トゥデイください!!
先にことわっておくと。
私は、車好きってわけじゃないし、詳しくもないし、興味もないし、こだわりとか全然ない。
だから予算が全てで、あとは第一印象で色も車種も決めて、車のことなんかより日々の出来事の方が大事。
そういうタイプだと思っていた。
だから初めて車屋さんに行った時も、注文は明確だった。
「トゥデイください!」
「もうねーッスね」
「あ、あの。新しいのじゃなくていいんですよ? 丸目のミッションの」
「もっとねーッスね」
営業の若いお兄さんが呆れたように私を見ていた。
時は2011年10月。冬のボーナスを控える時期。
私の収入が少し落ち着いてきたこともあって、それまで乗っていた父の御下がりである軽自動車『ホンダ・ライフ』から乗り換えようとした時の、その矢先のことである。
営業のお兄さんはふっくら坊主頭で、すごく優しそう。似ている芸能人で喩えるならハライチの澤部さんに似ている。
似ているというか、そっくりさんで通ると近所でも評判の優しい人だ。
澤部さん(似)は、ゆっくりと説明してくれた。
「軽4が良いんですか?」
「そう、ですね。出来ればミッションで」
「ミッションはもう無いかな」
繰り返すようだけど時は2011年。
当時、ホンダでは商用やトラック以外の軽乗用車にはミッション設定がなされていなかった。(※注・1)
「今度、新しい軽自動車が出るんですよ、そっちはどうですか?」
「N-one?」
パンフレットを見せて貰った私は「ヘー」と唸った。
N-one。ホンダの新型の軽自動車だった。後、私の人生に茶々を入れまくる存在となるNシリーズの軽自動車でもあるが、この時は私はそんな予感はつゆとも感じていなかった。
「可愛い車ですね」
率直な意見で、かつ乗りたいって思った。
「中々いいでしょう? 柊さん(私の苗字ね)が仰ってるトゥデイと似た形……実際にはNコロと似た形なんですけど、これは11月に発売されますよ」
「11月って、来月じゃないですか」
「納車まで少し待ってもらうことになりますけど、ライフの車検ギリギリ、2月には届くと思います」
私はパンフレットの、N-oneに目を落とした。
すごく可愛い。丸目で小さくて、どこでもスイスイ乗れそうなお手頃な軽自動車。容易に乗ってる自分が想像できた。
おまけに絶妙な車検タイミング。本気で神のお告げと思った。
「えっと、ミッションはありますか」
「……だからミッションはもうないですね。ぜんぶオートマですよ」
「…………」
「あの、柊さん? ミッションが良いんですか?」
「……えっと、まあ、はい」
この理由については後述するとして、とりあえず、ミッションが存在しないというなら諦めるしかないってことかな。
顔を青くしている私に、澤部さんみたいな営業さんは心配そうに上目遣いで私を見てきた。
「ちなみにご予算はおいくらで?」
「あ、中古で50万前後……新車なら100くらいで。あ、でも出来れば80~100の間で……」
「このN-one、オプションによりますけど、乗れるようにして180万前後です」
「ええええええっ!?」
……180万……前後……。
注1)2011年当時の話です☆