01「
新年になったから続くか分からないけど新作を始めてみます。もう二月だけど
桃園 斗也、26歳、職業:会社員。
新卒4年目で社内の人間関係に大きく悩まされること無く働き続けている一般男性社員である。
趣味は広く、家に籠もってゲームや漫画を楽しむ事があれば、友達と一緒に釣りやボーリングに行くこともある。
結婚についても僅かに考えるようになったごく普通の社会人だと言える。
新年が明け、会社が始まってから2週間ほど経ったとある日。
ゲームのアップデートが行われる日だったので少し急ぎ足で会社から帰っていると、遭遇してしまった。
(ちょっと近道、─────っ!?)
関係者以外通行禁止の駐車場を横切ろうとした時、突然、横から眩しい光がやってきた。
(よけっ・・・!!!!!)
その光を見た瞬間、偶然にも体が後ろに動き光から逃げようとしたが間に合わず。
強い衝撃と共に体から何かが失われた喪失感に襲われ、何か大きな訴えが内側からやって来る頃には意識も感覚も全てを失った。
こうして、桃園斗也の人生は幕を閉じた。
しかしその魂はまだ昇ることが出来なかった。
この事故に巻き込まれたことでその運命は螺子曲がり、とある者に拾われたからである。
「初めまして、桃園斗也さん」
「────っ!?こっ!ここは?なにが?俺は」
余りにも衝撃的すぎる出来事から一転、立っている女性以外何も見えない白い光景に視界が切り替わった事を認識するのには時間を必要とした。
女性はそんな彼を意にも介さず話し続ける。
「こちらの不手際で申し訳ありません。お詫びにあなたには選択肢を用意しました」
「ちょっ、俺の話聞いてよ!?」
彼の話にまったく介さない女性。
「一つ、このまま死を受け入れる。二つ、新たに生まれ直し私の使徒になる。どちらに致しますか?」
「いや、だからさ!不手際って何!?何が起きたの!教えてくれよ!!」
ここで引いたら何も教えてもらえないと直感した彼も、自分の質問を押し通そうとした。
互いに言い終えてから少しの間が生まれ、そして女性が口を開く。
「あなたは戦いの場に紛れ込み、流れ弾に当たりました。以上です」
「いや簡潔っ!!」
「これ以上の要素はありません。元々は関わりのないはずだったあなたは、運悪く巻き込まれただけです。あなたの死に大きな意味は無く、それによって大きく変わるものもありません」
求めてるものとは別の詳細を聞かされた彼は、前のめりになっていた姿勢を正して落ち着いた。
「・・・そこまで言わなくてもいいじゃないですか。それで、使徒って何ですか?あと、何で俺なんですか?」
「あなたが一番生き延びたからです」
「え?」
「並行世界のあなたのうち一人が戦いに巻き込まれたことで類似の世界のあなたは全員あの場で死ぬことになりました。そのあなた達の中で一人だけ長く生き延びたあなたに興味が湧いたのです」
元々は生きている予定だったが、別世界の自分が巻き込まれた事で全並行世界の自分が死ぬことになった、と聞かされた彼は話のスケールがおかしいと感じながらも冷静に納得した。
全ての桃園斗也の中でも特別だったからと解釈すれば少し思う所があったからである。
「えーっと、使徒として生まれ直すということは赤ちゃんからですか?」
「いえ、こちらの指定する姿です。こちらが与えるのは第二の生。求めるのはこちらが指定する使徒としての働き。どちらにしますか?」
「指定する姿とは」
「指定する姿です」
この問答から彼は、使徒としての働きも教えて貰えないなと判断した。
まだ生まれて26年。ある程度生きてきた感覚はあれど、まだまだ知りたい事、やりたい事があると感じている。
故に選択肢なんて存在しなかった。
「2つ目で、お願いします」
「宜しい。あなたの働きに期待しています」
彼女が短く言い切ると視界が暗くなり、何が起きたのかと少しパニックになった所で瞼が下がっているからだと分かった。
瞼を開けるとそこには、左胸から血を流しながら倒れる男性とそれらを見ている警察官達。
その男性はうつむき加減だったが服装と持ち物から自分自身だと理解し、その後自分を横から見つめる婦警に気づいた。
「あっ、」
「大丈夫?痛い所ない?」
「えっ、えっと、いったい」
自分が死んでいるのを見ているという事実から生まれ直したということには気づいた彼女だったが、それ以外は一切分からず困惑するしかない。
それを不安による混乱だと判断した婦警は優しく、穏やかに話し始めた。
「自分のお名前言える?」
「えっと、とー・・・」
とうや、と言おうとした所で停止する。
その名前を出したら不味いと思ったからだ。
「とー?」
(とー、とうあ、とう・・・か!)
「あ」から順番に当てはめた結果、一番最初にしっくり来た「とうか」という名前を作る。
「とうか、です」
「とうかちゃんね。寒空の下その格好は辛いでしょ?立てる?」
「あ、はい」
言われるままに立ち上がろうとした所で初めて自分の格好に気づく。
真っ白でシンプルな長袖のワンピースに、同じく白い靴下のような足にピッタリの靴。
明らかに男性用ではなかった。
(え、なんで、いやもしかして─────)
「車の中は暖かいから中に入って少し待っていてね。あ、暖かい飲み物欲しい?」
「い、いえ。あの、あれって」
自分が男ではない可能性から一旦思考を外して、状況保存をしている警察官達を指さして尋ねる。
婦警は答えづらそうにしながら少しだけ答えた。
「えっと、何か事件があったみたいでね。とうかちゃんは何か知ってる?」
「いえ・・・」
始終は知っているが間を知らないのでそう答える。
「そう。あまり気にしなくていいからね。きっととうかちゃんとは関係ないから」
「・・・はい」
婦警の言う通り暖まっていたパトカーの中に入るが、寒暖差による脱力などは一切感じなかった。
彼女の体は外の寒さを感じていなかったのだ。
「少し待っていてね」
ドアを閉めて他の警察官の下へ行く婦警。
気になって窓から覗くと、死体の周りには既に白い線が張り巡らされており、彼女らが話している間に別の警察車両もやってきていた。
少しの間話した婦警は集団から離れて、トウカの乗っているパトカーに乗り込む。
「はぁー、寒いねぇ。とうかちゃんは足とか手、しもやけしてない?」
「大丈夫、です」
「良かった。それじゃあこれから一旦交番に行くね。ご両親に迎えに来てもらうから」
そう言うとシートベルトを締めた彼女はアクセルを踏み、現場から離れた。
それからトウカは悩み始める。
(両親?それって俺の?でもこんな姿で言っても信じてもらえるわけが無い、というかまともに話を聞いてもらえるかも分からない・・・)
息子が死んだのだ。その直後に性別も年齢も違う子供が息子だと主張してもまともに受け取るわけが無いだろう。
自分の事を知っていながらある程度心の距離感がある人間を頼るべきだ。
そう、トウカは考えた。
(・・・・・・男連中はやめとこう。絵面が危なすぎる。昔馴染みの奴らは遠いし・・・そうだ!)
トウカの中で頼るべき相手が決まった。
そこから交番に着くまで、その相手の携帯番号を思い出すのに頭の中をひっくり返すのであった。