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第6.5章  外伝 〜小さな村の王様ゲーム〜

◇ 小さな村「ラトン」へ


灰の里を出て二日目。

山の霧は薄れ、陽光は穏やか。

街道の先に、小さな木造の家並みが見えた。


スレイ

「おお〜〜っ! やっと村じゃない!!

 人がいる! 食べ物がある! まともな布団がある!」


白羽

「わぁ、ほんとにかわいい村。

 パンの匂い……おいしそう……」


シオンは白羽の横で、鼻をくんくん。


シオン

「……ぱぱ。

シオン、おなかすいた。」


ヴォイド

「宿を取る。食事はその後だ。」


白羽はそっとシオンの頭を撫でる。


白羽

「シオンちゃん、もう少ししたら座って食べようね。

 あったかいパン、きっとあるよ。」


シオン

「うん……」


(にこっ)


スレイ

「……ちょっと。

 なんで白羽ちゃんにはそんな笑顔なの?

 あたしにもその甘い顔ちょうだい?」


シオン

「……あとで……」


スレイ

「後日対応みたいに言うな!!」


ヴォイド

「お前たち騒ぐな」


スレイ

「ヴォイドさん!?

心の距離が一気に遠くない!?」


白羽

「ふふ……みんな、行こ?」


四人は村の中心──

石畳に面した素朴な宿へと足を運んだ。



◇ 宿到着──ヴォイドは別行動へ


村の中心にある小さな宿。

木の壁、あたたかい灯り、焼きたてパンの香り──

久々の“文明”にスレイが感動して跳ねた。


スレイ

「っしゃああああ!!

ふっっかふかの布団の匂いッ!!」


白羽

「本当に清潔ですね

 今日ここで眠れるなんて幸せ……」


シオンも、足をそろそろと入れながら部屋の空気を吸い込む。


シオン

「ここ……

あったかい……すき」


宿主が鍵を置いた。


「ご予約の通り、お部屋は二つご用意しております。

 一つが三名様用、もう一つが一名様用です。」


スレイ

「おー、なるほどね。

 じゃあ三人部屋がうちら三人で──」


そこで。


シオンが割り込んだ。


シオン

「シオン、ぱぱとおなじ部屋」

(当然の顔)


スレイ

「はぁぁぁ!?!? ちょ、ちょっと!!」


白羽

「あ、あのねシオンちゃん!

 今日は三人で一緒に泊まれるんだよ?

 ね? 楽しいよ?」


シオンは白羽のスカートを指でつまんで、小声で。


シオン

「……いや。ぱぱとねる。」


スレイ

「ず、ずりぃぃぃ!!

 あたしだってヴォイドさんと同じ部屋がよかったし!!!

 なんなら昨日まで毎晩“同じテント”だったし!!」


白羽

「スレイさん!?!?

 そんな声で言わないでください!!」


スレイ

「だって本音でしょうがっ!!

 あんたも内心ちょっと思ってるでしょ白羽ちゃん!!」


白羽

「~~~~っ……っ

 お、思ってませんっ……!

 思って……ませんけど……!」(小声)


シオンは二人の慌てっぷりを

“なぜか”誇らしそうに見ていた。


シオン

「ふたりとも、ぱぱすき。」


白羽&スレイ

「言い方ッ!!」


ヴォイドは完全にスルー気味で、宿主にだけ返事する。


ヴォイド

「三人部屋に三人。

 俺は一人でいい。」


その淡々とした声に、

シオンがぷくぅっと頬をふくらませた。


シオン

「……よくない。

シオンといっしょ……」


ヴォイド

「ワガママ言うと、置いていく」


シオン

「……やだ、

いっしょがいい。」


まったく揺らがない。


白羽は慌てて間に飛び込んだ。


白羽

「シ、シオンちゃんっ!

 だ、だめだよ……!

 今日は女の子だけでゆっくりするの!

 ね? わたしの、隣に来て?」


シオン

「……白いお姉ちゃんの部屋なら……行く」


白羽

(か、かわ……っ!(心臓が跳ねる))


スレイ

「なにその特別扱い!? 不公平じゃない!?」


白羽

「し、仕方ないですよスレイさん……!」


ヴォイドは最後に軽くシオンの頭を撫でて、短く言った。


ヴォイド

「少し離れる。

 この二人と大人しくしていろ。」


シオン

「……うん……ぱぱ、はやくね。」


そうしてヴォイドは情報収集へ。

シオンは白羽の手を握り、

スレイは「ちっくしょー!!」と壁に拳を軽く当て、

宿の奥へと三人で向かった──。



◇ 女子会──始まる前から修羅場


部屋の扉が閉まった瞬間──


スレイ

「ふぅ~~~! 女子だけの部屋って最高~~!!」


白羽

「ス、スレイさん!?

ベッドに飛び込むのは行儀が……」


シオンは荷物を抱えたまま、ベッドの端にちょこんと座って、じっと二人を見ている。


スレイはにやりと笑い、シオンの前へしゃがみ込んだ。


スレイ

「さてシオンちゃん。

 女子会と言えばね……

まずは“後輩をねぎらう”ものなのよ。」


シオン

「ねぎらい……?」


スレイ

「そうそう。だからまずは──」


シオンの頬をぷにぷに。


白羽

「スレイさん、それやりすぎじゃ……!」

(……も、モチモチしてる……)


スレイ

「ほ〜れほれ、ぷにぷに〜♪」


しばらく無抵抗だったシオンは──

ぱちりと瞬いて、スレイの指を軽くつまむ。


シオン

「……赤いの……」


スレイ

「んぁ~? なぁにぃ?(油断MAX)」


そして淡々と。


シオン

「……ぱぱのこと……

“えっちな目”で見てる……」


スレイ

「ぶっ……!?!?!?!?!?」


白羽

「へ……!?」


スレイ

「な、なに言ってるのよあんたぁぁぁ!?」


しかしシオンは追撃をためらわない。


シオン

「ぱぱがテントの外で寝てたとき……

 こそっと近づいて……

 寝顔、じっと見てた。」


スレイ

「ぎゃあああああああああ!!!?

 なんで知ってんの!!!!!?」


白羽(心の声)

(……これは……死ぬ……)


シオンの目がすっと細くなる。


シオン

「ぱぱの息……

 “すー……すー……”

ってなるの……ずっと聞いてた。」


スレイ

「なんでその情報まで覚えてるのよ!?

 やめろォォォ!!??」


白羽

「ス、スレイさん……

ご、ご無事ですか……?」


スレイ

「無事じゃない!! 心臓止まるわこんなの!!」


だがシオンは、まだ終わらない。


シオン

「それに──」


淡々。

無表情のまま。


「赤いの……

 ぱぱを見る目、

ときどき“メスの目”……」


スレイ

「言い方がァァァァァ!!!?

 殺す気ぃぃぃ!!?」


白羽(内心)

(……ちょっと分かる……)


そして、トドメ。


シオン

「ぱぱ……全部気づいてる。

 気づかないフリ……

してるだけ。」


スレイ

「………え?」


白羽

「あぁ……言われてみれば……」


スレイ

「ちょっと!? 白羽ちゃん!?

 なんでそんな“分かる…”みたいな顔するのよ!!」


シオン

「ぱぱ、優しい……

だから、

 “気づいてても言わない”……」


白羽

「ですね……」


スレイ

「なんで白羽ちゃんまで納得してんの!?!?」


シオンはぺたんと布団に倒れ込み、

すぅ……と寝息を立て始めた。


スレイ

「ね、寝た……!? この地獄の流れで……?」


白羽

「寝ちゃいましたね……」


スレイは床に崩れ落ち、

天井を見上げたまま魂の抜けた声を出す。


スレイ

「……この……ガキ……

 許さないわ……」


白羽

(だいたいスレイさんが悪いんじゃ……)


スレイ

「もう決めた。

 こいつの呼び名……

“マセガキ”にする!」


こうして、“マセガキ”は──

ここに爆誕した。



◇ 買い物パート──羞恥の余韻、引きずり散歩


スレイ

「はぁ……まだ胸がヒリヒリする」


宿の前、朝の通り。


スレイは壁にもたれたまま天を仰ぎ、

魂が抜けた目でぼそっと言った。


白羽

「ス、スレイさん……

ほら、外に出れば気分転換になりますし……」


白羽がそっと腕を引く。


白羽

「シオンちゃん寝てる間に、買い物行きません?

 ヴォイドさんも情報集めに出かけてるし……」


スレイ

「行く行く。

 このまま部屋にいたら、

また思い出して死ぬ。」


白羽

「こ、言葉が重い……」


二人はゆっくり通りへ出る。


柔らかな陽光。

素朴な露店。

パンの匂いと、子供たちの笑い声。


ラトンの村は、旅人には優しい空気だった。


白羽

「あの、スレイさん

そろそろ……落ち着きました?」


スレイ

「まだよ……!私、

 “メスの目”って、

 “メスの目”って……

 言われたのよ……?」


白羽

「わ、私に言われましても……」


スレイ

「人生で言われたくない言葉一位よ!

 マセガキめ……!」


白羽は苦笑しながら、

棚に並ぶ果物へ視線を向けた。


白羽

「でも、スレイさん

 そんなにヴォイドさんのこと、

好きなんですね。」


スレイ

「な、なんでそういう話に持っていくのよ」


白羽

「そ、そういう雰囲気が……その……」


スレイは耳まで真っ赤。


スレイ

「しょ、しょうがないじゃない……!

 あの人、強いし……優しいし……?」


スレイ

「なんかこう、包容力っぽいのあるし……

 たまにちょっと色気あるし……

 後、寝顔かわい──」


白羽

「今のそれ、シオンちゃんに聞かれてたら死んでましたよ」


スレイ

「やめて!! もうやめてぇぇ!!」


二人の声に、店主のおじさんが微笑む。


「姉ちゃんら、仲いいねぇ。」


二人

「「仲、いい……のかな?」」


そんな会話をしていたら、

露店のオバちゃんが笑顔で声をかけてきた。


オバちゃん

「お嬢ちゃんたち〜、旅の途中かい?

 珍しい遊び道具もあるよ?」


白羽

「遊び道具……?」


オバちゃんが手にした箱には大きく──


『王様ゲームセット』


と書かれていた。


スレイ

「…………」

目が輝きはじめる。


白羽

「え、王様ゲームって……あの?」


オバちゃん

「そうそう、“命令は絶対”のあれさ。

 宿で若い子らがよく遊んでるよ〜」


白羽

「……!」


スレイ

「“命令は絶対”……ねぇ」


にやり。



◇  白羽の妄想


白羽(心の声)

(ヴォイドさんと……王様ゲーム

 もしヴォイドさんが王様で……

 わ、わたしが命令される側だったら……)


──ふっと、視界が変わる。


薄暗い部屋。

壁際に白羽が立たされている。


ヴォイド(妄想)

「……命令だ。」


一歩、近づいて。

白羽の肩の横に手をつく。


壁ドン。


白羽(妄想)

「ひゃ……っ……

 (ち、近い……! 息が……!)」


ヴォイド(妄想)

「白羽。顔を上げろ。」


顎をそっと持ち上げられ、

紫の瞳が目の前に迫る。


白羽(妄想)

(むりむりむりっ……キス……される……

 わ、わたし……どうすれば……)


ヴォイド(妄想)

「……従え。」


あと数センチ。

静かに白羽の唇へ近づいて──


そこで現実へ強制帰還。


白羽

「っっっ……!!」

(顔真っ赤)


スレイ

「な、なに顔赤くなってんの!?

 ヤバい想像したでしょ!?

したわよね!?(食い気味)」


白羽

「し、してないですっ!!(大嘘)」




◇  スレイの妄想


スレイ(心の声)

(ふ、ふふふ……

 あたしが王様になったら、

 あの無感情男を絶対ひざまずかせるのよ!)


──想像が始まった。


部屋は薄暗くて、静か。

中央にスレイが座っている。

少し乱れた仕草で足を組み、顎を上げる。


スレイ(妄想)

「ヴォイド。命令よ。」


ヴォイド(妄想)は無言で近づき、

スレイの前に膝をついた。


金色の灯りに照らされて、

表情はいつもどおり無機質なのに──

その仕草だけが異様に色っぽい。


スレイ(妄想)

(いい……この“従う気ゼロなのに従ってる感”……

 たまらない……!!)


ヴォイド(妄想)はスレイの足首に触れる。

冷たい指先が、ゆっくりと脛をなぞる。


スレイ(妄想)

「っ……!」

(ちょ、ちょっと……え……近……っ)


ヴォイド(妄想)は目を細める。

その瞳が、まっすぐスレイの脚へと吸い寄せられた。


そして──


スレイ(妄想)

「……“あたしの脚に、キスしなさい”。」


命令。

絶対のやつ。


ヴォイド(妄想)は一言も返さず、

スレイの膝へ、顔を寄せた。


息が触れる距離。

唇が、脚へ降りてくる。


スレイ(妄想)

(くる……!

 これ……来る……!!

 脚にキスとか……刺激強すぎでしょ……!!

 でもいい……来い……!!)


ヴォイド(妄想)の前髪がスレイの太ももに触れる。

手がそっと脚を支える。


唇が──


触れ──


よう──とした瞬間。


「……スレイさん?」


そこで現実へ強制帰還。


スレイ

「ぴっ!?!?!?!?」

(飛び跳ねる)


白羽

「今、何の妄想してたんですか!?

顔真っ赤ですよ!!」



オバちゃん

「それでお嬢ちゃんたち……

 王様ゲームの説明聞くかい?(ニコニコ)」


白羽&スレイ

「「聞きます!!!!!」」


二人の声が完璧にハモった。



◇  王様ゲーム本編──絶望の幕開け


部屋の扉を開けると──

シオンが、当然のように。


ヴォイドの膝の上で寝転んでいた。


白羽

「あ、あれ……!?

 シオンちゃん、起きてる……!」


シオン

「うん。ぱぱ待ってた。」


ヴォイドの胸元にぎゅっとくっつく。


スレイ

(くっ……

相変わらず“特等席”キープしやがって……!)


ヴォイドはいつもどおり淡々と。

「何を買った。」


スレイと白羽は顔を見合わせ──


白羽

「こ、これを……!」


スレイ

「そう! 王様ゲームよ!!」


ドンッとテーブルに置く。


ヴォイド

「……俺はやらんぞ。」


白羽

「えっ……」


スレイ

「いやいやいや!?

 ヴォイドさんもやるの!

これ人数多いほどおもしろいんだから!」


ヴォイド

「断る。」


スレイ

「話聞けぇぇぇぇぇ!!!!」


白羽

「た、たのしいですよ、絶対!」


シオンがぼそり。

「シオンもやる。」


ヴォイド

「……」


シオン

「……ぱぱも、やる」

(無表情だけど “命令” みたいな圧)


ヴォイド

「………仕方ない」


白羽、スレイ

(ちょろい……)


なんだかんだ巻き込まれ、

4人による王様ゲームが始まった。



◆ ① 王様:シオン


棒を引くと──

小さな王冠マークを引いたのはシオンだった。


シオン

「……シオン、王様……」


スレイ

「ふっ、あんたの王様なんて怖くないわよ」


白羽

「ちょっと緊張する……」


シオンは三本の棒をじっと見比べて、

一本だけを指先でとん、と弾いた。


シオン

「……1番。」


スレイ

「っしゃああああああ!!

わたし、わたしが1番!!!」


白羽

(スレイさん……気合が違う……)


シオンはスレイを見て、

次にヴォイドを見て──

にこっと悪戯っぽく笑う。


シオン

「じゃあ……

1番は、ぱぱの“右となり”に座る。」


スレイ

「は!?!?

 よ、横!?!?

ヴォイドさんの!?!?」


弾かれたように立ち上がると──

スレイは床を滑る勢いでヴォイドの右隣へ着地。


スレイ

「い、いやその……!

 べ、別に? 嬉しいとかそういうんじゃ……!」


ヴォイド

「……座るなら落ち着け」


スレイ

「落ち着いてるし!!

 (※落ち着いていない)」


白羽

(スレイさん……顔真っ赤……!)


シオンは淡々と追撃。


シオン

「……赤いの……

 ぱぱの隣、“一番好き”……」


スレイ

「ぶえぇッッ!?!?!?!?」


顔が爆発寸前。


白羽

(とどめが強烈すぎる……!)


スレイ

「ちょ、ちょっとシオン!?

 なんでそんなこと言うのよ!!」


シオン

「……周知のじじつ……」


スレイ

「ちがああああああうの!!!」

(※しかし離れない)


ヴォイド

「肩が触れている。離れろ。」


スレイ

「触れてない!!

 (※触れている)」


シオンは満足したようにコクリと頷く。


シオン

「……うん、

これでいい……」


白羽

(王様のシオンちゃん、

容赦なさすぎる……)



◇ ② 王様:白羽


棒を引き直す。


王冠を引いたのは──白羽だった。


白羽

「わ、わたし……?

わたしが……王様?」


スレイ

「おっしゃ来たわね!

白羽ちゃんのターン!」

(※テンション高い)


白羽は棒を見つめる。

番号は──


白羽

「……3番」


スレイが即座に手を挙げた。


スレイ

「3番、あたし!!」


白羽

「……えっ、またスレイさん?」


スレイ

「えっまた? じゃないわよ!

 当たっちゃったんだから、

何とかしなさい!!」


白羽は両手で顔を覆い、真っ赤。


白羽

「む、むりです……!」


スレイ

「はぁぁぁ!?

なんで私相手がむりなのよ!?」


白羽

「だ、だってスレイさん……

 からかわれそうで……」


スレイ

「からかうわよ?(自信満々)

 でも王様命令は絶対だからね?」


白羽

「~~~っ……!!」

(※羞恥で壁の模様になる)


シオンは無表情でスレイを見る。


シオン

「赤いの……楽しそう」


スレイ

「楽しいに決まってるでしょ!!」


スレイは豪快に笑う。


スレイ

「さぁ、白羽ちゃん?

 こういう時にする命令ってあるでしょ?

こう……ドキっとするやつとか……」


白羽

「~~~~~~っっ!!」

(※キスを思い浮かべてフリーズ)


シオン

「白いお姉ちゃん……

かお赤い……」


スレイ

「ほらー!

 なんか 想像した でしょ絶対!!

 “どんな命令”したのかなぁ~?」


白羽

「もうむり~~~~!!」


ヴォイドは腕を組んで見ている。


ヴォイド

「決められないのなら、適当に──」


白羽

「き、決めます!! 決めますから!!」


白羽は深呼吸して、

羞恥と欲望と勇気をぜんぶ混ぜた声で言った。


白羽

「……3番のスレイさんは

 ……王様のわたしと、

 “手をつないでください”……」


スレイ

「あっっっっっっぶな!!

 今キス出かけてたでしょ絶対!!」


白羽

「い、言ってません!!」


スレイ

「あーもう、可愛いなぁ!

 手ね、ほら!」


スレイはずいっと手を差し出す。


白羽

「……う、うん」

(※恐る恐る握る)


スレイ

「ほら! 握れた!

ばぶちゃん、頑張りましたねぇ!」


白羽

「…………っっ」

(※手をつないだだけで耳まで真っ赤)


シオン

「……かわいい」


スレイ

「分かる~~~!!」


白羽

「二人とも言わないで~~~~~!!」



◇  ③ 王様:スレイ


棒を引き終わると──

手元の王冠マークを見て、ひとりだけテンションが爆上がりした。


スレイ

「よっしゃあああああ!!

 きたきたきたきた、

わたし王様~~~!!」


白羽

「こ、声おっきい……!」


シオン

「……わるい笑い方してる……」


スレイ

「悪くないわよ、“正直な笑い”よ!!

さ~~て、誰を指名しようかしらねぇ……♪」


棒の番号を確認して、

スレイの目がそこで止まる。


スレイ

「……ふふっ。

 “3番”の人、前に出なさ~い♡」


白羽

(3番……じゃない……)


シオン

「シオン、4番。」


ヴォイド

「……3番は俺だ。」


スレイ

「っしゃあああああああああああ!!!

 もらったああああ!!」


白羽

「えっ、そんなに嬉しい……!?」


シオン

「ぱぱ、危ない……」


ヴォイド

「……嫌な予感しかしない。」


スレイは体を前に乗り出し、

ニヤァァ……といやらしく笑う。


スレイ

「それじゃあ、王様から

 3番への命令は──」


白羽

(ま、まずいです……!

 さっきの買い物中も、

 変な妄想してたのに……)


シオン

「赤いの……

これ見よがしに

 “メスの目”になってる……」


スレイ

「うっさい、マセガキは黙ってて!!」


一拍。


スレイ

「……じゃあ、いい?

ヴォイドさん……」


スレイは一回、深呼吸してから言った。


スレイ

「“3番は──王様の足を……舐めること”」


白羽

(は、はああああああああ!?!?!?)


シオン

「……赤いの、脳がぴんく……」


スレイ

「ち、違っ……違わな……くはないけど!!

 こ、これはね!? 王様ゲームだから!

 仕方なくルール的に! こういう流れで!!

みんなも求めてたでしょ!?」


余りにも早口。


ヴォイドは数秒、

完全に無言だった。


やがて、ヴォイドは低く口を開いた。


ヴォイド

「スレイ、右足を出せ。」


スレイ

「へ?」


命令されたのは逆だった。


スレイ

「いやいや違う違う、そうじゃなくて!?

 私の足を舐──」


ヴォイド

「いいから出せ。

 さっきから、庇って歩いていただろう。」


スレイ

「っ……!」


白羽

「スレイさん……

足、怪我してたんですか?」


スレイ

「い、いや、その……ちょっとだけよ?

 ちょっと捻っただけで、別に大したこと──」


ヴォイドは容赦なく、

スレイの足首をぐい、と引き寄せた。


スレイ

「きゃっ!?」


足首に触れた指が、じっと腫れを探る。

硬くて熱い手。


ヴォイド

「腫れている。

 無理して遊ぶ足じゃない。」


スレイ

「……っ!」

(ち、近っ……顔近い……!!)


ヴォイドは軽く指で圧し、

痛む箇所を確かめる。


ヴォイド

「痛むか?」


スレイ

「い、痛く……

 “ない”って言ったら、嘘になるくらい……」


ヴォイドはふぅと短く息を吐くと、

小さく呟いた。


ヴォイド

「悪いが、

命令よりも先にやることがある」


スレイ

「……へ?」


次の瞬間。


ぐい、と引き寄せられたと思ったら──

視界いっぱいに、ヴォイドの顔。


スレイ

「!?!?」


両腕で抱き上げられていた。

お姫様抱っこ。


白羽

「ひゃぁぁぁぁ!?!?」


シオン

「……“マセ姫”……」


スレイ

「まっ、まっ、待って!!

 なにこの展開!?

 いま王様なの私なんですけど!?!?」


ヴォイド

「怪我人だ。

 冷やさないと悪化する。」


スレイ

「い、いや、あの、その……

 近っ……顔近っ……!!」


息が触れそうな距離。

さっき妄想してた“足にキス”とは

全然違う方向なのに──


スレイ

(な、なにこれ……

 こっちのほうが心臓に悪いんだけど……!!)


白羽

(スレイさん、すごいです……!

 なんか、勝ったみたいな……!)


シオン

「……赤いの、シオンといっしょ。

ぱぱのだっこ……しあわせ」


スレイ

「う、うるさいマセガキ!!」


ヴォイドはそのまま、

スレイを抱えたまま立ち上がる。


ヴォイド

「氷をもらってくる。

 しばし待て。」


白羽

「は、はい!!」


シオン

「……行ってらっしゃい、

マセ姫……」


スレイ

「その呼び方やめろぉぉぉぉ!!!」


こうして──

スレイの「足を舐めさせる」という

危険すぎる命令は、


ヴォイドの“過保護モード”によって、

お姫様抱っこと治療イベントに

強制変換されたのだった。


スレイ的には結果オーライである。


しばらく経ち、王様ゲームは再開した。



◇  ④ 王様:ヴォイド


棒を確認したヴォイドが、

静かに言った。


ヴォイド

「俺が王だ。」


スレイ

「お、おお……

急に場が引き締まったわね……」


白羽

(ヴォイドさんの王様……!

 なんか、緊張で手汗が……!)


棒の番号をめくると──


白羽

「……2番、です」


スレイ

「まさかの、白羽ちゃん!?」


ヴォイドは棒の番号を見て、

一拍だけ目を細めた。


一拍置いて。


ヴォイド

「2番は、夜に俺の部屋に来い。」


部屋の空気が“固まった”。


白羽

「……えっ」

(息止まった)


スレイ

「ちょ、ちょっと待って!?

 今さらっとすごいこと言ったわよね!?

 『夜に来い』ってあんたそれ……!!?」


シオン

「ぱぱ……白いお姉ちゃん、連れてくの?」


ヴォイド

「命令だ。

 断る選択肢はない。」


白羽

「~~~~~~~っっっ!!

 (死んだ……もう今日死ぬ……)」


スレイは白羽の肩を揺らす。


スレイ

「白羽ちゃん、しっかりして!?

 おーい、戻ってきて!」


シオン

「……がんばれ。

 ぱぱ、意外とくっつかれるの

嫌じゃない…」


白羽

「や、やめて言わないでぇぇぇ!!」


ヴォイドは淡々と次へ促す。


ヴォイド

「ゲームを続ける。

 次は誰だ。」


白羽は魂の抜けた顔で

棒を握りしめていた。


スレイ

「時間的にも次がラストになるわね」



◇  ⑤ 王様:シオン


棒を引いた瞬間、

シオンは自分の棒先の王冠マークを見つめ、

まばたきを一度だけした。


シオン

「……シオンが、王様。」


スレイ

「うっ……またこのマセガ──」

白羽に口を塞がれる。


白羽

「 し、シオンちゃん怒らすと、

また地獄が始まる……!」


シオンは三人の顔をゆっくり眺め、

一本の棒を指でとん、と押しながら言った。


シオン

「……4番。」


ヴォイド

「……俺だ。」


スレイ

(マセガキとヴォイドさん……

 一体何を命令するの……?」


シオンは膝の上で棒をコロコロと回す。

そして淡々と──いつもより少しだけ真剣な顔で、

ヴォイドへ向き直る。


シオン

「ぱぱ……」


ヴォイド

「なんだ。」


シオンは、

王様ゲームとは思えないほど静かな声で言った。


シオン

「シオンを──

 “世界でいちばん、大事にして”。」


スレイ

「……っ」


白羽

「シオンちゃん……」


その言葉には、

ふざけも、

照れも、

子供のワガママもなかった。


ただただ、

災厄として世界から拒まれ、

でも“ひとりの子供”として愛を欲しがる少女の心

そのままがのっていた。


ヴォイドは目を閉じ、一度だけ息を吐いた。


そして、

ゆっくりシオンの頭に大きな手を置く。


ヴォイド

「──最初から、そうしている。」


シオンの瞳がゆっくり揺れて、

それが“理解”として胸の奥に落ちる。


シオン

「……じゃあ……

 これからも、ずっと……?」


ヴォイド

「ああ」


シオン

「ずっと……

ぱぱの子で……

いていい……?」


その問いは、

この世の誰よりも小さくて、

この世の誰よりも重かった。


白羽は手を口元に当て、

目尻を少しだけ濡らす。


スレイは腕を組んだまま、

目をそらして鼻をすんっと鳴らした。


ヴォイドは迷わず答えた。


ヴォイド

「当たり前だ、シオン。」


シオンは、

こくり、と震えるほど小さな頷きを返す。


そして──


シオン

「えへへ……」


シオン

「じゃあ、シオンの命令……

 これで、おしまい。」


その瞬間。


空気が、ふっと柔らかく解けた。


白羽

「終わった……」


スレイ

「最後、反則級にエモすぎるでしょうが……

 泣いちゃうっての……」


シオンはちょこんとヴォイドの膝に寄りかかり、

満足したように目を閉じる。


ヴォイドはその小さな頭を、

そっと撫でた。


こうして──

笑いと羞恥と涙が入り混じった王様ゲームは、

シオンのひと言で、

静かに幕を下ろした。



◇  夜──白羽、ひとりで廊下に立つ


静まり返った廊下。

胸の奥が熱くて、喉が乾いて、

白羽は指先をぎゅっと握りしめながら歩く。


(ヴォイドさん……“あとで俺の部屋に来い”って……)


(あ、あれって……

 そういう……

大人な……やつ、じゃないよね……?)


言葉にした瞬間、

心臓が跳ねた。


(わ、わたし……行っていいの……!?

 どうしよう……どうしたらいいの……!?

 心の準備……全然……っ)


コン、コン。


震える指先で、扉を叩く。


「……入れ。」


白羽

(ひっ……声だけで心臓止まる……!!)



◇  ヴォイドの部屋


扉を開けると、

ヴォイドは机に向かって無言でコートを見ていた。


白羽

「あ、あの……

ヴォイドさん……来ました……」


ヴォイドは振り向きもせず、


「ここだ。」


と、コートの肩を指差す。


白羽

「……えっ?」


近づいて見た。


ちょっとしたほつれ。


白羽

「……えっ?」


ヴォイド

「王の命令だ。ほつれを直せ。」


白羽

「ええええええええええええええええ!!!!????」


部屋の外まで聞こえそうな声が出た。


(ちょっ……待って……!!

 なんか……もっと……こう……!!

 覚悟決めて来たのに……!!!

 なんで裁縫……!?

 なんで……!?)


思考が木っ端微塵に砕け散ったまま、

白羽は口をぱくぱくさせた。


白羽

「えっ、直す……?

 わ、わたしが……?

 あの……その……え……?」


ヴォイド

「白羽が一番上手い。」


白羽

(…………)


白羽

(………っ)


胸の奥に、

“ぎゅう”っと温かいものが広がった。


(……なに…これ……

 すごく……嬉しい……)


ズコー……!!

ってずっこけた気持ち。

でも、そのすぐ隣にぽわっと湧く幸せ。


白羽

「……っ……はい……!

 直します……!」


思わず姿勢が正しくなる。


ヴォイドはコートを渡し、

簡単に説明だけして黙った。


白羽は膝の上にコートを広げ、針を持つ。



◇ 夜の部屋──言葉が変わる夜


静かな部屋。

机の上に置かれたランプの灯りが揺れている。


白羽は、ヴォイドのコートを膝に広げ、

針に糸を通そうとしていた。


手元はかすかに震える。


白羽

「あの……ヴォイドさん……」


ヴォイド

「なんだ。」


低い声に、胸の奥が少しだけ落ち着く。


白羽

「ふ、二人きりで話すの……

久しぶりですね……」


ヴォイド

「そうだな。」


白羽

(この感じ……懐かしいかも……)


針を進めながら、そっと息を吸う。


白羽

「……あの……

 わたし……今日は、楽しかったです。

 皆と遊べて……」


ヴォイド

「……ああ。」


白羽は口を開く。


白羽

「最初に会った日……

覚えてますか?」


ヴォイド

「ああ。」


白羽

「わたし……あの日……

 全部が怖くて……

 息するのも苦しくて……」


白羽の針が布を滑る。


白羽

「あなたが……来てくれて……

 “生きてていいんだ”って……

思えたんです。」


針先に迷いがなくなる。


白羽

「名前をくれたときも……嬉しかった。

 “白羽”って呼ばれた瞬間……

 今まで真っ暗だったのに、

 足が前に出るようになって……」


声が安定していく。


白羽

「一緒に旅して……

 スレイさんと笑ったり……

シオンちゃんと手をつないだり……

 あなたの背中を追いかけたり……

 気づいたら毎日が楽しくて……」


目を伏せ、糸を引く指が自然に動く。


白羽

「こんな気持ちになる日が来るなんて

 本当に、思わなかった。」


ゆっくり、まっすぐな声。


白羽

「ヴォイドさん。

 旅に連れ出してくれて、

ありがとうございます……」


ヴォイドはしばらく何も言わない。

その沈黙だけで、胸が温かくなる。


白羽

「今が、いちばん幸せです。」


コートのほつれを最後まで縫い切った、

その瞬間だった。


白羽

「……っ」


指に、針が軽く刺さる。


白羽

「……いた……」


小さな赤い点が滲む。


ヴォイドがすっと手を伸ばし、

白羽の指先を取った。


ヴォイド

「見せろ。」


白羽

「だ、大丈夫……です……!」


けれど、手は逃げられなかった。


ヴォイドは自分の水筒を開け、

布でそっと消毒の水を含ませる。


白羽

「あ……っ……」


指先に触れる、冷たさ。

続いて、ヴォイドの体温。


白羽

(ち、近……)


息が止まりそうになる距離。

けれど、離れたくなかった。


ヴォイド

「これで問題ない。」


白羽

「ありがとうございます……」


短い返事なのに、

胸の奥が満たされていく。


白羽

「ヴォイドさん……」


小さな声。

でも、もうどこにも揺れはなかった。


白羽

「わたし……

あなたのそばが、好きです。」


その言葉は──

針の震えも、心の影も残していない

“はっきりとした声”だった。


ヴォイドは目を伏せ、

ゆっくりと白羽の指を放した。


ヴォイド

「そうか。」


ただそれだけ。


でも白羽には、

胸いっぱいに響いた。


白羽(内心)

(あ……やっぱり……

 わたし……

 ヴォイドさんのこと──)


灯りが揺れた。

ふたりの影が、静かに寄り添っていた。



◇ 部屋を出る夜──余韻が消えない


コートを丁寧に畳み、

白羽はそっと机に置いた。


白羽

「……お、お待たせしました……」


ヴォイド

「ああ。助かった。」


静かな返事。


白羽は深く頭を下げて、

扉へと向かう。


手が、少し震えていた。

さっきの言葉が胸の奥でずっと響いている。


(……言っちゃった……

 “好きです”って……)


(あの距離で……

 ヴォイドさんの目をちゃんと見て……)


扉の前で、そっと振り返る。


ヴォイドは背中を向け、

直ったコートを手に取っていた。


指でほつれ跡を確認し──

やわらかく、息を吐く。


白羽

「……ヴォイドさん」


ヴォイド

「なんだ」


白羽

「……おやすみなさい」


ヴォイド

「ああ。

 ……ゆっくり寝ろ。」


白羽

「……はい!」


胸がふわっと軽くなる。

扉を開け、外に出た瞬間──


白羽(内心)

(……ずるい……

 なんでそんな声で……)


階段を降りながら、

頬を両手で覆う。


白羽

「~~~~っ……!

 む、無理……寝れない……!!」


胸が跳ねっぱなしで、

足取りすらふわふわしている。


廊下を曲がった、その瞬間──



◇ ドゴンッ(物陰で何かが崩れた音)


白羽

「ひゃっ!?!?!?」


廊下の角。

薄暗い柱の影から……


スレイがずり落ちていた。


スレイ

「いってぇぇぇぇ……!」


白羽

「ス、スレイさん!? なにして──」


スレイ

「ち、違うのよ!? 違うの!

 たまたま通りかかっただけで!!

 その! で! 偶然! 偶然聞こえて!!」


白羽

「う、嘘ついてる……!」


スレイ

「うっ……ごめん……

 めちゃくちゃ聞いてた……!!」


そして──

そのさらに後ろ。


影に完全に溶け込むようにして

床にぺたんと座り込んでいる小さな影。


シオン。


白羽

「えっ!? シオンちゃんまで!?」


シオンは無表情で白羽を見上げ──


シオン

「……白いお姉ちゃん。

 ぱぱと話す声……

“にやにや”してた。」


白羽

「ちょっ!?!? してないっ!!」


スレイ

「ちなみに、してたわよ!?

 めちゃくちゃ乙女だったわよ!?!?」


白羽

「~~~~~っ!!!

 二人ともなんで見てるの!?!?」


シオンは淡々と指をさす。


シオン

「赤いのが、

 “白羽の初夜、立ち会う”

って言った……」


白羽

「はっ!?!?!?」


スレイ

「言ってないわよ!?!?!?

 なにその誤解されるやつ!!?」


シオン

「ほんと……

 “ぜったい覗く”って……」


スレイ

「言ってないわあああああぁぁ!!

 マセガキィィィィィ!!!」


白羽

「スレイさん……

あとで、大切な話があります」


スレイ

「こ、怖いって白羽ちゃん……?

ね、仲良くしよーよ、ね?」


白羽

「……むぅ。」


シオンは白羽に近づき、

袖をちょこんとつまむ。


シオン

「……白いお姉ちゃん。

 ぱぱ、だいじにしてね。

 シオンの……いちばんだもん。」


白羽

「~~~~~!!

 が、がんばる……!」


スレイ

「白羽ちゃん、それ“嫁の返事”よ!?!?」


白羽

「もうやめてぇぇぇぇ!!」


三人の声が小さな廊下に反響し、

夜の静けさをちょっとだけ乱す。


でもその空気はどこか温かい。

緊張も、恥ずかしさも、笑い声に溶けていった。


廊下の奥の部屋では。

ヴォイドが静かに、

直ったコートを手に取りながら呟く。


ヴォイド

「……騒がしい。」


けれど──

その声はほんの少しだけ、柔らかかった。



◇ 翌朝──ギクシャク三人娘と、いつも通りの一人


朝のラトンの空はやわらかい金色。

宿の食堂には、焼きたてのパンの匂いが漂っていた。


……なのに。


テーブルの片側には、

並んで座る白羽とスレイとシオン。


三人とも、なんとも言えない 変な空気 をまとっていた。


白羽

「……」


スレイ

「……」


シオン

「……」


動きがぎこちない。

視線が合うと、全員そっぽ向く。


スレイ

(白羽ちゃん……昨日のあれ、

ほぼ告白だったわよね……

 そりゃ緊張するわよね……)


シオン

(……白いお姉ちゃん……

ぱぱに甘い声……

 シオン、ちょっと複雑

……むぅ……)


*沈黙、着席から3分経過*


そこへ、

パンをひとつ片手に持ちながら

やって来た男がいた。


ヴォイド。


席につくと、パンを無音でかじる。


三人の視線が一斉にヴォイドへ向く。


(※さっきまでギクシャクしてたのに、全員姿勢がよくなる)


ヴォイド

「……何だ。」


白羽

「ひゃっ……い、いえっ……!!」


スレイ

「な、なんでもないです隊長!!」


シオン

「ぱぱ、おはよう。」


ヴォイド

「……ああ。」


シオンはさも当然のように、

ヴォイドの袖をつまんで隣の椅子によじのぼる。


スレイ

(むぅ……いいわねその特等席……)


白羽

(シオンちゃん……ずるい……)


白羽は、

昨夜の“とんでもない告白みたいな告白”を思い出して、

じわぁぁっと顔を赤くした。


ヴォイドがパンを飲み込みながら白羽へ視線を向ける。


ヴォイド

「白羽。昨日の話だが。」


白羽

「ッッッ!?!?」


スレイ

(きた!! 昨日の告白のこと!!)


シオン

(ぱぱ……どう答えるの……)


ヴォイドは、

完全にいつも通りの無表情で、言った。


ヴォイド

「“俺のそばが好き”と言っていたな。」


白羽

「~~~~~~ッ!?!?!?!?」

(※震えながらフリーズ)


スレイ

(※机に突っ伏しながら小声で)

「おおおぉぉぉい!!

気づいてる!?

気づいてるでしょ!?

隊長ォォ!!?」


シオン

「ぱぱ……わかってない。」


ヴォイド

「何をだ。」


シオン

「“あなたのそばが好きです”は……

 ぱぱの思ってる意味と……ちがう。」


白羽

「シオンちゃん!?!?」

(※慌てて口を塞ごうとして届かない)


ヴォイドはあくまで淡々と返す。


ヴォイド

「……そうか?

 白羽は、俺の()()が落ち着くと言った。

 隊列時の位置取りとしては問題ない。」


スレイ

「位置取りィィィィィ!?!?」


白羽

「ち、ちがっ……!

 そばって、そういう意味じゃ……!」

(※顔真っ赤で泣きそう)


ヴォイド

「……?

 ではどういう意味だ。」


白羽

「っ~~~~!!

 スレイさん~~~助けて~~~!!!」

(※涙目)


スレイ

「無理よ!!!

 鈍感モンスター相手に私は無力!!」


シオン

「ぱぱ……にぶい……」


ヴォイド

「……お前たち。なぜため息をつく。」


三人

「「「はぁぁぁ……」」」


(※珍しく三人の足並みが揃った)


ヴォイドは困惑気味に眉をわずかに寄せたが──

やはり深く追及はしない。


ヴォイドは淡々とパンをかじり、

水を飲み、

ひと言だけ落とす。


ヴォイド

「支度するぞ。そろそろ村を出る。」


白羽

「は、はいっ!!」


スレイ

「了解……」


シオン

「ぱぱ……手。」


ヴォイド

「ああ。」


当然のようにシオンの小さな手がヴォイドの指をつかむ。

その自然さに、スレイと白羽は目を合わせ──


白羽(内心)

(やっぱり、この親子かわいい……)


スレイ(内心)

(……くそっ、完敗……)


そんなふたりの肩が、同時にストンと落ちた。


そこへ、パン屑を払ったヴォイドが何気なく言う。


ヴォイド

「……白羽。」


白羽

「は、はいっ……!」


ヴォイド

「昨日の……その、“縫い目”だが。」


白羽

「ッ!!」


胸がドクンと跳ねる。


ヴォイド

「……腕がいい。感謝する。」


白羽

「…………っ」


その言葉は、褒め言葉としては最短で、

でも白羽の胸には“最長”に響いた。


スレイ

「ちょ、ヴォイドさん!

 それ、言うタイミング……

殺傷力高いって……!」


白羽

「……っ、っ……ありがとうございます……!」

(※幸せで声が裏返る)


シオンは白羽をちらっと見て、

ふにゃっと少しだけ笑う。


シオン

「白いお姉ちゃん……がんばれ。」


白羽

「ひゃっ……」


スレイ

「なんであんたが応援側なのよ!?

立ち位置おかしくない!?」


シオン

「赤いのも……がんばれ。」


スレイ

「そっちの“がんばれ”重いわね!?!?」


そんなやりとりに、

ヴォイドはわずかに息を吐いた。


ヴォイド

「いちいち騒ぐな。

 ここを出たら、気を引き締めろ。」


その声は相変わらず淡々なのに、

テーブルの三人には不思議と“安心”として響いた。


白羽は、そっと胸の前で手を握る。


白羽(内心)

(……行ける。

 昨日より……少し、自信がある。

 ヴォイドさんの隣に……胸を張って立てる気がする……)


スレイは伸びをしながら立ち上がる。


スレイ

「さて……行きますか。

 戦力面は安心よ。マセガキ一名いるし。」


シオン

「シオン。マセガキじゃない。」


スレイ

「はいはい、ぱぱ大好きっ子の“シオンちゃん”ね?」


白羽

「ふふ……ね。」


ヴォイド

「行くぞ。」


ひとつの声に、三つの声が重なる。


白羽・スレイ・シオン

「「「はい!」」」


宿の扉が開く。

朝日の向こうに、新しい道が広がっていた。


昨日よりも少し近く、

昨日よりも少し強くなった四人は──


今日もまた、同じ歩幅で進み始めた。

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