08
感動の再会を終えた後、落ち着いた家族から事情説明を求められたトウカは南條の膝の上から説明することになった。
何故膝の上に固定されているのかは南條しか知らない。
「・・・」
「椅子の数的に仕方ないですよね」
「人の髪で遊ぶのをやめてから言え」
黒髪でもさらっさらなトウカの長髪で遊ぶのはこれからの南條の趣味の一つになる。
「それで、何があったんだ斗也」
「何があったらそんな姿になるの?」
「兄さんはこれから私の妹ってこと?」
「えーと、簡単に言うと俺は一回死んだ!で、その後に蘇ったらこんな姿になってた!とりあえずはこれが全部!」
「適当過ぎますよ」
南條に突っ込まれるが、そこを確かにしておかないとこれからの話が理解できなくなるとトウカは考えていた。
だから、家族にあの死体は本物だと認識させたところで話を続ける。
「まず俺は魔女っていう魔法を使える存在になって、トウカと名乗ることにした。魔法はこんな感じで、『変化』」
昨日南條が暴走した金髪碧眼に変身する。
変身した瞬間、南條は頭に鼻を突っ込んでクンクンし始めた。
それと同時に他3名も驚きに目を飛び出させた。
「ぬっ!!」
「まあ!!」
「え、なにそれ可愛い!!」
藍子も衝動的に横からトウカに抱きつき、その金糸の如き髪に触ったり澄んだ碧眼を覗き込む。
「うわぁ、うわぁ、いいなぁ!私もこんな綺麗な金髪になりたい!兄さんだけずるくない!?」
「いっはんほっぺちゃからはなしぇー!!」
父はその姿の変わりように魔法というものが本当に存在したのかと驚き続け、母は久々に娘の着せ替えを楽しもうかなどと微笑みながら考えている。
魔法を解除して背中と横の邪魔者を剥がしたトウカは説明を続ける。
「で。俺は蘇る際にとある使命を全うしなければいけなくなった。それを母さん達にも手伝ってほしいんだ」
「ええ、私たちに出来ることなら何でも言ってちょうだい」
「まあ、父さんたちに出来ることなんてそんなに無いと思うんだがな」
「いや今一番の問題を解決出来るのは二人だけなんだ。俺を養子にしてくれ」
養子にしてほしいという要望に純粋な疑問を抱く父。その訳を問う。
「全然構わないがどうしてそれが一番の問題なんだ?」
「今の俺は戸籍が無い。戸籍が無いから学校に入学出来るかも分からないし、携帯の契約も出来ないし、銀行の通帳も作れない」
「ああ、なるほど。その上司も戸籍までは用意してくれなかったのか。確かに現代で戸籍無しで生きるのは色々面倒だろうな」
「俺が亡くなったばかりで養子縁組をすると近所から変な目で見られるかもしれないけど、お願い」
「そんなこと気にしなくて良いのよ。むしろ斗也、いえトウカが言わなくても私から養子縁組を組んでいたわ」
「・・・ありがとう、母さん」
母の愛についしんみりとした気持ちになるトウカ。しかし養子縁組の話を聞いた藍子はそんな気持ちを破壊する。
「てことは正式にトウカちゃんは私の妹なのよね?じゃあ早速服を買いに行かない?その恰好すごい寒そうだからもっと可愛くて暖かいのにしないと!」
「あ、妹さんもそう思いますか?私も他の可愛くて暖かいのにしましょうって言ったんですけど、寒くないからって先輩このまま家を出て~」
「それなら私も一緒に行くわ。黒髪の状態の服も欲しいし、金髪の時の服も欲しいわよね」
「ていうかさっきのが魔法なら何色にも変えられるのよね?もしかしてトウカちゃん、至高のコスプレイヤー素材じゃない?」
息子が生きていたという安堵から元の精神状態に戻り、極上の素材を飾り立てる事に全力を出し始めた母と妹と後輩。
姦しい三位一体の「可愛く」「着替えろ」という圧を感じながらも押し返す。
「そこらへんは全部後!まだやってほしいことあるから!!」
「言質取ったからね」
「お前俺に対してそこまでアグレッシブじゃなかっただろ!?」
「コラ、トウカ。これからは俺じゃなくて私って言いなさい。女の子として生きていくんだから」
「母さんも慣れるの早すぎでしょ!!」
「はは、子供が生きてるのなら息子が娘になったくらいどうってことは無いんだよ。それで、他にやってほしいことって?」
白一点の父だけは楽しそうな妻や娘達を見ながら楽しく冷静だった。
「えっと、養子縁組が出来たらトウカ名義の口座が欲しい。で、俺の口座の金を全部そっちに移してほしい」
「分かった。でも生活資金なら父さん達が出すのに移してどうするんだ?」
「おれ、私の生活資金にする。服とかランドセルとか買わなきゃいけないし」
「えっ?そんなの私達が払うわよ。この後ランドセルも選びに行くし」
「ちなみに俺はこの家に住まないぞ。南條の所に居候するつもりだし」
事前に知っていた南條を除いた3人はその言葉に固まった。
「・・・え?どうして?」
「父さん達と一緒に暮らすんじゃないのか?」
「なにそれずるい、私の所に住もうよ」
「使命を遂行するにはとある小学校に入学しなきゃいけなくて、それが南條が住んでるマンション近くなんだ」
「まあ、歩いて15分くらいかかりますが・・・」
「で、父さんと母さんはこの家があるからそんなことは頼めない、無理」
「そんなこと!」
「・・・いや、確かにそうだな。この家を売り払えば可能だけど・・・」
金銭的問題を解決するための方法を考え始めた父に対して、トウカは微笑みながら断る。
「やめてくれ。俺がいた家は残して欲しいんだよ」
「・・・そうか。母さん、金銭的に私達が行くのはかなりキツイ。諦めよう」
「でも・・・」
「たまに帰ってくるからそれで勘弁してよ。で、藍子は論外」
「なんで!?」
「お前ルームシェアしてなかったか?」
「あ」
去年実家に帰った時にトウカが父から聞いていた話なのだが、藍子は大学生の途中から実家を出て友達とルームシェアをしており、卒業後もルームシェアを続けると言っていたそうだ。
セキュリティがしっかりしていてそこそこの広さがあるマンションを友達と一緒に借りた上で、入社した会社から家賃補助を貰って限りなく家賃を下げるのが目的と聞いている。
そんな所に突然一方の妹が入ったら相手に失礼だろう。
そして妹の世話よりも南條の世話の方が楽そうだという打算もあった。(だって、先輩後輩の関係だし)
「というわけで南條に居候させてもらうんだけど、流石に雑貨とか衣類くらいは自分で揃えたいから俺の貯金が欲しい」
「別に小学生の先輩くらいなら問題ないんですけどね~、服は私が選びますけど」
「だから絶対に嫌だ」
トウカは甘かった。トウカがいくら嫌だと言っても、頼み込めば服くらい着てくれるだろうと南條が考えているとは思っていなかった。
それこそ、南條の中の桃園斗也は強く頼み込めばなんだかんだでやってくれる人物として登録されているのだから。
「じゃあ、住むのは諦めるけど、たまにはお姉ちゃんの要望も聞いてくれるよね?」
「姉ぶるの早すぎるだろ!」
「だってもう兄さんの面影なんてどこにも無いし~。私の友達にコスプレ喫茶勤めがいるんだよね。一緒に行こうね~」
「その時は私もぜひ!」
「・・・身の回りが落ち着いたら一度だけな」
(一度で終わらせる訳などあるまい!)
兄ほどのオタクでは無いが、藍子は可愛い服が好きなことと大学の友達の勧めからコスプレに嵌った口であり、自分で着るのはあまりしないが人に着せるのは大好きなコスプレさせ魔だった。
こうして家族の協力を取り付ける事に成功し、そのまま皆で携帯ショップに行って両親名義でスマホを契約し、ショッピングセンターに突撃し、最後に死んでいなかった祝いに焼肉を食べて別れることになった。
その別れる時にまた一悶着あったりしたがトウカ自身の言葉で無事解散することに成功した。
養子縁組は週明けに行われることとなった。
帰りの車の中。
「はぁ・・・疲れた」
「私の方が気を遣っていたんですけど?」
「お前結構自由にしてなかった?・・・今日はありがとな。おかげで無事に終わったよ。そういや焼肉の時に何か聞かれてたけど何だったんだ?」
「ああ。先輩と私が出来てたのかってことですよ」
「んっ!?す、すまん、俺の家族がそんな」
「普通にただの先輩後輩だったって言いましたけどね。今は可愛い妹ですけど」
「・・・あっそう」
「いや、先輩も知ってたでしょ。私が先輩に対してライクはあってもラブはなかったって」
「そうだけどさ・・・」
「そういう先輩こそ、お父様から何か受け取っていませんでしたか?」
「ん?ああ。これな」
上着のポケットから白い封筒を取り出すトウカ。
ちなみに今のトウカの恰好は、女性陣によって作られたフワフワキューティースカートスタイルだ。冬だけどフリルの付いたスカートを履くために厚手のニーソックスを履いていて、上もファーや白いポンポンが付いているアウターと帽子のような服装になっている。
まったく必要のない重ね着にむしろ暑く感じてきたトウカであったが、それは精神的な感覚で実際の体温は平温である。
「それは、宝くじ?年末ですか?」
「ああ。警察に行った時に俺の荷物を受け取ってきたらしくてな。その中に入ってたのを渡されたんだ」
運転に集中しながらもチラチラと、小さい手のひらの中の白い封筒を見る南條。
彼女もたまに買う10枚1セットの物だった。
「これが10億円になると思うか?」
「そうですねぇ。人が蘇る確率よりは高そうだから、あり得るんじゃないですか〜?」
「・・・まあ、あり得るよな」
南條の反応の薄さから悟ったトウカは封筒を自分の前に持ってくる。
中身が見えるように窓が作られた表側の裏を見るとそこには、
「準備金」
と書かれていたのだ。
(はてさて、これはいくらに化けるのかな・・・?)
まさか300円にはならないよなと思いながらポケットに戻すトウカ。
予想が外れていたら恥ずかしいから南條には秘密にしつつ、未来の結果を楽しみにするのだった。
「じゃあ最初に言った通り、家近くのスーパーに寄りますね」
「ああ、頼む。今日の夕飯は軽くうどんとかにしておくか?」
「そうですね。お昼がガッツリだったので、少し抑えておきたいです」
「・・・そうか、これからはカロリー計算とかしたほうが良いのか」
「それと栄養計算もしてくれると嬉しいですね」
「主婦も大変だな・・・」