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第21話 七志からの警告

 綾香は非常に居心地が悪く、緊張状態にあった。

 どうにかリラックスしようとつま先で小石を蹴ってみる。

 たいして楽しくもないが、体の力が抜けて気持ちが軽くなっていく。


 藤田さん、早く戻ってこないかな。


 視線を前方に移した。

 小高い場所に藤田が立っている。

 ひとりで偵察する姿を目で追いながら、綾香はため息をつく。


 ほんの少し前、藤田は状況を把握する必要があると主張し、自ら偵察役を買って出た。

 それに対して七志は無言でもって承認し、綾香は取り残されたくなくて同行しようとした。

 ところが、藤田はひとりで行くと譲らない。


「偵察しているときに土蛇が現れたら、綾香ちゃんを守れないかもしれない」


 そう言われ、泣く泣く引きさがった。

 確かに偵察しているときに襲われたら、自分自身を守るのに精一杯になるだろう。

 一緒にいては藤田の邪魔になる。


 納得したはずだったが、いざ七志とふたりきりになると後悔の連続だった。

 会話なしの気まずい雰囲気。

 拳銃が近くにあるという恐怖感。

 おまけに、馬鹿だと思われて見下される屈辱感まで加わる始末。


 せめての救いは、先ほどから七志は藤田がいる場所を見据えて置物のように動かないことだ。

 こちらが攻撃を仕掛けない限り、襲ってきたりしない。

 そう考える確固たる証拠があるわけではないが、なんとなく感じた。


 拳銃を持つ七志は確実に危険人物である。

 だが、これまで接してきた限りでは異常者の気配はない。

 それなりに理論的な行動を取っている気がした。

 とはいえ、これ以上関わりあいたくない。


 目を合わせず、会話をせず、適度な距離を保てばきっと大丈夫。


 綾香は足元にある小石をこつんと蹴った。

 それは地面を跳ね、予想外の方向へと飛んでく。

 二、三度地面を跳ねたあと、七志の靴に当たった。

 しまったと声が出そうになるのを堪え、そろりと後退していく。


 そっと、そっと……。

 お願いだからこっち見ないで。


 幸い、七志は小石を気にする素振りはない。

 藤田を見据えつづけている。


 よかった、気づいていないみたい。

 この隙に離れよう。


 綾香は息を殺しながら下がっていき、間合いを取っていく。


「おい」


 ゆっくりと後退しているさなか、いきなり七志が振りかえった。


「ひゃっ」


 驚きのあまり、綾香は間抜けな声を出した。


「……思った以上に動きがのろいな。

 あんだけ時間があってそれだけしか離れてないなんて」


 情けないと言わんばかりに七志が首を横に振っている。


「仕方ないでしょう。

 これみよがしに逃げたら警戒されるでしょう」


「安心しろ、全く警戒してない。その価値すらない」

「ちょっと、馬鹿にしないでよ。わたしは……」

「あんたは馬鹿のままでいい。ただ、警戒する相手を間違えるな」


 七志が意味ありげに視線を藤田に向け、それから綾香に戻した。


「どういうこと?」

「あのじいさんは信用できない」


 七志が綾香に近づき、瞳を覗きこむ。

 恋人以外の異性とこれほど間近で目を合わせた経験が一度もない。

 気恥ずかしさを感じつつ、そのまっすぐな視線に驚いた。

 殺し屋というからには命を奪った経験があるはず。

 だが、瞳に狂気を感じない。


 なぜ? 絶対におかしい。


 綾香は我に返り、視線を外した。


 これまでに出会ってきたなかで七志は一番凶悪である。

 ところが、いまは誰よりも純粋な目をしているように感じた。


 きっと見間違いだ。


 もう一度、七志と目を合わせようと試みる。

 だが、目を見るや否や、反射的に顔を逸らした。

 七志の目は先ほどとは打って変わり、獲物を狙うかのように鋭い。


「……どうして信用できないって思うの?」


 七志から視線を外したまま、綾香が尋ねる。


「さっき、土蛇に襲われたら脱出できないって言っていただろう」

「ええ、覚えている」

「それは嘘だ。とぐろを巻いた状態から脱出できる」


 七志は話しながらゆっくりと後退し、綾香との間隔を広げていく。


「藤田さんが嘘をついていて、あなたが本当のことを言っているって証拠はあるの?」

「ない」

「証拠がないのにあなたの言い分を信じられるわけないじゃない」

「こいつのせいか?」


 七志が腰にある拳銃を指す。


「それもあるけど、藤田さんはわたしを助けてくれた恩人。

 でも、あなたはどう? 無条件で助けてくれる?」


 綾香の言葉に七志が口元を歪める。


「あんた、卑怯だな。

 俺を信用していないくせに助けてもらおうだなんて」

「なっ」

「警告はしたからな」

「警告って?」

「じいさんを信用しすぎて利用されないよう、せいぜい気をつけろ。それと……」


 七志がさがりながら綾香を指差す。


「えっ、なに?」


 わけがわからずあたふたしていると、背後から不気味な音が聞こえてきた。


「後ろ」


 七志は言い終えると同時に背を向けた。

 その後、一目散に走り去っていく。

 綾香は何事かと振り向くと……。

 そこに土蛇がいた。


「いやぁっ」


 土埃をあげながら這いすすんでくる。

 綾香は土蛇から逃れようと必死に走った。

*月・水・金曜日更新(時刻未定)

*カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/16817330647661360200)で先行掲載しています。



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