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- gummies -デミトリオス視点



「デミトリオス、また帳簿に不備があった。これで3回目だぞ?しっかり訂正して持ってくるように」


「申し訳ありません……」


「君は公爵夫妻とクリスタリア伯爵令嬢から寛大な措置を受けている事を忘れるな。このような体たらくでは、汚名返上など夢のまた夢だぞ」


「以後、気を付けます」


「“気をつけます”など赤子でも言えよう。行動で示すんだな」


「……はい。申し訳ありませんでした、ヒュベリト子爵……」




ヴァレンティア公爵家の分家にあたるオリヴェ子爵家に送られたデミトリオスは、当主である厳格なヒュベリト子爵の元で歪んだ価値観を一から叩き直されていた。

かつてウラに対して非道な振る舞いを繰り返し、祖父の権威を傘に着て取り返しのつかない事件を起こした彼の行末を憂慮し、ヒュベリトはで家中にこう通達していた──


「一切の情けを捨て、厳しく接するように」と。


ヒュベリトからのみならまだ耐えられるが、世話をしてくれる侍女すらデミトリオスが驕りを見せる度諫めてくる。それがとてつもない屈辱だった。


訂正箇所が付箋で付けられた山の様な書類を両手に抱え、デミトリオスは離れに用意された自室へと戻る。

公爵家にいた時のような煌びやかさはまるでなく、最低限の仕事がこなせ、睡眠が取れる質素な部屋。使い古された木机の前に立ったデミトリオスは暫くその場に立ち尽くしていたが、突然抱えていた書類の束を床に叩きつけた。

凄まじい音と共に書類が飛び散る。一度爆発した怒りを抑える術はなく、真っ赤にした顔を歪ませ書類を激しく踏みつける。


「うああああああああッッ!!クソ!!クソクソクソオオオ!!」


一息ぶん怒鳴り散らした後、散らばった書類の海の中に膝をついたデミトリオスは、爪を噛んで頭を搔きむしり始める。


「何が“教育”だ。何が“償い”だ……!!僕は間違っていない!!」


見下げられた。お祖父様にも、両親にも、格下の分家にも、“ウラ”にも。

お前は間違っていると断罪され、全て取り上げられ、ここへ追いやられたという恥辱は焼き鏝を押し付けられたように残る。


「僕が婚約者なのにっ、分家の年増男がウラの夫になるだと!?ふざけるな!!」


目を見開き、デミトリオスは呪詛を吐き続ける。適当に振る舞い早々と公爵家に戻る算段はヒュベリト子爵に全く通用せず、ただ時間だけが過ぎていく日々が続いたのも苛立ちの種となった。

トドメに子爵の兄が公爵家へ養子として迎えられ、ウラと婚姻するというではないか。この事実は特に耐えがたく、更に虫の居所が悪かったデミトリオスはこの後も派手に荒れるのだった。





そんなデミトリオスを余所に、外は優しい日差しが煌めき、爽やかな風に洗濯物が揺れていた。

離れの方角からの小さな衝撃音に気付くと、衣服を干していたメイド達は「やれやれ」といった顔を見合わせた。


「……また離れで暴れているわ。今度は何を割ったのかしらね、あのお坊ちゃまは」


赤毛をポニーテールにしたメイドは布を絞りながらため息を吐いた。


「またかって感じですぅ。でも~旦那様がこうおっしゃっていたからほっとけばいいんですよう。……「離れの片付けはしなくてよい。デミトリオスに全てやらせるように」って!」


末っ子のような雰囲気のメイドがヒュベリトの真似をしながら言えば、二人のメイドは噴き出して笑った。

三人の笑い声が、風に乗って庭先にふわりと広がっていく。洗濯物の間をすり抜けるように吹き抜ける風は、離れの荒れた空気とは反対に穏やかだ。


「でもあのお坊ちゃま、毎日何かしら壊してるけど……そろそろ壊す物なくなるんじゃない?」


ポニーテールのメイドが布を物干し竿に掛けながら、少し首を傾げる。


「うーん、机はまだ無事ですぅ。あと椅子も。あとあと棚も~」


末っ子メイドが指折り数えながら、いたずらっぽく笑った。


「いやあね。本当にあの部屋なんにも無くなっちゃう」


グレーの髪をまとめ、眼鏡をかけているメイドが呆れたように笑って洗濯籠を持ち上げる。


「っていうか旦那様って本当に容赦ないよね。一応公爵家の子に掃除までやらせるなんて」


「婚約者に酷い事したんだもの当然よ!女の敵だわ!」


「そうです~!あのお坊ちゃま、ぜーんぶ自分で片付けてるの見ましたもん。だったら最初から散らかさなきゃ良いのに!」


「ふふ、想像しただけで笑える。自分で散らかしたのを片付けるのってどんな気持ちなのかしらね?」


三人はまた顔を見合わせて、くすくすと笑った。

その笑いには皮肉と、少しの哀れみと、愚かな男に対する毒が混ざっていた。

離れの窓は閉ざされていたが、未だに何かを蹴るような鈍い音が微かに聞こえてくる。もはや日常茶飯事となったそれをメイド達は気にする様子もなく、洗濯物を干す手を止める事はない。


「さて、次に壊れるのは……何に賭けますぅ?先輩方っ!」


末っ子メイドが笑いながら言うと、ポニーテールのメイドが即座に答える。


「私は窓に一票。まだ割れてないの、奇跡でしょ」


「毎日地団駄踏みすぎて、先に本人の足が壊れそうだけどね」


三人目のメイドがさらりと言うと、また笑いが弾けるのであった。




ダブルワークが始まりまだちょっと多忙です

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