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一吉は小学生のうちに経絡を理解し、正穴三百六十一穴、奇穴二百五十穴もの、経穴すべてを覚えてしまった。実技でも針を器用に操り、卒業間際にはもう、小僧ながらもいっぱしのはり師になっていた。これは父、小吉郎をさらに超えた上達ぶりなのであった。
小吉郎は平素と変わりなく厳しくしごいたが、内心では息子の成長を喜んでいた。そこで、中学校進学を機に、喜兵衛に相談をもちかけたのである。
喜兵衛は頷いた。
「これ……かずや。“煙”を、継ぐかえ……?」
すでに体験済みの一吉にとって、それは秘密のものではなく、逆にいつになったら教えてくれるのか、待ち望んでいたものだった。
平家毛抜きの術。この法において誰よりも高みを行く喜兵衛が、その最高のものを一吉に注ぎ込んだ。
二年後、喜兵衛は天寿を全うした。満足げな顔であった。