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「まぁ、やっと私のターンですし……丁度今は店に誰も居ないですし……」
「な、何?」
そんな事を俺が考えていると、胡桃ちゃんは今度は俺の方にじりじりと迫って来た。
「明嶋さぁ~ん、暇ですねぇ~」
「なんだそのニヤニヤした顔は! やめろ近づくな! なんか怖い!!」
「大丈夫ですよぉ~、何もしませんからぁ~」
「何もしないのは当たり前なんだよ! なんで近づいてくる!!」
胡桃ちゃんは楽しそうに笑いながら、俺の方に近寄って来る。
「いやぁ~、少し明嶋さんを誘惑してみようと思いまして」
「何をする気だ……てか、事務所に君のお父さんが居るんだけど!?」
「大丈夫ですよぉ~、お父さんは事務作業を始めると一時間は戻りませんからぁ~」
「にしたって万が一があるでしょ! もしも昨日のことが君のお父さんに知られたら……俺は殺される!!」
「人の父親を酷い言いようですね」
そんな事を言ってもそれは本当だから仕方ない。
確か一度、胡桃ちゃんをしつこく口説いていた男性のお客さんが店長に裏に連れていかれたことがあったな………そのあと、泣きながら出てきて、そのまま走って帰ったっけ……。
「な、なんでもいいけど、これからはバイト先ではこの話は禁止ね、俺の命に関わる!」
「命って……」
そんな大げさな……みたいな顔してるけど君のお父さんはそれをやりかねないの!!
「でも、私が明嶋さんにアプロ―チ出来るのはここしかないんですけど……」
「あ、アプローチって言われてもなぁ……」
「じゃあ、とりあえずハグでもしますか」
「なんでそうなる!?」
「男の子にはボディータッチが一番効果的って、雑誌に書いてあったので」
「だからってなんでハグなんだよ! それに俺の話聞いてた!? ここではその話禁止!」
「まぁまぁ、どうせ誰もいませんし……少しくらい良いじゃないですかぁ~」
「それ、胡桃ちゃんが単に俺に抱きつきたいだけなんじゃ……」
「何を当たり前の事を言ってるんですか?」
「当たり前なのかよ! てか、あの……こんな事言うのあれだけど、マジでやめよう。こんなとこ誰かに見られたらまずいでしょ? それに今は仕事中だし……」
「ぶー……明嶋さんは固いなぁ……」
胡桃ちゃんに俺がそう言うと、彼女は頬を膨らませながら俺の隣に来て、壁にもたれ掛かる。
「明嶋さん、ぶっちゃけ三人の中で誰が好きなんですか?」
「え? い、いや……そんな事を言われても……」
正直に言うと分からない。
俺は昨日告白された三人を今まで恋愛対象として見た事が無かった。
仲の良い友人や学校の先輩、バイト先の後輩だという認識しかなかったから、正直女の子として三人の中で誰が好きかと聞かれても困ってしまう。
「私……周りから可愛いって昔から言われてきたので、正直明嶋さんを虜にするなんて楽勝だと思ってました」
「ず、随分軽い男だと思われていたようで……」
「だって、男の人は可愛い子好きじゃないですか……私って明嶋さんから見て可愛くないですか?」
「いや……それは……その……」
正直に言えば、完璧なまでに可愛いと思う。
しかし、それを言うのはなんだか気恥ずかしかった。
「ま、まぁ……世間一般からしたらそうじゃないかな? 正直俺以外にも良い男はいっぱい居ると思うけど……」
「私は明嶋さんが良いんです!」
胡桃ちゃんは真っすぐな視線を俺に向けてそう言った。
そんな真っすぐな胡桃ちゃんの言葉に、俺は思わず頬を赤らめる。
「お、おう……ありがとう……」
「それなのに……まさか明嶋さんがこんなにモテるなんて……しかも全員美少女なんて……一体何があったんですか!」
「それは俺が一番聞きたいよ……」
俺はそう言って肩を落としてため息を吐く。
普通だったら喜ぶのだろうが、一気に三人の美少女から告白されたとなるとその代償も大きい、おかげで俺は学校では男子生徒から敵扱いされている。




