第100話 私を見てよ...。奪わないでよ。
「――第八試合、開始です!」
「ナナミさん、だったかな。
君の父は、聖騎士団長のゲルヴァ様だったね」
「……そうですね」
「私の父は、その団長の一番弟子なんだよ」
「そうなんですか」
「父から聞いていない?
“優秀な息子”のことを」
「……知りませんね」
「もしかして、父君と仲が良くないのかな?」
「……知らないです」
「でもさ、唯一の子供が女だなんて――
父君は、どう思ったんだろうね」
「……知らな……
――黙れ」
「男と女では、埋まらない差がある。
君は、私には勝てない。それに能力があるのに、それも忘れて正面突破かい?」
「黙れ!
攻撃しないなら……こっちから!」
ナナミは力を込め、ケーレへと剣を振るう。
「そんなに力を込めたところで、
避けやすくなるだけでしょう?まぁ、こっちも能力なしでやってあげますよ。その方が力の差が分かるでしょう。」
「っ!!」
ケーレは軽く背後へ回り込み、
ナナミに剣を当てた。
「――まずは、一回目ですね」
「一回ごときで、調子に乗らないで」
「では、行きますよ」
ナナミは必死に剣を振るう。
「言ったでしょう?
力任せでは、当たらないんですよ!」
再び、ケーレは背後へ。
「これで、二回目」
「……二度は、通じない」
「おお、反応できましたか。
でも――甘い」
――避けられた!?
ダメ……もう、間に合わない。
「――二回目ですね」
「最後くらい、本気で行きましょうか。
正直、面白くもないですし」
「……バカにしないで!」
「親が良くても、子が良くなくては意味がない。
結局この世界は、強い者しか愛されない」
冷たい声が、突き刺さる。
「君は……
父から、期待もされていないのでしょう?」
――私は……。
私は、子供の頃、母に言われた。
「才能がある」と。
あの父さんの子だから、と。
ただ剣を少し扱えただけ。
根拠なんて、何もなかった。
やがて、私に才能がないことは周囲にも知られ、
この世界では皆が“固有の能力”を持つ中、
私は――何も持たなかった。
次第に、落ちぶれていった。
ある日、父さんは言った。
――お前は親不孝者だ。
これ以上、恥をかかせるな。
次に恥を晒したら、一人で生きていけ。
私は、誰よりも努力した。
父さんに認めてもらうために。
友達なんて、いらなかった。
でも――
一人は、嫌だった。
「一人じゃない」と、思い込んだ。
けれど、心の奥の私が言う。
――周りに、誰もいない、と。
思うだけじゃ意味はなくて、
ただ、苦しかった。
自由も、楽しい日々もなかった。
楽しいと感じても、
中の私が、すぐに否定する。
なら――
強くなればいい。
見せつければ、
みんなが、私を見てくれる。
認めて、くれる。
彼が来るまでは、
クラスで一番は、私だった。
なのに――
いつの間にか、人は彼の周りへ流れ、
私の周りからは、消えていった。
私は、一番でなきゃいけない。
このクラスでも、
学園でも――!
負けちゃ、いけない。
勝たなきゃ。
どうなってでも。
「――力が、欲しいか?」
……誰?
何なの、これは。
「勝ちたくないのか?
力があれば、見てもらえるんだろう?」
――どうして、知ってるの。
「私は、お前を知っている。
お前は弱い。
だが、私が力を与えれば――強くなれる」
声が、囁く。
「この学園で、一番に」
――何かが、壊れた。
どうなってでも、勝たなきゃならない。
私に、力を渡しなさい。
「……いいだろう。
さあ、新しい自分だ」
「――さあ、最後にしよう」
「まずい!!!
逃げろ!!!」
アレンの叫びが、響いた。
だが、その瞬間――
ケーレの身体が、吹き飛ぶ。
周囲に、凄まじい何かが伝播する。
ベルダ先生が、息を呑む。
「あれは……」
アレンは、震える声で呟いた。
「ナナミ……なんで……
その力は……」
ナナミは、静かに微笑む。
「――おはよう。
私」




