表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/57

第35話 尋問

 七志は藤田を睨んだ。


 綾香の姿が見えなくなると途端に藤田が態度を変えた。

 襲われた恐怖を微塵も感じない。

 息苦しそうに咳きこみ、弱々しくしていたのは芝居だったのかと疑いたくなる。


「用件はなんだ?」


 藤田が不敵に微笑んでいる。


「えらく余裕だな、じいさん」

「いや、そうでもないよ」

「嘘がバレたからか? それとも紙の一部を奪われたから?」

「どちらも正解。でも、不正解でもあるな」


 藤田は答えながら、降参の意味であるタップアウトするように七志の右腕を数回軽く叩いた。

 目的を達するまでは解放できない。

 できるのはせいぜい力を加減することだけ。

 逃げられないよう藤田の首をしっかりとホールドし、力を抜いた。


「どういう意味だ」

「最初は焦ったよ。

 わしの嘘がバレたのもメモの存在を知られたのも初めてだったからな。つまり正解」

「不正解は?」

「七志くんになにを知られようが、わしには信じてくれる仲間がいる。

 だから、焦る必要などない」

「なるほど。あの女さえ信用してくれれば、俺がなにをしようが問題ないって考えだな」

「綾香ちゃんの信頼……それは正解。

 だが、七志くんの行動は問題ありだ。

 なにせ、きみの言動は予測不能だからな。

 いつわしの邪魔をするかわからん」


 藤田が挑むように上目遣いで七志を見ている。


「俺が襲ってくるのは想定していたか?」

「ああ、いずれくると思っていたよ。

 きみは目的のためには手段を選ばないタイプだからな。

 こんなに早くにくるのは想定外だったが……」

「なら、話は早い」


 七志は再び藤田の首を絞めた。


「隠している情報を吐くんだ」

「知っていることは全部話したじゃないか」


 息苦しさに耐えながらも藤田は嘘をつく。


「いや、じいさんは知っているはずだ。

 消滅とはなにか、世界から脱出する方法……」

「知らん」


 右腕に込める力を一段あげた。

 藤田が苦しそうに悲鳴をあげる。


「絶対に知っているはずだ。

 嘘をついたり情報を隠したりする理由なんてどうでもいい。

 あんたがなにを企んでいようが興味もない。

 ただ情報がほしいだけだ」


 藤田のやろうとしていることに関与しないと譲歩し、なんとかして情報を得ようとした。

 だが、藤田は答えない。


 なにがなんでも口を割ってもらう。


 七志はありったけの力を右腕に込めた。

 首を圧迫し、完全に息ができない状態に持ちこむ。

 藤田が手足をばたつかせて苦しんでいる。

 それでも答える素振りをみせない。


 そっちがその気なら仕方ない。


 七志は左手でナイフを取りだした。

 すぐさま藤田の心臓に刺す。


「ぐぼっ」


 潰れた声が藤田の口から漏れる。

 続けて肉をえぐるように刺した状態のナイフを動かす。

 息苦しさと痛みとで藤田の顔色が変化していく。


「やめてほしければ話せ」


 七志は藤田が口をきける程度まで右腕の力を抜いた。

 藤田の唇が震えながら動きだす。


「……みろ」


 藤田が口を開いた。

 声は弱々しいが、目はしっかりとしている。


「殺してみろ」


 藤田の言葉に七志は舌打ちをした。


 やっぱり一筋縄ではいかないじいさんだな。


 この世界では殺せない——。


 そのことがわかっていて藤田は言っている。

 どんなに首を絞めて窒息させようとしても、ナイフで心臓を刺しても、苦痛や痛みを感じるだけで死なない。


「殺し屋ならわしを殺してみろ!」


 挑発するように藤田が感情を込めて叫んだ。


「いい度胸だ。

 殺すのは無理だが、話したくなるくらいまで痛めつけてやる」


 七志は右腕を離し、素早く手で藤田の喉をつかんだ。

 握力で喉を潰し、空気の通りを阻害する。


 どんなに酷い拷問をやろうが絶対に死なない。

 その事実が自制というストッパーを外した。


 心臓に刺したナイフを勢いよく抜き、けい動脈を切る。

 そこから血が流れていく。


 このまま放置すれば普通は失血死する。

 だが、この世界ではそのうち血が止まるから死なない。

 だから、七志はそうなる前に再度、頸動脈を切った。


 藤田はいま、痛みと息苦しさなどの様々な苦痛を味わっている。

 死はある意味、救いだ。

 死ねば全ての苦痛から解放される。

 ところが、この世界では死の恩恵にあずかれない。


 そろそろ話してもいい頃だ。


 殺し屋としての経験上、藤田はとっくに耐えうる限界を超えている。

 この世界の死なないという特殊性を加味しても、ここまでだと判断した。

 だが、藤田は話そうとしない。


 じいさん、耐えるつもりなのか。


 尊敬を通りこして呆れてくる。

 死なないとわかっているとはいえ、ここまで我慢できるなんて。

 普通は目先の痛みから逃れるため、取り引きに応じるものだ。

 

 ……。


 普通じゃないのか?

 

 一瞬、疑った。

 だが、すぐに違うと打ち消す。


 耐えているわけじゃない。

 直感した。

 それと同時にはっとした。


 まさか。

 ……いや、その可能性が高い。

 

 試してみよう。

 

 七志は藤田の人差し指をつかんだ。

 ちらりと藤田に視線を送り、指の爪をゆっくりといでいく。


 これで白状しないようなら、俺の予想通りじいさんは……。

 さぁ、どう反応する?


 七志は藤田の苦悶くもんに歪んだ顔を眺めた。

*月・水・金曜日更新(時刻未定)

*カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/16817330647661360200)で先行掲載しています。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ