03
疑う余裕を持たせずに畳み掛ける事が重要だと詐欺師のような思考をしながら、トウカは矢継ぎ早に桃園斗也として話す。
「俺がこの家にきちんと入るのは3度目だよな?」
「な、何を言って」
「一度目は南條が酔いつぶれた時。神崎と一緒だった」
「っ!?」
「二度目は荷物運びの時。初めて業務スーパーに行くからと神崎の車で行って、馬鹿みたいに買ったせいで俺も荷物運びとして入った」
「──────」
「そして今回の三度目は、桃園斗也ではなく、とうかという人物として入ることになった。もう来ることは無いと思ってたけど、現実は小説より奇なりだな」
先程までの態度から突然の豹変。
猫被り感満載の口調から、どこか聞き覚えのある口調への変化。
そして最後の言葉から、賢い彼女は見当がついてしまった。
「まっ、まさか桃園先輩!?いやっでも・・・」
「まだ家賃はご両親に出してもらってるのか?会社のお局様との関係はどうだ?ていうか引っ越さなかったんだな。てっきり引っ越してると思ったから電話したんだけど」
「・・・本当に、先輩なんですか?どういうことなんですか?薬の併用ですか??」
正体の見当はついても、そこに至るまでのプロセスがどう考えてもファンタジーになってしまう南條は強く問い詰めた。
その問い詰めから自分の言葉を信じたと感じ取ったトウカは知る限りを話していく。
帰り道に謎の光に左胸を撃たれて死んだこと。
そして謎の女性から死ぬか使徒になるか選べと言われて後者を選んだこと。
生まれ変わったら何故か少女になっていたこと。
話しながら、そんなに情報無いなと思うトウカだった。
「左胸を撃たれて生まれ変わったって・・・じゃあ先輩の体は」
「ある。俺が起きたのは俺の死体から少し離れた所だった。実際に撃たれた場所からはズレてたけど、体の向こうが少し見えたから間違いなく即死してる」
思い返せば、トウカにとっては怖気の走る光景だった。
「使徒って何するんですか?というか尚更何で私を頼ったんですか?まずご両親に電話すべきじゃ」
「この姿で信じて貰えるわけないだろ。南條を頼ることにしたのは一先ずの居住空間が欲しかったからだ。正直あの交番でうちの両親を呼んでも来るまで時間がかかるし、その場で信じてもらうのは難しいと思ったからな。お前ならカルーアの話を出して俺からの伝言って言えばとりあえず大丈夫だろうって思ったんだ」
「なんか、私のこと馬鹿にしてます?」
何か軽んじられたような気がして南條の機嫌が悪くなるが、トウカにそんな意図はまったくない。
「いやいやいや、これまでの借りとか返して貰ってないから、それを言えばとりあえず家に連れてきて貰えるかなって!そうすれば他に聞かれること無く事情を話せるしさ」
「まあ、とりあえず棚に上げておきます。他の友達はどうしたんですか?」
「今の格好を考えると婦警さんに簡単に手放して貰えないと思った」
親戚の成人男性が小学生女子を迎えに来るのと、親戚の成人女性が迎えに来るのでは後者の方が心理的難易度が低いだろうという計算である。