感動の味
「まあざっとこんな感じ。って!スープの湯気が減ってきてる!冷たくなる前に飲む!」
「はは!なかなかに濃密な話だ。つまり、記憶は残っていたようだね。でも気づいたらこの街に?あり得ない‥‥。あっ。」
バミンが声を漏らした。それにしてもお互いすぐに打ち解けたものだ。彼はいっしょに町の酒場兼食堂に行くまで、本当によく情報を聞き出そうとした。俺を心配してるのだろうが、なんとも気を使わせない素振りだ。俺の警戒心が破壊されたように、べらべらと口に出してしまう。
「ん?」
「いや、こんな事例はおそらく、歴史上で初めて‥この世界で初めてかもしれない‥。」
俺が首を傾げると、自分の考察を口にするバミン。彼は歴史学者か何かか?そしたら俺と気が合いそうだが。
「さてと。追加で注文する?」
「うん!」
俺はメニュー表をめくる。すると目を引く主食があった。
「これは!」
「ん!おにぎりが食べたいのか?」
馴染みのある料理名が耳に入った。まあ、ラップの使い方さえわかれば、誰でもつくれるので、料理とはあまり言わないが。しかし海苔が巻かれている以上、言い逃れはできない。
「あっ、うん。バミンも一個頼んだら?」
「いや、いいよ。おなかいっぱいだし。」
テーブルに、頼んだ通りに二個のおにぎりが運ばれてきた。しかし、具の指定がないことに気が付いた。
構うことなくおにぎりにかぶりつく。すると、口の中に塩っぽい味が広がり、鼻の中を通った。そして目に入った薄ピンク色の魚肉にもかぶりつく。大きめの切り身で少し生臭くもある。しかし家では味わえない鮮度を保った加熱済みの魚だ。なんてすばらしい!これが夢だったとしても後悔することはないと心の中で思った。二個頼んで正解だった。感動をもう一度味わうことができる。バミンにとっては一瞬だろうが、俺はかなりの時間を脳内で過ごす。一個では食べたりない。三個では多すぎる。二個がちょうどいいのだ。スーパーなどでは二個入りのおにぎりをよく見かけるため、直観でここでも二個頼んだ。なぜそうやって売られていたのか、わかった気がする。今回は同じ具のものを二つ食べて感動した。しかし、違う具のものをそれぞれ一つずつ、合計で二つ食べるのも趣がある。
「おいしかった?」
バミンの言葉が俺を現実に引き戻した。脳内で様々な情報を整理していたが、いまいうべきことを即座に理解し、
「うん!ご馳走様でした。本当にありがとう!」
「へへ・・。大袈裟な!」