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1.最後の審判①

初投稿です。

ぼちぼち書いていきます。

 殺風景な廊下を歩いていた。


 私の足音と、私の前と後ろにいる看守の足音が混ざり合って廊下に響き渡る。手にかけられた手錠の鎖は静かに揺れていた。


 この時、私自身も不思議と思うがまったく緊張していなかった。普通だったら冷や汗をだらだら流して蒼白になっていそうなものなのに、退屈とまで感じていた。


 薄暗い廊下の突き当たりには、部屋の扉があった。


 部屋の扉を、前にいた看守が開く。部屋は明るくて、暗い監獄になれていた私は思わず目を瞑った。


「初めまして、レザリックさん。お会いできて光栄です」


 きっと今、私は随分と間の抜けた表情をしていただろう。何せ、私が連れてこられた所はどう見ても『面会室』なのだ。


 声が通るように点々と穴が開いたガラス窓の向こう側には、ちゃんと人間がいる。先ほど初めましてと挨拶した、白いくせ毛の髪で中性的な見た目の子どもだ。


 取り敢えず、私は用意されていた椅子に腰掛けた。看守は部屋の隅に移動した。ガラス窓の向こうにいるこの人と何か話すのだろうか?


 面会室になんて訪れることはもうないと思っていた。もっと殺伐とした場所に連れて行かれると思っていた。だって、私と何か話したところでどうなるというのだろうか。


 どうせ私は、『()()』になるというのに。


「事情聴取とか、散々やった気がするけどまだあるのかよ? あ、もしかして教会の神父みてぇに懺悔しろとでも言うのかい?」

「そんなことじゃないですよ。ですが、まず初めにあなたの犯行について話し合いたいと思っています」

「……何のために?」

「えっと、お互いのことをよく知っておいた方が話が弾むというか、仲良くなれると思うので。ですので、もちろん僕のことも後で話しますよ。そうしないと、スムーズに本題に入ることもできませんし」


 一瞬、何を言っているのか怪訝に思った。怪しいのは最初からだが。しかし、最後に言った本題という言葉が私の気を引いた。


 疑問に思うことは多々あるが、取り敢えず今は言われた通りお喋りに興じるのが吉らしい。


「……そうかい。でも自分のことについてベラベラ語るのは小っ恥ずかしいな……。こんな場所にいるのなら、私のことはある程度知っているんじゃないのかい──ええと、そういや名前は?」

「ユニスです。ユニス・フィクサー。あなたのことはネットでざっと調べたくらいですね。犯行は有名私立大学にあるサークルのメンバー皆殺し。動機はそのサークルの性犯罪の被害を受けて、自殺してしまったお姉さんの敵討ちってところですかね」

「あー……大体そんな感じ。酒に睡眠薬入れる典型的なヤリサーの連中だったな」

「それでついたあだ名が『復讐鬼』」

「あ? 何それ? そんな呼び方されてんの?」

「ちょっ──知らなかったんですか」


 はははっとユニスが笑う。部屋の隅に佇む看守は無表情で、微動だにしなかった。ロボットだと言われても信じてしまうかもしれない。


「失礼かもしれませんが、お姉さんとはあまり似ていませんね」


 いつの間に用意したのか、ユニスは手元にある資料をパラパラ捲ってそう言った。一瞬だがその資料に、姉さんの姿が載っているのを、私は見逃さなかった。


「……姉さんの写真」

「優しそうな人ですねぇ」


 姉さんと私は、似ても似つかない。


 姉さんはふわふわの髪と優しい眼差しの、まるで天使のような人だ。頭が良く天衣無縫な人柄で、およそ人の悪意には免疫のない人だった。

 対して私は、ボサボサの銀髪に赤い瞳で、目つきは悪魔のように鋭い。勉強ができなくて血の気が多く、不良のレッテルを貼られている。


「あなたはいかにも豪傑って感じがしますね。捕まる前は不良学生だったんでしょう? やっぱり他校に殴り込みとかしたんですか?」

「不良のイメージ古くない? ってか、他校に殴り込みどころか、大学に押しかけて大勢ぶっ殺したんだけど」

「そういえばそうですね。あはは」


 不良だと言っても、万引きも苛めもしたことない。せいぜいタバコ吸ったり無免許でバイク乗ったりしたくらいだ(それらも充分悪いことだと姉さんに言われたが)。私にだってポリシーがあるので、わざわざ間違ったことや悪いことを、やりたいだなんて思わない。喧嘩はしょっちゅうやったけど。

 まぁ、そんなことを言っても大量虐殺を犯したことには変わりがない。月並みな言い訳をするのならば姉さんの敵討ちのためなのだが、結局私の性根は腐りきっていたのだろう。


「犯行当時は18歳だったんですよね。なかなかいませんよ、未成年でここまで大勢殺した人」

「大学の受験勉強がぜーんぶ無駄になっちまったなぁ。もっと遊べば良かった」

「……殺人を犯したこと、後悔していますか?」

「してないかな。あのクズ共は親の力と金で、数々の性犯罪を隠蔽してたって話だ。姉さん以外にも被害者がいたけど、全員口止めされていた。私が殺さなかったらきっと姉さんの件も有耶無耶にされていたね。そんな奴らは殺されて当然だ」


 当時はとことん話題になった。何せ性犯罪者が少女に殺される痛快な事件だ。話題にもなるだろう。


「ただ、後悔っつーよりは文句なんだけど、未成年なら無罪放免みたいな法律があれば良かったのにとは思う。別の国にはあるだろ?」

「おや、やっぱり死刑になるのは嫌ですか?」

「嫌じゃない奴いねぇだろ」

「そうですよね。それじゃあ、死ぬことは誰もが嫌なことだとわかっていて、犯罪を隠蔽しただけで犯してはいないサークルメンバーの方々も殺したのは何故ですか?」

「……ガキのイジメならまだしも、犯罪なら知ってて黙っているのは同罪だろ」


 ユニスは悪戯っぽく笑って責めるように言う。咄嗟に私の口から出てきたのは、呆れるくらい月並みな言い訳だ。

 だが、陳腐な言い訳でも筋違いではないだろう。確かに私が殺した連中の中には数合わせや人付き合いのためでサークルに入っていただけの人もいたが、そいつらが見て見ぬ振りを決め込んでいたのも姉さんの死の一因。私にとってはぶっ殺す対象だ。

 悪びれるつもりはない。


「てっきり、区別つかないから纏めて殺したのかと思ってましたよ。あとガキのイジメも犯罪ですよ」


 まぁ、ぶっちゃけ区別つかなかった。

 それに区別ついても殺したし。


「あーもう、結局何がしたいんだ。どうせ死ぬ私を責めて楽しんでるのか?」

「あ、いや、責めているわけではないんです。思ったことをずけずけと言ってしまうタチでして。すみません」

「別にいいよ。もう私の話は終わりでいいか?」

「ええと、最後に1つだけ」


 一旦咳払いをして、話を切り出した。


「あなたは、何故お姉さんの復讐のために、殺人を犯したのですか?」

「うん? 質問の意図がよくわからんな。自分の肉親を実質殺したような奴らを、殺したいくらい憎むのは普通のことだろう? 私の場合、実際殺したわけだけど」

「そこですよ。殺したいと思うのを通り越して、実際に殺した理由が知りたいんです。半殺しにするでもなく、告発することもなく、何故殺人という手段を選んだのか。単に怒りを抑えられなかったのか、抑える気がなかったのか。具体的でなくても、上手く言い表せなくても、答えて欲しいんです」


 ユニスはじっと、目を合わせて問う。『何があなたを殺人に駆り立てたのか』と。成る程、そういう意図が含まれていたのか。何故そんなことを聞きたがるのかわからないが、聞かれたからには真剣に答えようと思う。

 だが、しばらく考えてみてもこれといった答えが見つからない。結局、上手く言い表せなくても良いという言葉に甘えて、赤裸々に自分の気持ちを告白することにした。


「……そうだなぁ。上手く言えないんだけれど、殺したいから殺したんだ。頭の中が殺意一色に染まって、後のこととか、何故そうしたいかとか考えずに、復讐するために行動していた。冷静さを失っていたわけでもなく、強いて言うなら、使命に殉ずるかのように動いていた」

「……成る程」

「まぁ私は、あんたの言うように怒りを抑えられなかったんだろうな。姉さんが死んでいるのに奴らがのうのうと生きていることが許せなくって、その怒りに任せて殺したんだろう。自分のことなのに曖昧で悪いな」

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