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第7章 ちいさな手が守ったもの

◇ 街道──揺らぐ空気と“歪み”の気配


ヴォイド一行は淡々と街道を歩いていた。

風はゆるく、森の匂いは静か。


白羽

「ヴォイドさんがラトンで聞いた噂……

 この辺で異常な物理現象が発生しているって……」


ヴォイド

 「……」


白羽

「 物が変な方向に飛んだ”とか

 “屋根が横に落ちた”とか

 あれ、やっぱり六災《歪因ゆがみ》のせいなんでしょうか?」


ヴォイド

「可能性は高い。

 風の流れが数度“横ずれ”している。

 偏向の中心が近い。」


白羽

「風のずれって、

そんなの分かるんですか?」


ヴォイド

「わずかな違和感だ。

 だが、気づければ十分。」


シオンはコクッとうなずく。


シオンの花の髪飾りが、

その瞬間、風の向きと逆へふわりと揺れた。


白羽

「え、えぇぇ!? なんで逆に!?」


ヴォイド

歪因ゆがみの《迷向域めいこういき》だ」


ヴォイド

「方角認識・進行方向・落下方向が不確定になり、

ここ一帯の力のベクトルに影響がでている。」


白羽

歪因ゆがみってそんな……怖……」


シオン

「……でも、シオンのほうがつよい。」


白羽

「今の流れで言うの……?」


ヴォイド

「事実だ。」


白羽

「えぇ……」


三人はそのまま少し歩く。


白羽

「村って、もうすぐなんでしょうか。

確か、鈴鳴村すずなりむら……でしたっけ?」


ヴォイド

「位置情報では、この先の森を抜けたところに──」


シオンがふと足を止める。


白羽

「シオンちゃん、どうし──」


シオン

「………」


白羽

「し、シオンちゃん……?」


シオン

「………」


白羽

(な、なにこの“間”……怖……)


数秒後。


シオン

「……そういえば……」


白羽

「な、なに……?」


シオン

「……赤いの、いない。」



白羽

「――――――――――――えっ!?!?!?!?!?」


白羽

「い、いない!?!?!?

 ちょ、ちょっと待って今さら!?!」


ヴォイド

「ずいぶん前からいなかったな。」


白羽

「なんで教えてくれなかったんですかぁ!!?」


シオン

「……今、おもいだした。」


白羽

「遅いぃ!!」


ヴォイド

「いつものことだ。気にするな。」


白羽

「気にします!!」



三人が街道を戻りかけた、そのとき。


ガサガサガサガサガサ!!!


白羽

「な、なに!? ゆ、歪因!?!?」


シオン

「……ちがう。これは……」


ヴォイド

「スレイだ。」


白羽

「音で分かるんですか!?」



◇ 迷子の赤いの登場──“拾いもの”つき


茂みを割って、

スレイが全力疾走で飛び出してきた。


スレイ

「みんなーーーッ!!

 やっと見つけたァーーーーーッ!!」


白羽

「スレイさん!!」


スレイ

「だってさ!!

 こっち歩いてたはずなのに道なくなるし!!

 気づいたら逆向いてるし!!

 絶対これ歪因ゆがみのせいよ!!」


ヴォイド

「それはただの迷子だ。」


シオン

「……赤いの……

人生だけじゃなく、道も見失ってる。」


スレイ

「マセガキ辛辣すぎない!?!?

 あと、赤いのやめろ」


白羽

「でも、無事でよかったです!」


スレイ

「あーもう心臓に悪い……」


すると、思い出したように。


スレイ

「あ、そうそう!」


白羽

「え?」


スレイが腕の中をどかす。


そこにいたのは──

土まみれの小さな子犬。


子犬

「……くぅ~ん」


白羽

「ワンちゃん……!?」


スレイ

「なんか、迷ってたら

 どこからともなくついてきちゃって……」


ヴォイド

「下ろせ。動物の様態を見る。」


地面にそっと置いた瞬間──


子犬「くぅん……」


白羽

「かわ……っ……」



◇ 子犬とのふれあい──


◆◇◆ 白羽の場合 ◆◇◆


白羽

「えっと……こんにちは……?

 ほら、怖くないよ……?」


しゃがんで手を差し出す。

手つきはやさしくて、まるで風が触れるよう。


「……くんくん……」


白羽

「(ドキドキ)……いい子、だね……?」


「…………」


「……ピュッ」(小ジャンプで後ろへ退く)


白羽

「えっ……わ、わたし……

そんなに……怖かった……?」


おろおろ、目がうるっとする。


スレイ

「白羽ちゃん落ち込まないで!

 犬が悪い、犬が!!」


白羽

「やさしくしたつもりなのに……(しゅん)」


ヴォイド

死祟しづくの“匂い”を感じたのだろう。」


白羽

「うぅ……そ、それ言わないでください……」


スレイ

「ド直球ぅ!!」


白羽は小さく肩を落とし、

犬はというと「ごめんね……?」みたいな目を一瞬だけ向けてから──

でも逃げる。


スレイがすかさず前に出る。



◆◇◆ スレイの場合 ◆◇◆


スレイ

「はいはーい! 次はあたしの番ね!

 見てなさいよ〜?

 あたし、動物とは感性合うタイプだから♡」(※ドヤァッッッ)


白羽

「す、スレイさん、気をつけたほうが」


スレイ

「だいじょーぶだいじょーぶ。

 犬って優しさわかるのよ〜?

 おいで〜? ワンちゃん

お姉さんのとこおいで〜♡」


「(とことこ……)」


スレイ

「ほらねぇ〜♡ 来た来た♡

 はいはい、かわいいでしょ? あたし──」


ガルルルルルルルルルッッッ!!!(地獄みたいな低音)


スレイ

「──え?」


犬「ガッッッッッ!!!!」


ガブアアアアアアアアアアアアア!!!!


スレイ

「ギャアアアアアアアアア!!!

 深い深い深ァァァい!!

 なんであたしだけ“急所を狙う角度”で来るの!!?」


白羽

「 足首のとこすごい噛まれてます!!」


スレイ

「ほんとに痛い!!

血いっぱい出てる!!」


──そのすぐ横。


◆◇◆ ヴォイドの場合 ◆◇◆


ヴォイド

「………」


無言でしゃがみ、

手を、すっと差し出す。


「……(見てる)」


「…………」


「……プイッ。」

(完全無視)


スレイ(噛まれながら手をさすりながら)

「ぶはッッ!!?!

 ヴォイドさんww 今の見た!?

 “存在しないものを見る目”したわよこの犬!!

 くっ……w……ぷ〜〜〜くすくす……っっ」


白羽

(ちょっと可愛い……ヴォイドさん)


ヴォイド

「………」


スレイ

「いやでもマジで……w

 どんな気持ち〜〜〜?

 犬にすら無視される鉄仮面さん♡ ぷ〜くすくs──」


ゴッッッッッ!!!!!


スレイ

「ぶへええええええええええええええ!!?!」


白羽

「顔、曲がってますね」


スレイ

「犬にも人にも物理で攻撃される人生やだあぁぁぁ!!」


ヴォイド

「………」

(※この沈黙が一番怖い)


◆◇◆ シオンの場合 ◆◇◆


最後にシオンが、

ちょこんと地面にしゃがむ。


シオン

「……おいで。」


「(ててて……)……ぺたん。」


白羽

「えっ……座った……!?

 わたしのとき、あんなに逃げてたのに」


スレイ

「ちょっ……なんでよォォ!!

 あたしの時なんて“殺意のタックル噛みつき”だったのよ!?!?」


犬はもうシオンに夢中だ。

尻尾をぐるんぐるん回し、

胸元にすりすりと顔を押しつける。


シオン

「…………(なでなで)」


ヴォイド

「昔からだ。」


白羽

「え……?」


ヴォイド

「シオンは昔から、動物に好かれやすい。

 野生でも、魔物でも、同じだ。」


スレイ

「え、魔物からも……?」


ヴォイド

「ああ。

 森にいた時期、周囲にいた獣がよく寄ってきた。

 威嚇もせず、攻撃もせず、ただ横に座るだけのこともあった。」


白羽

「すごい、まるで守ってもらってたみたい」


ヴォイド

「それもあるが──もう一つ理由がある。」


白羽・スレイ

「?」


ヴォイド

「“絶界ぜっかい”だ。」


白羽

「絶界が、理由?」


ヴォイド

「シオンの絶界は“五感を遮断する”異能だ。

 動物にとっては“外敵の気配がない存在”に感じる。

 簡単に言えば、安心しやすいのだ。」


白羽

「だから安心して寄ってくるんですね」


ヴォイド

「そうだ」


スレイ

「……ちょっと待って。

 じゃあなに? あたしと白羽ちゃんは……?」


ヴォイド

死祟しづくは“生の匂いを圧す”性質がある。

 お前はうるさい。」


スレイ

「なんでよォォォォォ!!!

 最後のあたしだけ雑すぎでしょ!!?」


白羽

「ちょっと合ってる、かも?」


スレイ

「白羽ちゃん!?!?!?」


ヴォイドの説明の横で、

シオンは犬のお腹をもふもふしている。


シオン

「……あったかい。」


「くぅん♡」


白羽

(あぁ……かわいい……

心が浄化される……)


スレイ

「この子だけ“動物たちの王”みたいになってるじゃん……

 この差なんなのよ……」


ヴォイド

「自然な反応だ。」


スレイ

「自然じゃないわよ!!」



◇ 村人登場──「崩れた村」の報せ


犬と戯れる短く温かい時間が終わる頃。

目的地の方角から、

息を切らせたおじいさんが急ぎ足で近づいてくる。


おじいさん

「あっ……あんたら……旅の人か……!」


白羽

「だ、だいじょうぶですか!?

 おじいさん、足、怪我して……」


おじいさん

「い、いや怪我じゃねぇ……走って転んだだけだ……

 けど、それより……村が……!」


スレイ

「村が……どうしたの!?!?」


おじいさん(村人)

「崩れたんだ……!

 地面が急に傾いて、家が……次々に……!」


白羽

「っ……!」


おじいさん(村人)

「最初は地震かと思った。

 けど……違う。あれは……建物が自分で倒れ込んでるみたいな……

 “向きが狂った”倒れ方で……!」


ヴォイドが目を細める。


ヴォイド

歪因ゆがみだ。」


スレイ

「マジか……ほんとに出たの……!?」


おじいさん(村人)

「お、俺は逃げてきた……

 けど村にはまだ、何人か……

 あと……俺の愛犬が……どっかいっちまって……」


スレイ

「あっ!! じゃあこの子って──!」


「きゅん……(おじいさんへ反応)」


おじいさん(村人)

「お、お前……三郎や!

 無事だったのか……!」


おじいさんが目を潤ませて拾い上げる。

三郎(犬)は尻尾を振りながら、喉を鳴らしていた。


白羽

「よかった……本当に……」


スレイ

「ねえ! 村はどのくらいの規模で崩れてるの!?

 今どうなってるの!?」


おじいさん(村人)

「わからねぇ……

 でも誰も近づけねぇよ……!

 近づこうとすると地面がぐにゃりって曲がって……

 方角がわからなくなる……!」


白羽

「ぐにゃり……

 やっぱり六災“歪因ゆがみ”……

世界の向きがズレる災厄……!」


震える声で続ける。


おじいさん(村人)

「俺には近づけなかったが……

 “あんたらなら行けるかもしれねぇ”って……

 道で会った避難民が言ってた……

 災厄を倒してまわる旅人がいるって……!」


スレイ

「あ、それ私たちのことじゃない?(どやぁ)」


白羽

「でも、村をこのままにはできません!」


そのとき。


シオンがすっと立ち上がった。


シオン

「……いく。」


白羽

「シ、シオンちゃん……?」


犬を抱いた村人は、

その小さな少女を不安と期待の混ざった目で見つめる。


おじいさん(村人)

「頼む……!

 どうか……助けてくれ……!」


スレイ

「よし……行くか。

 怖いけど……でも、逃げるわけにはいかないしね。」


白羽

「シオンちゃん、一緒にいこ」


シオン

「…………(うなずく)」


ただ静かに、でも迷いのないその目。


三郎(犬)もシオンへひと声「きゅん」と鳴く。


おじいさん(村人)

「気をつけてくれ……!

 わしらの村を救えるのは……

あんたたちしかおらん……!」


風がひゅう、と細く吹き抜ける。


ヴォイド

「……行くぞ。」


白羽&スレイ&シオン

「おおー!!」


四人は村へ向かって歩き出した。



◇ 倒壊した村──静けさの中の“悪ふざけ”


鈴鳴村の入口に足を踏み入れた瞬間、

三人は息をのんだ。


白羽

「ひ、酷い……」


建物はどれも斜めに傾き、

壁は内側へ吸い込まれたように潰れ、

屋根は“変な向き”へ滑り落ちていた。


風音も、虫の声もない。


空気そのものが固まったみたいに、

ぴたりと沈黙している。


スレイ

「……おっそろしいほど静かねぇ……」


白羽

「や、やめてください!」


スレイがにまっと笑う。

この状況で、あえて空気を揺らすつもりらしい。


スレイ

「ねぇ……白羽ちゃん」


スレイ

「こういう場所ってさぁ〜?

 ぜ〜ったい“でる”と思わない?

 ほら……暗がりからさ……スぅ────と」


白羽

「ひ、ひぃぃぃ!!」

(涙目で腕を掴む)


スレイ

「いやいや白羽ちゃん可愛い反応するじゃん〜♡」


シオン

「……でない。」


スレイ

「え〜? 本当に?(ニヤニヤ)

 ほら……背後に誰か立ってるかもよ〜?

 シオンの背中とか……」


白羽

「ひっ……!」


シオン

「……うしろには、いない。」


スレイは、さらに悪ノリする。


スレイ

「でもさ、この村の雰囲気、完全に“何かいた後”よね?

 ほら……ほら……絶対──」



シオン

「……そこに、いる。」



スレイ

「――――――えっ!?」


白羽

「し、シオンちゃん……?」


スレイ

「ちょ、ちょ、ちょ……シオン!? なにが!?

 どこになにがいるの!? いるの!?

 は~ やだやだやだ!! そんなわけ――――」


シオンは村の奥を見つめたまま、

ゆっくり、さらりと言った。


シオン

「……こっち……

ずっと“みてる”。」


スレイ

「ぴやあぁぁぁぁああああ!?!?!?!?!?」


がばぁっ(抱きつく)


瞬時にヴォイドにしがみ付く。


スレイ

「無理ムリむりむり!! やだやだやだやだ!!

 ねぇヴォイドさん!

なんかして!! ヤバいの出た!!

 絶対いるでしょ!!? みてるってなに!?!?

 おばけ!?!? こわいこわいこわい!!」

(※超絶早口)


ヴォイド

「煩い。暑苦しい。離れろ。」


スレイ

「やだああああああああ!!!」


ゴツン。(軽く頭をこづかれる)


スレイ

「いったぁぁぁ!?!?」

(でも離れない)


白羽

「スレイさん、本当に怖がりなんですね…」


スレイ

「こ、怖がって何が悪いのよ!!

 見てるって言われたらビビるでしょ!!

 シオンのこういう“急にガチのやつ”怖いのよ!!」


シオン

「……こわがる必要、ない。」


スレイ

「いやあるでしょ!?!?!?」


ヴォイド

「静かにしろ。先へ進む。」


スレイ

「いやホント無理なんだけど!?!?!?

 ヴォイドさん歩き速いって!!

私を置いていかないで──────!!!」

(まだ後ろにひっついてる)


──静まり返った廃村の中で、

スレイの情けない悲鳴だけが妙に元気に響いた。



◇ 離れた丘でのキャンプ


村から少し離れた小高い丘に移動し、

崩れた家の残骸から使えそうな木材を拾い、

簡易の焚き火をつくった。


ぱち、ぱち……と火が弾ける。


静けさは深い。


白羽

「スレイさん、まだ震えてますよ……?」


スレイ

「震えるでしょ!! あんだけ不気味だったら!!

 私こういう“音がしなさすぎる場所”苦手なの!!」


シオン

「……おばけ、いない。」


スレイ

「シオンの“いない”は信じる。

 でも“みてる”は信じたくない!!」


白羽

「でも、確かに誰かに見られている感じはありましたよね」


スレイ

「やめてよ!! 思い出させないで!!」


ヴォイドは黙って鍋をかき混ぜている。

中身は野菜と保存肉の雑炊。

思ったより美味しい匂いがする。


スレイ

「てか……ヴォイドさん、普通に料理うまいのずるい。

 天は二物どころか三物四物与えすぎでしょって」


ヴォイド

「普通だ。」


スレイ

「んなわけあるかっ!

 ってか、調味料をナチュラルに取り出すのやめてね。」


白羽

「落ち着きます、この味」


シオン

「ぱぱのお料理……

おいしい。」(癒しオーラ)


スレイ

「はぁ……

 で、村の状況どう思う?」


ヴォイド

「建物の潰れ方が自然災害ではない。

 力が“斜めに曲げられた”倒壊だ。」


ヴォイド

「第六災《歪因ゆがみ》の影響で間違いない。」


白羽

「じゃあ、この村の崩落は…

 完全に“能力そのもの”が原因?」


スレイ

「えー……マジで六災かぁ……

 そりゃ人も逃げるわけよね……」


焚き火の光に照らされて、

四人の影がゆらりと揺れる。


その揺れをじっと見つめながら、

白羽が、ぽつりとつぶやいた。


白羽

「……私が見てきた村の空気に、

 少し似ていました。」


スレイ

「っ……!」


白羽の言葉に、スレイの肩がびくっと震えた。

表情は見せまいとしているのに、手だけがわずかに強ばる。


白羽

「私もヴォイドさんと出会うまでは……」


スレイ

「白羽ちゃん、それ以上は……」


白羽は小さく首を振る。


白羽

「だいじょうぶです。

 もう……ちゃんと前に進めていますから。」


その言葉に、スレイの表情がほんの少しだけ緩む。


ぱち、と焚き火が弾ける。

静かな夜気が揺れた。


ほんの一瞬──

村の空気と似た、重たい沈黙が落ちかけたその時。


スレイ

「……よしっ!」



◇ 焚き火──二度目の“視線”


突然、手を叩くような勢いで声を上げた。


スレイ

「暗っっっ!! 空気!!

 やーめやめ!

 せっかくの焚き火なんだから

 暗い話ばっかしてもしょうがないでしょ!!」


白羽

「ス、スレイさん……?」


スレイが大げさなくらい手を叩いた瞬間。


──ざ……。


焚き火の外側、

枯れ草がひと房だけ“逆向き”に揺れた。


白羽

「え……?」


スレイ

「ちょ、ねぇ今の何!?

風!? 風よね!? 風って言って!!」


ヴォイドは無言。

ただ暗闇の一点を見ている。


そして──

シオンが、焚き火からそっと目を上げた。


ただそれだけなのに、

空気がピンと張る。


白羽

「シ、シオンちゃん……?」


シオン

「……」


スレイ

「なにその沈黙!? 言ってよ! “気のせい”とか!!

 なんで黙るの!? 黙るのが一番怖いんだって!」


白羽

「ま、また誰かに……見られてる……

とか……ですか……?」


シオンは何も言わなかった。

ただ、ゆっくりと暗闇を見つめる。


怯えているわけじゃない。

むしろ、なにかを“測るような”静けさ。


スレイ

「ちょ、ちょっとマジやめて!?

 シオンの無言ってホラーなのよ!?

 ねぇヴォイドさん、何とか言っ──」


ヴォイド

「静かにしろ。」


スレイ

「ひぇッ!?!?」


スレイは反射でヴォイドの背にしがみつく。


スレイ

「こわいこわいこわい!!

 なんでこの村こんなホラー仕様なの!?

 あたし明日の朝には白髪になってる!!」


白羽

「お、落ち着いてくださいスレイさん……!」


火がぱちり、と跳ねる。

視線の気配は、その一瞬で霧のように消えた。


シオンは焚き火に目を戻す。

その横顔は不思議なほど落ち着いていた。


白羽

「今の……なんだったんでしょう……」


スレイ

「知らない!! でも絶対なんかいる!!」


シオンだけが、

炎の赤を静かに見つめていた。



◇ 次の日の朝──シオンひとり、瓦礫の村を歩く


朝の光は薄く、

倒壊した家々の影は長く伸びていた。


その真ん中を──

ひとりの少女が歩く。


シオン。


小さな足で、

小石を踏む音だけが響く。


風が吹くたび、

崩れた壁がきしりと鳴る。


まるで村全体が息をひそめて

シオンを見ているようだった。


だが──

さらに“本当に”息をひそめて見ている連中がいた。



スレイ(物陰でひそひそ)

「ねぇ……ほんっとにあの子ひとりで行かせるわけ……?

 私もう心臓が三回くらい死んでるんだけど……」


白羽

「し、しーっ! 聞こえちゃいます!!」


スレイ

「いや絶対聞こえてないけど!? シオン無音超人なのよあれ!!」


白羽

「でも、あそこで一人きりだと、なんか胸が」


スレイ

「でしょ!? わかる!?

 あ、ヴォイドさん、なんでそんな冷静顔してるのよ!!」


ヴォイド(普通にバレバレの位置に立って見守ってる)

「…………。」


白羽

「ヴォイドさん、もう少し隠れましょう!

 あの、すごく見えてます」


スレイ

「ていうか敵がシオンを見つける前に、

 ヴォイドさん見つけるでしょあれ!!」


ヴォイド

「見つかっても問題ない。」


スレイ

「問題あるわよ!!!」


そんなひそひそ声を背中に受けながら、

シオンはただ前を向いて歩く。


瓦礫の向こうへ──。

村の中心へ──。


その表情は真剣で、揺れない。



◇ 回想──シオンが「ひとりで行く」と言い出した夜


焚き火がぱち、ぱちと揺れる。


スレイ

「……で、明日どうするのよ。

 村の奥、調べなきゃでしょ。」


白羽

「四人で行った方が安全だと思います」


シオンは少しだけ考え、

焚き火をじっと見つめたまま言った。


シオン

「──ゆがみ、ちいさい。

 ……シオンひとりで、いく。」


白羽

「えっ……!?」


スレイ

「はああああ!?!?」


スレイが立ち上がり、

地面の砂がぱっと跳ねた。


スレイ

「なんでよ!? 危ないでしょ!!

 相手は歪因ゆがみなのよ!?

 人が村ごと逃げるレベルの化け物よ!?」


白羽

「シオンちゃん……なんで……?」


ヴォイド

「………」


シオン

「……シオンじゃないと、ダメ。」


白羽

「だ、ダメ……?」


スレイ

「いやそれ説明になってないから!!

 なんで!? どうして!?

 意味わかんないでしょ!!」


シオン

「……でも、そう。」


説明する気は無い。

けれど、その目だけは揺れなかった。


シオンがそっとヴォイドの袖をつまむ。


シオン

「……ぱぱ。

 シオン、いく。」


ヴォイドは深くうなずく。


ヴォイド

「……本当にいくのか?」


シオンはこくりと頷く。


ヴォイド

「……ああ、わかった。」


えっ?とスレイと白羽は驚いたように

ヴォイドの方を見る。


ヴォイド

「その代わり―――

危険を感じたら戻れ。

 助けを呼べばすぐ行く。」


スレイ

「……ちょっと待ってよ!

本当に行かせる気なの!?

 ヴォイドさん、自分の娘よ!?」


ヴォイド

「シオンを信じる」


シオン

「………!!(嬉)」


スレイ

「……っ……!!

 もうっ……

あんたら親子には敵わないわ」


しゃがんでシオンに目線を合わせるスレイ。


スレイ

「もう止めたりしないわ。

 そのかわり、絶対呼ぶの!

危なくなったら!! 分かった!?」


シオン

「……よぶ。」


スレイ

「呼ばなかったら殴るから!!」


シオン

「……やだ。」


スレイ

「なら呼びなさい!!」


白羽

「ふ、二人とも……(涙目)」


焚き火がぱちん、と跳ねた。


そしてシオンは小さく息を吸い──

決意を胸に刻んだ。



◇ そして現在── 陰から見守る三人


瓦礫の村。

朝の光が斜めに差し込み、

崩れた家々の影が細長く伸びている。


その静けさの中で──

小さな影がひょこ、ひょこ、と動いていた。


シオンだ。


片手には 虫眼鏡。

もう片手には 謎に拾った棒。


しゃがんで地面をじーっと見つめ、

何度も角度を変えて虫眼鏡をのぞきこむ。


シオン

「…………(真剣)」



スレイ(物陰でひそひそ)

「ねぇ……なにあれ……

 かわいさの暴力じゃない……?」


白羽(同じ物陰で超小声)

「シオンちゃん……調査してます……

 がんばってます……(尊)」


スレイ

「いやもう尊いとかじゃ済まないのよ!?

 なんであんなに真剣に虫眼鏡持ってるの!?

 マジで可愛いんだけど!!」


ヴォイド(普通に立ったまま見守り)

「………」


スレイ

「ヴォイドさんは立つな!!

目立つって言ってるでしょ!!」


白羽は両手を口元に当てて、

シオンの“調査姿勢” を全力で応援中。


白羽

「ほ、ほら……見てください……

 あの……棒で地面つついて……

 “んー……”って考えてます……」


スレイ

「んー……が天使すぎるのよ!!

 なに調べてるの!?

 ただの石ころよね!?」



シオンは棒で地面をコツン、と叩く。


コツン。


コツン。


シオン

「…………(満足げ)」


スレイ

「なんで満足げなの!?

 かわいすぎて耳から砂糖水出そうなんだけど!?」


白羽

「シオンちゃん……

 “痕跡発見”って顔してます……

 えへへ……かわいい……」


ヴォイド

「調査は順調のようだ」


スレイ

「親みたいな顔してる、この人!!

 いや実際親だけど!!」



さらにシオンは、瓦礫の隙間に顔を突っ込む。


ちょこん。


シオン

「…………」


スレイ

「ひゃーーーー!!

 ちっちゃい背中!! ちっちゃい!

 かわいっ……(悶絶)」


白羽

「ち、ちょっと背伸びして覗いてるの……かわいい……

 あ……棒落としちゃいました……」


シオン

「…………(拾う)」


スレイ

「拾った……!(感動)

 棒に愛着あるの……!?

 なにその棒……名前ついてる……??」


白羽

「スレイさん落ち着いて!!」


スレイ

「落ち着けない!!」



シオンは次に、

遠くの建物の影をじーっと見つめる。


風が吹いて、髪がさらりと揺れた。

金の髪をかき上げるシオン。


スレイ

「見た!? 今の見た!?

 あの“やり手っぽい仕草”!!

 絶対わかってないのに、

何かそれっぽい顔してるー!!」


白羽

「シオンちゃん……

大人っぽさを出そうと頑張ってる感じ……

ほんとに可愛い」


スレイ

「ねぇ、なんでこんな健気なの……

 今日だけで100年分シオン補給したわ……」


ヴォイドは腕を組んで静かに言う。


ヴォイド

「……うむ。

 シオンは優秀だ。」


スレイ

「はい、出ましたー重度の親ばか!!

 でも異論なし!!」


白羽

(こくこく)



そのとき──

シオンが虫眼鏡を高々と掲げた。


シオン

「…………(何かを見つけたらしい)」


スレイ

「見つけた!? なに!?

 なに見つけたの!?

かわいい以外の情報ある!??」


白羽

「シオンちゃんの……

“がんばった成果”……(泣きそう)」


ヴォイド

「………」

(※ 顔は無表情だが、内心めちゃくちゃ嬉しい)



そして──

シオンが静かに立ち上がる。


ゆっくり、瓦礫の奥へ歩き出す。


棒を持ち、虫眼鏡をさげ、

ちいさな影が長く伸びた。


スレイ

「よし……ついてくわよ……

 最大限こそこそで……」


白羽

「はい……!」


ヴォイド

「…………。」

(※こそこそする気ゼロ)


スレイ

「ヴォイドさんが一番隠れて!!!!」


三人は慌ててシオンの後を追う。


──その先に、

歪因ゆがみが潜んでいるとも知らずに。



◇ 瓦礫の奥──“六災”と初遭遇


シオンが立ち止まった。


その先は、

村の中心にぽつんと残った古い井戸。


崩れた家屋が折り重なり、

影の中に“何かが潜んでいそうな”不穏さがある。


風が止む。


乾いた空気がぴんと張った。


シオンは虫眼鏡を下ろし、

そっと井戸の縁に近づく。


足音は砂のように軽い。


その静けさが、

逆に三人の心臓を締め上げた。


ヴォイド

「……来る。」


スレイ

「ひゃッ!?!?

 なんでそんなタイミングで言うのよ!?!?

 本当に来るの!?

  何が来るの!? 説明して!!」


白羽

「スレイさん!! 声!!!」


スレイ

「もう無理!! 空気に殺される!!」



シオンがぴたりと止まった。


井戸の影の向こう──

がさ……と、小さな音。


スレイ

「……っ!!(ごくり)」


白羽

「き、来ます……!」


ヴォイド

「………」


シオン

「………」


ゆっくり、ゆっくり──


崩れた壁の向こうから

“それ”が姿を──


──あらわす。


     ピョン。


大きな目。

耳。

しっぽ。

ふさふさの毛。


猫。

しかも小さな。



◇ 三人の反応


スレイ

「…………え?」


白羽

「…………あ……あれ?」


ヴォイド

「…………。」


シオン

「…………(見つめる)」


じっ……


スレイ

「え、えっと……なんというか」


スレイ

「六災って予想より

 すごくちっちゃ……」


白羽

「か、かわかわっ……(死)」


スレイ

「いやいやいや、歪因ゆがみ

 そんな……わけ……??(混乱)」


「……にゃ。」


スレイ

「喋ったあああああああ!!!!」


白羽

「喋ってません!!!」


シオンはじっとその猫を見つめ──

ただ一言、


シオン

「………(こくっ)」(頷く)


スレイ

「今の頷き何!? 何に納得したの!?

 ねぇ白羽ちゃん、何に納得したと思う!??」


白羽

「わ、わかりません!

 でも、シオンちゃん

 全然怖がってない!!」


ヴォイド

「………」

(※一人だけ状況を理解している顔)


猫はぽてぽてと歩き、

倒壊した家々の隙間をひらりと抜けていく。


しっぽが左右にゆらゆら揺れて、

どう見ても“散歩しているだけ”の可愛い猫。


その後を、

シオンが距離をあけながら静かに追う。


三人は──そのさらに後ろで、

“どうしてこんなことになっているのか”と

混乱しながらついていく。


スレイ(ひそ声)

「……ねぇ……白羽ちゃん……

 歪因ゆがみって……猫なの……?」


白羽

「い、いやいや……そんな……

 そんなわけないですよ……ね?」(震え声)


そんな二人の混乱を尻目に、

ヴォイドだけが静かに前を見ていた。


白羽

「ヴォイドさん

 なにか、わかってるんですか?」


スレイ

「そうよ!!

 この状況どう説明つけるのよ!!

 ねぇヴォイドさん!!」


ヴォイドは、ゆっくりと口を開いた。



◇ ヴォイドの説明

──歪因ゆがみは寄生型”


ヴォイド

歪因ゆがみは、

 宿主に寄生するタイプだ。」


白羽

「き、寄生?」


ヴォイド

歪因ゆがみは、単体で成立する災厄ではない。

 “器となる生物”に取り憑き、

 その身体を通して能力を発現する。」


スレイ

「えっ……

 じゃ、じゃあ……」


ヴォイド

「今回の宿主は──あの猫だ。」


白羽

「ね、猫ちゃんに!?」


ヴォイド

「だから……痕跡も小さく、

 村の倒壊も“広範囲ではなく、点的”に起きていた。

 “猫が触れた場所”に偏っていたからだ。」


白羽

「……こ、こう……

 倒れ方がバラバラだった理由……」


ヴォイド

「宿主が小さいほど……

 歪因ゆがみの《迷向域めいこういき》の範囲も小さくなる。」


そして、と続ける。


ヴォイド

「だからシオンは昨夜、

 “ちいさい”と言ったのだろう。」


スレイ

「……え」


スレイの脳内で

昨夜のシオンのひとことがフラッシュバックする。


──“ちいさい”。


スレイ

「……えええええ!?!?

 あれ 猫の話だったの!?!?!?」


白羽

「スレイさん落ち着いて!!」


ヴォイド

「宿主が猫だったから……

 シオンひとりで行く必要があった。」


スレイ

「意味不明よ!!

 なんで!? 私たちの何が悪いのよ!?」


ヴォイド

「“俺たち三人”がいると逃げられる。」


白羽、スレイ

「あっ……」



三人の小競り合いをよそに──

シオンがそろり、と猫へ近づく。


シオン

「……ねこ、つかまえる。」


(くるっ)


目が合った瞬間、空気が“ふにゃ”と揺れる。


白羽

「ひっ!」


スレイ

「これが……迷向域めいこういきの力!」


ヴォイド

「だがシオンの絶界の前では無力だ。」


シオンの足元に白い気配が広がる。

猫の“ゆがみ”は絶界に触れるたび、

ぴたりと 無 に消えていく。


スレイ

「……能力ごと消えてる!」


白羽

「こ、これってただの可愛い空間?」


ヴォイド

「そうだな。」


スレイ

「真顔で言うな!!」



猫がぴょん、と跳ねて逃げる。

シオンもすっ、と同じ軌道で追う。


スレイ

「速っ!?」


白羽

「絶界で音が消えてるから……忍者みたいに……」


スレイ

「ステルス幼女!?」


瓦礫の上で、猫が

「しゃっ!」

シオンが

「ぱっ!」


「びょん」

シオン

「すい」


完全に遊んでいる図。


白羽

「あれ、遊んでる?」


スレイ

「討伐じゃなくて追いかけっこよね!?!?」



猫が再び“ゆがみ”を放つ。

風がぐにゃりと逆向きに揺れ、瓦礫が傾く。


スレイ

「シオンちゃん危──!」


ヴォイド

「大丈夫だ。」


シオンが絶界をひと揺らし。

ゆがみはふっと消えた。


「……(ぽすん)」

座り込む。


白羽

「ね、猫ちゃん……疲れちゃった……」



シオンがしゃがんで手を伸ばす。

ネコ、ゲット。


シオン

「……つかまえた。」


「にゃ〜ご(すり)」


白羽

「うわぁぁ……っ!(悶絶)」


スレイ

「な、なんて破壊力……!!」


ヴォイド

「……見事だ。」


シオン

「……うん。

シオン、頑張った」



◇ 絶界の解呪

──シオンが猫を“救う”瞬間


猫は、ぽすん、と座り込んだまま動かない。

まるで力を使い切って、息を整えているようだった。


シオンはそっと膝をつき、

小さな身体を猫の正面に向ける。


スレイ(小声)

「なにする気……?」


白羽(小声)

「し、シオンちゃん……

 危ないことは……」


ヴォイド(低い声で)

「静かに見ていろ。」


三人が息を飲む。


シオンは猫の頭の上に、

ほんの少しだけ手をかざした。


「……にゃ。」

(弱々しく見上げる)


シオン

「……だいじょうぶ。

 ……ちょっとだけ……がまん。」


シオンの手のひらから、

“白い気配”がふわり、と広がった。


それは攻撃でも防御でもない。

絶界の本来の力――

“世界と対象のつながり”を切る力。


ただし今切り離すのは、

猫自身ではなく、


猫に取り憑いた“ゆがみ”だけ。


シオン

「……ここ……に、いる。」


指先が何かを“つまむ”ようにわずかに動いた。

目には見えない。

けれど、そこに確かに“歪んだ糸”のようなものが存在し、

シオンは迷いなくそれを掴んだ。


白羽

「……っ」


スレイ

「す、すご……」


ヴォイド

「………」


シオンはその“糸”を

ゆるりと、

本当にゆっくり引き上げるように動かした。


猫の身体がびくりと震える。


「……っ……にゃ……」


シオン

「……もうちょっと……」


白い気配が周囲を優しく包み、

猫を傷つけないように、

“寄生していた歪因だけ”が剥がれていく。


ふわ……


ふわ……


その動きは、

まるで絡まった毛糸を解いていくような、

静かで柔らかい作業。


白羽

「柔らかかくて、

こんなにも……優しい……」


ヴォイド

「絶界とは……本来こういうものだ。」


スレイ

「ちょっとシオンのこと……見直したかも」



◇ 絶界の解呪

──“剥がれた歪み”の行方


シオンの手が、

最後の“歪んだ糸”をそっと抜き取った瞬間──


ふっ……と空気が軽くなる。


猫の身体から重さがほどけるように消え、

寄生していた歪因ゆがみだけが、

“白い曇りのような残滓”となって空中に漂った。


白羽

「あのふわふわしてるのが、歪因ゆがみ?」


スレイ

「実体……ないんだ……

あんなふうに……」


シオンも見上げる。

猫を傷つけないために剥がした、柔らかい残滓。


それは風にゆれる霧のようで、

でも確かに危険な“災厄そのもの”だった。


そこで──


ヴォイドが一歩、前に出た。


シオン

「……ぱぱ?」


ヴォイド

「よく頑張った。

 後は任せろ。」


彼が静かに手をかざすと、

空気の流れが変わり、

手のひらから淡い光が広がった。


その光は

“世界のルールを正す”ようにまっすぐ伸び──


漂う歪因の残滓へ触れた。


次の瞬間。


しゃらら……と音がした気がした。


歪因は抵抗する暇もなく、

光の粒子へ分解されて消えていく。


スレイ

「き、綺麗……」


白羽

「あれが……

歪因ゆがみの最期……」


ヴォイド

「寄生型の災厄は、宿主を離れれば脆い。

 これで完全に、終わりだ。」


光が静かに散り、

瓦礫の風の中へ溶けて消えた。


スレイ

「なんか、胸がスッとした……

 “ちゃんと倒した”って感じする」


白羽

「シオンちゃんが助けて、

 ヴォイドさんが、終わらせたんですね」


シオンは猫の頭を撫でたまま、

光の残滓が消えていく空を見上げて小さく頷く。


シオン

「……ばいばい。」


「……にゃ。」


ヴォイド

「よくやった。

 シオンのおかげで、誰も傷つかずに済んだ。」


シオン

「……うん!」


瓦礫と静寂の村に、

ふっと温かい気が広がった。

戦いのあとに残る、穏やかな“安堵”の色。


ヴォイドは散りきった光の残滓へ、

ほんの一瞬だけ視線を向けた。


その表情はいつもの無表情に見える。

けど──その奥には、

“災厄を終わらせてきた者の静かな祈り”があった。


ヴォイド(心の声)

歪因ゆがみ、世界を乱せし者。

それでも、宿主に寄り添い

 最後まで抵抗しなかった。)


(……もう、苦しまなくていい。

 静かに……眠れ。)


ごく短い“弔い”。

誰が耳を澄ませても聞こえないほどの小さな声。


でもシオンだけは気づいたように、

ふっと空を見上げ、小さく微笑んだ。


シオン

「……ばいばい。」


「……にゃ。」


◇ エピローグ──守りたかった場所


歪因の気配が消え、

猫はシオンの腕からすり抜けると──


とことこ、とことこ。


倒れかけた家の方へ歩いていった。


白羽

「あれ、どこへ?」


スレイ

「え、帰宅……?」


ヴォイド

「ついていくぞ。」


四人はそっと距離をあけて後を追う。


家は半分崩れ、壁も傾いていたけれど、

猫は迷わず玄関の隙間を抜けていく。


シオンがそっと覗き込む。


その先で──


猫は、

崩れた棚の下から、

ひとつの“古びた額”を押し出していた。


白羽

「……これって写真?」


額の中には

老人の女性と猫が一緒に写っている。


あの猫だ。

老人の膝の上で、満足そうに丸くなっている。


スレイ

「……この猫、もしかして」


白羽

「守ってたんですね、この家を……」


ヴォイド

「寄生は“宿主の心の強い場所”に滞留する。

 この猫はここを離れなかった。」


シオンは写真をじっと見つめ、

猫の頭をそっと撫でた。


シオン

「……おばあちゃんのこと……

 ここでずっと、まってた……」


「……にゃ。」


瓦礫の中、

猫は写真の横に寄り添うように丸まった。



◇ 復興の足音


そのとき──


遠くから、何人かの声が近づく。


「ここよ! この先よ!!」

「道は通れる、戻って大丈夫だ!」

「うち……残ってるかねぇ……」


その声に、シオンの耳がぴくりと動く。


そして──


「あの……スズ……?

 スズ……どこにおるの……?」


白羽

「あ、あの人!

写真のおばあちゃん……!」


スレイ

「良かった、戻ってこれたんだ……!」


ヴォイド

「ここから先は俺達の出る幕では無い。

本人たちに任せよう。」


家の前で、小さな泣き声が響いた。


おばあちゃん

「……スズ!

 よかった……生きててくれたん……!」


スズ

「…………にゃああ」


おばあちゃん

「心配しとったんよ……スズ……

 一緒に避難してきたのに……

気づいたらおらんくて……」


スズの頭を優しくなでる。


おばあちゃん

「あんた、こんなボロ家を……

 ずっと……守ってくれとったんね……

 ありがとうね………」


スレイ

「……っ……」


白羽

「ぐすっ……

 よかった……本当によかった……」


ヴォイドは腕を組んだまま目を閉じる。


シオンはしばらく見つめて──

小さく、ぽつり。


シオン

「スズ……よかった。」



◇ 旅立ち

──そして平和な日常へ


猫の泣き声と、おばあちゃんの震えるような安堵の声は、

まだ家の方から微かに聞こえていた。


もう一度、誰かと寄り添える未来が戻ったその場所を後に──

ヴォイドたちは静かに村を発った。


白羽

「シオンちゃん、

 今回は本当に、よく頑張りました」


シオン

「……うん。」


スレイ

「よーしよしよしっ!

 がんばったシオンには〜……

 お姉ちゃんの“ぎゅーっ”という至高の癒しを進呈します!」


シオン

「……ぜったいやだ。」(即答)


スレイ

「なんでよ!!?

 美少女のハグよ!?!?

 ご褒美よ!?」


ヴォイド

「違う。」


スレイ

「失礼すぎでは!?」


にもかかわらずスレイは強行突破。

シオンをむぎゅーーーーっ!! と抱きしめる。


シオン

「……やめて。」(眉ひそめ)


白羽

「や、やりすぎですよ」


ヴォイド

「やめろと言った。」


すっ。


ヴォイドはスレイの首根っこをつかみ──

ぽいっ と投げ捨てた。


スレイ

「ひゃああああああ!!??」(地面ごろごろ)


シオン

(ぱぱの後ろにちょこん)


ヴォイド

「静かに歩け。」


スレイ

「アンタが静かじゃないわよぉぉ……!!」


白羽

「ふふっ。みなさん、元気ですね」



そして──

スレイが土まみれで立ち上がったあとの、ほんの数秒。


シオン

「……ぱぱ。」


ヴォイド

「どうした。」


シオン

「……だっこ。」


スレイ

「はぁああああ!?!?

 あたしの抱っこは拒否したくせにぃぃ!!?」


シオン

「赤いのは……

せまるから……やだ。」


スレイ

「攻め方の問題!?!?」


ヴォイド

「これでいいか」

(ひょい、と自然に抱き上げる)


シオンはヴォイドの肩にぴとっとくっつく。


スレイ

「ずるい!!

 ねぇヴォイドさん!! あたしも抱っこ!!」


白羽

「スレイさん!? 

……さすがにそれは」


スレイ

「白羽ちゃん?

 今、何言おうとしたのかな?」


ヴォイド

「お前は重い。(直球)」


スレイ

「ぐはぁっ!!?」(致命傷)


白羽

「あ、あの大丈夫ですか?」


スレイ

「だ、大丈夫なわけ……っないでしょ……

 精神にクリティカル……

 今、虚憑うつろに刺されるより痛い……」


シオン

「……えろ姫……」(ぼそっ)


スレイ

「誰がエロ姫よぉぉぉ!!??」


ヴォイド

「事実だ。」


スレイ

「フォローゼロ!?!?」


白羽

「あはは―――

 本当に、平和ですね。」


瓦礫の村の向こうに、

新しい朝の光が差し込んだ。


四人は歩き出す。

また新しい旅へ、また小さな出会いへ。


今日は確かに──

ひとつの物語が、救われた。

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