11.恋人の手料理
ヒロイン枠欲しいけど、どうやって仲間にさせようか……
せや、主人公餌付けさせたろ!
連れて来られたのは、既視感のある部屋だった。少し考えて、この部屋が、私がインフェルノに来て最初に過ごした部屋ととても似ていることに気づく。
察するにここは【恋人】が最初に連れて来られた部屋なのだろう。部屋の奥にある、今はもう開くことはないエレベーターで、地上からここまで来たというわけか。
そしてこの部屋の主人(?)である【恋人】は、部屋に設けられた簡易なキッチンで野菜を切り刻んでいた。フライパンには豚バラ肉が炒めてあり、部屋中に美味しそうな匂いが広がる。
数分後には、肉野菜炒めが完成し、皿に盛り付けられていた。
「えぇと……できました! 一応、毒味とか、しましょうか……?」
テーブルに料理を運びながら、【恋人】がそう提案してくる。傍から見ても毒を仕込んだとは思えなかったが、念のため一口食べさせた。当然何事もなかったので、大人しく飯を食うことにする。
簡単に作れる料理のようだったが、美味かった。信頼より先に胃袋を掴んでこようとするとは、侮れないな。
「……しっかし、こんな状況で、こんな展開になるとはなぁ。今インフェルノ内で呑気に飯食ってる奴なんて、私しかいないだろうな」
「その……聖戦が始まる前に、だいぶ時間、ありましたけど……食べなかったんですか? ご飯。私の部屋の冷蔵庫には、冷凍食品とか、色々とありましたけど……」
「あん時は腹減ってなかったんだよ。それに、私のタロットカードは20番目の【審判】──ここに送られたのは一番最後だったし、聖戦開始までは3時間くらいだった」
それでも十分時間がある方だが、当時はこれから殺し合いが控えている身である。緊張でそれどころじゃなかったのだ。
「その……えっと、【審判】さん。それで結局、私のことは、こ、殺さないでいてくれますでしょうか……? わ、私、お役に立つよう、頑張りますから!」
丁度食べ終わったタイミングで切り出してきた。
先ほどは申し出を断ろうと考えていたが、流石にもう考えは変わっていた。
「まぁ……別に良いよ。というか、こんな施しを受けておいて殺そうとするほど腐っちゃいねぇよ」
「はぅぅ……っ! よ、良かった、です! 私、【審判】さんに会うまで怖くて死んじゃいそうだったので、心強いです……!」
「……お前ほんとに殺人鬼か?」
手違いで迷い込んだ高校生って言われても信じてしまいそうになるほど、邪気がない。もちろん、そうやって油断させておいて、虎視眈々と私を殺す機会を待っているとも考えられるが、これが演技なのであれば、とんだ名役者がいたものだ。
「それじゃあ、その、仲間になったことですし、ええと、呼び方を変えても良いでしょうか……? その、【審判】さんって呼びにくくって」
「……良いけど、仲間になったって言っても、最後に生き残れるのは1人なんだからな。あんまし馴れ合う必要もねぇだろ」
「私は仲良くしたいんです! こんな状況で、誰も頼れなくって、心細かったんですっ……! 後のことは今は考えないようにしましょう! それで、【審判】からジを取って、じっちゃんなんてどうでしょうか……?」
「……お前遠慮がなくなってきたな。んなじじくさそうな呼び方却下だ。私の本名──レザリック・シージっつーんだけど、本名で呼べよ」
「れ、レザちゃん……でも、良いですか……?」
「……別に良いけど」
ちゃん付けで呼ばれるなんて、初めてかもしれない。というか、仲間になったとはいえ殺人鬼に対してちゃん付けで呼ぶとは中々に度胸があるようだ。そのくらい、仲良くしようと必死とも取れるが。
「あ、わ、私の本名は可愛叶美って言います! その、愛だの美だの、可愛い子ぶっているみたいな名前で、好きじゃないんですけどぉ……」
名前に可愛い子ぶるもクソもないのでは。それとも、自分の可愛さにコンプレックスでも抱いているのだろうか。まぁ、私も【恋人】と呼ぶのは言いにくかったので、どんな名前であれ、名乗ってくれたのは嬉しいことだ。
「んじゃ、カナミ。そろそろこの部屋を出て探索に戻るとするか。最下層に3人以上も殺人鬼がいるとは考えづらいが、警戒を怠らずに、上の階への階段かエレベーターを探しておこう──さっき言っていたカードの使い道も、道中で説明して貰うからな」
「あの、それは、良いんですが……まずは服を探しましょうよ」
「……そうだった」
***
服は案外早く見つかった。というのも、カナミがこの階を丁寧にマッピングしてくれていたお陰で、ある程度はどこに何があるのか、どこをどう進めばいいのかが、わかるようになっていたからである。適当に探索して迷子になっていた私とは大違いである。
カナミは今も黙々と、ノートに間取り図を書き込んでいる。最初の部屋にあったノートに、そんな活用方法があったとは。私なんて目を通した後は、元あった場所に戻してそのままだ。
適当な部屋にあったクローゼットやタンスから拝借した黒地のTシャツとショートパンツで身なりを整え、もう汚さないようにレインコートを羽織る。元々着ていた服は役に立つこともなさそうなので、捨ててきた。
そして着替え終わってから私は、先行して歩き出したカナミの後をついて行く。
「……なぁ、それで今、私たちはどこへ向かってんだ?」
「えっと、着いたら話します。このカードの使い道、口頭で説明するよりも、実践してみせた方が、良いかなって思うので……」
「ふーん……なら良いけど」
一瞬、よもやどこかへ誘い込んで襲う気かと思って、距離を取って歩いていたが、たどり着いたのは変哲のない部屋だった。カナミはその部屋にあるベッドの下から、1つの箱を取り出した。木製で、小さな装置が取り付けてあり、そのままでは開かないようになっているようだ。
「何だ? そんな箱が隠されてたのか」
「必ずしも箱の形をしているわけじゃないですよ。けど、こういった『宝箱』みたいなものが、至る所にあるみたいなんです」
そしてカナミは、また学生鞄から【恋人】のカードを取り出して見せた。
「……単刀直入に言うと、このカードは『カードキー』です。この箱に付いているカードリーダーにカードを挿し込んで、それが適合すれば、開きます」
「あー、成る程。だからプラスチック製だったわけか──ん? 適合って?」
「そこが味噌なんです。カード1枚で全ての『宝箱』が開くわけではないんです。どのカードで開くのかが、完全にランダムになっているんです」
カナミから箱を渡されて、私は箱をまじまじと観察してみる。やはり、カードを挿入する以外に開く方法はなさそうだ。壊してみても良いが、その場合中にあるものが無事で済む保証はない。
取り敢えず【審判】のカードを挿し込んでみるが、何の反応もなかった。
「適合するカードが1枚だけなのかは、わかりません……。もしかしたら、運営サイドが聖戦の状況に合わせて当たりのカードを設定してるって可能性も、あります。ですが、その……私たちが開くには、とにかくカードを集めて総当たりで挿し込むしか、なさそうです」
「ふーん……何でそんな面倒なことになってんだ?」
「殺し合わせるためですよ」
その返答に、ぎょっとした。何となく、軽い気持ちでした質問に、そんな物騒な答えが返ってくるとは思わなかった。
「宝箱にはきっと、武器とか、医療キットとか、役に立つアイテムがあるんだと思います……。敵よりも早く集めれば、その分有利になりますが、その、前述したように、カード1枚で開く宝箱は限られています。なら、カードを沢山集めるしかありません」
「……成る程。この状況で敵からカードを奪うなら、殺すしかねぇよな」
【世界】の『聖戦において必要にはなってきます』なんてセリフを思い出す。重要なアイテムではないとも言っていたが、やはりあった方が良かったようだ。
私はもう1枚の、【塔】のカードを挿し込んだ。すると、ガチャリッと音がして、箱が開く。カナミが驚いてこっちを見てきた。
「開いた……! そういえば、私と会う前に、既に1人倒したって言ってましたね。レザちゃんが倒したって殺人鬼、【塔】だったんですか……」
「あぁ……頭のおかしい野郎だった。ありゃ完璧にイカれていた」
「頭……ですか? ひゃっはーとか奇声を上げたり、武器のナイフを舐めたりでも、してたんですか?」
「戦闘中に歌いながら放電してた」
「人間じゃない……!?」
いや人間だったけれども。
確かに、人間って普通は放電しないけれど、あいつは人間だった。
駄弁りながら、蓋の開いた箱をひっくり返して、中身をベッドの上に出した。すると黒くて大きな箱が、柔らかな布団の上で跳ねる。マトリョーシカのように箱の中にまた箱でもあったのかと思ったが、どうやら違うようだ。
この黒い箱は、バッテリーだ。
「バッテリー……? ええと、あんまり使い道がなさそうですね……」
「何つーもん渡そうとしやがってたんだ運営は……!」
「ひぇ!?」
カナミの言う通り、ただのバッテリーなどこの場では碌に使い道のない外れアイテムだが、このアイテムは【塔】のカードで手に入ったアイテムなのだ。私たちよりも先に、【塔】が手に入れていたらどうなっていただろう。具体的なことはわからないが、間違いなく奴の『帯電体質』が強化されていたに違いない。
あの能力に散々苦しめられてきた身としては、悪夢のような展開だ。奴がこれを見つけるより先に倒すことができて良かった。
「運営は、明らかに聖戦の激化を狙ってこのアイテムを【塔】に渡そうとしていやがったな。前向きに考えると、私たちに向けたアイテムもあるってことかもしれないが……」
「他にもいくつか宝箱を見つけておいたので、調べてみましょう!」
「偉いぞカナミ。この序盤で3枚もカードを揃えられたのは幸運だったな。よし、このまま他の奴らをリードするとしよう」
またも先行するカナミの後を追い、私は歩き出した。




