神と悪魔
結月とは別の学校なので途中まで一緒に登校して別れた。
結月と別れた後、いつもなら幼なじみの先輩と登校しているのだが、その先輩は部活の朝練で朝早く学校に登校しているので一人で登校しなければならない。
「やっぱり他にも友達を作った方がいいだろうか……」
一つ上の幼なじみを抜くと、友達と呼べる程親しい人が一人もいない。その理由はある噂が出回っていて匠のことを避けているからだ。
当人が言うがその話は半分デマだ。
その内容は俺が暴力事件を起こしたというものだった。
半分デマというのも暴力事件に巻き込まれたというのが本当の話である。
そのせいで入学当初から俺が暴力事件を起こしたんじゃないかという認識がもう学校の中で浸透していて誤解を説くに説けなくなってしまった。
それでも、中学時代の知り合いは事情を知っているので普通に話しかけてくれている。
「せっかく高校に入るのを楽しみにしてたのに。はぁぁ」
ため息を吐いた瞬間、嫌な気配を感じた。
その瞬間、俺は目付きを変えた。
『主殿、悪魔がいるぞ』
俺は立ち止まった。
悪魔というのは魔界から現れ、人間に取り憑き、欲望を喰らい者だ。
普通の人間には見えていないのでニュースとかネットでも騒がれない。
黒くて、角が生えていて、鋭い爪が生えている二足歩行の生命体を睨みつけた。
「にんげん、はっけん」
悪魔はそう言って俺に襲いかかってきた。
俺は戦闘体勢に入る。
その次にスサノオに声をかけた。
『来たか。いくぞ、スサノオ』
『了解』
そして、匠は高らかにこう呟いた。
『神憑き』
『神憑り』とは匠たち、神使いが悪魔という存在に対抗する為の術だ。
俺は神気を纏い、神々しい光を放った。
その瞬間、悪魔が怯んだ。
「神の使徒…………なんでここに!」
俺は何もない空間から天叢雲剣という剣を取り出した。
これはスサノオが八岐大蛇の身体から出てきた剣だ。
その刀で匠は無意識に悪魔の腕を斬った。
「グギァァ」
悪魔は俺の攻撃に反応が出来なく、腕は宙に舞う。
その痛みに耐えかねたのか悪魔は悲鳴をあげた。
「じゃあ、次は首だ」
「早く、逃げないと殺される!」
『変幻術 ブロック)』
その声が聞こえた瞬間、脳に違和感を覚え、悪魔を見失った。
俺はそこでようやく気がついた。近くにもう一体、悪魔がいた事を。
気配がした方を睨みつける。
その瞬間の隙を突いて悪魔は魔術を使った。
『変幻術 ステルス』
悪魔は自分が見えなくなったことをいい事に気配を消して戦場から離脱した。
『しまった!もう一体の悪魔に気を取られて逃げられた………………失敗したな』
俺は慌てて周りを見渡すが、当然悪魔は近くにはもう居ない。
さっきまで戦っていた悪魔を援護した奴の気配もなくなっている。
すると、スサノオがいきなり謝罪の言葉を述べた。
『すまぬ、主殿』
『ん?……何が?』
俺は何に対して謝ってきたのか、分からず少し懸念混じりな表情になる。
『我がもう一体の悪魔がいることを感じ取れればあの悪魔を逃がすこともなかった』
スサノオは申し訳なさそうに言う。
『別にお前のせいじゃないぞ。俺も少しスサノオに頼り過ぎてた節あるし、それに気づけたいい機会だったし』
『だが………』
『スサノオ、終わったことを悔いてもしょうがない。それよりも俺たちがあの悪魔を逃した事で新たな犠牲者が生まれるかもしれない』
『そうだな』
『あの悪魔が言っていた変幻術というのはなんなんだ?』
俺の問いにスサノオはすぐに気持ちを切り替え、あの悪魔の魔術はどのようなものなのか、答えた。
『変幻術は我も聞いたことはないが、恐らく脳に干渉する魔術だろう』
『脳に干渉?』
『そうだ。脳に直接暗示を掛けると言ったところか…………………主殿、脳に何か違和感を覚えなかったか?』
『あっ、そう言えば何か感覚が鈍くなる感じがした』
『その時に魔術をかけられたのだな』
俺は相棒の分析力と知識にいつも助けて貰っている。
俺はスサノオに心の中で感謝をする。
この世界は魔界から来る悪魔が暗躍して、人々を苦しめていた。
その時、神々は選ばれた人たちにある契約をし、悪魔に対抗出来る力を与えた。
その契約を神魔契約と言い、契約すれば神々の力を借りることが出来る。
そいつらのことはいつの間にか、神使いと呼ばれ出したらしい。
ちなみに俺が契約しているのが八岐大蛇を退治したとされている神のスサノオだ。
世間体に知られるスサノオは強いってイメージがあるが実際はそうではない。
スサノオ自身が特別強かったわけではないし、神の中では弱い方に入るだろう。
それでもスサノオが八岐大蛇を倒すことが出来たのは弱者なりの知恵があったからだ。
八岐大蛇をお酒の力で判断力を鈍らせて、その隙に十拳剣の一つの天羽々斬剣でトドメをさした。
それが有名なスサノオの話だろう。
俺はポツリと呟いた。
『組織にさっきの悪魔を追跡してもらうか………』
組織というのはその神たちの使徒を束ねる『ゴッド・オブ・ロゴス』の事だ。
スサノオが俺の呟きに対して、明るい感じに口を開いた。
『いや、その悪魔はここら辺は襲わないと思うぞ。好きで格上の使徒がいる街を襲わけがない』
『それもそうか』
『それにあの程度の悪魔なら今頃、他の使徒にやられているかもしれないし』
『そんな奴に逃げられたんだよ。俺らは』
俺が呆れたように言うとスサノオは乾いた笑みを浮かべた。
『それにしても俺ってまだ未熟だな』
俺は最近、この街を本当に一人で守っていけるのか、心配なのである。
『他の使徒たちに助けを求められないか?』
『出来ない。知っているのだろう?。組織が人員不足で困っている事を』
使徒になった者は強制的にある組織に入ることになる。俺も強制的に組織に入れられた1人だ。
でも、俺はその事を運命だと思っている。
なぜなら自分が使徒になったおかげで色々な人に出会えたからだ。
ただ、俺はやっぱりここの街を一人で悪魔退治することが出来るか心配なのである。
『でもさ、俺まだ子供よ?』
『そんな事ないぞ。主殿は使徒の中では最強の十二神の1人であり、ゼウス様が最も信頼を寄せているお方だ。だから、ここの街を主殿一人で任せたんだし』
『まぁ、結月と離ればなれにならないようにと卯月の配慮だと思うけど』
使徒のほとんどが事故とかで家族を失った人たちだ。
言い方が悪いが近くに守りたい人がいないから臨機応変にいろいろな場所に派遣出来るし、対応出来る。
だが、匠には結月というどうしても守りたい妹がいるし、親だって健在だ。
親の許可無く、いきなり学校を転校することは出来ない。
その時、学校のチャイムが鳴っているのが聞こえ、匠は大切なことを思い出した
匠が通っている高校は武蔵の町にある神無月高等学校である。
ここからギリギリ間に合う距離だ。
「悪魔、朝っぱらから出ないでくれよ」
匠は泣き言を言いながら遅刻しないために全速力で走った。