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01 ここはどこですか

「今日のおっかずは、ス~プっカレ~♪」


 コンビニからの帰り道、買い物袋を片手にルンルン気分で自作の歌を歌いながらてくてく歩いている私。

 夕飯後のデザートのバニラアイスも買ったし~、家にご飯はあるし~、あとはブロッコリーでも茹でたら充分だよね♪


 週休二日で土日は休みなOLなので、今はしっかりラフな格好で外出中。

 時間は土曜の午後10時過ぎ。

 近所、といっても歩いて10分程掛かるコンビニまで夕飯を買いに出てみたら、ある筈ないと思っていたインスタントのスープカレーを見つけてしまった。


「うっわー、見付けちゃったよ!」


 興奮覚めやらぬ状態でいつもなら買うのを躊躇う値段も気にせずにそれを手に取っていた。ついでにデザートを、とカップのバニラアイスを手にする。勿論こっちは値段の安い方を選んだけどね。

 そしてその帰り道、いつも通る道路左の細い歩道を小声で歌いながら歩いていたら、後ろから自転車にチリチリ煩くベルを鳴らされた。


なーんで歩道歩いてて歩行者が避けにゃあ ならんのだ!!


と思いはしたけど、きっとこんな時間にそんなことする奴は酔っ払いとかそういうのだろうと、仕方なく車道に身体を下ろす。

 すると今度はまた後ろから大きなクラクションとブレーキ音。


「やべ…っ!!」


 街灯の明るさに走ってくる車の照明に気付かなかった…っていうか、全くもって気にするのを忘れてた!

 思った時には時すでに遅し。

 振り向いた先には4WDの車体が直ぐそこにあって。

 でも歩道に戻ろうにも丁度横には自転車が。

 ついでに言うなら突然のことに身体も動かない。



 …あ。ダメだ、こりゃ。



 この距離は避け切れないと頭が認識する。

 わー、意外にこういう瞬間って頭は冷静なんだなー。つーか、これで当たったら確実に病院行きだよなー。入院だけで済むかなぁ? このままポックリ、ってのだけはやめて欲しいなー。

 そんなことを考えていたら、次の瞬間記憶が飛んだ。










「~~~~」

「~~~~~~~~っ!」


 ……んあ? 何か聞こえる。

 …あ、人の声だ。誰の声だろ? …ん? 何か言い合いしてる?

 あー、私のこと、轢いちゃった人が騒いでんのかなぁ?

 ちくしょー、いくら私が突然車道に出たからって、それを避けられないぐらいのスピードで走って来たお前が悪いんだからな! ちゃんと責任取って金出せよー!!

 自分の思考が動き出したことで少しずつ目が覚めてきて、うっすら目を開けてみた。


 …あれ? 何だ、この体勢は??

 身体が曲がっててー、自分の足が見えててー、お腹の上に買い物袋が乗っかっててー。

 あ、買い物袋 無事だったのね。…いや、それはともかく。

 この浮遊感っていうか、明らかに膝裏と右脇の下にある物は人の手じゃないのかな?


 ……………ってことは。


 恐る恐るではあるけど今度はしっかり目を開けて現状を把握する為に俯いてた顔を上げる。


「…あ」


 自分ではない誰かの声が聞こえ、そして目の前には見知った顔があった。

 それは大きな金色の瞳で、まだ顔に幼さを残している明るい茶髪の少年。

 そして先程聞こえた「あ」という音に向かって視線を流すと、そこには私に向けられた三対の瞳。

 向かって左から、僅かな光さえも弾くような銀に限りなく近い薄い金髪に深い青の瞳、その上マジックシガーを咥え尊大な態度に見えるポーズで立つ青年。

 馬に懐かれつつもどこか困惑顔を見せている碧玉色の瞳にモノクルを掛けた、ダークグレーの髪の青年。

 そして最後に、まず間違いなく遠くにいても絶対見つけられるであろう、緋色の長髪を一つに束ねた紫の瞳のこれまたマジックシガーを咥えた青年。


 …こ、…これは………。この四人組は……。

 まず間違いなく『スレイヤーズナイト』のゼロ騎士団一行じゃないか!!


 『スレイヤーズナイト』とは、アニメ化もされた大人気の少女漫画で、ファンは略称で『スレナイ』と呼ぶことが多い。少女漫画といいつつ恋愛要素は少なめで、実力最強なイケメン四人が国王からの密命で国内問題解決のために超絶めんどくさがりながらバッタバッタと敵をなぎ倒していく珍道中的な内容だ。

 ちなみに今私を横抱きにしてる茶髪の少年がアーサー・カイル・ウェストリアくん。素直で正義感が強い、四人の中で唯一の十代な少年。魔法も使えるけれど細かいコントロールが苦手なので、もっぱら力押しタイプの二刀流使いな騎士。

 向かい合う形でこちらを見ているマジックシガーを咥えた薄金髪の偉そうなのがアレクサンダー・キャロルド・ウェストリア、通称アレク様。ウェストリア国の第一王子でアーサーくんの腹違いのお兄ちゃん。元々才能溢れる天才肌なのに隠れたところで努力を惜しまない、剣と魔法の両方使える魔法騎士。ただし性格はめんどくさいこと大嫌いで自分に正直なため、周りに冷たい印象を与えまくるクールさが前面に出すぎて「この人が次期国王で大丈夫か?」と重鎮達から心配されている王子様である。

 その横にいるのがこのスレナイの世界で最高位と言われている、無尽蔵な魔力を有している魔法士であるエイト・クリスフォードさん。アレク王子の補佐官であり、この四人のまとめ役でもある保父さん的役割の人。温和そうな見た目通り、基本的に敬語で話し、普段はニコニコと笑顔を絶やさないのだけど、内心では毒を吐きまくる一面があり時折その心の声が漏れたりする。他の三人からはキレると一番厄介な人物として認識されている人だ。

 最後の一人、見た目そのままチャラい言動をする緋色の長髪の彼がディオンリック・ジョージハイドさん。名前はだいたい略されて通称ディオンさんと呼ばれてる。王子二人の護衛であり、エイトさんとは腐れ縁の仲でもある全騎士団で一番の剣の使い手。手先が器用なので自分の剣にいろいろ隠し細工を施したり、武具の修理なども出来てしまう案外器用な人でもある。

 この四人がウェストリア国の王立特務隊ゼロ騎士団なのだ。そう、騎士団と言いいつつゼロ番隊はこの四人だけの部隊だったりする。

 これだけ詳しく説明出来る私は当然のようにこの作品にハマっているわけで、新刊が出ると発行日に手に入れる程度には作品のファンである。

 つまり、いわゆる私はオタクと言われる人間だ。

 いいじゃない、社会人になっても好きなものは好きなのよ! 漫画にのめり込んで何が悪いの!!

 それはともかく、目の前にその漫画の登場人物がいる。しかも主人公達が。何故か全員私を見ている。


 ちょっと待て。有り得ない。私、車に轢かれたせいで頭ぶつけたのかな? それともこれは現実逃避の夢なのか? 何で私が漫画の主人公達と対面してんの!?

 自分の頭の中でコントで使われるようなドーン! という効果音が響いていると、直ぐ横から声が聞こえた。


「あ、△#%$□@*っ!」


 どうやら私を抱きかかえているアーサーくんが口を開いたらしく、その声は確かにアニメ版の彼と同じだったのでアーサーくんのものだと認識出来たのだが。

 だが待て。頼むから待ってくれ。


 何を言ってるのか わからーん!!


 うそーん! 普通こういうトリップした時ってさ、っていうかトリップなんて普通じゃ有り得ないし、そんなの夢物語とは思ってるけどさ、いや、ていうか、これが事故の衝撃によるトリップなのか事故で死んじゃった影響の転生なのかはわかんないけど、どっちにしてもとにかくこういう場合って通常言葉が通じるのがお約束ってものじゃないの!? どういうことよ、これはーっ!?


「ごめん、ちょっと待って! 何言ってるのかわかんない!!」


 思わず慌てて思ったことを素直に言葉にしたら、今度はアーサーくんが酷く驚いた顔をした。

 あちゃー、この反応は…。確実に私の言葉も通じないとみた…。

 がっくりと肩を落とした私の耳に、シュッというどう考えても不吉な音が聞こえた。

 チラリと視線をそちらへと向けると、案の定アレク様の剣の切っ先がこちらへ向けられている。

 一瞬片手で顔を覆った後、素直にホールドアップをしてみせた。

 つか、この距離で刺されたら完璧に私を貫通してアーサーくんにも刺さると思うんですけど?


「皆に敵意なんてありませーん」


 溜息を吐きながら通じないことはわかっててそう言ってみたら、勢いよくアーサーくんが180度身体を反転させた。


「うわっ!?」

「アレクっ!? @△$◇▽#ッ!!」


 見上げたら、アーサーくんが首を皆の方へ向けて怒鳴っている。

 ああ、きっとアーサーくんのことだから私を庇ってくれてるんじゃないかな。良い子だね、アーサーくん…。

 しかしこの状況はどうにかしないといけないよね。

 とりあえず、四人の声が混ざった言い合いというか、話し合いが続いている中、周囲へと視線を向ける。

 まずわかるのは今が夜だということ。それからここが森の中だということ。…以上、終了。

 うっわ、情報少なっ!!

 ところでこの四人の今の対立関係からいうと、きっとアーサーくんがどこかで私を拾って来たっぽいよね。

 それ以前に私ってどうやってこの世界に来て、どうやってアーサーくんに拾われたんだろう? ああ、謎が増えていくよ…。お母さーん、私、遠い世界に来ちゃった~。

 そんな現実逃避をしていたら、ふいにポンと頭に手が置かれた。

 その手の主を見ようと首を回したら、そこにいたのはエイトさんだった。


「◎%▽*、%$○□@#α∑△」


 やっぱり何言ってるのか わかんない。

 不思議そうに首を傾げたら、苦笑したエイトさんがアーサーくんに何かを言って、その様子を黙って見てたらアーサーくんがゆっくりと私を地面に下ろしてくれた。

 その動きが私を気遣っているのか凄く優しかったから、私は素直にお礼を口にした。


「ありがとう」


 するとアーサーくんが頬を少し染めながらヘヘッと笑ってくれる。きっと言葉は通じてないけど、気持ちは通じたんだと思う。

 それが嬉しくて私もまたニッコリ笑ったら、今度は横から肩を軽く叩かれた。

 振り向くと、優しそうに微笑むエイトさん。


「$@Θξ#○%α&$#Ω、エイト、エイト・クリスフォード◎△」


 何かをゆっくり言いながら彼が自分を指差している。

 あ、今、エイトって言った。ってことはこれは名乗ってくれてるのかな? 流石に名前は万国共通な訳だね?

 そう思ってエイトさんへ、指差すのは失礼だと思って掌を差し出すようにして「エイト」と言ってみたら、エイトさんは笑顔を深くして頷いてくれた。

 それを見たアーサーくんが今度は自分の番だと凄い笑顔で自分を指差して名前を連呼し始める。

 だから今度はアーサーくんへ手を向けて「アーサー」と言ってやると、目をキラキラさせて喜びながら何度も頷いた。

 そして自分の名前を私が口にしたことで気を良くしたらしいアーサーくんが、次にアレク様を指差してアレク様の名前を、ディオンさんを指差してディオンさんの名前を叫ぶ。

 だから私も言われた通りに二人の名前を口にした。

 そしたらアーサーくんが遠慮もなしに今度は私を指差す。

 ダメだよ、アレク様。ちゃんとアーサーくんに人を指差しちゃいけませんって教えないと! いや、この場合、兄とはいえ第一王子であるアレク様より教育係としてはエイトさんが適任だろうし、注意するならエイトさんに対してかな?

 そんなことを思いつつ、アーサーくんは私の名前を聞いているんだと理解して自分もちゃんと名乗ってみる。


刹那せつな香坂刹那こうさかせつなだよ」

「セツナ?」

「そう、刹那」


 頷きながらもう一度自分の名を繰り返すと、アーサーくんが笑顔を見せてくれた。

 いいなー、和むなー、この笑顔。


「セツナ@□$#Θ」


 隣でエイトさんも私の名前を口にしている。だから私はもう一度今度はエイトさんに向かって頷きながら自分の名前を述べた。

 そこでふと、アーサーくんが私の手にある袋に視線を送る。それに釣られて私も自分の手にある買い物袋に目をやった。


「…あ、そだ」


 そう言って買い物袋の中に手を突っ込む。そして触ってそれがまだ食べられる状態であるのを確認すると、おもむろに袋から取り出した。


「じゃっじゃーん♪ バニラアイス、ってこっちにもあるんだったっけ?」


 私が取り出した物に興味津々な視線を向けている全員の目の前で蓋を開けると、一緒に取り出したスプーンで一口分すくってアーサーくんに差し出す。


「@≠φ%、#$▽@◇?」


 あー、多分これが食べ物かどうかわかんないんだろうな。そういやコレ、あんまり溶けてなくて良かったよ。

 そう思ってまず自分の口に運び味わってから飲み込む。そしてニッコリ笑ってやると、アーサーくんの瞳がまたキラキラし始めた。

 お、食べ物だってわかって貰えた。

 再度スプーンにアイスをすくってアーサーくんに差し出すと、今度は躊躇うことなくそれを口にしてくれる。


「#Θ△ーっ!!」


 そして次にエイトさんにもすくって差し出すと、エイトさんも戸惑うことなく口にしてくれた。


「%○&#Ω◇%@△□」


 納得したように何か感想らしきことを述べているのだろうエイトさんにも笑顔を見せると、エイトさんが優しそうに微笑んで今度は手でポンポンと頭を軽く叩かれた。

 …どうも、年下扱いだよな。確かに身長はアーサーくんよりも小さいし、見た目も若く見えるらしいんだけど、でも本当は君達より年上なんだけどね? ま、この際今はこんな状況なのでそれについては黙っておくことにしよう。っていうか言葉通じないから上手く説明出来ないし。

 そしてアーサーくんにアイスを手渡すと、袋の中に残っているインスタントのスープカレーも取り出しそれをエイトさんに差し出す。

 どうやら今夜はアレク様御一行にお世話になれるみたいなので、これはほんのお礼代わり。

 でも差し出したそれを見て、手にあるこの箱が何なのかわからず困った表情になるエイトさん。

 しまった、このパッケージじゃわからんよな。これが何か、なんて。

 その箱の表に印刷されているネクタイの写真を見て、慌てて裏返してみた。

 良かった、何とか食べ物の写真もあった。

 そう思ってその写真を指差す。ついでにジェスチャーでこれが食べ物であることも説明してみる。

 何とか通じたのか、エイトさんがそれを受け取り笑顔を見せてくれたことでホッとする。

 すると今度は、マジックシガーを口に咥えたままのディオンさんが近寄って来てしげしげと私を見ている。

 ちなみに彼とアレク様が口にしているマジックシガーとは、シガーという名前の通り、見た目と使い方は煙草と同じなんだけど、本来の用途は自身の魔力回復の速度を早めるものだ。ようは魔力専用の栄養剤みたいなもの。ただし味は渋味が強くて良薬口に苦しとでも言うように不味いらしく、このスレナイの世界では大概の人がこれを使うくらいなら自然回復を待つ方を選ぶという設定になっている。原作者様いわく「味のイメージとしてはセンブリ茶味の煙草、くらいの不味さなイメージ」だそうだ。この二人は実用を兼ねつつその不味さを割と気に入って吸っているという、なんとも妙なキャラ設定になっていた。たぶん喫煙者である原作者さんが、煙草を吸う絵を描きたくてそんなことになったんじゃないかというのがファンの間での共通認識だった。

 そんなものを吸いながら近寄ってきたディオンさんからの視線がなんだか居心地悪くて困っていると、頭をわしゃ、と撫でられた。

 そして軽く溜息を吐いた後ニヤリと笑うと、わしわしと豪快に頭を撫で回される。


「セツナΩ%@φ、$#*▽Θ◎♪」

「うややや…っ」


 ボサボサにされた髪を直しながらうにゃー、と呟いていたらディオンさんがあっはっはと大声で笑っていた。

 どうやらディオンさんにも何とか受け入れて貰えたようだと理解する。

 それと同時にアレク様へと視線を向けると、少し離れた場所で地図を手にマジックシガーを燻らせていた。

 ありゃ。アレク様は警戒心バリバリっすね…。そりゃまあ仕方ないか。

 溜息一つ。すると、隣からスプーンに乗ったバニラアイスが差し出されてきた。


「□$@φ△◎、$%Θ◇▽#っ!!」


 アーサーくんが何かを言っている。

 これは気にするなと言ってくれてるのかな? きっと私がアレク様の機嫌が悪いのを気にしてると思ってくれてるんだろうな。

 そう思って差し出されたアイスを口にして笑顔を見せた。


 どうも今のところはアーサーくんのお陰か、皆と一緒にここに居てもいいようだけれど。

 この先いったいどうなるんだろうとか色々悩むべきこともいっぱいあるけれど。

 ひょっとするとこれは三途の川を渡る前に見ている夢なのかもしれないとか思ったりもしつつ、まぁ夢ならきっとどうにかなるよね、と諦めにも似た感情が湧いてきて今はこの現状を受け止めることにしようと決意してみた。

少しでも楽しいと思ってもらえたら嬉しいです。

そこそこ多忙な毎日を送っているので次の更新日は告知できませんが、できるだけ早めに更新できるよう頑張ります。

誤字脱字は発見次第訂正していきます。すいません。もし見つけたらご報告いただけると助かります。

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