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第7.5章  外伝 〜泣いて、笑って、また一緒に〜

◇  のどかな村の朝と、幸せの食卓


ここはのどかな村「ハルヴ村」。


朝日の差し込む村の宿。

焼きたてパンの香りと、スープの湯気。

木造の床が、ほんのりあたたかい。


白羽

「わぁ……落ち着きますね、この食堂……」


シオンは席につくなり、

パン籠をじーっと見つめて鼻をくんくん。


シオン

「……おなかすいた。」


ヴォイド

「待て。スレイがまだ来ていない。」


と言った直後──


ダダダダッ(階段を駆け下りる音)


スレイ

「おはよーーーっ!! ごはんまだある!?」


宿の娘

「たくさんありますよ~!」


スレイ

「やったーー!! 生きててよかったーー!!」


まるで祝祭。


席に着くなり、

パン、スープ、卵、ハーブ焼きの肉……

とにかく、次から次へと皿がスレイの前に消えていく。


スレイ

「んっ……このスープ……

 やっば……やさしい味……しみる……」


白羽

「スレイさん、幸せそう……」


スレイ

「幸せよ!? そりゃそうよ!?

 昨日まで山の中でさぁ……

 氷点下の夜に、葉っぱスープよ!?

 舌が文明に感謝して泣いてるのよ!!」


シオン

「……赤いの、おいしそうに食べる。」


スレイ

「マセガキもほら、見て! このパン!

 外カリッ、中ふわっと……すき……(うっとり)」


白羽

「なんか……見てるだけで嬉しいです……」


スレイが食べるたびに、

周りの客や宿の人までつられて笑顔になる。


宿の夫妻

「いやぁ、こんなに気持ちよく食べてくれる子は久しぶりだなぁ!」


旅商人

「いい胃袋してるねぇ、元気が出るよ!」


スレイ

「ん~~~~幸せ~~♡

 みんなもいっぱい食べなよ~!」


シオンはスレイの真似してパンをかじり、

白羽はくすっと笑ってそれを見る。


白羽

「本当に……こういう時のスレイさん、

 太陽みたいですね。」


ヴォイドも無言のまま、

ほんのわずかに目を細めていた。


ヴォイド

「……落ち着く。」


白羽

「えっ……?」


スレイ

「んっ!? 今褒めた!?

 褒めたでしょ今!? ヴォイドさんが褒め──」


ヴォイド

「口を動かすより食べろ。」


スレイ

「言い方ァァ!! でも食べるゥ!!」


ぱくぱく、もぐもぐ、幸せ満開。

スレイが笑って食べるだけで、

テーブルがぽかぽか暖炉みたいになる。


そして──


スレイ

「は~~食べた食べた!

 あぁ幸せ……今日もがんばれそう……!」


白羽

「良かった……スレイさんの“おいしい”って言葉、ほんと元気出ますね。」


シオン

「……赤いのの“んまっ”すき。」


スレイ

「んまっ!? そんな声出してた!? あたし!?

 いやでも確かに美味かったけど!」


白羽とシオンがくすくす笑う。


そんな朝だった。


このあと、

“ぷに事件”で地獄に転がり落ちるとは

誰もまだ知らない。



◆ ぷに事件 — 天国から地獄へ


食後のほっとした空気が、

宿の食堂にゆるく漂っていた。


スレイ

「ふぃ~~……あぁ動けない……お腹いっぱい……」


白羽

「ふふ……幸せそう……」


シオン

「ぱん3つ……にく2つ……すごい。」


スレイ

「えっへん! 旅は体力が命なのよ!

 食べられる時に食べとく主義なの!!」


白羽

(……かわいい……)


そんな和やかなムードの中──


ヴォイドが静かに立ち上がる。


ヴォイド

「スレイ。」


スレイ

「ん? なに? おかわり行くなら一緒に──」


ヴォイド

「立て。」


スレイ

「え? う、うん……?」


言われるままに立ち上がるスレイ。


ヴォイドは近づき──


そのまま、無言で

スレイの腹をつまんだ。


むにっ。


スレイ

「~~~~~~~~~~~~~~ッッ!?!?!?!?///」

(宿全体のBGMが一瞬止まった気がする)


白羽

「ス、スレイさんのおなか……!」


シオン

「……むに、確認。」(冷静)


スレイ

「なぁぁぁぁぁなにしてんのよーーーー!?!?!?

 いきなりお腹つまむとか!! セクハラ!! 大犯罪!!」


ヴォイド

「……最近、柔らかくなった。」


スレイ

「それが一番いらない情報なのよぉぉ!!」


白羽

「す、スレイさん……昨日、煮込み二杯食べて……

 寝る前にもクッキー……」


スレイ

「白羽ちゃん!! なんでそこ覚えてるのぉぉ!!?」


シオン

「……やわらかいお腹、かわいい。」


スレイ

「マセガキ!!

 “かわいい”言われても今は救われないの!!」


ヴォイド

「結論。太った。」


スレイ

「最後に最悪なとどめ刺したぁぁぁぁぁぁ!!!」

(椅子ごとひっくり返りそうになる)



食堂の客がくすくす笑い始める。


村の奥さん

「まぁまぁ……若い子はよく食べるのが一番よ~」


スレイ

「違うの!! わたしはただ美味しいの食べて!!

 幸せになっただけ!! なのに!!」


白羽(内心)

(スレイさん……朝から全力でかわいい……)


シオン

「(こっそり)ぷに。」


スレイ

「聞こえてるのよォォォォ!!」



◇ 白羽&シオンの「励ましレッスン」──地獄の開講


スレイは顔真っ赤にして、

逃げるように部屋に戻っていった。

ヴォイド達のテーブルだけ重い沈黙に包まれた。


白羽

「……スレイさん、すごくショック受けてましたね……」


ヴォイド

「…………。」(完全に否定できない顔)


白羽はスプーンを置き、

ぽそっとヴォイドに言う。


白羽

「ヴォイドさん……少しは、

 スレイさんを“フォロー”してあげた方が……」


ヴォイド

「フォローとは、何をすればいい。」


白羽

「えっと……優しい言葉をかける、みたいな……

 “そんなことないよ”とか……」


シオン

「……“かわいい”って言う。」(即答)


ヴォイド

「…………。」


白羽

「シオンちゃん!?!?

 いきなりそこから!?!?」


シオンはこくんと頷く。


シオン

「……赤いの、かわいい。

 でも……たまに……“むち”って言うと怒る。」


白羽

「“むち”とは言わないでくださいね!?!?

 逆効果ですから!!」


ヴォイド

「……つまり、

 “太っていない”“かわいい”と言えばいいのか。」


白羽

「そうです! それで大丈夫です!!

 大事なのは“優しさ”です!!」


ヴォイド

「優しさ。」


シオン

「大丈夫。ぱぱはいつも優しい。」


ヴォイド

「…………。」(泣きそう)


白羽

「大丈夫ですよ!

 わたし達が全力でサポートしますし!

 まずはですね──────」



◇ スレイ、現実と向き合う


バタン!


扉を閉めた瞬間、

スレイは背中を預けて、ずるずると床に座り込んだ。


スレイ

「~~~~~~~~……もう……やだ……

 なんで……なんで朝からお腹つままれなきゃいけないのよ……!」


頬は真っ赤。

怒りと恥ずかしさとショックで、胸がぎゅっとしている。


スレイ

「あの男ぉぉぉ……!!

 あれはもう暴力よ!! 心への暴力!!」


そう叫んでから、

ふと正面にある姿見に目が止まる。


宿の木枠の大きな鏡。

窓からの光がやさしく差し込んで、

自分の姿を映し出している。


スレイ

「…………」


視線が逃げる。

でも、もう引けない。


ゆっくり立ち上がり、

ジャケットの前をつまんで外す。


赤い上着はふわっと落ち、

黒いインナーと黒のスカート姿になる。


スレイ

「……べ、別に……変わってないし……」


鏡の前に立つ。



◇まずは全身


スレイ

「……うん、普通。普通よ。

 ほら、立ち姿だって可愛い……!」


と言いながら、

自分で腰に両手を当て、ややポーズを決める。


腰のライン──

ほんのり、**“やわらかい曲線”**が目立つ。


スレイ

「ん、んんんん~~~……

 まぁ、多少……その……成長期ってやつ……?

 そう、女は曲線が大事なのよ……!!」


自分で言いながら声が裏返る。



◇次、ウエスト


スレイ

「よし。次。ウエスト。」


鏡を見ると、

スカートのベルトの上に、

わずかに柔らかいラインができている。


スレイ

「~~~~~~ッ……こ、これは……!」


目をそらしてから、小声でつぶやく。


スレイ

「……角度の問題。

 角度の問題だから……」



◇次、太もも


覚悟を決めるように深呼吸して──


スレイ

「いくわよ……太もも……」


ニーハイがぴっちり食い込む太ももを

そっと手で触る。


むに。


スレイ

「ぎゃあああああああああああ!!!

 ここも“むに”!?!?!?!?」


鏡を見る。


光に照らされた太ももは、

冒険者らしい筋肉の上に──

ほんのり柔らかさが乗った“健康的むちライン”。


スレイ

「いやいやいやこれ違うの!!

 これは筋肉! 筋肉なの!!

 その……重心移動で……むにってなるのよ……!」


鏡の前で太ももを左右に動かす。


ぷるん。


スレイ

「ぷ……ぷるんって言った……!?

 絶対言ってない!! 聞こえただけ!! 私の錯覚!!」



◇胸は……セーフ?


仕方なく胸元もチェック。


スレイ

「……胸は……うん……大丈夫。

 むしろ……ちょっとだけ大きく……いや考えるな私!!」


慌てて胸元を押さえる。



◇そして──最後の現実


勇気を振り絞り、もう一度

おへその下あたりをそっとつまむ。


むに。


スレイ

「……あ……」


さっきの騒ぎとは違う、

小さな、

でも逃げられない“実感”。


目がうるうるする。


スレイ

「太った……かも……」



◇ 地獄の励まし──ヴォイド、スレイの心を粉砕する


そんなスレイの落ち込みをよそに、

階段を静かに上がる足音がひとつ。


──コツ、コツ。


スレイ

「え……? だれ……?」


次の瞬間。


コンコン。


スレイ

「ひっ!? だ、だれ!? 入ってこないでよ!?!」


ヴォイド

「俺だ。入る。」


ガチャ(聞く前に開く)


スレイ

「開けるなぁぁぁぁぁぁ!!!!???」


ヴォイドは静かに部屋に入り、

床に座り込むスレイを見下ろした。


ヴォイド

「……スレイ。話がある。」


スレイ

「い、いま話す気分じゃないのよ!!

 あっち行きなさい!! ていうか見ないで!!」


枕で顔を隠すスレイ。


だがヴォイドは白羽の言葉を思い出す。


(“優しく”“やわらかく”……)


(“太ってないよ、かわいいよ”だけ言う……それだけだ)


ヴォイド

「……スレイ。」


スレイ

「なによ……」


ヴォイド

「お前は太ってない。」


スレイ

「…………っ」


枕から片目だけ出して、

ちょっと潤んだ目でヴォイドを見る。


スレイ

「ほんと……?」


ヴォイド

「ああ。太ってない。」


スレイ

「…………そ。なら……いいけど……」


ほっ……と息をつくスレイ。


白羽(階段の下でこっそり聞き耳)

「よかった……最初はうまくいってる……!」


シオン

「……ぱぱ、がんばってる。」(ほこほこ)


ヴォイドは続けようとする。


ヴォイド

「それに──」


ヴォイド(心の中)

(“スレイはかわいい”だったはず……)


スレイ

「え……?」

(嬉しそうに顔を上げる)


ヴォイド

「お前は……かわいい。」


スレイ

「~~~~~~~~ッ///」

(涙目 → ちょっと回復)


白羽

「すごい……! 言えた……!」


が、ここからが問題だった。


ヴォイドは白羽の忠告を一部忘れ、

シオンの危険アドバイスを思い出してしまう。


ヴォイド(心の中)

(次は、"やわらかい"だったか?。)


ヴォイド

「……やわらかいところも……かわいい。」


スレイ

「……………………は?」

(目が点)


白羽(階段の下)

「ひっ!!?」


シオン

「……正しい。」


スレイ

「ちょっと待って。

 “やわらかいところもかわいい”って言った今?

 ねぇ、言った? 言ったよね!?!?」


ヴォイド

「事実だ。」


スレイ

「事実とか言わないでぇぇぇぇ!!

 なんでそのワードが一番刺さるって気づかないのよぉぉ!!」


立ち上がり、床をバンッと踏む。


スレイ

「ヴォイドさん!!

 あんた本当に励ましに来たの!?

 それともとどめ刺しに来たの!?!?」


ヴォイド

「励ましているつもりだ。」


スレイ

「“つもり”が一番タチ悪いのよ!!??」


──そして、ヴォイドはさらに追い打ちをかける。


ヴォイド

「最後に一つ、伝えたい。」


ヴォイド(心の中)

(ここは間違えられない。

 スレイの個性を尊重する。……)


スレイ

「な、なによ…………」


ヴォイド

「……それが個性だ。」


スレイ

「個性じゃないわよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!

 今の三連撃で全部心砕け散ったわ!!!!!」


ベッドに崩れ落ちるスレイ。

部屋に絶望の風が吹く。


白羽(階下)

「スレイさんーーーー!!?」


シオン

「……ぱぱ、がんばった。」(違う)


ヴォイド

「……励ますのは難しい。」



◆ 夕暮れの宿──“スレイ救出作戦”スタート


食堂は夕日のオレンジに染まっているのに、

テーブルの三人だけはどんよりしていた。


女将の言葉が重い。


女将

「赤い髪の子、夕飯いらないって言ってたわよ?」


白羽

「夕飯……いらない……?」


シオン

「……スレイ、食べない……?」


白羽

「そんな……スレイさんが食べないなんて……

 大事件ですよ……!」


シオンも胸に手を当てて小さく言う。


シオン

「……おなかすいてるとき弱いのに……」


ヴォイドだけが静かに水を飲む。


ヴォイド

「……原因は明らかだ。」


白羽

「いや、まぁ……否定はできないですけど……!」


そして白羽が両手をぱんっと打ち合わせた。


白羽

「よし! 作戦会議しましょう!」


シオン

「する。」


ヴォイド

「作戦……?」


白羽

「このままじゃスレイさん、  

 泣きながら寝ちゃいますよ……!  

 それは絶対にダメです!」


シオン

「ダメ。」


ヴォイド

「……。」



◆第一作戦:シオンの“甘いもの作戦”


夕食どき。

廊下のランプがふわっと灯り、静かな空気が漂う。

スレイの部屋の前には、

白羽・シオン・ヴォイドの三人が整列。


白羽

「い、いきましょう……!」 (※妙に緊張してる)


シオンは懐から紙包みをそっと出す。


シオン

「……さくらもち。赤いの、すき。」 (真剣)


ヴォイド

「甘いものを与えるのは逆効果だと言ったが……」


シオン

「……でも、泣いた時は甘いもの。」 (揺るがない)


白羽

「信じましょう……シオンちゃんの“女のカン”を……!」


ヴォイド

「……女のカンなのか、それは。」


白羽&シオン

「「はい。」」


ヴォイド 「……………。」 (反論できない)



◆ スレイの部屋(内側)


布団の山が一個。

その中で、瀕死のスレイがくるまっていた。


スレイ

「……もうダメ……

 私……明日から空気だけ吸って生きる……

 壁のシミ……になる……

 存在感ゼロの……影だけの女……」


シオン(外から)

「……赤いの、生きて。」


スレイ

「外から返事しないで!?

 聞かれてるの!?!?///」


◆ ノック コンコン。


白羽

「スレイさん……! あの……少しだけ、いいですか……?」


スレイ

「いやぁぁぁ!! 開けないで!!

 見ないで!! 今の私は……床のホコリ!!」


ヴォイド(ぼそり)

「……ホコリになった自覚はあるのか。」


白羽

「ヴォイドさん!?」


スレイ

「いるのね!? ヴォイドさんいるのね!?

 やだぁぁぁぁぁぁ!!!」


シオンはドアの下の隙間に、そっと桜もちを差し込む。


シオン

「……赤いの。あまいのあげる。」


スレイ 「………………」 (ぴたりと動きが止まる)


シオンは、さらに説明を足す。


シオン

「……あまいの、食べると……笑う。

 だから……どうぞ。」


スレイ

「…………っ」


布団の中から弱々しい手が伸びる──が。

途中で止まって、しゅん……と戻る。


スレイ

「ダメ……食べたらまた……“むに”が増える……

 いま私……“むにる女”として償いの時間を……」


白羽

「スレイさん! い、いまは食べなくてもいいです!

 においだけでも……ほら……」


スレイ

「においだけとか逆に残酷!!

 “見えるのに届かない恋”みたいな扱いしないで!!」


白羽

「恋……」


シオン

「恋……」


ヴォイド

「恋……」


スレイ

「全員黙れぇぇぇ!!」


こうして甘いもの作戦は失敗し、 3人は部屋の外に追い出された。



◆第二作戦:白羽の“役に立てる作戦”


甘いもの作戦が破れた三人は、部屋の外で改めて相談。


白羽

「……じゃあ……次は私の案、行きましょう。」


シオン

「うん。白いお姉ちゃん、がんばる。」


ヴォイド

「どういう案だ。」


白羽

「“スレイさんがいないと本当に困る”って

 思い出してもらう作戦です!」


ヴォイド

「……茶番か。」


白羽

「ち、茶番でも!! 気持ちが伝わればいいんです!!」


シオン

「……ぱぱもやる。」


ヴォイド

「俺もか。」


白羽

「はい! 三人でがんばりましょう!」



◆ スレイの部屋前(茶番開演)


白羽は深呼吸し、わざとらしく泣き声をつくる。


白羽(棒読みMAX)

「うぅ~~~~!

 ど、どうしましょう~~~~!?

 “明日の準備”が~~~!

 “ぜんぜんできな~~い!!”」


ヴォイド

「……。」


白羽(棒読み)

「“地図が読めない~~”

 “魔物の分布もわからな~~い”

 “作戦を立てられる人がいな~~い”

 あ~~~“スレイさん”がいればな~~~!」


シオン

「白いお姉ちゃん……棒読み。」


白羽

「が、がんばってるの!!」


◆ ヴォイドも参戦(棒読み壊滅)


ヴォイドが無表情で一歩前に出た。


ヴォイド(完全に棒読み)

「おお……どうした……困ったな……

 スレイが……いないと……

 俺たちは……何も……できない……」


白羽

「棒読み!! 意外と下手!!」


シオン

「ぱぱ、ひどい。」


ヴォイド 「…………。」(しゅん)


◆ さらに棒読みを重ねる白羽


白羽(声を張る)

「スレイさん~~~!

 “スレイさんの判断力がなければ”~~~

 “明日の冒険に支障が出ちゃうよ~~~!”」


シオン

「……白いお姉ちゃん、

 棒読みだけどがんばってる。」


ヴォイド

「……もはや幼児の劇以下だ。」


白羽 「ヴォイドさん黙っててください!!」


◆ 白羽、最後の大技(大声棒読み)


白羽(棒読み限界突破)

「“スレイさんがいないと私……泣いちゃう~~!”

 “スレイさん~~! 好き~~!”

 “出てきて~~~!”」


ヴォイド

「好きまで言ったぞ。」


シオン

「白いお姉ちゃん……顔まっか。」


◆ 沈黙……からの──


スレイ

「…………すぴー……」


白羽

「――――――――――は?

 って寝てるぅぅぅぅ!?!?」


シオン

「赤いの、寝た。」


ヴォイド

「飢餓による睡眠だな。」


白羽

「恥ずかしいセリフいっぱい言ったのにぃぃ!!

 聞かれてないって逆に死ぬ!!」


シオン

「白いお姉ちゃん……かわいかった。」


ヴォイド

「……結論。作戦は失敗だ。」


白羽

「うわぁぁぁぁん!!!」



白羽は顔を真っ赤にしながら、

ずるずると階段を降りていく。


白羽

「もう……なんで……なんで寝ちゃうんですかぁぁ……!」


シオン

「白いお姉ちゃん、がんばった。」

(ぽんぽんと慰める)


ヴォイド

「……。」


白羽

「ヴォイドさんも何か言ってください……!」


ヴォイド

「……あれは……棒読み以前の問題だ。」


白羽

「そこ!? 慰めてください!!」


宿のロビーは、もうランプだけがぽつぽつと灯って静かだった。

窓の外では、虫の声が夜の冷たい空気に溶けていく。


白羽

「はぁ……今日はもう……無理ですね……」


シオン

「赤いの、ねむねむ。

 ……あしたなら、きっと元気。」


ヴォイドは腕を組み、

階段の上のスレイの部屋を一度だけ振り返る。


白羽

「ヴォイドさん?」


ヴォイド

「……いや、問題ない。

 今日は休むぞ。」


白羽

「はい……」


シオン

「おやすみ……」


三人は静かに部屋へと散っていった。


スレイの部屋の前だけ、

ぽつりとランプが照らす廊下。


その奥の布団の山から、

かすかに寝ぼけた声が漏れる。


スレイ

「……ん……むに……最低……

 ……ヴォイドさんのばか……すぴー……」


誰にも聞こえない愚痴だけが、

夜の中に消えていった。



◆そして翌朝──


朝日が差し込み、 村の宿の食堂がまた活気づき始める。

だが、テーブルには── ひとり、いつもより静かな空席があった。


白羽

「スレイさん……まだ来ませんね……」


シオン

「……おなか、ぺこだと思う。」


ヴォイド

「来ないなら、呼べばいいだけだ。」


白羽

「でも……昨日のダメージが……」 (気まずそうに目をそらす)


その時だった。


女将

「あら、皆さん。ひとつお預かりものがありますよ」


白羽

「え……?」


女将

「朝一番に、伝書鳩が持ってきましてね。

 赤い髪の子にって。お友達の子からみたいです」


白羽

「スレイさん宛て……?」


シオン

「……お手紙。」


ヴォイドは小さく、視線だけそらす。


女将

「お部屋に届けてあげたほうがいいんじゃないですか?」


白羽

「はい……! 行きます!」


シオン

「いく。」


◆スレイ、朝の光にうずくまる


スレイの部屋。

カーテンの隙間から淡い朝日が落ちている。

布団の中のスレイは、 くしゃっとした髪のまま丸くなっていた。


スレイ

「……はぁ……朝かぁ……

 顔むくんでる……心もむくんでる……

 いっそこのまま……結晶化して……

 村の地蔵になりたい……」 (※極端すぎる)


ちょうどその時── コンコン。


白羽

「スレイさん……朝ですよ……!

 その……お手紙が来てます!」


スレイ

「……お手紙?」


白羽

「“終徴管理局タナトスロアの後輩さん”から、です!」


スレイ

「はぁっ!?!?」 (布団が跳ね上がる)


スレイ

「ちょ、ちょっと待って!?

 なんであの子から!?

 あれ!? なんで今!?」


白羽

「と、とにかく! 読んでみてください!」


シオン

「……手紙、あたたかい。」 (すでに外装だけ触って感想を言う人)


スレイは震える手で封を開ける。

──────────────────────────────


◆後輩からの手紙


便箋には、整った文字。


 スレイ先輩へ


  この前のお返事、すごく嬉しかったです。

  先輩がどこにいても、私はずっと憧れてます。


  それから、先輩……

  前に言ってくれた“食べるのは元気の証拠だぞ”って言葉、

  今でもたまに思い出してます。


  ちゃんと食べて、ちゃんと笑って、

  先輩にはそうであってほしいです。


  私、いつかまた会ったとき、

  先輩の笑顔が見たい。


  最後に小さく


  “むにってしてても、好きです”


と書いてあった。


スレイ

「………………」


便箋をぎゅっと胸に抱く。


スレイ

「……あの子……ほんと……

 こういう時に優しいんだから……っ」


スレイの目から大粒の涙がこぼれる。



◆手紙の真相──


手紙を胸に抱いたまま、

スレイはしばらく動けなかった。


白羽とシオンは、ただそっと傍にいる。


やがて──

涙でにじむ視界のまま、スレイは小さく呟いた。


スレイ

「……でも……なんで……?

 あの子から、こんなタイミングで……

 あの子、自分からは滅多に手紙くれないのに……」


白羽は思い出したように首をかしげる。


白羽

「……あ、そういえば。

 昨日のお昼……ヴォイドさん、ずっといませんでしたよね。

 どこに行ってたんですか……?」


スレイははっとして、

ゆっくりヴォイドへ顔を向ける。


スレイ

「…………ヴォイドさん?」


ヴォイドは目をそらし、

静かにしゃべる。


ヴォイド

「……知っていた。」


スレイ

「…………」


ヴォイド

「夜、皆が寝静まった頃……

 お前は時々、

 一人で外に出ることがある。」


スレイ

「…………」


ヴォイド

「何をしていたかは詳しく知らん。

 ただ──

 風の匂いと足音である程度察してはいた。

 “伝書バトを飛ばしている”ことは。」


スレイ

「……っ」


ヴォイド

「それに──寝言でも聞いた。」


スレイ

「……寝言……?」


ヴォイド

「この娘の名を呼んでいた。

 “無茶してないといいな”

 “今日も元気でいてくれれば……”

 そんな言葉を、小さく。」


スレイ

「………………」


ヴォイド

「お前が手紙を飛ばしていた方向……

 この娘が住んでいる場所は、

 ここからそう遠くないと分かった。」


それだけ言うと、ヴォイドは言葉を切った。


ヴォイド

「あとは、伝書バトを飛ばし、

 スレイを元気にしたい。

 手紙を書いてくれとと頼んだ。」


白羽

「……だから……今朝……」


ヴォイド

「……あとは、賭けだった。

 だが──結果は言うまでもない。

 すぐに返事が来た。」


シオン

「……だいじにされてる。」


スレイは唇を噛み、

肩を震わせた。


スレイ

「……なんで……そこまで……」


ヴォイド

「昨日……

 お前が、誰よりも小さく泣いていた。」


スレイ

「……っ……」


ヴォイド

「スレイは俺たち以外にも、

 大事にされていた。

 ……そのことを思い出せば

 立ち上がれると思った。」


スレイの大きな瞳から、また涙がこぼれた。


スレイ

「……あたし……

 タナトスロアのこと……

 あんまりいい思い出なくて……

 後輩だって……迷惑かけたし……

 もう誰も気にしてないって……

 そう思ってた……のに……」


ヴォイド

「お前は……慕われていた。

 その事実は消えない。」


スレイ

「……っ……ぁ……」


白羽が口元を押さえて涙をこぼす。

シオンも静かに目を伏せる。


スレイは便箋をぎゅうっと胸に抱きしめたまま、

ぽろぽろと涙を落とす。


スレイ

「……なんで……

 そんな……

 そんな優しいこと……するのよ……

 ヴォイドさん……」


ヴォイド

「優しいかどうかは……分からん。

 ただ……

 お前が……泣いたままなのは……嫌だ。」


スレイ

「っ……!」


その一言が、

完全にスレイの崩壊スイッチを押した。


スレイ

「…………っ、う……っ……

 うぁぁぁぁぁぁ……っ……!」


がばっ、とヴォイドの胸に飛び込んだ。


ヴォイド

「……っ……スレイ……?」


スレイ

「やだ……やだぁ……

 ヴォイドさん……

 あたし……っ

 弱くて……ごめん……

 泣き虫で……ごめん……

 でも……っ……

 今……離れたく……ない……っ」


ヴォイドは驚いたように固まったまま、

ゆっくりと両腕を動かす。


そしてぎこちなく──

でも確かに抱きとめた。


ヴォイド

「今は……好きなだけ泣け。」


スレイは胸に顔を押しつけ、

声を押し殺してしゃくり上げる。


白羽は涙を拭き、

シオンはそっとスレイの背中に触れる。


静かな朝の光の中。

スレイのすすり泣きだけが部屋に響いていた。


でもその涙は──

昨日の絶望とは違う。

胸の奥を温めるような、

やわらかい涙だった。



◆ 涙のあと──小さな決意


どれくらい泣いていたのか、

スレイにはもう分からなかった。


ヴォイドの胸元は涙で濡れ、

白羽とシオンは静かに寄り添っている。


「……えぐっ……えぐっ……」


泣きじゃくる息が少しずつ落ち着き、

スレイはようやく顔を上げた。


スレイ

「……ごめんね……ヴォイドさん

 シャツ……ぐしゃぐしゃ……」


ヴォイド

「構わん。」


そのぶっきらぼうな声が、妙にやさしい。


スレイは照れくさく笑い、

胸に抱いた“後輩からの手紙”を見つめる。


“むにってしてても、好きです”


その一行に、息がふっと漏れる。


白羽

「スレイさん……」


シオン

「……ないていい。」


スレイは涙をぬぐい、

静かに、でも力をもって言葉を紡ぎ始めた。


スレイ

「ねぇ、ヴォイドさん。」


ヴォイド

「なんだ。」


スレイ

「“食べるのは元気の証拠だぞ”──

 あたしがあの子にそう言ったんだって。」


ヴォイド

「そう書いてあった。」


スレイ

「なのに自分が守れてないなんて……

 ちょっとダサいよね。」


白羽

「そんなこと……!」


スレイはふっと、涙混じりのまま笑う。


スレイ

「……ちゃんと食べて、ちゃんと笑ってろ。

 あの子がそう言うなら──

 先輩として、かっこ悪い背中は見せられないわね。」


ヴォイド

「……そうだな。」


シオン

「……スレイ、かっこいい。」


スレイ

「やめてよ。泣き顔のまま褒められると余計泣くから。」


ぽん、と頬を叩いて深呼吸。

そして──


スレイ

「よし、朝ごはん行こっか。」


白羽

「うん!」


シオン

「いこ。」


ヴォイド

「ああ。」


スレイは涙の跡をぬぐい、

ぱっと明るい笑顔を取り戻した。


昨日までの陰りをごっそり溶かす、

あの“太陽みたいなスレイ”の笑顔。



4人は並んで廊下を歩く。

朝の光に照らされて影が伸び、

昨日より近く、昨日よりまっすぐに重なる。


食堂の扉の前でスレイが振り返る。


スレイ

「今日も“おいしいね”って笑える一日にしよ。」


白羽

「はい!」


シオン

「……んまっ、する。」


ヴォイド

「…………そうだな。」


パタン。


扉が開く。

焼きたてパンの香りと人々のざわめきが溢れ出す。


その光景の中に立つスレイの笑顔は、

まるで“新しい朝”そのものだった。


いつもみたいに笑い声が響き渡る。

4人は肩を並べて食堂へ進む。


昨日より強く。

昨日より優しく

昨日より笑顔で。


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