04
自分が選ばれた理由は理解した南條。そのまま使徒についても尋ねる。
「・・・わかりました。それで、使徒って何なんですか?昔見た映画の巨大怪獣ですか?」
「それは俺も───」
知らない、と言おうとした所で溢れてくる知らなかった情報達。
今の体になって初めて使徒について考えたことで、事前に与えられていた物が開放されたのだ。
自分の使命、能力、種族などなど。
急な情報を処理するために固まったトウカを見て、南條は慌てる。
「ちょっと、先輩?先輩!?」
トウカに近寄って揺さぶる南條。
その揺さぶり中に情報処理が終わったトウカは現実に戻ってきた。
「───っお?おお?えっなに?」
「突然固まらないでくださいよ!聞いちゃいけないことを聞いたのかと思いましたよ!」
「す、すまん。どばっと情報が入ってきて。えっと、使徒ってのは端的に言えば家来とか部下みたいなものみたいだ」
南條の誤解を解くために説明を始める。
「部下、ですか?」
「ああ。使命ってのが与えられていて、それをこなすことが生きる意味になる。けど、それ以外の事をしていても問題ないから部下って感じだ」
「その使命というのは?」
「簡単に言えば手伝いだな。どうやら俺が死んだ原因はとある少年にあるみたいで、その子は世界を救うために戦っているらしい」
「この日本でですか?物理的に?」
「ああ。かなり壮大な話なんだが、この世界は滅びの危機にあるみたいで、その子はその危機と戦える力を間違って与えられたみたいなんだ」
突然の世界滅亡に南條の眉が窄められる。
「え?滅び?確かに昨今の異常気象には世界やばいなーって思うことありますけど、そこまでですか?」
「今の原因は外敵みたいだ。次元の狭間から、この世界を滅ぼし奪い取るために、敵が現れ始めているらしい。で、俺はその戦いに巻き込まれて死んだ」
「・・・はぁ。その、何とも実感が湧かないと言いますか。理解は出来ますが」
「まあ、そうだよな」
かつての自分も、知り合いからそんな話をされたら茶化すかネタにするかしか出来なかっただろうなと考えるトウカ。
しかし、彼女の中でこれは紛れもない事実であり、対処すべき問題だと認識が固定されている。
「話を戻すけど、その間違って与えられた子は器が出来てないから他の子よりも強くなるまでに時間がかかるしポテンシャルも低いから、俺はそのフォローをするのが役目みたいだ」
「なるほど。つまり助っ人役ですか」
「そうなるな。あと、人間をやめて魔女になった」
「へー・・・えっ。」
さらっと言ってみたがさらっと流されることは無かった。
「魔女って、お婆さんだったり美女だったり配達員だったりする職業ですよね?」
「たぶん違う。魔女っていう生き物で、魔法を司っているらしい。司るって何だ?」
「えっと、思い通りに出来るとかですかね?漫画やアニメとかだとあんまり出来てない事も多いですけど」
「やっぱりその意味で良いよな?となると、魔法が使い放題な女、略して魔女ってことだな」
「試しに使ってみて下さい!先輩なら厨二病ノート作ったでしょ!?」
「作ってないわぁ!!」
かつての彼が作ったのは厨二病ページである。ノートまでは行かなかった。
「じゃあ・・・『火』!」
人差し指を立てて彼女なりの呪文を唱えると、指先からイメージ通りのロウソク火が出てきた。
「「おぉ・・・」」
少し感動しながらその手を動かすと、火もそれに追従するように動く。
「本当に魔法ですね・・・!この魔法を使って助っ人役するんですよね?」
「ああ、そうなる───」
自分が魔法を使って救世主役を助けると考えた瞬間に新たな情報が増えた。
量自体はそこまで無かったので先程のようにフリーズする事は無い、のだが今度は内容でフリーズした。
「あの、また何か分かったんですか?」
「───助っ人役として戦うときは、変身しないといけないらしい・・・」
「・・・ほう。それは魔女というより魔法少女では?もしくはプリキュアですか?」
「言うな!くそっ、マジかよ・・・ご丁寧に変身呪文の決定権はこっちにあるし・・・」
トウカの呟きを聞いた南條の表情が丸く歪む。
「先輩。恥ずかしくないですよ?もう先輩は女の子なんです。それに体だって小学生みたいじゃないですか。恥ずかしがらずに唱えましょう?『変身』でも『メタモルフォーゼ』でも」
「そんな作品を辱めるような真似していいわけないだろ!!」
「著作権じゃなくてそっちですか」
変な正義感に呆れながらも、早く先輩の変身が見たい後輩は急かし続ける。
「はーやーく!はーやーく!」
「ちょっと待てって!せめて、せめて格好良いのにしたい!」
「別に可愛い系でいいじゃないですか。ポーズ付での変身、先輩なら何個か知ってますよね?」
南條は見ていなかったが、居酒屋での世間話からある程度、桃園斗也が見ていた作品を知っている。
それを彼(彼女)がするのを見たいのだ。
人の不幸は蜜の味、知り合いの羞恥は極上の料理の精神である。
「こいつ、他人事だと思って・・・!」
「やってくれないなら先輩追い出しちゃいますよー。私の貴重な華金取らないでくださーぃ」
「ぐっ・・・」
トウカは考える。無駄に考える。
(「変身」は安直すぎてなんか嫌だ。もうちょっと捻ったのが良い。でもトランスフォームは機械っぽいし、変身しても無いのに何とかモードとか言えないし・・・。顕現、参上、見参?いやもっとふさわしい・・・そうだ!)
早々に煮詰まった頭で自分なりの変身呪文を見つけたトウカ。
ソファから立ち上がって、初めての変身を行う。
「『降臨!』」
唱えた瞬間体が光に包まれて、着ていたワンピースが溶けるように消える。
そして下着、上半身、下半身の順番で布を纏い、光が収まったそこにはミニ丈の巫女風衣装にむき出しの刀を持ったトウカがいた!
黒い髪はポニーテールになり、上半身は可動性重視の胴と腕で布が別れた白衣。
下半身は膝下までの緋袴で、足元は足袋に草履となっている。
腰元には即座に結界を展開できるお祓い棒が刺さっていた。