表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/57

第43話 一枚の紙

 綾香は岩場に隠れて座り、ため息をついた。


 自らの行いを後悔している。

 いくら藤田が逃げろと言ったからといって、従うべきではなかった。

 取り残された藤田が無事とは思えない。


 ——用がすんだら解放してやる。


 七志は言った。

 

 あんな奴の言葉なんて信じられない。

 なのに、どうして逃げたりしたの?


 自問した瞬間、答えがぼんやりと浮かんできた。


 あのときと同じ。

 自分が助かるために他の誰かを犠牲にした。


 心臓がちくりと痛む。


 あいつの言葉を信じる、信じないかなんて関係ない。

 わたしはわたし自身がかわいいだけ。


 支えきれないほど頭を重く感じはじめ、自然と視線が下がっていく。

 感情が乱れ、押しよせてくる。

 その波に耐えきれなくなり、思いを涙という形で発散させようとした矢先……。

 強い力で腕をつかまれた。


「痛っ」


 何事かと顔をあげるといつの間にか七志がいた。


「読め」


 七志が紙を差しだす。


 これって前に持っていた紙よね。

 どうしてまた……ううん、違う。

 確か前の紙はわたしが奪ってそのままなはず。


 ゆっくりと手を動かし、ポケットを探った。

 指先に紙が触れる。

 七志がいま差しだしているのは別の紙だ。


「また紙? どういうことよ」

「いいから読め」

「命令しないで。そもそも、あなたのためになにかする義理はないわ」

「……約束は守った。だから」


 七志がぼそっと言った。


「約束?

 あっ、藤田さんを解放したの?

 いまどこにいるの?」

「解放後のことまで面倒みられるか。

 それより、読め」


 七志が紙を押しつけてくる。


 執拗しつように読めというのには理由があるに違いない。

 綾香は七志を警戒しつつ、目を紙に向けた。

 先頭に書かれた文字を読んだ途端、息を飲んだ。


『地中地獄』


 言葉の意味がわからない。

 だが、聞き覚えがある。

 初めて耳にしたときのことを思い起こした。


 土蛇に襲われたら助かる方法はないのかと七志が質問したのを覚えている。

 それに対して藤田は答えた。

 地中地獄に放りこまれたら消滅させられる、と。

 

 あれ?


 思考を止めた。


 紙を持つ七志は地中地獄という言葉を以前から知っていたことになる。

 それなのに、藤田に助かる方法を質問した。


 なぜ?


 首を傾げた。


 そういえば、あいつ、あの紙は拾ったものじゃないと言っていた。

 だったら自分で書いたものかと聞いたら、そんなわけないと答えていた気がする。

 だったら、この紙はなんだろう。


 答えに辿りつけず、苛立ちまじりに紙を睨んだ。

 そのとき、紙の上辺に目が止まった。

 千切ったようにギザギザしている。

 それを見てひらめいた。


 前に七志から奪った紙をポケットから取りだし、四辺を探る。

 下辺が真っ直ぐではない。


 もとは一枚の紙だ!


 前に奪ったものを上、いま手渡されたものを下に配置。

 すると、千切れた部分がぴったりと合わさった。


 どうしてふたつに千切れているの?


 綾香はちらりと七志を見た。


「自分のものでもなければ、拾ってもいないってどういうこと?」


 綾香は単刀直入に聞いた。


「ああ、これのことか」


 七志が紙を指す。


「答えて」

「その前に読め」

「……地中地獄ってなに?」

「答えになってない」

「地中地獄」


 仕方なく綾香ははっきりと答えた。


「……じいさんが言ってただろう。

 本当か嘘かわらかないが、土蛇に襲われたら放りこまれるところだって」

「ええ、そうね」


 相槌あいづちを打ちながら妙な違和感を覚えた。

 会話にどことなくずれを感じる。

 それだけではない。

 七志の言葉が引っかかった。


 本当か嘘かわからないが——。


 当初から七志はなにかにつけ藤田を疑ってかかっていた。

 理由はわからないが常に警戒し、質問をするときは含みを持たせていた気がする。


『土蛇に襲われても助かる方法はないのか?』

『本当に方法はないのか?』


 返答が得られても、七志は再度念押しするように聞きかえした。


『ない。あればこれまで一緒にいた仲間を助けられた』


 それに対し、藤田は迷わずに答えた。


「あっ!」


 思わず叫んだ。


 綾香は違和感の正体に気づいた。

*月・水・金曜日更新(時刻未定)

*カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/16817330647661360200)で先行掲載しています。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ