第20話 嘘をついている
——やっぱりこいつ、馬鹿だ。
七志は女に対してそう思った。
……心のなかで。
それなのに、見事に感情を読まれてしまった。
「なぜだ?」
聞かずにはいられなかった。
「なんとなくよ」
「そんな適当な言葉でごまかすな」
「ごまかしてないわ。本当になんとなく……」
隠している、そう感じた。
俺の知らないなんらかの方法で本心を見抜いたはず。
なんとしても知りたい。
七志は腰に差した拳銃に手をやった。
綾香は拳銃に対して恐怖心を持っている。
撃つ気はない。
勝手に恐怖を感じたり、脅されたと勘違いして話してくれるのを待つ。
「お願いだから撃たないで」
綾香の視線が拳銃と藤田にあいだで行ったり来たりしている。
藤田に助けを求めているようだが、当の本人は気づいていないのか、それともあえて放置しているのか動かない。
「だったら話せ」
「話せといわれても、なんとなくはなんとなくとしか言いようがなくて」
綾香の視線が泳いでいる。
「それはあれだ」
突然、藤田が閃いたように手を打った。
七志と綾香が一斉に藤田のほうを向く。
「あれってなんですか?」
綾香がすがるように藤田を見ている。
「あれだ。ほれ、女の第六感ってやつ」
「そう。それよ、それ」
ほっとしたような表情を浮かべ、綾香が藤田の答えに同調した。
「女のなんだって?」
「第六感」
勝ち誇ったように綾香が答える。
「それは女にしかないのか?」
「えっ? 本気で聞いてるの?」
綾香は馬鹿にするようでもあり、呆れたようでもある微妙な表情をしている。
「もういい。じいさん、話を続けよう。
ここに来てからどれくらい経ったかが不明なのはわかった。
次の質問だ。
この世界でこれまで何人と出会った?」
心を整えながら質問を投げた。
「正確には覚えておらんが、二十人程度かな」
「それって多いのかな、少ないのかなぁ」
綾香が小首を傾げた。
「どうだろうな。
なかなか出会えないときもあれば、綾香ちゃんと七志くんみたいに短期間で頻繁に会えることもある」
「出会った奴らはそのあとどうなった?」
「別行動した者たちに関してはわからん」
「俺らのように一緒に行動した奴らは?」
「土蛇に襲われて消滅した」
藤田はうなだれた。
「なるほどな。ところで、土蛇に襲われても助かる方法はないのか?」
七志はなにひとつ見逃すまいと藤田を観察した。
「ないな。襲われたら最後、地中地獄に放りこまれて消滅させられる」
藤田がすらすらと答える。
これに対し、七志はふたつの疑問が浮かんだ。
「本当に方法はないのか?」
疑問のひとつを解消しようと再度尋ねる。
「ない。あればこれまで一緒にいた仲間を助けられた」
もっともらしいことを藤田が答える。
嘘だ。
心のなかで指摘する頭の片隅で先ほど目撃した場面が浮かんでくる。
土蛇がとぐろを巻いたあと、飲みこまれた男は消滅せずに自力で脱出した。
なぜ脱出できたかは不明だが、方法はあるということだ。
もしかすると藤田が本当に知らない可能性もある。
だが、もしそうなら助かる方法がないと断言したりしない。
知らないと言えばいいだけのこと。
知っていて隠していると考えるのが自然だ。
これで疑問のひとつは解決。
「なるほどな。じゃあ、地中地獄ってなんだ?
放りこまれたら消滅するって情報はどうやって得たんだ?
土蛇に飲みこまれると助からないのなら、どうして地中地獄があるってわかったんだろうな」
「ああ、そう言われればそうだな。
この情報は、わしがこの世界に来たばかりの頃に先住者から聞いたんだ。
なぜ、いままで気づかなかっただろう」
話しているさなか藤田の指先が微かに震えたのを七志は見逃さなかった。
嘘をついてる。
脳裏に七志自身の体験がよみがえってくる。
土蛇に飲みこまれると、理由はわからないが走馬灯のように過去の出来事が浮かんできた。
これが地中地獄なのかと一瞬考えたが、すぐに打ち消した。
藤田の指先の動きから嘘だというのは明らかだ。
そのうえ、土蛇に飲みこまれて嫌悪感を味わったが、地獄と呼ぶほどの恐怖感はなかった。
地中地獄があるのかないのかは不明だ。
もしあるとしても、俺が体験したあれとは違う別のものだろう。
息を吐きながら再度藤田を見た。
わずかながらもまだ指先が震えている。
なぜそんな嘘をつく必要があるのかわからない。
だが、なにかしら意図があるのは間違いない。
それは一体なんだろう。
「藤田さんが気にする必要ないですよ。
先住者のひとも、そのまた前の先住者から聞いた話かもしれないし」
フォローするように綾香が言った。
あの女、完全にじいさんを信じきっているな。
疑うってことを知らないのか。
このままだとじいさんにいいように利用されるぞ。
警戒するに値しない存在だから放っておけばいい。
利用されようが七志には関係のないことだ。
だが、妙に気になってしまう。
なぜだろうと考えたとき、不意に思い至った。
あの女、なにかに似ている気がする。
答えが手の届くところまで来ている。
どうにかしてそれを手繰りよせようとした。
あれは……。
つかもうとしたところでやめた。
助けるつもりはないが、警告くらいはしておくか。
じいさんと結託されたら面倒になりそうだからな。
答えの片鱗を発見したところで、あえて詮索するのをやめた。
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*カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/16817330647661360200)で先行掲載しています。




