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第52話 殺し屋としての最後の仕事

 七志は藤田を観察しながら、一旦口を閉じた。


 ——俺を消滅させたい理由はひとつ……。


 先ほど口にしたセリフが脳内で響いている。


「そ、それは、な、なんだ……」


 藤田が切れ切れに言葉を発した。

 あきらかに動揺している。

 その様子をじっと見つめながら七志は口を開いた。


「俺がじいさんの目的を邪魔するからだ。違うか?」


 七志は間を置き、藤田の反応をじっくりと見た。

 唇をかすかに震わせて黙っている。


「おそらく、目的はこの世界に居続けて仲間を作ること。

 どうしてそんなものが欲しいのかさっぱり理解できないが、あんたには重要なんだろうな」


 明言は避けたが、藤田が仲間にこだわる理由は察しがつく。

 孤独を極度に恐れ、それを回避するために共通の目的を作って仲間を得る。

 加えて藤田は情報を独占。

 それらを使い、新たに世界にやってくる者から頼られて自己肯定感を高めていく。


「だから、奪う」


 七志は目を見開いた。

 獲物を狙う視線で藤田を射抜く。


「誰ひとり仲間がいないこの世界で、あんたは寂しくさまよい続ける。

 最初のうちは耐えられるだろうが、次第に孤独に負けて発狂してしまう。

 そうなったとき、あんたは心と頭がからっぽになって死ぬ」


 七志は一気に話したあと、藤田の反応をうかがった。

 肩を震わせ、口をもごもごと動かしている。


「俺はこの世界にやってくる者を片っ端から土蛇に襲わせて消滅させる。

 そうやって、俺とあんただけが存在する世界を作りだす」

「……冗談じゃない」


 藤田がかすかに震えている。


「だったら世界から脱出すればいい……ああ、消滅するのもありか。

 そうしたら、俺に殺されずにすむぞ」

「ここはやっと得られたわしの居場所だ。奪われてなるものか」


 藤田は眉間に皺を寄せ、歯軋はぎしりしている。


「ああ、その意気だ。頑張れよ。

 あんたは現実世界では仲間も居場所もなかった。

 だから、この世界で必死に得ようとしている」

「な、な……」


 藤田が手を震わせながら言葉を漏らす。


「だが、残念だったな。

 この世界でも結果は変わらない。

 あんたは孤独に押しつぶされる」

「そうはならん。わしは現実世界でもひとりで戦ってきた。

 邪魔をされて仲間が得られなかったとしても、孤独に押しつぶされたりせん!」


 口から唾を飛ばしながら藤田が吠える。


「それはどうかな。あんたは現実世界で孤独に耐えられなくなって死のうとした。

 だから、いまこうしてここにいる。違うか?」

「そ、それはっ」


 途中で口を閉ざし、そのまま黙った。


「あんたは絶対に耐えられない。

 この世界で終わりのない時間を孤独と共に過ごして、いずれ死を望むようになる。

 だが、どうやっても死ねない」


 七志は話しているさなか、異変に気づいた。

 藤田に悟られないように視線を上げる。

 灰色の雲の一部が漆黒に染まっていた。


「そのとき、あんたはどうするだろうな。

 世界から脱出しようと躍起になるか、それとも消滅しようと土蛇に飲みこまれるか。

 いいか、絶対にそんなことはするな。

 この世界で孤独に生きろ。

 あんたに苦痛を与えて発狂させたら、俺の殺し屋としての最後の仕事が終わる」


 漆黒の雲が落下していくのを視界の隅にとらえた。


 新たな奴がこの世界にやってくる。

 じいさんより先に出会い、土蛇に襲わせて消滅させなければならない。


 そろりと一歩後退した。

 藤田はその動きに気づいていない。

 七志が言った言葉のどれに反応したのかわらかないが、ショックを受けているようだ。


 じいさんがほうけている隙に行こう。


 全神経を集中させて藤田を警戒しつつ、忍足でさがっていく。

 藤田の死角まで忍んでいき、一気に加速。

 雲が落下した場所を目指す。


「なに!? あっ、し、しまった」


 藤田が上を向いた。

 ようやく雲の存在に気づいたらしい。

 おろおろする藤田の横を七志が駆けぬける。


 じいさんが新たにやってきた奴に取りいる前に消滅に導く。


 七志は目的を明確にし、走っていく。

 背後から藤田が追ってくる気配を感じない。

 藤田に向けていた警戒を解いた瞬間、側方の枯れ木林から新たな脅威に気づいた。


 しまった。


 枯れ木の隙間から土蛇が這いだし、七志を追い越す。

 後端が七志と並んだあたりで先端が行手を阻むように、くるりと回りこんできた。

 のの字を描くように七志に迫りくる。

 前後左右、どこを見ても土蛇だ。


 逃げ場がない。 


 藤田にばかり気を取られて周囲に警戒を怠ったことを後悔しながら、同時に観念した。

 土蛇が素早く鎌首をもたげ、七志に向かって急降下。


 飲みこまれる。

 逃げ道はどこにもない。

 ……逃れられない。

 あとは消滅せずに脱出できるのを祈るだけ。


 七志は土蛇に飲みこまれた。


 

 ※※※


 七志はいつもと同じ時刻に起床した。

 寝転がったまま天井を見つめ、深いため息をつく。


 心が重い。

 どうしてなんだ?


 七志はもう一度ため息をついた。

*月・水・金曜日更新(時刻未定)

*カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/16817330647661360200)で先行掲載しています。



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