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ジャンル・やかた  作者: あしゅ
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ジャンル・やかた 67

点滴だけでは体力が持たないので、鎮静剤を減らしていったある日

アッシュは薄っすらと目を開けた。

 

デイジーが大声で呼び掛けた。

「主様、主様、あたしがわかりますか?」

 

アッシュは無反応だった。

またすぐ目を閉じて、眠りに入った。

デイジーは思わず泣いてしまい、看護師が慰めた。

 

 

館には、長老会のメンバーが代わる代わる見舞いに訪れていた。

その度にアッシュの無反応に落胆して帰って行く。

 

こんな事になるぐらいなら、あの生意気で何様な主のままで良かったのに。

誰もがそう思ったのは、館の変貌ぶりを見てである。

 

 

人も建物もゴミだった、あの近寄りたくない館だった頃とはうって変わって

今では壁も廊下もピカピカで、庭も秩序正しく花が咲き誇り

ベンチが連なり、東屋まである池には水鳥が優雅に泳いでいる。

 

広大な畑には、キレイに畝が作られ作物が生い茂っている。

牧場は鶏が走り回り、羊や牛がのんびりと草を食み

馬に乗って見回りに行く飼育係の姿が見られる。

 

何より、清潔な制服を着た住人たちが、すれ違う度に挨拶をしてきて

活気に溢れる、理想とも思える集団生活の場になっていた。

 

映像で観てはいたのだが、実際に現場に来てみないと

漂う空気の清浄さまでは実感できなかった。

あの汚れた館が、まさかここまで変わるとは信じられない。

 

それだけに、この改革をした主があんな状態なのが悔やまれる。

我々は主に何をしてあげただろう

そう嘆くメンバーもひとりふたりではなかった。

 

 

住人たちは、館に来る長老会メンバーに驚いていた。

大きな花束や、美しいリボンで飾られた箱を手にして

黒塗りのリムジンでやってくる、身なりの良い紳士たち。

挨拶をすれば、こんな自分にも微笑んで丁寧に返してくれる。

 

そのお偉いさんたちは皆、俺たちの主様のお見舞いなのである。

住人たちは、主を誇りに感じるようになっていた。

 

これで主様が元気になれば・・・・・

長老会も住人も想いは一緒だった。

 

 

そんな中、ひとりだけ絶望を感じていた人物がいた。

とうとうアッシュの面会謝絶を命じたジジイである。

 

2週間が過ぎた頃から、アッシュは時々目を開けるようになった。

ただでさえ貧血に栄養失調があるので

短期間の絶食でも、全身の肉が削げ落ちて筋肉も衰えてしまい

点滴のみの栄養補給では限界だと医師が感じ、鎮静剤を減らしたのである。

 

目を開けても、誰の呼びかけにも無反応で

ただ涙ばかりがこめかみへと伝い続ける。

このような姿を、皆には見せられない。

たとえ長老会のメンバーであろうとも。

 

さすがのアッシュびいきのジジイも

これはもうダメかも、と思い始めていた。

ローズの存在が、それほどアッシュにとって大きかったとは・・・。

今更ながらじゃが、ローズ、自殺したあんたを恨むぞ。

 

 

ジジイは看護師もデイジーも部屋から追い出し

寝ているか起きているかわからないアッシュに語り始めた。

 

ローズはガンだった。

診療所に行った後に、街の病院で検査をして

そのまま館に帰ってきて、診療所には鎮痛剤を貰いに通っていた。

進行は遅いけど、ガン細胞が転移した後で手術も望み薄な状態だったからだ。

 

「ローズは入院して余命を伸ばすより

 あんたの側にいる事を望んだのじゃよ。

 最初の兆候は、バイオラが亡くなるちょっと前の事らしいんじゃ。

 あんたが襲撃された時に、バイオラが側にいたのは偶然じゃなく

 バイオラに後を託そうとしたんかも知れんなあ。」

 

ジジイがひとり語りのように、そうつぶやいた時にアッシュが叫び出した。

 

「ああああああああああああああああああ」

 

だが、久しぶりに出したせいか、かすれた小声である。

 

 

身をよじりながら泣くアッシュを

ジジイが背をポンポンと叩きながら言った。

「もう良いんじゃよ、あんたは頑張りすぎた。

 後の事は全部わしに任せて、あんたはゆっくり休むんじゃ。」

 

背中をさすりながら、アッシュに未来を思い出させようと優しく語るジジイ。

「どこがええかのお。

 あんたはもう、主の年金受給資格も持っておる。

 好き放題暮らせるんじゃぞ?

 ゲームし放題じゃぞ?」

 

ヒックヒックとしゃくりあげるアッシュに、ジジイは続ける。

「おお、あんた、前に海辺で暮らしたいと言っておったな。

 ここから一番近いのは、西のカルミア地方じゃ。

 あそこは温暖で良い土地じゃ。

 長老会の管轄内じゃし、わしもちょくちょく行ける距離じゃ。

 いや、管轄外であっても、誰も否とは言わんじゃろう。

 あんたは皆に愛されとるんじゃよ。

 だから、あんたにはもう誰も何も押し付けんよ。

 したいようにしておくれ。」

 

 

今のアッシュには自分の事など、どうでも良かった。

自分はローズの死を穢したのである。

 

私が殺してあげるべきだったのに・・・・・

 

アッシュには、ローズの後を追う資格もなく

どうやって息をすれば良いのかすら、わからない状態だった。

 

 


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