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「ただいま〜」
「あ、おかえり」
仕事を終えて帰宅した南條は出迎えてくれた桃香の顔を見てすぐに感づいた。
桃香に鞄を渡しながら尋ねる。
「・・・なんかやらかしたんですか?」
「えっ、いや、早くない?」
「そりゃあ「言わなくちゃいけないけどあんまり言いたくないなぁ」って表情してれば分かりますよ」
「お前ネゴシエーターに向いてるよ・・・ご飯食べながら話すわ」
「了解です」
夕食の準備をする桃香を横目に部屋に入って着替える。
桃香は南條の脱いだスーツを軽く整えて壁に掛けた。
それを見てメイドさんマジ便利と思った次の瞬間、桃香に対して驚く。
「あれっ!?先輩なんで、さっき・・・」
「ん?さっさと御飯食べるならこっちの方が早いだろ?」
「いや、ご飯の準備は」
「してるよ?おーい」
「呼んだ?」
桃香の呼び掛けに応えて顔を出す桃香。
「なんで分身してるんですか」
「「こっちの方が早いって悟ったから」」
次の瞬間2人だった桃香が4人、6人と増える。
いくら桃香が綺麗な顔をしているとはいえ、突然同じ顔が増えると恐怖を感じた。
「普通に考えれば人が多いほうが仕事は早く片付くもんな」
「多いとそれはそれで邪魔だけど」
「なんなら魔法で全部終わらせれば一発だけど」
「でもそれだといざという時にボロが出るから一応やらなきゃって感じだよな」
「「「「「「うんうん」」」」」」
「あの、着替え終わったんでご飯食べましょう?」
「「「「「「了解」
ユートピアのようなディストピアのような状況を打ち切るために南條が言うと、桃香は一人に戻ったのだった。
本日の献立はカボチャの煮物に肉じゃが、味噌汁に納豆。
普通の和食献立のようだが、桃香としては気になる点があった。
「肉じゃがと味噌汁を一緒に出すっておかしいかな?」
「全然ありじゃないですか?美味しそうですし。いただきまーす」
「ならいいか。いただきます」
美味しそうに食べてくれる南條の姿を見ながら自分でも採点を行う。
と言っても、元々美味しさのストライクゾーンが広めな桃香の自己採点は主に盛り付けの見た目に関するものである。
「それで、言いづらそうにしてたのは何ですか?」
「・・・その。敬語キャラが、ちょっと崩れ始めちゃって・・・」
「え?まだ二日目ですよね?」
「それが───」
学校であったバイオレンスなお話をすると、流石に想定外だったようで南條の箸は止まってしまう。
「カッターとライターで顔に傷を付けに来る小学生・・・」
「まあ、私にする分には問題ないけどそれが自分とか他の人に向かないようにするべきだろ?それで出来るだけ穏便に落ち着かせてコンプレックスを解こうと思ったら」
「敬語を辞めざるをえない道に辿り着いたと」
「はい・・・」
南條は(やっぱり先輩は優しいねぇ)と思った。
今の桃香と一般人の最良は違う。仲良く友達を作るために学校に行っている訳では無く、なんならその女子生徒は勝手に嫉妬して勝手に自滅しているようなものだ。
普通の人ならそこで自分の計画を崩してまで親身にはならないだろう。
(まあ、敬語キャラじゃなきゃいけないわけじゃ無いからってのも考えたかもしれないけど)
なんだかんだで子供の見本や先導者であろうとする先輩に、誇らしさと可笑しさを含めて馬鹿だなぁと内心で呟く南條であった。
「まあ、とりあえずそのままで良いんじゃないんですか?」
「良いかな?」
「聞けばその佐々木さんって子はかなり優等生みたいじゃないですか。そんな子を友達に出来るなら多少キャラが崩れても良いと思いますよ。結局、発言力の強い子が固まってる方が強いですから」
「・・・まあ、女子の方がその傾向は強いか。男子は面白いこと言ったやつ、やったやつが勝ちだったけど」
「男子ってそういうところは芸人気質みたいですよね」
「まぁね」
とりあえず話が纏まったことで再び箸が進み始め、ほぼ食べ終わったところで南條は思い出した。
「あ、そういえば」
「ん?」
「会社に持っていったお土産というかお詫びの品、みんな喜んでましたよ」
「ああ、デパートで買ったやつ。普通に食べて美味しかったもんな」
急遽有給を取らざるを得なくなったお詫び(ご機嫌取り)として南條が持っていったデパートスイーツは非常に好評だった。
「なんなら課長からは店名まで当てられましたよ」
「マジで?流石大企業の課長と言うべきか」
「高かっただろう、って聞かれましたけど貰い物だから分かりませんって答えました」
「なんで?普通に答えれば良かったのに」
「嫌ですよ、それじゃあ私がお金持ってるって誇示してるみたいじゃないですか」
「ああそういう」
ちなみに貰った経緯を嘘を交えて軽く話したところ、御局様から同情と憐憫の混じった目で慰められたと言う。
南條としては少しイラッとしたものの、それで当たりが柔らかくなってくれるなら良いかと飲み込んだのだった。
食卓を片付けてデザートの準備に入った桃香を見ながら一人呟く。
「誰も思わないでしょうね〜、職場の中で私が一番良い生活環境を手に入れてるだなんて」
親戚の子を預かるという面倒を背負わされたと思っている相手が、実はあらゆる面倒から解放されて悠々自適に暮らしているなど考えもしないだろう。
誰かに言うつもりは全く無いが、その優越感に気持ちよくなる。
「いちご買ってあるんだが何かいるか?」
「練乳でー!あ、掛けなくて良いんで」
「あいよ」
こうして南條家の夜は更けていった。




