表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/57

第33話 じいさんの目的

 七志は腕組みをした。


 あのじいさんは間違いなく嘘をつき、隠し事をしている。

 それはなぜ?


 根本的な疑問が浮かんだ。

 それらには必ず理由があり、意図がある。

 最初から順序立てて考えていけば、新たな発見があるかもしれない。


 じいさんの目的はなんだ?


 出会ったとき、この世界から脱出するために情報を共有したいと言っていた。

 だが、それが本心とはとても思えない。

 なぜなら、言葉とは裏腹に情報を聞きだすだけで、自らは語ろうとしなかったからだ。


 本気で脱出を目的とするなら、情報を開示して全員で解決策を練るだろう。

 ところが、藤田は質問役に徹していた。

 七志がその点を追求してようやく口を開いたが、出てきた情報は嘘八百。

 脱出したい者の行動とは思えない。

 むしろ、その反対。

 つまり、世界からの脱出は目的ではない。


 次なる可能性を発見しようと、出会った頃からの記憶を辿っていく。

 藤田は情報共有のための協力関係を提案し、共に行動するよう求めた。


 なぜだ?


 引っかかりを覚えた。


 俺と行動する必要はない。

 情報をやり取りすればいいだけだ。

 引っかかることは他にもある。


 脳裏に綾香の姿が思い浮かんだ。


 あの女の俺に対する態度が一般社会では普通だ。

 拳銃を持っている奴に恐怖を抱き、避けようとする。

 一緒に行動するなど考えるはずがない。

 この世界が異常だという特殊事情があるにせよ、じいさんの行動は不可解だ。


 なぜ、あの女みたいに俺を排除しようとしないんだ。

 じいさんに対して卑怯だの嘘つきだの言ったのに、俺を追いだそうとしないのはなぜ?


 ……。

 わからない。


 七志は激しく頭を振った。

 藤田の目的はもちろん、嘘をつく理由もわからない。


 一般的に人間は自らの利益のために嘘をつくことが多い。

 藤田も例外ではないだろう。

 土蛇に襲われたら脱出できないという嘘には、藤田にとっての利益が含まれている。


 それはなにか?


 考えてみたが、答えが出てこない。

 だが、嘘をつくことで得られる利益が必ずあるはずだ。

 そう確信して別の方向から考えてみる。


 じいさんが嘘をついた結果、どうなった?


 変化が生じるとすれば、それを聞いた者の言動だ。

 藤田の嘘を聞いたのは七志と綾香のふたり。

 七志は嘘を見抜き、より一層藤田を警戒するようになった。


 土蛇に飲みこまれても脱出できる。

 この事実を知っていたのは、たまたまその場面を目撃したからだ。

 もし実際に目にしていなかったら、どうなったかわからない。

 だが、あの女のみたいに完全に信用したりはしない。

 疑いを抱きながらも、脱出できない可能性を残して土蛇に対して警戒心を強めただろう。


 それだ!


 七志は目を見開いた。


 綾香は当初から土蛇に対して恐れを抱いていた。

 追いかけられ、飲みこまれ、最終的には消滅させられる。

 普通のひとなら誰でも恐怖を抱く。

 これを完全にゼロにはできない。

 だが、恐怖の度合いを増減することは可能だ。


 飲みこまれても脱出する方法があるとわかれば恐怖心が下がる。

 反対に飲みこまれたら必ず消滅すると知れば恐怖が増す。


 藤田の嘘は、綾香の心に根づいている消滅という恐怖心をあおった。

 その結果——。

 綾香は土蛇に対する警戒心を倍増させた。

 それはつまり……。


 じいさんはあの女が消滅するのを阻止しようとしてる。

 それが嘘をつく理由だ。


 答えをつかむのと同時に新たな疑問が浮かんでくる。


 なぜ、消滅させたくないんだ?


 綾香に特別な感情があるのかと一瞬思ったが、すぐに打ち消した。

 七志に対しても嘘をついている。


 じいさんからしたら俺は目障りな存在だろう。

 だったら、消滅という形でこの世界から消してしまえばいい。

 どうしてそうしないんだ?

 結果的に別行動を取ることになったが、じいさんがそうしたわけじゃない。

 あの女が俺を排除しただけだ。


 先ほど棚あげした、藤田が七志を追いださない理由がわからない問題に戻ってしまった。


 いや、でも、待てよ。

 思考の入り口はそれぞれ違ったが、結局同じ出口に辿りついている。

 出口とは邪魔者である俺を追いだしもせず、消滅させようともしないこと。

 そこにじいさんの企みのきもがある。


 見えてきた。

 じいさんは誰であっても消滅させず、この世界に留めておきたがっている。

 俺ですら共に行動しようと誘ったのだから、一緒にいることが目的なのかもしれない。


 嘘と隠し事の理由がある程度わかった。

 そうなると、藤田がそう簡単に真実を語るとは思えない。

 情報を得るには破れた紙の下部分を奪い、脅してでも吐かせるしかなさそうだ。


 過去の苦しみを味わう消滅より、未知の可能性であるこの世界からの脱出を目指す!


 やるべきことがはっきりとした。

 さっさとここから脱出して死のう。


 目的はただひとつ、死ぬこと——。


 それまでは消滅してなるものか。

 俺はとりあえず生きる。


 死ぬために生きる——。

*月・水・金曜日更新(時刻未定)

*カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/16817330647661360200)で先行掲載しています。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ