだ。
その日を。
けれど――
あなたと再会しても、私はきっと忘れている。
それでも、必ず思い出す。
私はプライドが高い。
素直になれない。
きっと、傷つける。
それでも――守る。
あなたが苦しむことになったとしても。
すべては、最後にあなたが笑ってくれるため。
たとえ――
私が死んだとしても。
あなたを、絶対に泣かせない。
すべてが終わったら。
ちゃんと、お礼を言いたい。
そしてもう一度――
あの時のように、あなたを抱きしめたい。




