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4話 『初クエスト』


「それじゃ、メル。地図を出してくれ」


「ん、わかった」


(あれ?)


 一見何の変哲もないレックの指示であるが、ケンは首をひねらずにはいられなかった。彼女は地図を入れられるようなものは持っていなかったからだ。では、スカートのポケットからでも出すのかなと思って様子を見ていたのだが、彼女のとった行動は、杖を構えることだった。

 椅子を少し引いて、目を閉じる。念を送っているようだ。


「ブレイク・シール」


 彼女が小声でそう呟く。すると、杖先の赤い球が光り、色あせた地図が現れたのだった。ケンは驚嘆し、ひらりひらりと、テーブルの上に落ちていく様子を見つめる。


「どした?そんな声出して」


「いや、急に地図が出てくるなんて思わなくて」


「なんだ。お前、封印魔法は初めて見るのか?」


「封印魔法?」


 ケンの反応に、レックは眉をあげ、少し意外そうな顔をした。


「知らないのか?まぁあんま、お目にかかれるものじゃないから、それもそうか。いいか。封印魔法ってのは、その名の通り、物や人、魔物なんかを封印できる魔法のことだ。『土』と『闇』の属性を複合させた新しい属性で、昔の賢者様が考案なされたって話だ。物を別空間に移すとか、さすが賢者様って感じだよな」


「そう、すごいよね~。魔力を込めるだけで、属性関係なく使えるってとこもすごい。今じゃ、冒険者の旅路には欠かせないもんね~」


(ん?何を言っているんだ?)


 二人の会話に、ちんぷんかんぷんなケンは、呆然と内容を聞き流す。学校で数学を教えてもらっている気分だ。


(すごい。たった一つのことを聞いたはずなのに、結局謎が増えた)


 謎が謎を呼ぶとはこのことだろう。


「あれ?ケン君、大丈夫?」


 頭から湯気が沸いた、ケンのアホ面を見かねたのだろう。メルはケンの前で手を振る。


「あ、はい。大丈夫です」


 ケンは、はっと我に返って、一回だけ頷く。


色々と疑問に思うところはあったが、まぁクエストとはあまり関係なさそうなので、今は放置しておくことにした。たぶん、冒険を続けていくうちにわかるだろう。

 なるようになる。わからないことが多い世界だけれど、結局このスタンスが一番良いような気がしてきた。

 『封印魔法ってものがある』。この事実を知っておけば良い。


「すみません。話をそらしちゃって」


 ケンは後頭部に手を回して、笑いながら話を本筋に戻そうとする。


「いや、別に構わねぇよ。それで何の話をしようとしてたんだっけ?」


「クエストの確認よ」


「あっ、そうだった」


 レックは人差し指を垂直に立てた。そして、その指をテーブルの上に置かれた地図に置く。


「それじゃ、クエストの概要を説明していく。いいか。ここが、今俺たちがいる町、ラウル町だ。ここを出てから南に行くと、最近出現したダンジョンがあるはずだ」


 レックは、『ラウル町』と書かれているところから、下方に指を這わせ、バツ印のついたところまで持ってくる。そこにダンジョンがあるのだろう。


「んで、そのダンジョンは複数現れたんだが、その内、俺たちは難易度Dランクのダンジョンへ行く。そして、今回のクエストの達成目標は、その最深部のボスを倒して、ダンジョンを攻略することだ。ここまではいいか?」


 レックは、メルとケンの顔を確かめるような目で、交互に見つめる。それに対し、メルはすかさず頷き、遅れてケンも頷いた。


「よし。それじゃ、次は陣形だ。今回はレオンの奴がいないから、少し体制が変わる。前衛は俺とライアンが、後衛は回復・補助呪文を唱えられるメルが担当する。ケンは、そうだな……火属性だが、初心者だし後衛に回ってくれ」


「わかったわ。よろしくね~。ケン」


「よろしくお願いします!メルさん」


(ライアンさんと一緒じゃなくてよかった)


 ケンはほっと胸をなでおろす。彼、なんか怖いし、隣だと緊張しそうだったからだ。その点メルさんだと、とっつきやすくて、楽しく冒険ができそう。


「っと基本陣形はこんな感じだ。ただ、状況に応じては適宜変更していってくれて構わねぇ。それで、ダンジョン到達時刻なんだが、日が沈む前の6時ごろを予定している。そしてその間の魔物退治は、俺とライアンで対処していく」


「私たちは何をするの?」


「メルは、道中で倒れるわけにはいかねぇから、体力を温存しておいてくれ。ケンは、初心者だし、今回は見学だな。安心しろ。俺がお前らを守ってやる。あー。だが、いけそうな敵が出てきたら、お前にも戦ってもらうから準備しとけよ」


 レックは笑ってケンの肩を叩く。


(戦わせてもらえるんだ!レックさん、強いみたいだし、怪我とかしなくて済みそう!でもなぁ、戦闘か。やばい、なんかそう思うと手汗がめっちゃ出てきた。魔物と戦うとか想像もつかないけど、今からこんな感じで大丈夫なんだろうか)


 ことあるごとに余計なことを考えて、緊張してしまうのがケンの悪い癖だ。緊張自体は悪いことだとは思っていないが、模試を受ける時もあれやこれやと考えて、結局、残念な結果に終わることが多かった。逆に、あの時なんでトラックに突っ込むことができたのかがわからない。

咄嗟のこととはいえ、我ながらすごいなと思う。死んだけど。

 とにかく、この癖は直していかねばなるまい。


(だからと言ってなぁ。やっぱり怖いな。最悪、荷物持ちでもよかったかも……あっ、でも『封印魔法』があるんだった)


 ケンは荷物持ちにすらなれないようだ。


「あ、そうだ。戦いといえば……ケン、お前武器持ってるか?」


「いえ、持っていないです」


 ケンは異世界転生してから、ほとんど丸腰状態だ。当然、武器など所有していない。もちろん現世で剣とか斧とか、そんな物騒なものは所持していなかったのだが。


「やっぱりそうか。おい、メル」


「ええ」


 レックはメルに目配せをした。そして、彼女はそれが意味するものを理解したように頷き、先ほどと同じ手順で、杖先から腰掛けバッグを出した。それをレックに投げてよこす。

 レックはその腰掛けバッグを腰に掛け、その中から、あるものを取り出しケンに手渡した。


「ほらよ」


「これは?」


 渡されたものは短剣だった。短剣とはいっても刃が腕くらいあり、想像していたよりも長い。調理実習の時の包丁より長い。


「クエスト達成までは貸してやるよ。剣も良いが、初めはこっちの方が軽いし扱いやすい」


 同じく渡された腰掛け用の革製の鞘に納め、ケンは感謝の言葉を述べる。丸腰の状態はケンも不安だったので、遠慮はしなかった。


「一応、使用する武器に関して言っとくと、俺とメルは見ての通り、剣と杖だ。ライアンは斧を使ってる。それぞれ特徴があるんだが、それはまた今度な」


 レックは鞘に納めたの剣を撫でる。メルは、紹介に応じて杖を振って微笑んだ。


「それで、ダンジョンに入った後についてはあっちについてから説明する。とりあえず道中は、各々陣形を守って行動するようにしてくれ」


「りょうかーい」


「はい!」


「じゃあ、簡単だが、これで作戦会議を終了する。最後に。今日はケンの初のクエストだ。それが失敗に終わるなんて面白くねぇ。ちゃちゃっとボス倒して、ダンジョン中の宝という宝を手に入れてやろうぜ!」


「いえーい」


 レックは語調を強めて気合を入れ、お宝というワードを聞いたメルは、淡青色の瞳を輝かせ、楽しそうに両腕をあげる。


「よし!ここはいっちょ、円陣組むか!」


「さんせーい」


「え、円陣?」


(急にそんなこと言われても、円陣の掛け声とか知らない。そして恥ずかしい)


 しかし、レックとメルはもうすでに肩を組んで、上半身を水平にしている。完全にやる体勢だ。


(ええい。ままよ!)


 覚悟の決まったケンは、その輪の中に入って肩を組む。


「クエスト達成して、お宝手に入れるぞ!行くぞー!」


「おー!」


「お、おー」


「声が小さい!行くぞー!!」


「おー!!」


「お、おー!」


「もっと!!!」


「おー!!!」


「おー!!」


 三人の掛け声が、青空に響き渡っていく。ケンとレックとメルは、顔をあげ笑顔を見せた。


「よし、それじゃあ出発だ!」


 そして、三人は大きな門を超え、ラウル町を後にしたのだった。


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