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第15話 頭を撃たれた死なない男たち

 藤田は銃声を耳にした。

 反射的に身を屈め、辺りを探るように視線を走らせる。

 近くには綾香の他に誰もいない。


 一体どこから聞こえてきたんだ?


 見える範囲にそれらしき人物は見当たらない。

 銃声が聞こえてきた方向には、枯れ木が立ち並ぶ視界の悪い場所がある。

 可能性があるとすればそこだ。


「ふ、藤田さん。いまの音ってもしかして……」


 綾香がすがるような視線を送ってくる。


「銃声だな」

「じゅ、銃!?」


 身を震わせ、綾香が藤田に近づく。


「大丈夫だ、心配はいらん」


 気持ちを落ちつかせようと綾香の肩を軽く叩いた。


「で、でも、銃声がしたってことは……」

「撃った奴がいるな」


 心が躍りたってくる。


「やっぱりそうですよね」

「ようやくわしら以外の人物に出会える」

「ちょ、ちょっと、待って。

 まさかとは思うけど、会いにいこうなんて考えてませんよね?」


 綾香が顔を覗きこんでくる。


「思ってる」

「仲間にしようなんて思ってませんよね?」

「考えてる」

「反対です」


 駄々っ子のように綾香が言った。


「どうして? 仲間を集めるって決めただろう」

「それはそうですけど、拳銃を持っているようなひとを仲間にするのは反対です」

「目的のためには手段は問わない」


 藤田は綾香の説得を無視し、銃声が聞こえた方角に向かって歩きだす。


「目的ってこの世界から脱出すること?」


 背後から綾香が早口で質問してきた。

 藤田はなにも答えず、歩きつづける。


 どんな奴だろうが構わない。

 この世界にやって来た者であるならば。


 歩きながら後ろを振りかえった。

 綾香が所在なさそうに立ちつくしている。


 彼女もまたこの世界にやってきた仲間になるべき貴重な人材だ。

 放置などしない。

 手を差しのベなくても自ら進んでついてくるはずだ。

 わしにはわかる。


 綾香を一瞥し、藤田は真正面を向いた。

 歩く速度をあげていく。


 再び銃声がした。

 二度目の銃声が響きわたる。


「待って、わたしも行く」


 綾香が叫んだ。

 足音がどんどん近づいてくる。

 そのたびに藤田の胸は高鳴った。


 ひとりじゃない、仲間がいる。


 藤田は足を止め、振りかえった。

 綾香が駆けてくる。


「怖くはないか?」


 綾香が横に並んだところで話しかけた。


「怖い。けど、藤田さんが一緒なら心強いです。

 なにか起こったとしても、土蛇のときみたいに助けてくれるだろうから」


 綾香がにっこりと微笑む。


「もちろんだ。力の限り綾香ちゃんを守ってみせるよ」

「ありがとうございます」


 綾香が軽く頭をさげた。


「じゃあ、行くとするか」


 ふたりは並んで歩きだした。

 銃声が聞こえた方角にある枯れ木が立ち並ぶ場所に向かっていく。

 そこを抜けると一気に視界が開けた。


「藤田さん、隠れて」


 綾香が小声で言いながら、藤田の袖を引っ張った。

 言われるままに藤田は身を屈める。


「あそこを見て」


 綾香が指を差す。

 その先に男がふたりいる。

 ひとりは中肉中背で呆然としており、残るひとりは背が高くて細身で手には拳銃が握られていた。

 より詳細な情報を得るため、気づかれないように注意しながら近づいていく。


「な、なに、あのひとたちの頭」


 震えた声で綾香が呟く。

 藤田は目を凝らし、ふたりの男の頭部を見た。

 どちらも側頭部が血に染まっている。


 一体、どういう状況なんだ?


 頭が混乱した。

 どう見ても死んでもおかしくないほどの怪我を負っている。

 にも関わらず、どちらも死んでいない。


「銃声、二回しましたよね?」


 綾香が尋ねてきた。

 藤田は無言のままうなずく。


「ふたりとも頭を怪我している。

 一体、どういうこと?」


 綾香が腕を組み、思案している。


「拳銃で互いに頭を撃ちあったか、もしくはどちらかが自分と相手を撃ったか」


 藤田が思いつく可能性をあげた。


「えっ?」


 綾香が頓狂とんきょうな声を発した。


「なにかおかしなことを言ったか?」

「おかしいというかそれ以前の問題なような気がして」

「それ以前?」

「どちらが撃ったにせよ、普通、頭を撃たれたら死にますよね。

 それなのにあのひとたち、ぴんぴんしてる」

「ああ、そうだな。

 この世界に長くいすぎて、感覚がおかしくなっていたようだ」


 藤田は立ちあがった。


「驚かないんですか?」

「この世界では我々の常識は通用しない」

「そうですね。

 土でできた蛇が動いてひとを襲ったり、消滅させたりしないですよね、普通は。

 ここではなにが起きてもおかしくない」


 自分を納得させるように綾香が言った。


「綾香ちゃんはすごいな。

 ここに来て間なしなのに、もうこの世界に適応しておる」

「藤田さんのおかげですよ。

 わたしひとりだったら怖くてなにもできなかったはず」


 綾香からの視線が信頼に満ちているのを藤田は感じた。


「じゃあ、行くか」

「えっ、どこに?」


 綾香の問いに答える代わりに藤田はふたりの男を指した。


 新たな情報が得られるかもしれない。

 加えてふたりも仲間が増える。


 久々の僥倖ぎょうこうに心が躍る。

 藤田は男たちがいるところへ向かって歩いていく。

 だが、綾香はついてこない。

 おそらく、拳銃を持つ男に恐れを抱いているのだろう。


「大丈夫」


 藤田が声を掛けた。

 それは綾香ばかりでなく自身に向けた言葉でもあった。


 拳銃を持つ者に対する恐れはある。

 生まれ育った世界なら一目散に逃げるだろう。

 だが、ここは常識とはかけ離れた世界だ。

 先住者として情報量で誰より優位に立っている。

 おまけに、拳銃で撃たれても死なないことは既に男たちが証明しているから恐れる必要はない。


 綾香は無言ながらも深くうなずき、歩きだした。

 少しずつ男たちに近づいていくさなか、呆然としていた中肉中背の男に動きがあった。


「だめか。やっぱり死ねない!」


 悲痛な叫びと共に走りさっていく。

 残された長身の男は走っていった男を追わず、逆方向へと歩きだした。


 どちらを追うべきか。


 藤田は立ちどまって思案した。


 逃げさった男の言葉が気になる。

 それと同時に残った男にも興味があった。


 仲間にするならどちらがふさわしいだろう。


 考えた末、視線が拳銃を持つ男に向いた。


 逃げた男は死にたがっている。

 そんな奴を仲間するのは至難の業だ。

 だが、拳銃を持つ男もまた難しく、一筋縄ではいきそうにない。

 せっかく巡ってきた機会だ。

 なんとしてもものにしなくては。


 藤田は心を決めた。

*月・水・金曜日更新(時刻未定)

*カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/16817330647661360200)で先行掲載しています。



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