08
翌日曜日。町に帰るため、朝、駅に来てみると、学生服の集団に遭遇した。
そしてはじめて、今日が高校入学試験日だということに気づいたのだ。自然、一吉の足が止まる。彼ら、彼女らの学生服は、一点の汚れのない上等品だった。そしてその服に包まれた肉体は、その服に見合う、美しくも賢い人たちであった。そう、人種が違うのだ。
汽車に乗るためには、この選良らの注視の中、彼らの流れに逆らう方向へ歩かねばならぬ。気後れした。一吉は、どうにも動くことができなくなってしまったのである。
と、受験者たちが、三々五々と動き始めた。みな、同じ方向に歩き出している。
一吉はたった一人取り残される恐怖に取り憑かれた。その疎外感を思うといたたまれなく、おのれもまた、彼らの中に混ざり、歩き始めてしまったのであった。
だが、そうすると今度は視線が気になった。ホラあいつを見ろよ、明らかに勘違いしているぜ、間抜けだな。
真実は、誰も一吉のことなんぞ気にもかけてなかったのだが、彼にとっては本当のことだったのである。一吉、自分が後ろ指さされる行為をしていることに気づいたものの、ここまで来て、隊列から離脱するという、今以上に悪目立ちする行動は、できるものではなかった。どこまでも、彼らと一緒になって歩くしかなく、針の筵に座らせられたかのような時間を過ごしたのだった。
だがそれも高等学校の門前までであった。まさか、まさか門の内側にまで入り込むという大それた事、一吉にやれるわけない! そこで再び駅に引き返し始めたのだが、彼はそこで漸くである。生涯にわたる一大失策を犯していたことに気づくのだ。逆送、すなわち受験生らと、まともに正対しながら歩かねばならぬという事態である。自分の頓馬さ加減が悔しくて、涙を隠すのに苦労した。いったい俺は何をやっているのだ。死ぬほど恥ずかしかった。わざと怒った顔を作り、ずんずんと歩いた。もはや、そうするしかなかったのである。