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エピローグ 最初の絶望と覚醒の予兆

アレンは、夜中にふと目を覚ました。


視界に映るのは、年季の入った宿屋の天井。

体は鉛のように重く、全身が軋むように痛む。

つい先ほどまで、戦いの後の疲労で倒れ込んでいたことを思い出す。


――また、眠れなかった。


寝返りを打とうとした、その時。

薄い壁の向こうから、抑えた声が漏れ聞こえてきた。


「……これ以上、アレンをパーティーに入れておくわけにはいかない」

「そうだ。あいつは弱すぎる。ネビュラすら開花しなかった」

「だが……」

「お前なら分かるだろ!! 心が強いだけじゃ、人は救えないんだ!」


胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。


……分かっていた。

自分でも、ずっと。


この世界の基礎。

すべての戦いの根幹となる力――ネビュラ。


それすら扱えない自分が、足手まといであることくらい、

最初から理解していた。


才能なんて、ない。

恵まれていないことも、ずっと分かっていた。


ガシャン――


突如、ガラスの割れる音が夜を切り裂いた。


「!?」


反射的に体が動いていた。

気づけば、アレンは宿を飛び出していた。


――否定したかった。


弱いことを。

守れない自分を。


どれほど走っただろう。

夜の闇の向こうから、悲鳴が響いた。


炎が、空を赤く染めている。


――助けたい。

――助けられる。

――僕は、ひとりでも。


息を切らしながら辿り着いた村は、すでに地獄と化していた。


燃え落ちる家々。

逃げ惑う人々。

そして、その中心に立つ“影”。


「おや……誰か来ましたか?」


振り返った男は、歪んだ笑みを浮かべる。


「ん? 貴方は……あぁ。ネビュラすら使えない、勇者のパーティーの落ちこぼれじゃないですか」


「来てくれた……!」

「勇者様の仲間だ! お願いだ、助けてくれ!」

「こんなやつ、やっつけてくれ!」


縋るような声が、アレンの背中に突き刺さる。


「ふふ……面白いですね、人間は」

「こんな存在に縋っても、助かりなどしないというのに」

「ですが……弱い人間は嫌いではありません。己の強さを実感できるので」


「……黙れ」


震える声で、アレンは言った。


「俺は、お前を殺して、この村を救う」


「虫けらが調子に乗るな。虫唾が走る」


パチン、と乾いた音。


次の瞬間、火柱がアレンの体を包んだ。


「ぐあああぁっ!!」


焼けつくような熱。

肺が焼け、意識が白く染まる。


「やはり弱すぎる。傑作だ」


炎が消えた時、アレンは地面に倒れ伏していた。

指一本、動かせない。


「そこで這いつくばったまま、自分の弱さを思い知れ」


「やめて……殺さないで……」

「助けてくれ!」

「勇者のパーティーなのに……」

「なんで勇者が来てくれなかったんだ!」

「なんで、こんなのが……」


「お兄ちゃん……たすけて……」


幼い少女の声。


その一言が、刃のように胸を貫いた。


――俺は、弱い。

――分かっている。


なのに。


なんで、こんなにも責められる。

もしこの人たちが、自分で守れる力を持っていたら。

僕は、こんなにも傷つかずに済んだんじゃないか。


……僕だけが。

僕だけが、なんで。


違う。


アレンは、はっとする。


――なんで、他人のせいにしている?

――僕は、なんなんだ。


「……たすけて……こわいよ……」


少女へと、男が歩み寄る。


――ここで、終わるのか。

――這いつくばったまま、見殺しにするのか。


なんで、僕は何も持たずに生まれた?


ボクハ、ナンナンダ。


その瞬間。


胸の奥で、何かが弾けた。


闇よりも黒い力が、全身から噴き出す。


「……!? なぜだ……!」

「ディアセント……しかも、あの方の力……!?」

「こんな、ちっぽけなガキが……!」


気づけば、男の腕が宙を舞っていた。


だが、力は大きすぎた。

体が悲鳴を上げ、アレンは再び地面に崩れ落ちる。


――あたたかい。


微かな意識の中で、誰かの手の温もりを感じた。


「アレン!!」


聞き慣れた声。

勇者だった。


「……ちっ。まぁいい」


男は嗤う。


「貴様は必ず、私が殺す」

「私は魔王軍幹部、カルマ・クラインだ。覚えておけ」


影は夜空へと溶けた。


「生きている者の救助を急げ! 火を消せ!」


勇者とパーティーの面々は、燃え落ちる村を前に、言葉を失っていた。


「アレン……これは……」


「すみません……」


アレンは、力なく呟く。


「守れなかったです。僕じゃ……」


沈黙の後、勇者は静かに告げた。


「アレン君。今日で、君はパーティーを追放だ」


抵抗する気力は、もうなかった。


宿へ戻る途中、意識は闇へと沈んでいく。


――これが、僕の最初の絶望だった。


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