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2話 『ステータス解析』


「登録料、銀貨1枚になりますにゃ」


「あれ、お金かかるんですか?」


「当たり前にゃ。これ作るのに魔力使うし、手続きとかもしなきゃだし」


 これは困った。

 お金が必要と言っても、ポケットの中に何もなかったことは確認済みである。


「もしかして、お金持ってないにゃ?なら、残念だけど出直してくるにゃ」


「そんな……」


 無一文の健には、どうしようもなさそうだ。しかし、手ぶらで帰るわけにもいかない。というより帰るところがない。

 なら、せっかくここまで来たのだから、何か別の情報を聞き出してみよう。もしかしたら、一日でお金を稼げる方法があるかもしれない。

 無いものは仕方がない。うだうだ考えていても仕方がないと、ため息をついた健はテーブルに着いて会話をしている冒険者の元へ足を運ぼうとする。


「どうしたんだ。ミーシャ」


 振り返った健の目の前に、若い青年が立っていた。革製のジャケットとボトムを着ており、長剣を鞘に納めている。年は僕より3,4歳上だろうか。


「いや、その子が冒険者カードを作りたいらしいんだけど、お金を持ってなかったんだにゃ」


「なんだ。君、お金を持たずに登録しに来たのか」


 その青年は金髪の頭に手を置き、大声で笑う。そんなにおかしなことなのだろうか。

 健は小バカにされつつも、頷く。


「その登録料、俺が一旦肩代わりしてやろうか?」


「えっ。いいんですか」


 思いがけない提案に健は驚いて、声が少し上ずる。


「ちょっと、レック。そんなこと言っていいの?そんなに安い値段じゃないにゃ」


「良いんだよ。まぁ、実はこれからクエスト受けたいんだけど、パーティの人数が足りなくてよ。簡単な割に結構儲かりそうな仕事だから、ステータス足りてれば、君を連れて行こうと思ってな」


 レックは、健の肩を掴んできた。綺麗な深青色の瞳が、健の顔を覗く。


「もちろんクエストが成功したら、登録料分は俺がもらうが安心しろ。十中八九、0にはならねぇ。それに代わりと言っちゃなんだけど、道中、技の手ほどきを教えてやるよ。どうだ?悪い話じゃないだろう?」


 レックの青い瞳を見つめる。

 確かに、何も知らない現状で、技を教えてもらえるのはありがたい。それに、彼についていけば、色々と教えてくれるかもしれないし、何よりクエストが成功すれば、健の取り分もできる。うまく乗せられた気もするが、ここは乗っておくべきであろう。


「わかりました。よろしくお願いします」


「まぁ、二人がそれでいいなら、何もいわにゃいけど」


 茶色と黒が入り混じった三毛猫風の獣人――ミーシャは、少し渋ったような表情を見せたが、レックからお金を受け取った後、奥の部屋に入っていった。


「お金、ありがとうございます」


「良いってことよ。そういや、自己紹介がまだだったな。俺の名前はスコット・レックってんだ」


「僕の名前は健、葉山健です」


「ハヤマケン……なんか変わった名前だな。どこから来たの?」


「えっと、東。東の島国から来ました」


 日本と言っても通じるはずはなさそうなので、この世界の地理とかよくわからないが、それっぽいことを言って誤魔化す。


「そうか、まぁ東には海が広がってるからな。そのあたりから来たんだな」


 あてずっぽうで言ったことが通じてよかった。健は息を吐いて胸をなでおろす。


「お待たせしましたにゃ~」


 しばらくすると、ミーシャが何やら水晶のようなものを持ってきた。座布団のようなものに乗せられており、怪しげな青色光を放っている。占いみたいな雰囲気だ。


「それは何ですか?」


「これは、魔水晶にゃ。手をかざすとその人の魔力を感知して、能力を数値化・評価してくれるにゃ」


「そう。そして、その能力の評価が、ステータスってわけ。ちなみに俺のステータスはこんな感じ」


 レックは水晶に手をかざした。すると魔水晶は光を放ち、空中に光の平面を作り出した。


****


[スコット・レック];雷属性


[HP];315/315

[MP];0/0

[SP];253/253


[攻撃力];210

[防御力];132

[スピード];494


[耐性];毒+弱、麻痺+無効、雷耐性+中

[呪文];なし

[スキル];雷剣、雷刃、電光石火、放電

[特徴];スピード補正、麻痺付与

[加護];なし


[レベル];35

[ランク];B+


****


(へぇ、いろんなものが見れるんだ。僕はどのくらいの数値なんだろう。さっきは諦めかけてたけど、なんだかワクワクしてきた。チートものみたいに、みんなが驚くようなステータスとか出てくるかも!)


「もう、そんなこと言って~。自慢したいだけだにゃ」


「まあいいじゃないか」


 レックは愉快に笑い、誇らしげな顔をする。たぶん、このステータスは一定の評価をもらえるほどのものらしい。いまいちピンとはこないけど。


「さあ、次はお前の番だぜ」


「はい」


 水晶が目の前に置かれ、健はレックと同じように手をかざす。どんな結果になるのか緊張し、固唾をのんで見守っていると、光の画面が作り出された。


****


[ハヤマ・ケン];火属性


[HP];30/30

[MP];4/4

[SP];5/5


[攻撃力];8

[防御力];4

[スピード];4


[耐性];なし

[呪文];なし

[スキル];なし

[特徴];言語理解

[加護];


[レベル];1

[ランク];E-


****


(うーん、レックさんと比べるとかなり微妙だな。まぁ駆け出しみたいだし、そんなにうまくはいかないか)


 健はおそらく低いであろうステータスに、肩を落とす。もしかしてステータスが低すぎてクエストに連れて行ってもらえないのではないか、とレックの反応を伺う。


「へぇ、火属性か。ステータスも駆け出しにしては良いんじゃないか?」


(可もなく不可もなく、って感じか。よかった。どうにかなるレベルではあるみたいだ)


 健は安心したように息をつき、再び自身のステータスを眺める。すると、『特徴』の欄に気になるものが表示されていた。


(言語理解って書いてるな。文字や言葉がわかるのは、これのおかげだったのか)


「へぇ、言語理解か。これまた変わった特徴だな」


 しばらくステータスを眺めていると、横からレックが話しかけてきた。


「これって、役に立つんですかね」


「さあ?でも、少なくともこの国や隣国では共通語が使われているから、あんま役に立たんだろうな。独自の部族や集落があれば話は別だろうが」


(やっぱり、冒険には必要ないみたいだ)


 唯一アドバンテージのありそうなステータスに、少し期待してみたものの、見当違いだったようだ。しかし、この特徴のおかげで、異世界でも普通に意思疎通ができたのだから文句はない。むしろそう思えば、便利な能力だった。とプラスに考えておくことにした。


「それよりよ。なあ、このステータスなら今回のクエスト受けても大丈夫だよな」


「確か、クエスト難易度はDランク任務だったかにゃ?」


「そうだ」


「うーん。体力は高めだけど、ランクが足りてないからにゃ~。まぁ、レックたちのパーティなら、滅多なことにはならにゃいと思うけど……メンバーはいつもの通りかにゃ?」


「いや、レオンは別部隊だ。例のダンジョンの攻略隊に選ばれてる」


「そうだったにゃ。私としたことが、いつもの癖で」


(何の話をしてるんだろう)


 レックとミーシャの会話についていけない健は、しばらく黙って二人の様子を見る。ミーシャは先ほどの水晶で、何やら作業をしているし、ダンジョンとか、相性判定とか、パーティのステータス総合評価とか、知らないことが次々と出てくる。しかし、ミーシャの反応から察するに、大方クエストには連れて行ってもらえそうだ。


「総合評価がCにゃ。クエスト難易度がDだから、条件は満たせているにゃ」


「ということは……」


「よろしくな、ケン!」


 レックは笑顔で握手を求めてくる。健も表情を明るくして、手のひらを重ねた。


「よろしくお願いします!」


「ちょっと待つにゃ」


「えっ」


(まさか、何か間違いでもあったのかな?クエストに行けないとか)


 一瞬そんな不安が頭をよぎる。

 しかし、どうやらそれは杞憂であった。


「そんな大したことじゃないのだけど、『加護』の欄が空白だったにゃ。たまにあるんだよね~、こういうことが。正式な書類だから、後で一応調べておくにゃ」


「クエストには行けるんでしょうか?」


「問題ないにゃ。重要なのはランクと能力値。今回、『加護』が空白のままだけど、総合評価には影響ないし、心配いらないにゃ。それに、大方『なし』って書かれているだろうし、そこまで気にする必要もないにゃ」


(よくわからないけど、良かった。大丈夫そうだ)


「それじゃ、冒険者ライセンスを発行するにゃ。ちょっと待っててね」


 ミーシャは小さなガラス玉を取り出し、先ほどの水晶の前に置いた。そして水晶に、何やら念を送るように集中する。すると水晶が一瞬だけ青く光ったと思えば、その色が移ったかのようにガラス玉も青光を放つようになっていた。


「これをこうして……」


 そしてミーシャはガラス玉を、革のような素材で作られたリストバンドにはめ込んだ。


「できたにゃ。これが冒険者ライセンスにゃ」


「これが……ですか?」


 てっきり学生証や運転免許証みたいなものが出てくるかと想像していたが、渡されたのは変なガラス玉付きリストバンドであった。


「最初はみんな似たような反応をするにゃ。手をかざしてみるにゃ」


 健は言われた通りに、リストの先にはめ込まれたガラス玉に手をかざす。しばらくすると、先ほどと同じように、空中に光の画面が映し出されている。


「すごい!」


「ステータスを確認したいときは、そのリストで表示できるんだぜ」


「そうにゃ。これがあれば、いつでもどこでも、ステータスを見られるにゃ。それに冒険者のデータがギルド側でもすぐに確認できるから、手続きを取るのにいろいろと便利なんだにゃ」


(へぇ、魔法ってそんなこともできるんだ。本当にすごいな)


 感心していると、ミーシャが手を叩いて音を鳴らす。そして、レックの方を向いた。


「それじゃ、手続きはこれで完了にゃ。レック、その子に怪我させないよう気を付けてね」


「おう!任せとけ」


「よろしくお願いします」


「よし、メンバー待たせてるし、行くか」


 レックは中央の出入口に向かって歩いていく。健はそのあとを追うように、小走りでついていく。

 ミーシャは綺麗なお辞儀で、冒険者たちを送り出していた。


(色々あったけど、クエストか~。どんなものなんだろう。わからないことだらけだけど、やるからには頑張るぞ!)




 かくして気合とわくわくを胸に、葉山健――否、ハヤマ・ケンは冒険の旅に出かけるのであった。


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