第7話 初の依頼の内容は...
サナの手は、震えていた。
目の前に立つ銀髪の少年――アレンの腕を、思わず掴んでしまっていることに気づき、慌てて手を離す。
「ご、ごめんなさい……」
それでも、声は震えたままだった。
「……お願い。少しでいいから、話を聞いてほしいの」
アレンは戸惑いながらも、サナの瞳を見る。
涙で潤んだその目は、必死だった。
「さっき言ってた……“手紙”のことか?」
「うん。あれ、きっと――セイからなの」
その名前を聞いて、アレンは小さく首を傾げた。
「……誰だ?」
一瞬、サナの表情が揺れたが、すぐに首を振る。
「私の幼なじみ。十年前に……引き離されて、それきり会えなくなった人。でも、生きてたの」
サナは胸元から、防水袋に入った手紙を取り出した。
「助けてって……そう書いてあった。人魚島にいるって……」
「人魚島?」
アレンは聞き返した。
その言葉に、特別な反応はない。ただ純粋な疑問。
「……そんな場所、聞いたことない」
サナは少し驚いたように目を瞬かせる。
「そう……だよね。普通は、知らないよね……」
その時。
「はいはい、その話はそこまで」
軽い声が割って入った。
振り向くと、廊下の奥からベルダ先生が歩いてくるところだった。
相変わらずの笑顔だが、どこか真剣な目をしている。
「先生……?」
「人魚島、か。あれだな」
ベルダは顎に手を当て、少し考える素振りを見せる。
「正式名称は“人魚島禁域”。
昔から船が消える、行方不明者が出るって噂の場所だ」
アレンは思わずサナを見る。
「……危険なんですか」
「そりゃあもう」
ベルダはあっさり言った。
「学園は直接関わってこなかった。
関わるには、情報が少なすぎる」
その背後から、不機嫌そうな声が飛ぶ。
「……なんで俺がそんな面倒な場所に行かなきゃなんねぇんだよ」
そこにいたのは、コウキだった。
腕を組み、露骨に嫌そうな顔をしている。
「初任務だろ? もっと楽なのじゃねぇのかよ」
隣で、アイネが肩をすくめる。
「ふーん……人魚島ねぇ。
ロマンチックな名前してる割に、だいぶ物騒じゃん」
どこか他人事のような口調だった。
サナは二人の反応に、少しだけ身を縮める。
それでも、意を決して口を開いた。
「……お願い。
彼は、きっと……今も苦しんでる」
沈黙。
アレンはしばらく考え込むように俯いていたが、やがて顔を上げた。
「……正直に言うと」
全員の視線が集まる。
「俺は、君の言う“セイ”を知らない。
君の過去も、人魚島のことも……何も分からない」
サナの指先が、ぎゅっと握られる。
「でも」
アレンは続けた。
「助けを求めてる人を、放っておく理由も……僕にはない」
コウキが舌打ちする。
「……はぁ。ディアセントが
優等生ぶりやがって」
アイネは少しだけ目を細めた。
「お人好しだね。
まぁ……嫌いじゃないけどさ」
ベルダ先生は満足そうに頷く。
「決まりだな。
これが君たちの最初の任務だ」
サナは、頭を下げた。
「……ありがとう。本当に……」
夜の海は、静かだった。
月明かりに照らされ、遠くに島影が浮かぶ。
そこに何が待っているのか、誰にも分からない。
アレンは、その海をじっと見つめていた。
胸の奥が、理由もなくざわつく。
――守れなかった何かが、微かに疼いた。
こうして。
まだ噛み合わない四人の任務は、静かに始まった。




